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お妃様_カバーオビ1

お妃様は寄生中!

クレイン / 著
SHABON / イラスト
ISBNコード 978-4-86669-015-5
本体価格 本体1,200円+税
発売日 2017/07/27
フェアリーキスピンク

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内容紹介

ヒキニートの私にとって、三食昼寝付きの後宮はまるで天国!
……なのに、私が王の寵姫ですって! ?
ヒキニートだった繭は、異世界トリップした先で99番目の妃として後宮(ハレム)に放り込まれてしまう。100日に一度めぐってくる伽(ノルマ)さえクリアすれば、綺麗な衣装を着ておいしい食事にありつける生活って、もしかして天国(パラダイス)!?このまま怠惰な寄生生活で、埋没系妃(その他大勢)を楽しみたい繭だったが、どういうわけか王アルダハールの寵愛を受けてしまう。「私の妃はそなた一人だけでいい」優しく真摯なアルダハールの言葉を受けて次第に彼に惹かれていく繭。しかし王の寵姫として脚光を浴びてしまったことで、身辺がなんだか騒がしい。 その上、国を揺るがす大事件に巻き込まれてしまって!?
「……次にマユを抱けるのが100日後など堪えられん! 」

立ち読み

 百人の妃が集められ、後宮が開かれてから九十九日目。
 それはつまり、九十九という数字を冠した妃である繭の夜伽担当の日である。
「……まあ、何もないとは思うのよ。今まで伽をした妃はいないという噂だし」
 安心しきった表情で、おっとりと繭は言う。なんせ繭の前に九十八人もの麗しい妃たちがその身を投げ出しているというのに、何もないのだ。九十八回あったことは、九十九回起こるものだろう。
「そうかもしれませんわね……」
 繭の言葉に、ナディアも頷く。
「……ただ、マユ様は特別にお美しいから、王も心を動かされる、という可能性もありますけれど」
 彼女は少し心配そうに繭を見た。そんなことを美少女に言われると繭は困ってしまう。
 自分の容姿を褒められるのは、まだ慣れない。繭に対する「美しい」という形容詞は、この世界に来て初めて使われたものだからだ。
 誤魔化すように曖昧に笑ってから、繭はずっと疑問に思っていたことを口にする。
「けれど、何故陛下は妃たちに伽をさせないのかしら?」
 現在、彼には兄弟も子もいない。よって後継を得ることは、彼の急務であるはずだ。
 後継を残す気がないのだろうか。だが、それは三百年以上の歴史を誇る国の王として、許されることではあるまい。一体、何故なのだろうか。少し考え込んでから、繭は口を開く。
「……もしかして、陛下は男色家でいらっしゃる、とか?」
「ぶはっっ!」
「あははははははは……!!」
 それを聞いたアルティアが、行儀悪く口に含んだ茶を盛大に噴いて噎せた。珍しいこともあるものだ。その隣でハールーンが床に転がって笑っている。何もそんなに笑わなくてもいいだろうに。
 引きこもりの繭は、かつての世界でそういった読み物も嗜んでいたので、そういうこともあるかと思ったのだ。
「……っ、違います。絶っっ対にそんなことはありません!!」
「あら、そうなの?」
 噎せて咳き込み、涙目になりながらも断固否定するアルティアに、そんなことを断言できるなんて、やっぱり彼女は王の愛人なのかしら? などと本人が聞いたら涙目どころか号泣しそうなことを考えながら、繭は首を傾げる。
「……では他に考えられることといったら、性的に倒錯していらっしゃるとか、性的に不能でいらっしゃるとか……」
 今度はナディアが指折り酷いことを言い出す。十三歳の少女の明け透けで容赦のない言葉に、アルティアと繭は引きつった。守護精霊は笑いすぎて床に転がり、ひいひい言いながら痙攣している。
「ナディア妃……。それはいくらなんでも不敬かと……。陛下はいたって健全な方ですよ……」
 アルティアがげっそりとした表情で窘めれば、「あら? だって疑問に思ったんですもの」とナディアは悪びれずに愛らしくけらけら笑う。
「健全……! 健全とはっ……!?」などと喚きつつ笑いすぎてもう呼吸困難になっている守護精霊の腹に蹴りを入れるアルティアこそ不敬ではないのかと思いつつ、繭もつられて笑ってしまった。
 すると、こほん、と一つ咳払いをして、アルティアは表情を立て直し、他の女官たちを下がらせた後、真面目に話し始めた。
「以前、マユ様に陛下がこの後宮の縮小を考えていらっしゃる、というお話はさせていただいたと思いますが……」
「ええ、覚えているわ」
「この後宮が開かれたことは、陛下の意思ではございません。即位と共に、神官や政府高官たちによって押し切られ、押しつけられたものです。よって陛下は将来的に、この後宮自体を閉じるおつもりです」
 この後宮の維持費は、国家予算に重く伸しかかっている。王は、それを無駄であると苦々しく思っているのだと言う。ではいずれ、やはり自分はここから出される日が来るのだ、と繭は青ざめる。
「ですから、陛下には初めからお妃様方に手をつけるおつもりなどないのです。手をつけてしまえば、その方は生涯後宮から出られなくなる。家へ帰せなくなります」
「―――え? そうなの?」
 そんな繭の疑問に、アルティアは呆れた顔をし、ナディアは少し笑って答える。
「そうですわ。一度でも王のお手つきになれば、その生涯を後宮で過ごし、王の退位や逝去と共に、今度は嘆きの宮と呼ばれる離宮に移されて、余生を送ることになりますわ」
 つまり、後宮に入り王のお手つきになったら最後、その一生を縛られることになるのだ。本人の意思などまるで考慮されずに。
 だから本当はここには来たくなかったのだ、とナディアは小さな声で呟いた。
 この国では、女性は所有物だ。不思議と高貴であれば高貴であるほど。
 繭と違って、ナディアは機転が利いて、とても賢い。どんな相手でも引かない度胸もある。
 だが、彼女が後宮にいる限り、それらは全てなんの意味もなさない。
 ナディアにとって、それは耐えられないことだったのだろう。
 ここで必要とされるのは、王の関心を引く技術だけだ。それは、確かに勿体ないな、と繭は思いナディアの柔らかい髪を撫でる。すると、くすぐったそうに彼女は笑った。
「でも、今は楽しいんですのよ。ここでマユ様と過ごすことが。……ここに来て良かったと思っておりますの」
 そう言ってもらえることが、本当に嬉しい。邪険にされないことが、本当に嬉しい。
「――私もここに、マユ様には残って欲しいのですよ」
 そんなアルティアの言葉に、繭は弾かれたように顔を上げた。
「だって私は、マユ様が大好きですから」
 その笑顔が優しくて、綺麗で、思わず繭は同性だというのに顔を赤らめてしまった。何故か心臓がばくばくと速く大きく音を立てる。
 そしてここから出たら、みんなと会えなくなるのだな、と繭は思う。それはとても寂しくて、とても嫌なことだ。だからこそアルティアは、繭に発破をかけていたのかもしれない。
 繭も、後宮が好きだった。何もせずただ時間が過ぎることに、罪悪感を持つほどに。

