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夕闇をふたり

火崎勇 / 著
実相寺紫子 / イラスト
ISBNコード 978-4-86669-198-5
サイズ 文庫本
定価 754円(税込)
発売日 2019/04/18

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内容紹介

優しくなくても、お前が欲しい
「俺に抱かれたいんだろう?」
恋人になって5年、強引で身勝手、けれど自分にない強さを持つ男・長尾を深く愛し続ける近石。しかし、冷たい態度の長尾にもう愛されていないのかも、と自信を無くしかけていた。そんなある日、会社の後輩・遠野の恋人が男と知る。同じ境遇ながらも、愛しあっている二人に近石の心は乱れていく。—自分は本当に愛されているのか、と。不安を押し隠す近石だったが、突然、長尾から別れを告げられて…。傍若無人の俺様×一途な出版社営業の執着愛。
★初回限定★
特別SSペーパー封入!!

人物紹介

近石大和(ちかいしやまと)

付き合って5年。高校一年の頃から、長尾だけをみてきた。出版社営業の26歳。

長尾晃(ながおあきら)

強引さで近石を振り回してしまう。広告会社勤務。

立ち読み

「ここでさせろ」
「…長尾!」
「嫌か?」
 彼に嫌かと問われて嫌だと答えられない自分。
「せめて中で…」
「じゃあ奥へ行け」
 強引な言葉に流されて、彼を部屋へ招く。
 長尾はネクタイ一つ解かないまま、俺にベッドの上へ乗るように促した。
「先に俺のをしてくれ」
 と言いながら自分の前を開ける。
 いきなり目の前に出された彼のモノに顔を近づけると、まだるっこしいというように彼がグイッと頭を引き寄せた。
「ん…」
 口を開いて含むモノ。
「…う」
 彼を好きで、彼に抱かれるのも好き。こうして彼のために奉仕することも、嫌ではない。
 けれど言葉を交わすよりも先に望まれる行為は心をウソ寒くさせる。
 長尾のモノはそんな俺の気持ちとは関係なく、口の中で硬くなり、大きく膨らんでゆく。
「先を嘗めろ」
 これは、恋人の営みなのだろうか?
 それとも単に彼の欲求の捌け口なのだろうか。
「舌、使えよ」
 長尾の指が俺の耳をくすぐる。
 くすぐったさにビクッと身を震わせると、指はそこから離れ、優しく髪を撫でた。
 彼は強引で自分勝手。
 俺からすれば恋人らしからぬことをしたり、強要してきたりするのに、時々こうして優しくしてくれる。
 だからいつもわからないのだ。
 このギャップを、今までは彼の性格だと思っていた。長尾はもうずっとこんな様子だったから。
 けれどこの間の古谷さんの言葉が胸に引っ掛かる。
「何考えてる」
 グイッと、突然髪を掴まれ、顔を上げさせられた。
「俺のモノを咥えてる時に他のことを考えるな」
「そうじゃ…」
「まあもういいか」
 長尾はそのまま俺を俯せに押し倒した。
「何…?」
 そのまま下肢に手を伸ばし、下着までを下ろす。
「ま…、待って、長尾」
「大丈夫だ、解してから入れる」
「そうじゃなくて、今日はだめ。明日まだ会社が…」
「我慢できないんだよ」
「でも…」
「一日だけだろ」
 今までなら、それでも流された。
 彼が我慢できないほど自分を求めてくれるのなら、と。
 けれど今日は嫌だ。心にわだかまりが残ったまま、彼を受け入れられない。
「口でするから、中には…」
「どうしてだ? いつもはそんなこと言わないだろう」
「仕事があるんだ」
「じゃあ休めよ」
「長尾!」
 まだ話をしている途中だというのに、指が中へ入る。
「…っ!」
 硬い肉を割って、彼の指が内側で蠢く。
「やめ…っ」
 慣れた手つきで、彼は枕元に隠してあるローションを取り出し、片方の手でそれを俺の腰に零した。
「冷た…っ!」
『無愛想? 長尾が?』『あいつが無愛想なら、俺なんか鉄仮面だよ』『学生時代はそうだったのか? 今は全然愛想がいいぞ』
 先輩の言葉が頭の中に木霊する。
 自分には、強引で無愛想な長尾が、会社では、他の人の前では、違う顔を持っているのだと教えた言葉。
 これが彼の普段の姿ではないのなら、自分だけに見せている顔だというなら、この強引さをどう取ればいい?
 俺を好きだから、そんなに強引なの?
 どう扱ってもいいから、乱暴なの?
「ん…」
 嫌だと思っていても、相手が長尾だと思うだけで応える身体。
「腰を上げろ」
「長尾…、ホントに…」
 指が中を擦るたび、身体が震える。
 快感は容易に全身に広がり、彼が言わなくても望むポーズをとる。
「ん…っ、あ…」
 優しく抱いて欲しいのに。
 一緒にいる時間が欲しいのに。
 いつも言葉少なに自分を求めるだけのお前。
「あ…や…っ」
 心が揺れる。
 好きな男に抱かれてるのに、ついこの間までそれでいいと思っていたのに。強引に身体をってくる長尾が怖い。
 これが愛情ではなく、単なる性欲の処理だったら、自分が都合のいい相手としてしか思われていないのだったらと思うと泣きたくなるほど怖い。
 せめて、それを言葉に出して確かめたい。
 ウソでも違うと言ってくれればそれを信じるから。
「長尾、やめて…」
 俺は初めて、彼を拒んだ。
 彼が俺に手を伸ばしてから初めて。
「やめて」
 ハッキリとした言葉で。
 けれど、彼はそれを聞き入れてはくれなかった。
「ここまで来てやめられるか」
 冷たい言葉。
 いや、それは情熱的な言葉なのかもしれない。
 でも今の自分にはそのどちらなのかわからない。どちらとも取れない。
「あ…、 いや…っ!」
 まだ十分な前戯も受けぬまま、差し込まれる彼の熱。
「痛…っ」
 前を握られ、無理に煽られ、深くられる。
「や…」
 感じはする。快感もある。
 けれどそれを気持ちいいとは思えない。
「俺に抱かれたいんだろう?」
 背後から重なってきた長尾が耳元で囁いた。
「だったらおとなしくしてろ」
 頭の中がぐるぐる回る。
 その言葉の意味をどう取ればいい?
 まるで腹を立てているように何度も突き上げてくる腰。
 喘ぐ自分の身体の中、応える疼きはあるけれど全然燃え上がらない。
 気持ちがついていかないと、快感を得てもイかない。
「どうした、何考えてる」
「やめ…なが…」
「まだそんなこと言ってんのかよ…」
「あ…や…」
 腰を掲げられ、上から打ち下ろすようにってくる肉に、身体が悲鳴を上げる。


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