書籍詳細
御曹司は初心な彼に愛を教える
ISBNコード | 978-4-86669-577-8 |
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サイズ | 文庫本 |
ページ数 | 288ページ |
定価 | 836円(税込) |
発売日 | 2023/06/16 |
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内容紹介
人物紹介
里央
19歳。親の借金を背負って“ちんパブ”で働いている。下半身が敏感なため人気がない。怜司に出逢い初めて優しくされる。
本城怜司
35歳。財閥の御曹司。仕事に疲れて訪れた店で里央に出逢う。
立ち読み
1
本城怜司は、黒地にグレーで書かれた小さな文字に目をこらした。
『Club Diletto』
(ここか……)
来店を決めたのは、半ば勢いだった。少し早まっただろうか。
看板の横、地下に向かう暗い階段。一段下るごとに厚みのある絨毯が静かに沈み、まるで別世界に誘われているかのように感じる。
下りきった先の黒いドア。天井と右側の壁にはカメラの小さな赤いライトが光っている。
本城が正面に立つと、内開きのドアはすぐに開いた。
「いらっしゃいませ」
頭を下げたボーイに名乗る。
「“三枝”だ。予約はしてある」
「ご来店ありがとうございます。お待ちしておりました」
本城を見る目に違和感はなかった。どうやら偽名だということには気付かれなかったらしい。
「初めてなんだが」
そのことは予約の段階でも伝えてあった。念を押すように口にすると、ボーイは笑みを深めて頷いた。
「当店をお選び頂きありがとうございます。どうぞお入りくださいませ」
ボーイに続いて店内に足を踏み入れる。厚さ十センチものドアは音もなく閉まった。暗い廊下の先、正面のドアをくぐると円形の広いフロアに出た。中央には丸いステージがあり、その上には官能的なピンク色の光を放つシャンデリアが下がっている。
それを中心に配置された複数のテーブルと、ステージに相対する一方向にのみ置かれたソファ。ステージ上は無人だが、ほとんどのテーブルには華奢な男の子が、ソファにはスーツ姿の男性客が座っている。
「ァッ、あんっ」
「ひゃぁ! そこッ、アッ!」
甘美な嬌声。男の子たちはテーブルの上で足を広げ、客に陰部を見せつけたり、顔を埋められたりして甘い声を上げていた。
「こちらです」
「ありがとう」
テーブルとステージの間を進んで案内された席に腰を下ろし、差し出された熱いおしぼりを受け取る。広げると、隅に金糸で店名が刺繍されていた。
(あの店にはなかったな……)
本城が「ちんパブ」の存在を知ったのは、今から半年前のことだった。
仕事を終えて帰宅した夜中に突然、電話が鳴った。
『なぁ、久しぶりに飲もうぜ』
幼稚園時代からの友人で医師の最上だった。彼は本城が口を開く前に「門の前にいる」とだけ言って電話を切った。
「どこに行くんだ?」
ドアを開けた瞬間に新車の匂いを嗅ぎ取った。しかしシートベルトからは甘い匂い。買ってすぐにどこかのお気に入りの男の子でも乗せたのだろう。
「イイトコロ」
鼻歌さえ歌いだしそうな最上に、本城は静かに息を吐いた。最上に連れられて行った先がまともだったことはほとんどない。しかし、おそらく気を遣ってくれたのだ。
数か月前、本城が任されている会社で大規模なリコールを出した。原因は下請けの作ったねじの強度不足。直接的に本城の会社が悪かったわけではないし、下請けがそれを隠蔽していたことも明らかになっていた。それでもその責任を負うのが社長である本城の役目だった。
「いいところって、どこに行くんだ?」
「男の秘密基地」
最上が口角を上げた。これ以上は訊いても無駄だろう—そうして本城が静かに身を任せて着いた先が、ちんパブだった。
ちんパブ—男の子のペニスをもてあそぶ店。しかし本城がそうと気付いたのは、個室にやってきた男の子がミニスカートを膨らませながら最上の膝の上に座った時だった。その瞬間、本城はジャケットから財布を抜いて腰を上げた。
