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猫かぶり姫と天上の音楽2

もり / 著
由貴海里 / イラスト
ISBNコード 978-4-908757-97-6
定価 1,320円(税込)
発売日 2017/05/27
ジャンル フェアリーキスピュア

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内容紹介

冷酷無比の皇帝が愛したのは、魔力ゼロの少女!
《たとえ意地悪でも、傲慢でも、変態でも、私はあなたが好きなんです!》 世界を救う使命を受けて異世界に飛ばされた花は、冷酷無比と恐れられる美貌の皇帝ルークと想いが通じ、溺愛される毎日。魔力ゼロながら音楽による癒しの力で彼を支えようと奮闘する花だが、ルークと敵対するセルショナード王国に誘拐されてしまう。花を我が物にしようとする王太子マック、戦争を止めさせたいと花を匿う不遇の王子リコ。様々な思惑と闇が渦巻く王宮で、花は双方から正妃に! と求められてしまう!? 花を取り戻そうとするルークの想いは――「俺にはハナが必要なんだ。誰にも渡さない」求め合う二人の絆が大きな奇跡を呼ぶ!
神様の使命を受けて、魔力ゼロの少女が世界を救う!? 小説サイト「小説家になろう」2100万PV超作品、待望の第2巻登場!
「もう悩んでいるのがバカらしくなったな。遠慮はしないから、覚悟しとけよ」

立ち読み

 ふと、花が身じろぎする。
 途端にルークは心配になって花を見つめ、呼吸が安定していることを確認して、安堵の吐息を漏らした。
 そして書類を脇に置くと、しばらく花を見つめたまま考え込んだ。
 先ほど、ルークは花の闇を覗いてしまった。
 花が眠る時に暗闇を怖がり、火を焚いたまま眠るのを嫌がるのは、あの忌まわしい出来事が原因なのだろう。
 花がいつも浮かべている笑顔の下に、様々な感情を隠していることにもルークは気付いていたが、まさかあのように幼い頃にあれほどひどい経験をしているとは思いもよらなかった。
 それでも、ルークに見せる花本来の姿は明るく前向きで、優しさに溢れている。
 ルークは闇に囚われてしまった花を救い出すつもりだった。
 しかし、本当に救われたのはルークのほうではないのか。
 悲しみと苦しみに呑み込まれてしまった花には、必死で呼びかけるルークの声も届かないようだった。
 ――このまま花を失うのは耐えられない!
 花を失う恐怖に襲われたルークもまた闇に呑み込まれそうになったのだ。
 そんなルークの悲しみと苦しみに花は反応した。
 そして、花自身があれほどの悲しみと苦しみに囚われながらも、ルークのために己の闇から抜け出したのだ。
 花はいつも恐れることなくルークの手を握る。
 そこから伝わる感情は慈しみに溢れ、ルークを苦しみから救う。
 花自身は気付いていないようだったが、ルークの手を取った花はあれほどの闇の中に在っても、光に包まれ輝いていた。
 ルークは花とともに闇の中に囚われてしまう最悪の事態も覚悟していたのだが、花が闇の中で指し示した道はすぐに出口へと繫がり、心地好い光に包まれると同時に現実へと戻れたのだ。
 あの心地好さは、花の生み出す魔力のようでもあった。
 花は本当に不思議な存在だが、そんなことはどうでも良かった。
 ただ、愛おしくてたまらない。
 ルークは花を見つめながら、頰にかかった髪を優しく耳へとかけてやったのだが、起こしてしまったらしい。
 花はぱちりと目を開けた。
「すまない、起こしてしまったな」
 申し訳なさそうに微笑むルークに、花は微笑み返した。
 そして自身を覆っている上掛けを持ち上げて囁く。
「ルーク、こっちに来て」
「ハナ?」
 ルークは驚いて見つめるだけだったが、花は懇願するように繰り返す。
「ここに来て?」
 その顔はとても寂しそうで、ルークは戸惑いながらも言われるまま、花の隣に横たわった。
 すると花はとても嬉しそうに微笑む。
「ギュッとして?」
 続いた花の言葉に、ルークはクラクラしながらも花を抱きしめた。
「サンタクロースが……」
「ん?」
 囁いた花の言葉は途切れてしまう。
 ルークはサンタクロースが何なのかはわからなかったが、あの闇の中での幼い花の言葉を思い出し、心配になった。
 しかし、花は嬉しそうに話す。
「あわてんぼうのサンタクロースは私の所に来るのを忘れてたみたい。だから、二十年分のプレゼントをくれたのかな」
 そう言うと、花はルークに強く抱きついた。
 そんな花がルークはただただ愛おしくて、優しくその額にキスをすると、花はまた嬉しそうに笑う。
 そして、ルークをじっと見つめた。
「ルーク、キスしていい?」
「――かまわないが……」
 信じられない言葉に驚きながらも、どうにか返事をしたルークに、花はさらに問いかけた。
「どこにしたらいい?」
「……どこでも」
 余裕を失くしたルークの答えに、花はしばらく「んー……」と考えていたが、いきなりルークの上品で豪奢な衣服の釦を襟元から順に外し始めた。
「ハナ!?」
 狼狽するルークにかまうことなく、花は胸の中ほどまで釦を外すと、襟元を広げた。
 いったい何が起こるのかと困惑していたルークだったが――。
「――っ!?」
 突然の軽い痛みは、花がルークの肩に嚙みついたためだ。
「歯型つけちゃった」
「ハナ……」
 驚きのあまり呆然とするルークを気にするでもなく、花は嬉しそうに呟くと、今度は優しく自分がつけた歯型にキスをして再び眠りに落ちた。
 どうやらブラック花ちゃんは、歯型が愛の証と信じているようだった。


