書籍詳細 一覧へ戻る

猫かぶり姫_カバー1

猫かぶり姫と天上の音楽

もり / 著
由貴海里 / イラスト
ISBNコード 978-4-908757-37-2
本体価格 本体1,200円+税
発売日 2016/10/27
フェアリーキスピュア

お取り扱い店

  • Amazon
  • honto
  • セブンアンドワイ
  • 楽天

電子配信書店

  • ブックパス
  • パピレス
  • Renta
  • DMM
  • ebookjapan
  • Amazon kindle
  • 楽天kobo

内容紹介

神様の使命を受けて異世界に来たら、冷酷無慈悲な美形皇帝にまさか溺愛されている!?
死ぬ予定だった花を待ち受けていたのは、冷酷無慈悲な美形皇帝、ドS腹黒宰相、イケメン近衛騎士…etc.逆ハー状態で、皇帝の側室だなんて、荷が重いです!? 《神様の使徒として世界を救ってほしい。音楽による癒しの才能で》と、神様に頼まれてしまった花。その世界《ユシュタール》は膨大な魔力を持つ美しき皇帝ルークによって辛うじて支えられていた。そんな所に魔力ゼロでやってきて焦る花だったが、冷酷無慈悲で恐れられているルークになぜか気に入られてしまったようで!? え? 側室待遇? 妃を娶れとうるさい貴族たちの隠れ蓑!? 世界の危機が迫るなかルークに溺愛され、腹黒宰相のイジられる、花の運命は……。

立ち読み

その夜、花は誰に見せるでもなく、反省文を書いていた。
 今までどんなに腹が立っても我慢して、ルークの邪魔をしないように『皇帝陛下のご側室』を演じていたのに、ついかっとなってしまった。
 ルークは気にしないだろうとわかってはいる。
 しかし、今まで以上に貴族たちから花への批判が高まってしまったら、それだけでも煩わせてしまうと、申し訳ない気持ちでいっぱいだったのだ。
 そこに、ルークが現れた気配がして振り向くと、いきなり抱き上げられた。
「ルーク!?」
 驚く花にかまわず、ルークはそのまま長椅子へと腰を下ろした。
 いったいどうしたのかと花はうろたえたが、何も言わずにただ抱きしめてくるルークに、花も静かに抱き返した。
「すまない、ハナ。もう大丈夫だ」
 しばらくして、ルークが囁いた。
 その顔を見れば、穏やかな笑みが浮かんでいて、言葉通りに「大丈夫」だと思える。
 それでも花は、いつも以上に心を込めて歌った。
 どうやら歌の内容に関係なくルークを癒せるらしいとわかってからは、最初の歌だけでなく、色々な歌を歌っているのだが、今日はゆっくりとした歌にした。
 少しでもルークにリラックスしてほしい。
 そんな気持ちからの選曲だったのだが、歌い終わるとルークがぼそりと呟いた。
「お前は本当に不思議な奴だな」 
「何がですか?」 
 突然の言葉に、花は首を傾げた。
「魔力の器はないのに、生成することはできるなど、器用というか、奇妙というか……」
「奇妙って何ですか!? 奇妙って!」
 考え込んで言ったルークの言葉に、思わず花は勢いよく返していた。
 花なりの気遣いも、奇妙と言われて台無しである。
 だが、ルークの言葉も仕方がないものであった。
 
 魔力には三つの要素、《器(うつわ)》《生成力》《制御力》が必要となる。
 《器》とは、魔力を溜め込むためのものであり、《器》が大きければ大きいほど、溜め込む魔力も大きくなるので、それだけ魔力も強くなる。
 そして、《生成力》とは、その名の通り、魔力を生成する力だ。たとえ《器》が大きくても、魔力を生成する力がなければ《器》は満たされないので、魔力も大きくはならない。
 最後に《制御力》だが、先に述べた《器》や《生成力》がいくら大きくても、この《制御力》がなければ、魔力は使いこなせないので宝の持ち腐れとなる。
 この三つが上手くバランスが取れて初めて、その人物の魔力の強さとなるのだ。
 ただし、例外がある。
 ある程度強い魔力の持ち主は、魔力のやり取りができるので、《器》が大きければ、《生成力》が多少なくても他から補うことができる。
 そのため、皇宮に住まうものは、皇宮に満ちた魔力を己の《器》に自然と補っているのだ。 
 花は歌うことによって、魔力を生成することができるようだ。しかし、溜め込む《器》がまったくないため、そのすべてを《器》の持ち主――ルークに与えるのだった。
 また花の生成する魔力はとても心地よいので、それを取り込んだルークは心も体も癒されていくように感じた。
 