「おいおい、待てって。めっちゃかわいい子指名しておいてやったから。ナンバー2だぞ、ナンバー2」
性風俗に偏見はないが、遊びたいとも思っていなかった。しかし本城が個室から出ようとした時、妖艶な男の子が顔を出した。
「失礼します。ミカゲです。ご指名ありがとうございます」
「な? かわいいだろ」
状況的に、無理に退席することはできなくなった。そうして本城はキャストと楽しそうに遊ぶ最上が満足するのを、ナンバー2の酌を受けながら待ったのだった。
(……それがまさか、自ら来たいと思うようになるとは)
ここのところ、ひどく忙しかった。世界情勢の急激な変化や政権の交代。日本屈指の本城財閥の息子として出席を求められるパーティが増え、連日連夜仕事の後に呼ばれていた。
つまり、疲れていた。
帰宅は深夜。実家に住んでいた頃は執事なりメイドなりがいて身の回りのことをしてくれていたが、数年前からは一人暮らし。明かりもない家に帰り、脱いだスーツを自分でハンガーにかける。そんなことにさえうんざりしていた。
そんな時に思い出したのが、最上の楽しそうな顔だった。好みの男の子の性器をいじる—癒されるだろう。本城だって男だ。そういうことをしたいと思うこともある。しかももう長いこと誰とも夜を共にしていなかった。最後に恋人がいたのは六年も前のことだ。できればそういうことは恋人とだけ楽しみたいが、今は好みだと思う相手すらいない。だから自分が快楽を得ることはなくても、男の子が自分の手で快感に喘ぐ姿を見たいと思った。
(せっかくだから相手は敏感な子がいいが……)
ここにはどういう子がいるのだろう—気付くとボーイがキャスト表を本城に向けていた。
「ああ、すまない」
「いえ。お好みの子をお選びください」
「そうだな……」
一緒にいるだけで癒しになるような子がいい。かわいく喘いではほしいが、性欲の発散だけが目的なのではない。
開かれたページには「ナンバー1」と書かれた男の子の写真があった。負けん気の強そうなへの字形の唇に、ツンツンした髪の毛と細い眉。男性客にペニスをいじられてよがる姿は想像もつかないが、きっとそのギャップがいいのだろう。だが残念ながら、本城の好みではない。それに人気のある子は政治や経済にも詳しいだろう。ここでだけは、媚を売られたり気を遣われたりせずに過ごしたかった。だからこそ予約も偽名を使ったのだ。
(接客に慣れた子はやめておくか……)
さらにページをめくる。
(一番最近入った子なら不慣れか……?)
しかし「今月の新人」のページには、ナンバー3というシールが貼られていた。もしかしたら新人とはこの店に入ったばかりというだけで、他店での経験者なのかもしれない。
キャスト表を閉じ、ボーイに返す。
「……一番人気のない子を頼む」
ボーイは本城の言葉に一瞬表情を固めたが、すぐに笑みを作ってページをめくった。最後から二ページ目、一番目につきにくそうなところを開く。
「里央です」
人気がないとは言っても、それなりだろうと思っていた。しかし見せられた写真は、色気よりも幼さをまとっているように見えた。思わずキャスト表を手に取り顔を近づける。
くりっとした大きな目。丸みのある柔らかそうな頬。鼻筋は通っているようだが唇がふっくらしているせいで少しだけそこが浮いて見える。髪はふわっとしたミディアム。女性だったらショートカットというのかもしれないが、今月三十五歳になった本城には非常に長く感じられた。しかし、里央にはとてもよく似合っていた。スプレーなんかで固めていないといいが……その髪を指ですくように撫でてみたい。
しかし一方で、問題を起こしてはまずいという意識もあった。
『本城財閥の次男、ゲイ向け風俗で未成年者に卑猥な行為!』
そんな文言が週刊誌にでも載ればいったいどうなるか。本城財閥の所有する会社の株価は暴落し、日本経済そのものにも打撃を与えることだろう。