 ―――その日、朝から女官たちは浮き足立っていた。
 彼女たちに繭は、蒸し風呂に放り込まれ、冷たい水に浸された布で身体を拭かれることを何度も繰り返させられ、白い肌をさらに白くするという蜂蜜の匂いのするなにがしかのクリームを全身に塗られた後にさらに蒸し風呂に放り込まれ、それを綺麗に拭き取った後、最後に薔薇の香りのする香油を全身に塗りたくられた。そこまでしたら、すでに時刻は夕方であり、繭は疲労困憊していた。
 いつもよりも少なめに夕食をとった後、薄絹で作られたいつも以上に心もとない寝着を着せられる。何もないだろうと楽観的に思いつつも、やはり小心者の繭は緊張してしまう。
 やがて外が夜の帳に包まれると、女官たちに案内されるままに自室を出る。
 足を踏み入れたことのない後宮の奥に進み、色鮮やかなタイルと黄金で装飾された豪奢な扉の前まで案内されると、中に入るように繭に促して、女官たちは下がっていった。
 恐る恐るその扉を押し開けると、中には幾重もの薄絹でできた天蓋のついた、贅を凝らした大きな寝台がある。――というか、寝台しかない。
 この部屋の用途は潔くそれだけなのだから当たり前のことなのだが、繭はさらに緊張してしまう。
 そして、自分以外には誰もいないことを確認してほっとする。
 たった一晩、ここで過ごすだけだ。何も起きないはずだ。
 身の置き所に困り、繭は薄絹の帳を潜り、寝台の中へと入る。そして、さっさと寝てしまおうと、その柔らかな布団に飛び込んだ。目が覚めればきっと朝が来ているはずだ。
 朝からの一連の美容強行軍で疲れていたからだろうか。肌触りの良い絹に包まれて目を閉じていると、緊張がほぐれ、そのまま眠ってしまった。
 ―――それから、どれくらい眠っていたのか。
 扉の閉まる音で、繭は目を覚ます。誰かがこの部屋に入ってきたのだ。それを認識した繭は、飛び起きる。女官たちは、翌朝迎えに来ると言っていた。だが、眠っているうちにランプの油が切れたのか、辺りは真っ暗で何も見えない。つまりはまだ夜ということだ。そして今この時、この部屋に入ってこられる人物は、たった一人しかいない。
 足音が、こちらへと近づいてくる。暗闇の中、繭は掛布をたぐり寄せ、身体を震わせた。
 寝台を覆う薄絹の帳が、さらりと上げられる音がする。そして、侵入者の重みで寝台がギシリと鳴った。少しずつ目が暗闇に慣れていくものの、まだ、その人物の輪郭しか見ることができない。
 後退りしそうになるのを必死に耐え、繭はなんとかその場に留まる。
 そう、ついこの間まですっかりうっかり忘れていたが、自分は彼の妻の一人なのだ。そして彼は、王は、自分とは比べものにならない、尊いお方なのだ。どう考えても繭に、拒絶する権利などない。
 そっと迫り来る影から腕が伸ばされ、その手のひらが繭の頰に触れた。突然の温かな感触に、ビクリと繭が身体を震わせると、戸惑うように止まる。そして、恐る恐る、繭の頰を撫でた。
 その動きに細やかな気遣いを感じて、繭はいくらか安堵する。少なくとも乱暴にされたり、強引に事を進められたりするわけではなさそうだ。やがて、腕が繭の背中へと回される。優しく、その気になればすぐにでも抜け出せるような強さで抱きしめられた。
 王の硬い胸元に、繭の耳が当たる。すると彼の速く強く打ちつける鼓動が聞こえた。王も緊張しているのだと思い、何故か安堵する。大きな手のひらが、優しく肉の薄い繭の背を何度も撫でる。
 労るようなその動きに、緊張が少しずつほぐれ、繭は力が抜けてきた。こんな風に人に優しく触れられるのは、どれくらいぶりだろうか。そのままくたりと王に凭れかかってしまう。