「もったいないな、それだけ魔力を生成できるのに」
 本当に惜しい、というようにルークは呟いた。
 それから、ふと何かを思い出したように笑う。 
「そういえば、今日ドイルたちにずいぶん面白いことを言ったそうだな」
「ええ? 何で知ってるんですか?」
「忠義に厚い(、)侍従たちが、嬉々として広めていたようだぞ」
 驚く花に、ルークは貴族たち三人のもとの主従関係を嫌みっぽく揶揄して答えた。
 通常、侍従は主人の会話の内容を漏らしたりはしない。主人の秘密は徹底して守る。
 それが為されないのは、侍従が主人に忠誠心を抱(いだ)いていないからだ。
 それに、花がドイルたちをやり込めたことがよほど面白かったのだろう。 
「ええ……」 
 こんなに早くルークの耳に入ってしまうなんてと、花は不満そうに頬を膨らませた。 
「しかし、人柱とはいい考えだな」
 にやりと笑うルークに、花はさらに頬を膨らませた。
 楽しそうなルークを見ていると、あの反省はいったい何だったのかと思ったが、そこで考えついたことに花はくすりと笑った。 
「いっそのこと、私が《果て》に行って歌い続ければ、この――」
「ダメだ!」
 何気ない花の言葉は、突然激しい感情をあらわにしたルークに遮られてしまった。
花を抱きしめるルークの力は息もできないほどに強い。 
「絶対にダメだ……」
 繰り返す声には、怒りと悲しみ、苦しみが滲んでいる。 
「ルーク……」 
 自分の言葉がルークを傷付けてしまったことを感じて、花はひどく後悔した。 
「ごめんなさい」
 花の声は震えてかすれていたが、それでもルークの背を撫でる手は優しかった。
 温かな手の感触に慰められて、ルークは冷静さを取り戻すと、慌てて腕の力を弛めた。
 途端に花のほっとする気配が伝わる。 
 ルークにとって、もはや花のいない世界など考えられなかった。それほどに花はルークを癒し、支えてくれているのだ。
「ハナ……俺は、お前が好きだ」
 ルークは溢れ出す感情のままに、花への想いを口にした。するとルークを温めていた優しい手の動きがぴたりと止まる。
(――これは卑怯だ)
 柔らかな体からは驚きと動揺が伝わり、ルークは腕を下ろすと、花に触れないように向き直った。
 そしてもう一度告げる。 
「俺はハナが好きだ」
 花は耳まで真っ赤になって俯いた。
(ルークが……私を好き?) 
 花は聞き間違えたのかと一瞬耳を疑ったが、改めて告げられた真っ直ぐなルークの言葉に信じざるを得なかった。
 だけど何を返せばいいのかわからない。
 ルークの気持ちはすごく嬉しい。「すごく」という表現では表せないほどに。それでも、どうすればいいのかわからない。
 伏せた顔を上げることもできず黙り込んだ花を見て、ルークは小さく息を吐き出した。 
「ハナ、混乱させてすまない。これからも最初に言った通り『表向きだけの側室』でかまわない。ただ……」
 ルークはそこで言いよどんだ。上手い言葉が見つからず、ありのまま、心からの願いを口にする。 
「傍にいてくれ、ハナ。傍にいてくれるなら、それだけでいい」
 その切望の滲んだ声に、花は頷くことしかできなかった。何度も何度も黙って頷く。
 ルークは大きく安堵の吐息を漏らすと、立ち上がった。 
「もう遅い、寝るぞ」
 その言葉に花も続いて立ち上がり、寝台に入った。
 しかしその日の花は、いつものようにすぐに眠ることはできなかったのだった。




この続きは「猫かぶり姫と天上の音楽」でお楽しみください♪