(最上が変な店を紹介するとは思えないが……)
「この子はまだ子どもじゃないのかな」
さすがに高校生がいるとは思わなかったが、里央はあまりにも幼かった。
「十九歳です」
プロフィール欄を見る。里央、最終学歴高卒。好きなことは“抱っこ”で、苦手なことは“フェラチオ”—どうやら奉仕をするより快感を与えられる方が好きな甘えん坊らしい。
「若いね。おじさんって言われてしまうかな」
自嘲的な言葉は高揚の裏返しだった。まだ写真でしか見ていないし、こういうものは大抵良く見えるように修整を施されているだろう。しかしかわいい。どこか不安げにも見える黒い瞳に自分を映してほしかった。
本城はもう、里央に決めていた。頷きながらキャスト表をボーイに返す。
するとすぐ、ボーイは目を細めてそれを開き直した。
「こちらをご覧ください」
示されたのはプロフィールの最後。書かれていたのは“好きなタイプは年上の男のひと”。
「—ああ、よかった」
どうやら、少なくとも第一段階はクリアできたようだ。まあ、彼より年下がここに来ることはまずないだろうが。
ボーイはキャスト表を片付けると、本城に向けてメニュー表を開いた。
「お飲み物は何にいたしましょう」
「彼と会ってから一緒に決めても?」
「もちろんです。では少々お待ちください」
ボーイが立ち去ると、本城は辺りに視線を巡らせた。ソファの数もテーブルに合わせて十二のみ。本城が座ったことで空きは一席だけになった。
ふと、隣のテーブルの男性客がボーイに金を差し出しているのが目に入った。受け取ったボーイがその席にカーテンを引いて視界を遮る。
本城が視線を上に向けると、自席にもカーテンレールがソファとテーブルを広く囲む形で設置されていた。
「失礼いたします」
近くから聞こえた声に視線を下ろす。先ほどのボーイが立っていた。その後ろには身長百六十センチ程度の、小柄で写真よりもかわいらしい顔つきをした里央がいた。
白いシャツに、赤と濃紺のチェックのミニスカート。細い太ももにはガーターベルトが見えている。
「里央です」
ボーイの紹介で里央がちょこんと頭を下げる。しかし緊張しているのか、視線はキョロキョロと動いて定まらない。小動物のような仕草が初々しい。
「よろしくね。どうぞ、座って」
「よ、よろしくお願いしますっ! ありがとうございます。失礼します」
里央が硬い動きで本城の前のテーブルに腰掛けた。膝をピタリと閉じ、その上に握った両手をしゃんと置く。
「緊張してる?」
「は、はい……」
「怖いことはしないよ」
初心なフリをしているのか、それとも本当に初心なのか—。
里央が短いスカートをぎゅっと握った。その手が震えているのが暗い店内でもよくわかる。
(……本当に緊張してるな)
しばらく観察していたが、里央は自分からは一言も話そうとはしなかった。無言のまま、俯き加減で目をキュッと閉じている。
本城自身、遊び方などほとんどわかっていないというのに、それでもリードしてやらねばならないような気になった。
「里央くん」
呼び掛けると、里央は弾かれたように顔を上げた。
「は、はいっ!」
「何を飲む?」
「えっ?」
「一緒に決めようと思ってまだ注文していないんだ」
きっと他の子が相手だったら、どうしてこちらが気を遣わなければならないのだとぼやいたことだろう。しかし里央は、本城が自分でも驚くほどに守ってやりたいと思わせる何かを持っていた。
(この子にして正解だったな)
『あの店には好みの相手がいなかったようだから』と言ってこの店を紹介してくれた最上に内心で感謝する。
「お酒は……まだ二十歳前だったね。ジュースがいいかな?」
メニュー表には数十のソフトドリンクが並んでいた。ページを里央に向ける。
「あ、あの……い、いいんですか? 僕がいただいてしまっても」
「え?」
謙虚そうだとは思っていたが、まさか飲み物一杯で確認を取られるとは思わなかった。しかも訊き方が慎ましさを通り越して切なさを感じさせる。
(人気がないのは自信がないせいか?)