 その後、お昼を過ぎてようやく目覚めた花は、枕元に座って書類を読んでいるルークを目にして眉をひそめた。
 状況が理解できない。――が、思い出してしまった。先ほどの自分の怪しげな行動を。
「はううおおお!」
「ハナ、吠えるな」
「吠えてません! 悶えてるんです!」
「……そうか」
 頭を抱えて寝台の上に蹲る花に、ルークは呆れながらも安堵した。
 一方の花は、ひたすら羞恥に悶えていた。
(嚙みついちゃったよ! ってか、それよりも服脱がしちゃったし! ……そもそも、なんでルークは止めないの!? ルークのバカ!)
 花の思考は徐々にルークへの八つ当たりに変わる。
「もう! ルークのスケベ! 変態!」
「……なぜ俺がそのような非難を受けなければならない」
 ルークは少し諦めた様子で呟きながら、花は大丈夫そうだと判断して、居間に控えているセレナを呼んだ。
 それから花とルークは、居間で香りの良いお茶を飲んでいた。
 そこへ、ディアンが現れる。
「ハナ様、もうよろしいのですか?」
「はい。ご心配をおかけして申し訳ありませんでした」
 本当に心配しているらしい問いかけに花が微笑んで答えると、ディアンは安堵の笑みを浮かべた。
(うお! 猛獣宰相の本物の笑顔を見ちゃった……)
 その笑顔は花以上に、控えているセレナとエレーンに衝撃を与えていた。
「それでは、陛下、おくつろぎのところを申し訳ないのですが、少しよろしいでしょうか?」
「ああ」
 二人は花から少し離れ、何事かを話し始めたので、花は黙ってお茶をゆっくりと飲んだ。
 そして、キリの良さそうなところでルークへ声をかける。
「陛下、私はもう大丈夫です」
 安心させるように微笑む花を、ルークはじっと見つめると、軽く息を吐き出した。
「……では、私は執務に戻るが、もし何かあるようならすぐに知らせてくれ」
 ルークは花に言い聞かせるように言うと、セレナたちに視線を向けた。
 その視線を受けた二人は大きく頷く。
 去り際のルークから軽いキスを受けた花は、ルークの顔色が悪いことに気付いた。
「陛下は……大丈夫ですか?」
「ああ」
 花の言葉に優しく微笑むと、ルークはディアンと出ていった。
 二人を見送った花は、ルークの体調が気にかかり、皆の前でキスされたことについて気にも留めなかったが、後で赤面するはめになった。
 しかしすぐに何でもないとばかりに平静を装うと、少し遅めの昼食をとり、セレナたちと楽しく話をしてゆっくり過ごした。
 気がつけば、外は茜色の光に包まれている。
 花は寝室の窓辺に腰かけ、暮れゆく太陽によって黄金色に輝く首都サイノスの街を見下ろした。
 しかしその心に映るのは幼いあの日の思い出。
 再び過去のつらい思い出に囚われそうになった花は、楽しかったこともあったのだと思い直した。
 サムが庭の物置小屋にあったギターを見つけ出し、弾いてくれたことは今でも思い出せる。
 弦が緩んで調律のできないそのギターは、調子の外れた音を奏でて花を笑わせてくれた。
 しばらくして、サムが新しい弦を張り直して弾いてくれた曲。
 それに合わせて歌うサムの声はとても深く優しかった。
(――サム……)
 サムを想い、花はシューラを取り出した。
 まだ人を癒せるほどの音色を出すことはできないが、それでも花はシューラの音色にのせて歌った。――サムが奏でてくれたあの曲を。
 それは優しい愛の歌。
 その歌声は皇宮へ、サイノスへと響き渡る。
 まるで風が花の歌声を少しでも遠くへ届けようとしているかのように、風に乗って流れてゆく。
 
