書籍詳細
オメガバースの双子素数予想
ISBNコード | 978-4-86669-187-9 |
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サイズ | 文庫本 |
定価 | 754円(税込) |
発売日 | 2019/02/18 |
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内容紹介
人物紹介
五十嵐千代丸
(いがらし ちよまる)
双子の兄。Ω(オメガ)18歳。劣悪な施設から保護され貴嶋邸で暮らす。
双子の弟サエの幸せを一番に願っている。
久我(くが)ジョシュア
α(アルファ)17歳。クガフーズの御曹司。双子の兄。
弟とともに、サエにちょっかいをだしていたが、とある一件でチヨに注目しだして…。
久我(くが)ニレル
α(アルファ)17歳。クガフーズの御曹司。双子の弟。
兄とともにチヨに執着しはじめて……。
五十嵐左衛門介
(いがらし さえもんのすけ)
双子の弟。Ω(オメガ)18歳。チヨと共に貴嶋邸で暮らしている。
立ち読み
制服がイケていると評判の某名門私立学園の朝は、ケヤキ並木の通りに並ぶ送迎の高級車の渋滞から始まる。
その車列の中に、厳つい黒塗りのSUVが滑り込んだ。
「着いたぞ」
安芸はサイドブレーキをかけると、後ろを振り返った。
「待って、まだ食べ終わってない」
「まだ時間あるよね」
リアシートでモゴモゴと朝食のサンドイッチを食べているのは、五十嵐千代丸と左衛門介の美形兄弟。
ふんわり巻き毛の少女のような千代丸と金髪を逆立てた左衛門介は、雰囲気はずいぶんと違うが、それでも顔立ちは酷似してる二卵性双生児だ。
オメガ特有の庇護したいと思わせる小柄で愛らしい容姿で、発情期には甘ったるいフェロモンを発してアルファの欲情を煽る。しかも双子の特性からか、互いのフェロモンに反応して更に濃くなる。
彼らのSUVを横切って一台の車が通りすぎる。それを見た安芸が口笛を吹いた。
「マイバッハのニューモデルじゃん」
ルビーブラックのメルセデス・マイバッハは、彼らの二台前の空いたスペースに停車した。
いかにもお抱えの運転手といった風情の中年のスーツの紳士が降りてきて、リアシートのドアを開ける。
この学園はアルファの生徒も多く通っているので、運転手付きは特に珍しいことではない。
しかし、車を降りる制服姿の人物を見て、安芸は僅かに顔をしかめた。
階級上位のアルファの空気をぷんぷんさせていて、しかも一人ではなかったのだ。
「…おい、あんな奴いたか?」
後部座席をルームミラー越しに見る。
安芸はボディガードという仕事柄、この学園に通うアルファの中で、それなりの影響力を持つ家の子弟をある程度把握していた。
「あっちも双子みたいだぞ」
「双子?」
二人は安芸が指さす方に目を向けた。
「知らない」
「見たことない」
二人は同時に答える。
「…あれは、ちょっとやばそうだな」
安芸はそう呟くと、五十嵐兄弟たちより先に車を降りた。
見上げるような長身、黒いスーツに黒いサングラス。威圧感半端ない安芸に、登校中の生徒たちの視線が集まる。
ざわついた空気を察したのか、マイバッハの双子の一人が振り返った。
胡散臭そうに安芸に向けた視線が、車から降りようとする五十嵐兄弟に注がれる。
一瞬目が見開かれて、もう一方に何か耳打ちする。
「なーんか、嫌な予感がするなあ」
呟きながら安芸が胸ポケットを手で探ると、そばを通る生徒がぎょっとしたように身体を引いた。
「銃なんか持ってないから」
苦笑すると、ケータイを取り出してマイバッハのナンバーを撮る。
「なに?」
千代丸が安芸に問いかけた。
「身元調査」
そうしているあいだにも、アルファの双子たちを見つけた女子生徒たちが、蜜に集まる蝶のように取り巻き始める。
「いいから気をつけて行っといで。帰りも迎えがほしかったら連絡しろよ」
笑って見送る。
「帰りは電車使うから」
「行ってきまーす」
二人は安芸に手を振ると、メルセデス・マイバッハの横を通り過ぎた。
女子に囲まれている彼らに一切関心を払うことがない五十嵐兄弟に、マイバッハの双子たちはちらりと互いの視線を交わした。
そのときクラクションが鳴って、二人は怪訝そうに振り返る。
運転席の安芸がサングラスをちょっとずらして二人を見ると、挑発するように二本の指をかざして挨拶をすると、唇でうっすらと笑って車を出した。
「なんだ?」
「あいつら、何者?」
むっとしたように呟く。
「久我くんたち、編入したばかりだから知らないのね」
すかさず、取り巻きの一人が返す。
「五十嵐兄弟。見た通り、彼らも双子だよ」
「彼ら理系専攻だから、同じ三年でもクラス離れてるもんね」
彼女たちの話からも、二人が学内ではそれなりの有名人であることがわかる。
「…あいつらがタメ?」
驚く久我に、女子たちは苦笑を漏らした。
「それどころか、うちらより一コ上らしいよ。病気か何かで一年遅れてるって」
「年上? …一年かと思った」
「…あれ、オメガだよな?」
遠慮のない久我に、女子たちは一瞬口を噤む。
「ここ、オメガでも通えるのか? 身元調査けっこう厳しいって聞いたけど」
「よくは知らないけど、彼らは後ろ盾が特殊だから」
「…後ろ盾って、さっきの怖そうなオッサン?」
女子たちはお互い顔を見合わせて、そして声のトーンを落とした。
「五十嵐兄弟の後見人は貴嶋龍惺なのよね」
久我兄弟が顔を見合わせる。
「貴嶋って。まさかキジマグループの?」
「そうそう、そのキジマ」
セレブの子弟が多いとはいえ、それでもキジマグループとなるとさすがに別格なのだ。
キジマグループの流通部門を担うキジマロジステックを率いるまだ二十代の代表取締役である貴嶋龍惺は、業界内でも高く評価されている。
「つまり…、囲われてるとかそういう?」
女子たちはその言葉に、慌てて目で制する。
久我は、それを見てにやりと笑った。
「なるほどね」
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