顔立ちだけでなく声や話し方もかわいらしい。控えめだから売り上げは上がりにくいかもしれないが、普通にしていればそれなりに指名も取れそうなものなのに。
「—どうして? 一緒に飲もう」
「はい……ありがとうございます」
「もしかしてあまり席についたことがない?」
一番人気のない子を、とは言ったが、それなりの接客経験はあると思っていた。平日の夜にもかかわらずほぼ満席なのだ。指名が取れなくてもフリー客の相手くらいはしているだろう。
「すみません……」
どうやら想像以上に経験が浅いらしい。しかしそういう純粋なところもかわいい。本城の周りにはいないタイプだ。
「まだ入ったばかりかな」
「一年くらい、です……」
「席についたのはどれぐらい?」
「席にはつけていただくんですが……その後すぐにチェンジになって」
がっついた客ならそうなるだろう。手っ取り早く行為に及びたい相手には、この性格は面倒くさいと思われる。
「そうか。でも私はそんなことはしないから」
震えたままの手に触れながら言うと、里央が怯えた目で本城を見た。
「……あの……ごめんなさい。僕、おちんちんがダメなんです」
「ダメ?」
「その……あまり気持ちよくなれなくて」
「それは強引にされたからとかじゃなくて?」
「自分でするのも……ダメなんです」
それならどうしてこんな店に—開きかけた口をつぐむ。そういうことを訊くのはルール違反だろう。社交界でも相手のプライベートには踏み込まないのが鉄則だ。
「……痛みはある?」
「はい……あ、でも、病気の検査とか健康診断では異常はないみたいで」
もしかしたら、性の知識が年相応に備わっていないのかもしれない。客に触られて痛かったのは雑に扱われたせいで、自分でしても痛みがあるのは知識がない故に正しいいじり方をしていないだけなのではないだろうか。
「……じゃあ怖くなっちゃうね」
「え?」
「気持ちよくなれないのに無理矢理触られたら怖いだろう」
「あ……」
「今日はお話をしよう。飲み物は何にしようか」
「でもおちんちん……」
スカートを握る里央の手が白くなった。包むように撫でる。
「いいんだよ」
たしかに本城は、男の子の陰部をいじりたいと思っていた。しかしキャストだって人間だ。しかも相手が客となると、不快に思っても嫌と言うことはなかなかできない。だから相手が嫌だと思うことはしない。一方的にではなく、二人で一緒に楽しみたかった。
「けど……」
「いいんだ。無理にいじっても楽しくないからね。それに、私はただおちんちんをいじりたいわけじゃないんだ」
「え……そうなんですか?」
「私はね、おちんちんをいじられて気持ちよくなっているところを見たいんだよ」
「ぁ……じゃあ他の人の方が……」
どうやら里央はよほど自分に自信がないらしい。もしかしたら店から売り上げの低さを責められているのかもしれない。
「里央くんがいいんだ。里央くんが気持ちよくなってるところが見たい」
これまで、本城の周囲には本城のために能動的に動いてくれる人間ばかりが揃っていた。しかし里央に相対して初めて、自分から人に尽くしたいという気持ちが湧き上がった。里央に甘えてほしい。この頑ななまでに自分を卑下する子に自信を持たせてやりたい。
「で、でも僕、気持ちよくなったことってないんです」
思わぬ言葉に、本城はメニュー表を落とした。慌てて拾いながら、「一度も?」と問いかける。
「はい」
「じゃあオナニーはどうしてるの?」
「出さないと苦しいので月に一回くらいはするんですけど……自分でしてもつらいのでタオルを噛んで叫ばないようにして……」
耳を疑った。いくら抜いても抜き足りない、やりたい盛りのはずの青年がそんなつらい射精をしているなんて。