 それに気づいたのであろう、王からくすりと笑う気配がした。
 その笑い方に、どこか既視感がある。
 不思議に思っていると、長い指が繭の顎の下に添えられ、上を向かせられる。王の顔があるであろう場所を見つめるが、やはり顔の判別はできない。そもそも光の多い世界で育った繭はあまり夜目が利かないのだ。
 影が近づいてくる。やがてふわりと繭の唇に温かで柔らかなものが落ちてきた。一瞬、何が起きているのかわからなかった。
 ―――あ、これ、キスだ。
 そう気づいた瞬間に、繭の顔に熱が集まる。引きこもり喪女二十一年目にしてファーストキスだ。
 一生無縁だと思っていた瞬間である。全く実感が湧かないが。生まれてこのかた父親以外の男性と、こんなに接近した記憶はない。あまりのことに混乱していると、しばらくして唇が離される。その瞬間に唇が冷えた気がして、少し寂しく感じ、そんな自分にさらに混乱する。
 すると、すぐに角度を変えてまた唇が塞がれた。今度は触れるだけではなく、食むように動かされ、ちゅっと吸われる。驚いて思わず唇を開いてしまうと、その隙間から、熱く湿った何かが侵入してくる。後ろへと身を引きそうになるが、背中に回された腕がそれを許さない。差し込まれた舌に、怯えて縮こまる繭の舌が絡め取られ、吸い取られる。
「っぅんっ!」
 思わずくぐもった声が漏れる。くちゅりくちゅりと生々しい水音がする。我が身に起こった出来事が、自分の理解の範疇を超えていて、全てに現実味がない。誰にも触れられたことのない繊細な口腔内を蹂躙されると、身体にむず痒い感覚が走り、繭はぎゅっと目を瞑る。
 永遠とも思えるほど長く感じる時間を経て、ようやく解放された時には頭がぼうっとして、身体からぐにゃりと力が抜けてしまっていた。王も肌の色が濃いからか、暗闇の中、その眼だけがよく見える。綺麗な白目と、暁色の瞳。やはり既視感のあるそれが熱を孕み、真摯に繭を見つめていた。
 何かを言わねばと思うのに、何を言えば良いのかわからない。
「……あ、あの……」
 なんとか絞り出すように小さく声を出すと、王が動きを止めて、続きを待つように小首を傾げた。
「その……」
 だが頭の中が整理できない。咄嗟に言いたいことを見つけることが、繭は酷く下手だった。
 それが周囲の人間を苛立たせるのだということを知っていても。
「……どうした?」
 かつて宴で聞いたのと同じ、低い艶のある声で王は問うた。その響きは穏やかで、苛立ちは感じられない。ただ、繭の言葉を待ってくれていた。繭は呼吸を整え、頭の中を整理する。
「どうして……」
 どうして、ここに王はいるのだろうか。妃には手を出さないのではなかったのか。
 そう言おうとして、だがそれはアルティアから聞いた不確かな情報でしかないことに気づき、また押し黙る。それは今、ここで口に出して良いことではない。
「……夫が妻に触れるのに、何か理由がいるか?」
 王からの問いに、繭は困ってしまう。一般的に考えれば、ない。なんの問題もない。想定外の事態に、覚悟のできていなかった繭が動揺しているだけだ。恋愛ありきの繭の生まれ故郷とは違い、このシャルード王国では、婚姻は親によって決められるものであり、そこに恋情が入り込むことなどほとんどない。初めて会ったその日に夫婦となり、床を共にするのが普通だ。
 つまり、ここで夫に触れられることは、この国ではごく普通のことで。
 繭がゆるく首を横に振ると、安堵したようにまた唇が重ねられた。


