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ドS様なんかいりません!_カバーオビ

没落寸前ですので、婚約者を振り切ろうと思います2

夏目みや / 著
ぽぽるちゃ / イラスト
ISBNコード 978-4-86669-316-3
本体価格 本体1,200円+税
発売日 2020/07/22
ジャンル フェアリーキスピュア

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内容紹介

オカン気質の婚約者に見守られつつ、
変わり者令嬢は恋よりも仕事に夢中です!!
薬草オタクの新米薬草士と不器用な幼馴染みのハイスペ婚約者。ジレジレだった二人の仲も進展……のはずが、王宮は波乱がいっぱい!?
ハイスペ婚約者のリカルドと晴れて両思いとなった薬草オタクのアリシア。王宮で一流薬草士を目指しせっせと修行中のある日、隣国からやってきた憧れの天才薬草士のお世話係をすることに。浮かれるアリシアの一方、リカルドは不機嫌顔。「大丈夫よ。ドジ踏まないから!」と胸を叩いても「俺が婚約者、婚約者は俺……」と謎の呪文(?)を唱えている。そんな矢先、魔法剣士であるリカルドを護衛にしたいという我が儘王女様が現れ何かと絡んできて!?
「リカルドはいろいろ口うるさいし、意外に短気です」
「お前……そんな風に思っていたのか」