しかし本城は同情を抱くとともに、言いようのない高ぶりを自覚した。極端なほど性に疎い青年に、本当の快楽を教えてやりたい。そして本城がいなければ射精できないようにしてしまいたい。
だがそのためには里央が他の客に愛撫をされないよう、ここに通い詰めなければならない—頭の中で素早く仕事のスケジュールを組み直す。幸いパーティは落ち着いたので、仕事さえ終われば問題はない。
「そう……それはつらいね。いつか私が気持ちいい射精を教えてあげたいな」
「ありがとうございます」
里央が無理矢理笑顔を作った。そんなこと、どうせできないと諦めているのが透けて見える。
「……まずは飲み物を飲もう。何がいいかな?」
気持ちを切り替えるべく尋ねると、里央はわずかに表情を緩めた。しかしすぐ、困ったような戸惑いの表情で本城を見る。
「えっと……」
「三枝だよ」
本当は本名を告げたかった。もしかしたら里央は本城の名前を聞いても誰かわからないかもしれない。しかし里央が本城を呼ぶのを聞いた誰かは気付くかもしれない—。
「あの、三枝さん。お酒は飲まれますか」
「普段は飲むけどね。初対面で酒臭い人の相手は嫌だろう? 私はウーロン茶をもらうよ。里央くんは好きなものを選んで」
里央はもじもじと身体を揺らした。
「えっと……じゃあいちごミルク、いいですか」
「もちろん」
頷くと、里央の顔に花が咲いた。しかし本城が見ていることに気付くと、頬を染めて俯いてしまう。
ああ……なんてかわいいのだろう。今すぐ腕の中に閉じ込めてしまいたい。しかしまだだ、と自制する。もう少し慣れてもらってから。
注文は本城がした。通常こういった店ではキャストがするのだろうが、たとえボーイ相手であっても里央から話しかけるのを見るのは嫌だった。
ボーイが去ったところで、視線を里央のスカートに移す。
(いやらしいな……)
その中を覗きたい。普通にしていては見えないようなところに所有印を残したい。思わずじっと見てしまう。
「……足が細いね」
ピタリと閉じられた足の肌には張りがある。
「ぁ……昔から太らなくて……」
脂肪だけでなく、筋肉もないように見えた。体質なのか、じゅうぶんに食べていないのか。それとも最近の子らしくゲームばかりで運動をしていないのか。
「里央くんは普段何してるの?」
「あ……上にいます」
里央が眉尻を下げながら作り笑いを浮かべた。
「上?」
いったいどういう意味だろう。何か別の店舗でも入っているのだろうか。
尋ねようとした時、ボーイがドリンクを運んできた。タイミングが悪いが仕方ない。グラスを静かに触れ合わせてから口に運ぶ。
「あの、三枝さんはこういうお店って慣れてるんですか」
「いや、初めてだよ。お酒を飲むだけのお店ならたまに付き合いで行くことはあるけどね」
初めて—最上と行った先では結局水割りを飲んだだけだったので、ノーカウントでいいだろう。キャストには指一本触れていない。接待付きのパーティだって同じだ。
しかし里央は不安そうに瞳を揺らした。
「そうなんですね。楽しんでいただけるといいんですけど……」
「楽しいよ」
里央を見ているだけで満足できそうなほど。
「……本当ですか? でもおちんちん……」
この自信のなさも、鬱陶しいとは思わなかった。
「これからもここにしか来ないよ」
「え?」
「里央くんに気持ちいいことを教えてあげたいんだ。ここに、里央くんに会いに通うよ。それでおちんちんで気持ちよくなれるようにいろいろ教えてあげる」
「ぁ……」
里央がギュッと目を閉じた。色を含んだその表情にドキリとする。
「里央くんは、おちんちんで気持ちよくなれるようになったらどんなふうにされてみたい?」
「ぁ……抱っこで……手でこすってほしい……です……」
