書籍詳細
諸侯さまの子育て事情
ISBNコード | 978-4-86669-275-3 |
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サイズ | 文庫本 |
ページ数 | 248ページ |
定価 | 754円(税込) |
発売日 | 2020/03/18 |
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内容紹介
人物紹介
フィネス
国王の遠縁の名家出身。美しく華奢だが芯は強い。
ルドルフ
財政が豊かな諸侯で同盟のリーダー的存在。
セオドア
ルドルフの息子。
立ち読み
「…お帰りなさい」
「起きて待っていてくれたのか」
フィネスに歩み寄ると、がばっと抱き寄せた。
「な……」
「よいものだな。帰宅すると美しい妻が出迎えてくれるのは」
「何を云って…」
「キスくらいさせろ」
そう云うと、フィネスの両頬に唇を当てた。
「疲れが吹き飛ぶ」
大袈裟なルドルフにフィネスは眉を寄せたが、実はそれほど嫌なわけではなかった。というか、力強く抱き寄せられたことにドキドキしたのだが、そんな自分が恥ずかしかったのだ。
「旦那様、湯あみの支度ができております」
「そうか。…一緒に入るか?」
ルドルフに誘われて、フィネスは呆れたように溜め息をつく。
「私はとっくに済ませています」
「そりゃそうか。では、旅の疲れを流してこよう。起きて待っていてくれるか?」
そんなふうに云われて、逆に素直になれない。
「…ご無事を確認したので、先に休ませていただきます」
つい冷たく返してしまう。
それでも、ルドルフは気に留めてもいない。
「心配してくれていたのか」
ルドルフが嬉しそうに微笑むのも、フィネスには揶揄われているように感じられて居心地が悪かった。
「セオドアがまた一人になっては可哀想ですから」
「そのときはきみがいるだろう?」
真顔で返されて、フィネスは一瞬言葉に詰まった。
「…それより、さっさとお風呂に入ってください。風邪をひきます」
突き放すように云って、自分の部屋に戻った。
つい冷たい対応をしてしまったのだが、一人になるとさすがにあれはないのではないかと反省し始めていた。
あんな無神経な言葉を、雨の中一日かけて移動をしてきたルドルフに云うべきではなかった。何より、彼は自分の身に何かあったときのことをきちんと考えている。
フィネスは自分のお気楽さを恥じた。
どうせ寝付けないので、ルドルフが休むまでアルヌーからもらった資料に目を通すことにした。雨が上がったら被害を確認しに行こうと思っていたので、地図も頭に入れておく。
小一時間もして廊下に出てみると、庭越しに見えるはずのルドルフの部屋の灯りが消えているのに気づく。
自分もそろそろ休もうと、寝室に戻りがてら、セオドアの部屋を覗いて布団を直してやる。
「…おやすみ」
起こさないように小さい声で囁くと、ふと人の気配に気づいた。
「聖母のようだな」
半分ほど開いた扉を背に、ルドルフが腕を組んで立っていた。
フィネスは黙ってセオドアのベッドを離れると、ルドルフと廊下に出た。
「…もう休まれたのだと」
「貴方が待っていてくれたようなので…」
「待ってない」
セオドアを起こさないように小声で返す。
「そうか? まあいい。それよりできれば手を借りたいのだが」
「手を…?」
「さっき云っていたがけ崩れだが、境界地なのでファーガスが費用を持つにしても修復工事には国王の許可が必要だ。それだけじゃなく、領民が最短の迂回路を通るための許可もすぐに取る必要がある。その申請を明日一番には出せるように、休む前に書類を揃えたい」
くたくたに疲れているだろうに、ルドルフは当たり前のことのように云う。
フィネスはそんな彼を見直さないわけにはいかなかった。
「…そういうことなら私が。書類の作成は得意です」
「心強いな。私はそういうのは苦手で…」
ルドルフは本当に苦手らしく、ほっとしたようにフィネスを見る。
そんなふうに頼られることは、フィネスには嬉しいことだった。
二人はルドルフの書斎で、地図も用意して完璧な申請書を作り上げた。