立ち読み

「皆、よく聞いて欲しい。我が国と友好関係にある隣国、ラハルクス国で薬草士として名高いシーリーン殿が研修にいらっしゃった。彼は有名な『薬草大全集』を始めとし、多数の本を執筆されている。ラハルクス国は薬草栽培が盛んで、その文化は発達している。これを機会に、彼より深い知識を得て欲しいと願っている」
 凜とした声が広間に響き渡り、人々の拍手喝采に包まれる。
 ランスが隣に立つシーリーン先生にそっと視線を投げかけると、彼はお辞儀をしたあとに一歩前へと出た。
「ただいま、ご紹介に与りましたラハルクス国より参りましたシーリーンと申します。このたびは、この様な歓迎の舞踏会まで開催していただき、光栄に思います。また、私の知識が両国の発展へと繫がるのでしたら、喜んで伝授したいと思います。貴国に滞在することを心待ちにしておりました。皆さん、よろしくお願いします」
 堂々とした挨拶をすると、皆が感嘆の息を吐き出し見守っている。特に年頃の女性たちは頰を染めてシーリーン先生に見惚れているが、無理もない。綺麗な顔立ちをしているので、思わず魅入ってしまうのだ。
 ラハルクス国からいらした使者が美形で、女性たちが浮き足立つなか、私は改めてランスの口から『薬草大全集』の著者がシーリーン先生と聞き、感動で胸がいっぱいになっていた。
 すごいことだわ。そんなに有名な方がいらしたなんて。
 直接会話もできたし、これからもお世話係として側にいられるなんて、夢のようだ。
 皆に合わせて熱心に拍手をしていると、隣に立つリカルドがずいっと顔を近づけてきた。
「なに?」
「いや、やけに嬉しそうだなと思って」
 リカルドの顔が若干険しい。どうしたのだろう。
「そうね、とても嬉しいわ。私、シーリーン先生のお世話係に任命されたのよ」
「……聞いてない」
「あら? 言ってなかったかしら」
 眉間に皺を寄せるリカルドに言うと、なにかを考え込んでいる様子だった。
「どうしたの?」
 具合でも悪いのかと思い心配になって見つめていると、ハッと我に返ったようだ。
「いや、なんでもない。そうだ、心配する必要などないはずだ」
 その後もなにかをブツブツとつぶやいている様子を見て、思わず笑みがこぼれた。
「変なリカルド」
 すると笑われたことに、いささかムッとしたような態度を見せた。
「お前なぁ――」
 リカルドがなにかを言いかけたその時、誰かが近づいてくるのを感じて視線を向けた。するとシーリーン先生を連れたランスが側に来て、にっこりと微笑みを向けた。
「やぁ、薬草士のアリシアに魔法剣士のリカルドじゃないか」
「ランスロード様、ご無沙汰しております」
 慌ててリカルドと共に挨拶を交わし、頭を下げた。その様子を見たランスは苦笑して続けた。
「アリシア、聞いたよ」
「なにがでしょうか?」
「シーリーン殿のお世話係に任命されたのだろう」
「はい、そうなのです。一生懸命頑張りますのでよろしくお願いします」
 再び頭を下げると、ランスの隣に立つシーリーン先生がクスッと笑った。
「こちらこそ、よろしく頼むよ、アリシア」
「はい、雑用から小間使いまで、なんでもお任せ下さい。洗濯も裁縫も多少はできます!!」
 熱のこもった挨拶をするとランスとシーリーン先生がにこやかに笑い、ランスが言った。
「アリシアはとても勉強熱心な生徒だから、教えがいがあると思う。――薬草についてだけは」
 どこか含みのある言い方をするランスだけど、苦笑いが出る。そりゃね、薬草について勉強するのは好きよ。薬草についてはね。
 でもその言い方じゃあ、薬草以外の勉強はダメダメだって暗に告げているようなものじゃない。
 セントロゼナ学園で級友として過ごしたランスは、私がお勉強はあまり得意じゃないことは嫌でも知っている。だって、テストのたびに追試を受ける羽目になり、そのたびに賢いランスに泣きついて勉強を教わっていたのだから、無理もない。
「薬草以外の勉強は苦手ですが、シーリーン先生から知識を吸収できるよう頑張ります」
 再び宣言をするとランスはフッと笑い、リカルドへと視線を投げた。
「そしてこちらが、最年少で魔法剣士の第三部隊に所属するリカルド」
 紹介されたリカルドは一歩前へと押し出た。
「初めまして、シーリーン先生。リカルド・ダラーズです」
 リカルドはスッと腰を折ると、丁寧な礼を取った。
「ああ、君の名前はラハルクス国でも有名だよ。優秀な魔法剣士がいるって聞いていたけど、こんなに若いとは思わなくて驚いたよ」
「今回、シーリーン先生のお世話係に任命されたアリシアとは婚約を交わしています」
 はっきりと宣言したリカルドに焦った。
 ちょっとリカルド、いきなりなにを言い出すの。
 シーリーン先生が驚いたように目を少し見開いた。
「ああ、それは知らなかった」
「いたらない点もあり迷惑をかけるかもしれませんが、よろしくお願いします」
 再度スッと頭を下げたリカルドを見て、ランスが苦笑した。
「大事な婚約者が心配でたまらない様子だね、リカルド」