想像だけで顔を赤くする様子は本物の清らかさだった。守ってやりたい、かわいがりたいという思いと同時に膨らんでくる押し倒して啼かせたい、という劣情をぐっとこらえる。
「フェラチオは?」
「苦手なんです。その……刺激が強すぎて」
「え、もしかしてプロフィールのフェラチオが苦手って、する方じゃなくてされる方のことだったの?」
「はい」
逆だと思っていた。しかしオナニーでもつらく感じるのであればフェラチオなんてされたらたまったものではないだろう。しかし、ここはそれをさせるための店だ。
「そうか。じゃあフェラチオで気持ちよくなって、私の口に射精するのを目標にしようか」
「っ……」
里央の肩が小さくなった。言葉だけでそんなに怯えてしまうとは。
「ああ、ごめんね、まだ早かったね。無理矢理したりなんてしないよ。大丈夫。さあおいで、抱っこしよう」
腕を伸ばすと、里央は思いの外するりとテーブルから下りた。下着が見えそうで見えないスカートのラインについ視線が向かってしまう。欲望を振り切るように里央の顔を見上げる。
「—おいで」
「あの、えっと……」
抱っこが好きと言いながら、どうやら抱きしめられることにも慣れていないらしい。戸惑う里央の腰に腕を回し、対面で膝の上に座らせる。
「あっ……」
「おじさん臭いかな?」
「いえ、そんな! お兄さんで—あれ?」
スンスンと首元を嗅がれた。さすがに少し恥ずかしくなる。
「里央くん?」
「いい匂い……」
「え?」
「ん……好き……」
里央が本城の首元に顔を埋めた。付近の空気が吸われているのを肌で感じる。
「ん……はぁっ……いい匂い……」
里央は上半身をぴたりとくっつけてぎゅうぎゅうと抱きつき、本城の襟の隙間にまで鼻をこすり付けて匂いを嗅いだ。
(かわいい……)
里央の背中を撫でていると、ふとスカートの短さを思い出した。お尻が上がっているので、フロアの方からは中が見えてしまっているだろう。里央の邪魔をしないように注意を払いながら財布を取り出す。
「君、」
ボーイに呼び掛けると、里央の身体がビクンと跳ねた。違うよと伝えるために頭を抱き寄せてから、札を持った腕を伸ばす。
「カーテンを閉めてもらえるかな」
「かしこまりました。こちらをお使いください」
テーブルに置かれた小さなカゴ。中にはローションとコンドームが入っていた。
「さ、三枝さん……」
カーテンが閉まりきると里央は顔を離した。目はとろんとしているが、その表情には怯えがある。
「何もしないよ。ただカーテンがないと里央くんのかわいいところが見えてしまう気がしてね」
「甘えてるところ……ですか」
どうやらスカートの短さは頭から抜け落ちているらしい。それだけ匂いに夢中になってくれたのかと思うと喜びに胸が高鳴る。
「そうだね。里央くんが甘えてくれているところは誰にも見せたくない」
「恥ずかしい……」
「かわいいよ。おいで」
本城がもう一度頭を引き寄せると里央はさらに顔をとろけさせ、首筋に鼻をこすり付けて匂いを嗅いだ。
「はぁっ……」
「そんなに好き?」
彼なりの営業なのか、それとも本当に相性がよかったのか。
「んっ、好きっ、いい匂い……ん、はぁっ」
里央の吐息が熱い。その温度で本城のペニスが硬くなっていく。
(まずいな……)
身体はくっついているのだ。勃起はすぐに感じ取られるだろう。怯えさせないといいが—。
「っぁ、三枝さん……」
「ん?」
「僕、むずむずっ……」
身体を離した里央の頬は先ほどよりも濃い桃色になっていた。はぁはぁと息苦しそうに喘ぐ。
「はぁん……」
「熱い?」
「はいっ……」
痛いほどの鼓動を感じながら、里央のシャツのボタンを外す。抵抗されるかと思ったが、里央はうっとりとした顔で本城を見つめるだけだった。