「こちらにサインを。あの街道はカーライルにとっても必要なものなので、こちらの嘆願書には父の代理として私の署名もしておきましょう。より早く処理されるように」
ファーガスの屋敷で暮らし始めているとはいえ、公式には結婚していないフィネスはまだカーライルの人間だった。彼は書類一式をまとめると、封をして封緘を押した。
「ありがたい。許可が出ればすぐに取りかかれるように人の手配も始めた方がいいだろう。既に農作業が終わっている家なら、人を出してくれるだろう。臨時収入にもなるし」
ルドルフはそう云うと、大きく伸びをした。
「今回の旅はさんざんだった。交渉は予想以上に手こずって、手間のわりには得たものは小さすぎる。挙句帰り道でがけ崩れ。運に見放されたようだったが、それも貴方が待っていてくれたことですべて報われた」
揶揄するような空気はまるでなく、真向かいに座るルドルフはまっすぐな目でフィネスを見る。そして彼の白い手に自分の手を重ねた。ぴくりと、フィネスの手が震える。
「貴方の顔を見るまでは、申請書を作るのは明日にしようと思っていた。しかし貴方が待っていてくれたことで、やる気が湧いてきた。礼を云う」
「そんなこと…」
重ねられた手を振りほどくこともできずに、フィネスは目を伏せる。
「しかもこんな夜中に手伝わせてしまった」
「…当たり前のことです」
ルドルフは重ねたフィネスの手に指をからめた。フィネスの背中がぞくりと震えるのが、ルドルフにも伝わっただろう。
「…知るほどに、貴方に魅了される」
ルドルフの視線を痛いほど感じて、フィネスは動けないでいた。
「フィネス…」
囁くと、机ごしに身を乗り出して口づけた。
貪るように唇を吸うと、舌を差し入れてからみつかせる。
最初のキスとは比にならないくらいに情熱的なキスに、フィネスは我を忘れた。
ルドルフの唇が離されても、フィネスは暫く放心状態だった。
気づいたときにはルドルフに抱き上げられていた。
「なに…を…」
「暴れるな」
抵抗しようとするフィネスを宥めて、ルドルフは奥の寝室まで彼を運ぶ。
広々したベッドにフィネスを下ろすと、じっと彼を見る。
「…貴方を抱きたい。先延ばしにしたことを帰り道ずっと後悔していた」
帰宅したときにルドルフが云いかけた、がけ崩れの犠牲者の話がフィネスの頭を過った。
「今があること、明日が来ることは当たり前じゃない」
ルドルフはそう云うと、フィネスに口づけた。慈しむように、うんと優しく。
ルドルフのキスは巧みで、フィネスは簡単に翻弄されてしまう。
それでも女のように抱かれることに抵抗がないはずがない。それなのに、自分には拒絶ができない。
甘いキスに頭がぼうっとなっているうちに、フィネスはシャツを脱がされていた。相手に考える暇を与えない手際のよさだ。
ルドルフの舌がフィネスの小さい乳首を掬い上げるように舐める。
「な……!」
慌てて押し退けようとしたが、ルドルフはそれを易々と押さえ込んで、乳首の先端を舌で突いた。
「あ……」
もう一方の乳首を指でくりくりと刺激されて、じわじわとした快感でしだいにフィネスの身体は熱くなってくる。
こんなこと…、なんで…。
これまで経験したことのない愛撫にフィネスは自分がどうなっていくのか不安で、弱々しく抵抗するが、それは拒絶の意味ではない。
ただ、どうすればいいのかわからないのだ。
ふとルドルフの手が下半身に触れて、フィネスは慌てて身体を捩った。
「や…!」
「…これは、色っぽいな」
股間が盛り上がって、衣服を持ち上げているのだ。フィネスは恥ずかしさでどうにかなりそうで、慌ててそこを手で覆った。
「そうすると、よけいにいやらしいのだが?」
ニヤニヤと見下ろされて、フィネスは首まで真っ赤になった。
「…可愛い人だ」
ルドルフは、フィネスの手の上からそこを握り込む。
「やめ……」
フィネスは必死になって首を振った。
「胸を舐められるのは気持ちがよかったようだな」
「ち、ちがっ…」
「違うのか? ペニスを勃起させているのに?」
「う、うるさいっ」
必死で云い返すフィネスを、ルドルフは愛しそうな目で見る。
「それじゃあ確かめてみよう」
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