 まだ本調子でないルークは、それでも溜まった執務をこなしていた。
 それはレナードも同様で、いささか顔色が悪いままルークの後ろに控えている。
「レナード、その鬱陶しい顔で後ろに立つな、気が滅入る」
「陛下、こんなに愛嬌のある顔に何を言うのですか」
「ディアンと同じ顔をして、愛嬌とか抜かすな!」
 二人の無駄な口論は続く。
 だがその時、ルークが動かしていた手を止め、驚きに顔を上げた。
「ハナ?」
 レナードも花の歌声に気付き、窓を開けた。
 途端に、花の優しい歌声が季節外れの温かい風と共に舞い込んでくる。
 ルークとレナードは驚きながらも、心と体を癒してくれる優しい歌声に耳を澄ました。
 
 やがて歌い終わった花は、そのまま窓からぼんやりと街を眺めていた。
「――ハナ」
「にょっ!?」
 ルークの声に驚き、慌ててシューラを置いて立ち上がった花は、そのままルークに抱きしめられてしまった。
「ハナ、あまり……」
「ルーク?」
 続くことのない言葉を不思議に思って見上げた花は、ルークの顔色が良くなっていることに気付き、嬉しそうに微笑んだ。
 ルークは眩しそうに目を細めてその微笑みを見つめ、優しく花の頰を撫でた。
 それから、結い上げて留めてあった髪留めを外す。
「にゃにを!?」
 柔らかな髪はサラリと、花の背に流れ落ちる。
 その艶やかな髪を優しく梳きながらルークは軽く花にキスをした。
 そして花の髪を一束すくい取ると口づけ、再びルークは唇を重ねた。
 今度は深く激しく、奪うようなキスを繰り返す。
「ん……」
 花の漏らす声に、ルークの体中の細胞が反応する。
(ハナが欲しい、俺のものにしたい、俺だけのものに)
 ルークの心と体は花を激しく求め、凶暴なほどの独占欲に支配されていた。
 花の歌声を誰にも聞かせたくない。花を閉じ込めて誰にも見せたくない。
 そんな荒れ狂う感情をどうにか抑えつけているのは、罪悪感だった。
 花を愛せば愛するほどに、選択の余地を与えず花を側室という立場においた己の傲慢さに、ルークは苛まれていたのだ。
 苦しいほどに花を求めていながらも無理に唇を離すと、花はもたれかかるようにルークに抱きついた。
「ルーク大好き」
 花の甘い囁きにルークは様々な感情を抑え、強く花を抱きしめ瞳を閉じた。