 リカルドは真面目な顔付きのまま、ゆっくりとうなずいたその時、
「リカルド!!」
 広間の中、リカルドを呼ぶ声が響いた。視線を向けた先にいたのは一人の女性だった。
 女性にしてはスラッとした長身で、腰まで長い銀の髪は艶がある。小さな顔にエメラルドグリーンの大きな瞳を輝かせた女性は、なりふり構わずにリカルドに向けて一直線に向かってきた。
「お会いしたかった」
 その女性はリカルドの側に来ると、いきなり抱きついた。
 えっ、と思い呆気に取られている私を前に、リカルドの腕に絡みついてしなだれかかった。
 大胆な行動に驚いて、一歩後ずさる。
 その時、リカルドは大きく咳払いをすると、そっと身を引いた。
 一連の動作に驚いていると、ランスがたしなめるように口を開く。
「リズベット。挨拶もなしに、いきなりはリカルドも驚いているだろう」
「仕方ないじゃない。久しぶりにお会いできたのですもの」
 あっけらかんと言う女性は、堂々として強気だ。だがランスも負けてはいない。
「それにシーリーン殿にも失礼だ」
「あら、挨拶ならすでに交わしたわ。ねぇ、シーリーン先生」
 彼女が小首を傾げてシーリーン先生に視線を投げると、相手はゆっくりとうなずいた。
「ええ。先ほど、ランスロード様をお待ちしている間、ご挨拶はすみました。ランスロード様の従妹にあたられる王女、リズベット様ですよね」
 ランスの従妹?
 それを聞いて妙に納得した。
 だって堂々たる雰囲気を醸し出し、整っていて人目をひく美貌はどことなくランスに似ている。艶やかな唇に意志の強さを思わせる瞳は美しいのだけど、勝ち気な印象を受けた。彼女の視界に私は入っていないのか、挨拶をする機会のないまま、その場でたたずんでいると、ふと視線が向けられた。
「あら、あなたはどなた?」
 エメラルドグリーンの大きな瞳には好奇心が彩られている。彼女は可愛らしく首を傾げた。
「アリシア・ホルトンです。薬草士として王宮に仕えています。このたび、シーリーン先生のお世話係に任命されました」
 ドレスの裾を持ち、軽く頭を下げた。
「そう。私はリズベットよ」
 簡単な自己紹介を交わすと、彼女はすぐにランスに向き合った。
「ねぇ、リカルドを私の護衛にしてくれないかしら?」
 いきなりの申し出に驚いて目を見開いた。ランスは大袈裟とも感じられるため息を吐き出した。
「なに、無茶なことを言っているんだ。リズには優秀な護衛がついているだろう」
「いいえ、そんなことはないわ。やっぱり剣の腕の立つリカルドが護衛になってくれたら安心できるもの」
「リカルドだって第三部隊で頑張っているんだ。自分の役割もあるし、日々精進している。リズが独占するわけにはいかない」
 はっきりと言い切ったランスに内心ホッとして胸を撫で下ろし、隣に立つリカルドをチラッと見ると、心なしか彼も安心しているようだ。
「そんなことないわよ。部隊で階級を上げるよりも私の護衛役についた方が昇進じゃない。ねぇ、あなたもそう思うでしょう?」
「え、私ですか?」
 リズベットからいきなり話を振られ、思わず声が裏返った。
「そうよ。地道に努力するよりも、私の護衛役だなんて、大抜擢じゃない」
「そうなのかもしれませんが……」
 自信満々に宣言するけど、リカルドが第三部隊で昇格しようと努力を続けているのを知っている私は、その形を彼が望んでいるとは思えない。それに自分専属の護衛役にしたいだなんて、絶対私情入っているだろ、コレ。 
 婚約者の立場にいる私としても、あまり気分がいいものではない。だが面と向かって反対とは言いにくい。
「そうしたら私、護衛役はリカルド一人でいいわ。ずっと二人でいられるし」
 私情、入りまくりじゃないか。
 もしかしてじゃなくとも、彼女もリカルドの信者なこと確定だろう。本当、セントロゼナ学園時代からもてていたリカルド。王宮でも、自分より身分の高い人からも好かれているのだとしみじみ思った。
「彼ならどんな危険からも守ってくれそうだし。対応だって大人だわ」
 嬉々として語る彼女を前にして、ポロッと口が滑った。
「そう、大人でもないですよ」
 日頃のリカルドを知っている私は、つい言ってしまった。
「それはどういうこと?」
 リズベットは興味津々な様子を見せ、食いついた。
「えっと、いろいろ口うるさいこともありますよ。例えば、早く寝ろとか食事はゆっくり味わって食べろとか……。あまりにもうるさくて、『リカルドはお母様みたいだわ』と思うことも多々ありますし。それになにより意外に短気ですね。時折意味のわからないことで怒られますし、不機嫌になります。まあ、面倒くさいので、そんな時は放っておくに限るんですけどね。そうするとしばらくすると機嫌も直りますし」
「お前……そんな風に思っていたのか」
 それまで黙って事の成り行きを見守っていたリカルドが低い声を出した。
 あっ、やばい。目の前に本人もいたのだった。
 思わず視線を逸らして明後日の方向を向いた。だがリカルドは詰め寄ってきた。
「俺はお前を心配して言っているんだろう」