◇◇◇◇◇


「――ねえ、アルティア。一つ聞いても良い?」
 すると、アルティアは怯えたようにびくりと震えた。なんだか今日のアルティアはやはり変だ。
「……はい。なんでしょうか」
「あの、なんで陛下は、私にだけに伽をさせたのかしら……?」
「っ! それは……」
 アルティアが言い淀むと、繭は少し切なげに目を細めた。
「……一番後腐れなさそうだと思われたのかしら」
 その言葉に、アルティアが愕然とした顔をする。
「影響力のある家の娘ではないし……、しかも養女だし。それに見た目が変わってるから好奇心で、とか……」
 次々に零れ落ちる繭の自虐的な言葉に、アルティアの顔がみるみる青ざめていく。
「違います! 絶対に……! 陛下はマユ様のことをお想いになられているのですよ……!」
 強くアルティアが否定し、あり得ないことを言うので、繭は首を傾げる。
「……だって、理由がないもの」
「理由……?」
「陛下が私を特別にする理由」
 まともに言葉を交わしたこともなければ、顔を見たこともない。それなのに、どうして自分が彼の特別になれるというのか。
「だから、そんなことあり得な――」
「っそんなことは!!」
 思いの外大きな声でアルティアが言葉を遮ったので、繭は驚く。
「そんなことはありません。……陛下はそのような方ではございませんよ」
 そして彼女はその美しい顔を酷く歪め、悲しげに言う。そんなアルティアの姿に繭は慌てた。
 もしかしたら彼女の主人である王を、糾弾しているように聞こえてしまったのかもしれない。
「ねえ、そんな顔をしないで。アルティア。私、別に嫌じゃなかったのよ」
 繭は笑顔を作る。できるだけ自然に見えるように。アルティアは目を見開いた。
 優しく、抱いてもらったと思う。痛かったけれど、それだけじゃなかった。身体の隙間を埋められて、心の空洞をも埋められたような気さえした。あのまま生まれ故郷にいたら、こんなことはおそらく一生経験しなかっただろう。それを最上級の相手と経験できただけ、ある意味幸運だったかもしれないとすら思うのだ。
「それに、これで私、ずっと後宮にいられるのでしょう?」
 だったら喜ぶべきことだ。繭はアルティアを安心させるように、笑顔で言った。だというのに、アルティアの表情は全く晴れない。
 そして、悲痛な顔をしたまま、彼女は頭を下げ、ふらりとその場を辞してしまった。
 何か自分は間違ったことをしてしまったのか、と。不安に苛まれつつ、繭は彼女の背を見送ることしかできなかった。