◇◇◇◇◇


 リコと向かい合うように座ると、トールドがお茶を淹れてくれ、男性陣の行き届いた気遣いに感謝してお茶を飲みながら、花はザックの報告に耳を傾けた。
「やはりハナ様の気配が消えた花街を中心に捜索は行われています。かなり必死な様子で全ての建物、部屋をくまなく捜しているようです。私もいきなり部屋に押し入られて、困りましたよ!」
(……一人で部屋にいたんだよね……。きっとそうだよね……うん、そうだ)
 大口を開けて笑うザックの言葉に、花はなぜか自分を納得させていると、リコが声をかけてきた。
「ハナ、悪いが二、三日はこの部屋に隠れていてもらわなければならない」
「わかりました」
 その言葉に素直に頷く花に、リコはさらに続けた。
「それからハナに頼みがある」
「何でしょうか?」
 ここまで世話になっておきながら頼みを断るなんてできない。
 そんな気持ちでいた花は、その内容に仰天した。
「この後、私の正妃になってほしい」
「……はい?」
 本日二度目の夫候補の登場――リコの求婚に、花は呆気に取られて間抜けな顔をしてしまった。
 だがすぐに我に返ると、俯いて考え込んだ。
 その様子を見ていたリコは心配そうに告げた。
「ハナ、今日は疲れただろうから、詳しい話は明日にしよう」
 気遣いに溢れた言葉ではあったが、花は急ぎ顔を上げると、リコの目を真っ直ぐに見つめた。
「いえ、大丈夫です。ですから教えてください。この国で、いったい私は何の駒になっているのですか?」
 花の発言に、リコや他の二人も驚いていたが、かまわず花はリコから視線を逸らさなかった。
『癒しの力』を持ち、マグノリア皇帝の寵妃である今の自分に、どれほどの利用価値があるのか、花は正確に理解しているつもりだった。
 しかし、セルショナードの王太子がなぜ花をわざわざ正妃にまでしようとするのか、そしてそれに対抗するかのようになぜ第一王子のリコまでもが、ここまでの手間をかけて花を正妃にと望むのかがわからないのだ。
 リコは答えに詰まってしまった。
 王太子のように無理強いをする気がないリコは、花の了承を得たかった。
 噂に聞く『微笑むしか能のない、御しやすい娘』であるのなら簡単だっただろう。
 それが今、目の前で真っ直ぐにリコを見つめる花の顔は、真実を話さなければ納得しないと告げている。
 リコは思わず目を逸らしてしまったが、代わりに今まで黙っていたザックが口を開いた。
「ハナ様、殿下はあなたをお守りするために、おっしゃっているのですよ」
 その言葉に、花より先にリコが反応した。
「ザック! 余計なことは言うな!」
「しかし、殿下……」
 きつい口調のリコに、ザックは尻尾を垂れた大型犬のようにシュンとしてしまった。
「どういうことですか?」
 落ち込むザックを横目に見ながらも花は説明を求めたが、リコは顔をしかめたまま何も言わない。
 しばらく続いた沈黙に痺れを切らしたのか、今度はトールドが口を開いた。
「あの王太子をはじめとする諸々からお守りするには、ハナ様に確固とした地位が必要なのです。そして、それには第一王子であるリコ様のご正妃となっていただくしかありません」
 トールドの説明に一応は納得できた。今の花にとって、リコの申し出はとてもありがたいものなのだ。
 しかし、理性ではわかっていても、心が拒絶する。
 ルーク以外の誰かの妃になるなど、ルーク以外の誰かに触れられるのかと思うと我慢できそうにない。
 それでも、ルークの許に必ず帰るためには、この提案を受けるべきなのだろう。
 花は震える体を押さえるように、一度大きく深呼吸をすると、気持ちを切り替えた。
「なぜそこまでして、私を助けてくださるのですか?」
 トールドが口を開いてから諦めたように俯いてしまったリコに向かって、花は疑問を投げかけた。
 だがそれに答えたのもトールドだった。