「心配性なのよ。私だって子供じゃないんだから、少しは大目に見ても大丈夫なのよ」
 口を尖らせて反論すると、リカルドもムッとしたのか言い返してくる。
「そう言いながら、学園での校外学習では薬草採取に夢中になるあまり、迷子になったりしたのは誰だ。王宮に来てからの薬草採取でも、迷子になりかけたと聞いたぞ」
「ちょっ、それ、誰から聞いたのよ」
 王宮でも薬草採取に行くのだが、珍しい薬草を探しているうちに、集合時間に遅れたことがある。リカルドにはばれていないと思っていたが、しっかり彼の耳に入っていたとは驚きだ。それと同時に誰だ、リカルドに教えたのは。私が怒られるだろう。
 気まずくなったので慌ててごまかした。
「その時はたまたまよ、たまたま」
「お前のたまたまは三回に一回ぐらいの割合だろう。集中しすぎると周りが見えなくなるのだから注意しろとあれだけ言っても直らない」
 まさかここでもリカルドからお説教をくらう羽目になるとは思いもしなかった。 
 助けを求めて周囲に視線を向けるとランスは苦笑しているし、助ける気はないと見た。隣に立つシーリーン先生さえ微笑を浮かべるのみだ。
 その時、射貫くように鋭い視線を向けている人物に気づいて、ハッと我に返る。
 リズベットだ。
 彼女は目をスッと細めると、先ほどまでとは違う、冷たさを感じる低い声を出した。
「アリシア・ホルトン――と言ったわね」
「あ、はい」
「あなたリカルドのなんなの?」
「私は――」
 そこで一瞬言葉に詰まった。リカルドに好意を持っているリズベット。彼と婚約している私に対して、いい印象を持つとは思えない。ここは正直に答えるべきなのだけど、鋭い視線を向けられて、思わずたじろいでしまった。
「俺の婚約者です」
 その時、はっきりと口にしたのは意外にもリカルドだった。
 同時に私の肩を抱き、ぎゅっと側に抱き寄せたので、よろめいて彼の胸に手を寄せた。
 リカルドの宣言を聞いたリズベットは驚愕に目を見開き、唇をわなわなと震わせたあと、私の全身を見つめた。
「あなたがリカルドの――」
 なにかを言いかけてから、足の先から頭のてっぺんまでジロジロと見つめた。無遠慮に品定めされるまま、固まって動けない。
 するとリズベットはクッと口の端を少し上げ、勝ち誇ったような笑みを見せた。
「あなたがリカルドの婚約者なの。なあんだ、私、あきらめる必要なかったじゃない」
 自信満々に胸を張って宣戦布告してきた彼女は、品定めの結果、自分の方が勝っていると判断したのだろう。
「リズ、失礼だろう」
 ランスがたしなめるも、彼女は気にした風ではない。
「幼い頃に婚約した女性がいるとは聞いていたけど、これなら私にもチャンスはあるじゃない」
 大きな胸を前に突き出し、堂々とした様子に最初は呆気に取られたけど、次第に笑いが込み上げてきた。だって、学園時代に陰湿なイジメは多々あったけど、こんなに面と向かって言われることは稀だったから。
 それを考えると、思わずクスッと笑ってしまった。
「なによ、その自信ありげな態度は!!」
 どうやら気に障ったようで、怒りだしてきた。だが、目を吊り上げて怒る様子も美人だと様になると思いながら、思わずジッと見てしまう。
「そうやって余裕でいられるのも今のうちだから。リカルドの目が覚めるのもすぐだから」
 目の前に人差し指を、ビシッと突きつけられた。
 その時、リカルドがスッと私の前に立ちはだかった。まるで、背後にいる私を守る盾のような動作に思わずドキッとした。
「リズベット様、ご容赦願います」
 やんわりとたしなめる口調だったけど、声からは厳しさが感じられた。
「まあ、リカルド。いつも言っているけど、リズと呼んで下さらないかしら?」
 リカルドの放つ空気を、ちっとも気にしちゃいない彼女の神経の強さを確信した。
 こ、この場で言えちゃうところがすごい。彼女は私の存在など取るに足らないと思っているに違いない。
 ここは真正面から反論するよりも、一言だけ言わせてもらおう。そう意を決して口を開いた。
「あの――」
「失礼ですが……」
 だがそれを遮ったのはリカルドだった。
「魔法剣士として第三部隊に所属していることを誇りに思っていますし、自分の力で昇格していくことに喜びや生きがいを感じています。ですので、護衛の件はもっとあなたにふさわしい方に任せた方がいいと思います。――失礼します」
 早口だが、きっぱりと告げるとリカルドは彼女に腰を折ったあと、背を向けた。 「行くぞ」  そして私と向き合うと、サッと手を摑む。そのままグイグイと引っ張られ、その場を離れた。慌てて振り返るとランスとシーリーン先生は苦笑いをしているし、リズベットに関しては言わずもがな怒っている。両腕を組んで仁王立ちスタイルで、ずっとにらんでいる。視線の先はもちろん私だ。思わず一瞬たじろいだが、軽く頭を下げ、リカルドに引きずられるように連行された。


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