 とぼとぼと足取り重く自室に戻り、深いため息を吐いて、アルダハールは長椅子に腰をかけ、ぐったりと背凭れに凭れかかった。
「どうした? 死にそうな顔してんぞ。……念願が叶ったんじゃねえのか?」
 そんな彼に、いつものように側に来た守護精霊が軽口を叩く。……そう、念願が叶ったはずだった。ずっと恋をして求めてきた女をこの手に抱いて、幸福感でいっぱいのはずだった。
 ――――それなのに。
「うるさい……黙れ」
 言い返す声も小さくて力がない。ハールーンはアルダハールの横にちょこんと座り、彼の顔を覗き込んだ。自分が女装していることは、繭にばれなかった。それは良かった。だが、それ以上に彼女に深刻な誤解を与えてしまった。一体、何を間違えたのか。アルダハールは頭を抱えた。
「――大切に、抱いたつもりだったんだ。自分の心が伝わるように」
 切なげに零されたアルダハールの言葉に、呆れたようにハールーンは肩を竦めた。
「そりゃ、無理だろ」
 守護精霊の言葉はにべもない。さらにアルダハールはズーンと落ち込んだ。
「マユ妃は『モジョ』というやつらしい」
「なんだそれは?」
「男に全く相手にされない女に対して使われる、マユ妃の故郷の蔑称らしい」
「それは酷いな。失礼にもほどがあるだろう。マユに対して使われるべき言葉じゃない」
「けど彼女は自分のことをそう思ってる。価値のない人間だ、と」
 アルダハールは唇を嚙んだ。何故、彼女は誰よりも自分の価値を信じようとしないのか。
「マユちゃんはなぁ……謙虚というより卑屈なんだよ」
 困ったようにハールーンは頭を搔いた。何故、彼女があそこまで頑なに自分を卑下するのかは、正直彼にもわからないが。
「そんな悲観主義のマユちゃんに、わかるわけないだろ? 話したこともない、顔も知らない男に身体を好き放題されて、愛なんか感じるわけないだろ?」
 ハールーンの言葉は情け容赦がなく、そしてどこまでも正しかった。
「とっとと言葉で伝えろ。正体だってバラしちまっていい。偽りってのは厄介なもんなんだ。早い段階でその芽を摘み取らないと、どんどん根を張って、拡がって、いずれ収拾つかなくなっちまう」
 頭を抱えるアルダハールに、珍しくハールーンは、優しく窘めてやった。
 そう、誤解は早めに解くべきだ。それが正しい。――だが、それでも。
「神殿を黙らせて、とっとと後宮を潰すぞ」
 アルダハールがつと顔を上げた。その覚悟が決まった表情に、ハールーンは少し目を細める。
「いきなりどうした?」
「……次にマユを抱けるのが百日後など耐えられん。妃がマユ一人なら毎日抱ける」
 一度甘い果実を味わい、その味を知ってしまえば、さらに貪欲に求めるようになってしまうのは致し方ない。
「私情まみれだな、オイ……!」
 ハールーンは腹を抱えてゲラゲラ笑う。
 ああもう、なんて真っ直ぐで馬鹿な奴だろう。――あいつとは大違いだ。
「マユも残されたのが自分一人なら、私の愛情を疑わぬだろう」
「いやいや、だからそこはちゃんと口で言えって……!」
 守護精霊は主人に突っ込みを入れつつ、笑い転げた。

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