「リコ様も私たちも、これ以上の戦は避けたいのです。ハナ様は今、ユシュタルの御使いだとマグノリアの民たちに崇敬されていると聞き及んでおります。そのハナ様を略奪してしまった以上、マグノリアの民は黙っていないでしょう。この先、ハナ様奪還のためにマグノリア軍がセルショナードへ侵攻を開始するのも時間の問題かと思われます。その時に我々はできる限り穏便に、ハナ様に皇帝の許へとお戻りいただきたいのです。賢帝と名高い今のマグノリア皇帝ならばきっと、リコ様の取った行動を理解し、お気持ちを汲んでくださるはずです」
 トールドの言葉に耳を傾けていた花だったが、そこへ突然リコの声が割り込んだ。
「違う。そうじゃない」
 リコの否定の言葉にトールドもザックも驚いたが、リコは膝に肘を置いた状態で伏せた頭を抱えて呟く。
「――やめた」
 花は何が何だかわからず、ただ黙ってリコを見つめていた。
 リコは自身の燃えるように赤い、少し波打った髪を急にグシャグシャと搔きむしったかと思うと、力強く膝を打って声を上げた。
「二人とも、俺のことを買いかぶりすぎている。俺はそんなにできたやつじゃない、ただ臆病者の弱虫なだけだ」
「そんなことは――」
 否定しかけたトールドを手で制して苦笑するリコは、今までの王子様然とした優しげな態度から、少し乱暴とも言えるような態度になっていた。
 一人称も変わってしまっている。それでも花にはこちらのほうが自然に思えた。
「では正直に話そう。だがその前に一つだけ訊きたい。いったいハナは何者なんだ?」
 その質問に、今度は花が答えを詰まらせた。
 ユシュタルの御使いとまで呼ばれている今、なんと答えればいいのだろう。
『神様』のことはルークにさえ打ち明けていないので言うつもりはなく、悩んだ末に、結局は貴族たち相手の説明に少し加えて答えた。
「たまたま……マグノリア皇宮で陛下のお目にとまり、お側に召していただいただけの幸運な娘にすぎません。マグノリアの人たちが奇跡とおっしゃる『力』も、私自身、最近知ったものなのです」
 あとは微笑んで誤魔化す花に、リコは一瞬眉を寄せたが、諦めたようにため息を吐いた。
「まあ、いいだろう」
 そう呟くと、真っ直ぐに花を見つめて話し始めた。
「今のセルショナードにとって、ユシュタルの御使いとまで言われているハナの『癒しの力』は必要ない。いくら魔力が満ちていても、戦意を消失してしまった兵など必要ないからな……。ハナは、邪魔な存在でしかないんだ」
 小さく頷く花を見て、リコは少し困ったような表情で続けた。
「父上たちはハナを殺すつもりなんだと思った。それが一番手っ取り早いからな」
「それでは私がこの国に連れてこられたのは、マグノリアに圧力をかけるためですか? でもそれなら王太子殿下の正妃にする必要はありませんよね? 私をこの国に置くことでマグノリアに屈辱を?」
「それもあるだろうが……一番は皇帝に揺さぶりをかけるためだろう。皇帝がハナを大切に思っていることは俺でもわかるくらいだ。だからこその正妃だ。己の大切にしていた娘が他の男のものになったと知らされるのはどれほどの苦しみだろうか? いくら皇帝とはいえ、他国の王子の正妃に手を出すことはできないものだ。たとえそれが略奪された側室だとしても。あの王太子たちが事を急いだのもそのためだ。さっさと既成事実を作ってしまいたかったんだろう」
「そうですか……」
 諦めているような、抑揚のない花の返事にリコは顔をしかめた。
「ハナ、聡いのは良いことだが、物分かりが良すぎるのは問題がある。先ほどから、ハナはずっと我慢しているだろ? もっと抵抗して自分に我が儘を言うべきだ」
 その言葉に花は驚いた。
 花が今まで微笑みの下に隠していたものを見抜かれてしまったようで動揺してしまう。
 そして限界にまで張りつめていたものが切れてしまい、思わず本音を漏らした。
「だったら……だったら、今すぐに帰してください!」
「……それはできない」
「なぜですか!?」

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