第四ボタンまで外すとあばらの浮いた薄い胸板が現れた。頼りないそれに切なさを感じながらも、まだ隠れたままの乳首が気になる。
「おっぱいは見てもいいのかな」
「は、はい」
里央が恥ずかしそうに顔を背け、目を閉じて眉根を寄せた。嫌がっているわけではないと判断し、シャツを左右に開く。
「ああ……とてもかわいいね」
あまりの絶景に感嘆の息が漏れた。
里央の乳首はまるで摩擦を受けたことなんて一度もないかのような薄いピンク色をしていた。着色したようなそれに身体がさらに高ぶる。今すぐにでもその敏感そうな淡い粒をこねまわし、真っ赤に染めてしまいたい。
「やぁ……恥ずかしい……」
「すごくきれいだよ」
「や……」
「ここを触ったり触られたりしたことは?」
「えっ、ないです!」
「誰も触らないの?」
「みんなおちんちん……」
「そうか、そうだね。みんな里央くんのおちんちんを見たがったんだね」
「三枝さんも見たいですか……?」
「うん……でも怖いだろう?」
「……見てください」
里央がゆっくりとスカートをまくった。現れたのは薄いピンクのレースでできたフロントポーチのGストリングで、ポーチの真ん中には縦に割れ目が入っている。しかし細い赤紐が蝶々結びで中身を隠すようにそこを閉じており、肝心なところはよく見えない。その下の陰嚢を包む部分には、紐と同じ色のリボンが一つ縫い付けられていた。
「とてもセクシーだね」
「恥ずかしいです……」
里央はもじもじと腰を揺らした。
「下着をつけてるのに見えちゃってるよ」
ペニスの先端部分はレースが厚くなっており、見ることはできない。しかし竿や陰嚢の膨らみは一見しただけですぐにわかった。
「ぁん……やだぁ……」
「この紐は?」
「ぁ……ほどいてください……」
「ほどいたら?」
「おちんちんが……」
「いいの?」
仕事なのだからダメと言えないことはわかっていた。しかしそれでも里央からの許可が欲しかった。
「はい……」
「ありがとう」
まるで初めてできた恋人に初めての口付けをした時のような緊張感。年甲斐もなく震えそうな指を伸ばし、細すぎて頼りない紐をゆっくりと引っ張る。
「あっ……」
紐はスルッと簡単にほどけた。中身の体積によって下着の割れ目が膨らんで、そこからポロンと小さなペニスが顔を出す。
「出してあげなきゃいけないのかなと思ったけど」
「みんなは手でしないと出ないらしいんですが……」
「里央くんはおちんちんが小さいから勝手に出ちゃうんだね」
「う〜……はい……」
ゆっくりと勃起を始めたペニスは、本城が見つめているだけでどんどん角度を変えていった。しかし、上を向いても大きさはほとんど変わらない。
「あまり大きくならないのかな」
「これでも膨らんでるんですけど……あんまり変わらなくて」
「そうか。じゃあずっと小さいままなんだね」
「ぁっ……」
小さな膨らみがピクンと揺れた。こんなにかわいいものを見せつけられては誰でもがっつきたくなるだろうなと思いながら、どうにか冷静になろうと細く息を吐く。
「勃起するだけでも痛い?」
「あんまり大きさが変わらないので大丈夫です」
「そうか、そうだったね」
勃起をしても里央のペニスは人差し指ほどの長さしかなかった。太さは親指程度。オナニーをするにも握るというよりつまむという形になるんだろうなと下世話なことを考える。
「近くから見たいな」
「ぁ……はい」
里央がするりと足から下りた。スカートの裾をふわりと膨らませながらテーブルに戻り、足を開く。
「僕のおちんちん……見てください」
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