異世界トリップの脇役だった件2 美少年にされた件 | 株式会社Jパブリッシング

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枯れた薔薇_カバー1

異世界トリップの脇役だった件2 美少年にされた件

葉月クロル / 著
椎名咲月 / イラスト
ISBNコード 978-4-866691-107
本体価格 本体1,200円+税
発売日 2018/05/28
フェアリーキスピンク

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内容紹介

可愛いアヤメを俺の許可なく見るんじゃないo(`*ω*´)
異世界トリップした妹に呼ばれたものの、別の国に不時着してしまったわたしことアヤメ。偶然出会った軍人の筋肉紳士、ゼラルクさんに助けられたけど、「少年」と勘違いされてしまう! 『異国のやんごとなき貴公子』として大切に守られつつ、フェロモンを漂わせ真剣な目で「アヤメは俺の天使……いや、弟分だ!」ってどういうこと!? 過保護に溺愛されてときめいてしまう。しかし女と言い出せないまま、ゼラルクさんに政略結婚話が持ち上がり!?
「お前の可愛さが凶悪すぎる!」筋肉軍人は、理性を試す試練に耐えられるか!? 大人気溺愛炸裂ラブコメディ『異世界トリップの脇役だった件』、続編がついに登場♥
小説サイト『ムーンライトノベルズ』1100万PV超! 書き下ろしも収録!!

立ち読み

「本日は『精霊に愛されし者』が兄上アヤメ殿にご拝謁申し上げる僥倖の巡りを神よりいただきましたことを心より感謝し恐悦至極にございますことをここにご挨拶と共に申し上げる次第にございます、グラシアッド国王、ナイゼルにございます」
「グラシアッド国王妃、レベッカにございます」
「グラシアッド国第一王子、リノアルトにございます」
「グラシアッド国第二王子、ラスデリーニお兄ちゃんだよ」
「グラシアッド国第一王子が第一王子、レスターにございます」
「グラシアッド国第一王子が第一王女、キャロルにございます」
 堅いよ!
 国王陛下、よくそんな呪文をひと息に唱えられるね!
 そして、ひとり変なのが交じってたよ!
 わたしも自己紹介をする。
「こんにちは。この度はゼラルクさんとキールさんに大変お世話になりました、大沢アヤメ二十五歳成人です! エステイリア国で『精霊に愛されし者』をやってるミチルはわたしの妹にあたりますが、うちの国の風習ではあんまり堅苦しく身分がどうのこうの言わないんで。あんまりかしこまるとむしろ『水臭い』とどつかれる感じなので、楽になさってください」
「ど、どつかれるのか?」
「首、スパーン?」
 部屋に入るなり頭を下げたグラシアッド国の王族がうろたえ、青い顔をしてひそひそ囁き合う。どうやらわたしについて非常に偏った情報が流れているようだ。わたしは(こりゃ、うっかりしたことは言えんな)と思いながら、なだめるように言った。
「しないしない、スパーン! はしませんからね。大丈夫です、顔を上げて普通にしてください。お楽にお楽に」
「父上、母上、アヤメは神から遣わされた天使のように心の広い貴公子ゆえ、常識的な礼儀を心に置き留めておけば、そう堅苦しい振る舞いをする必要はありません」
 結構非常識なこと(人の胸にお顔すりすりとかね!)をやってくれるゼラルクさんが言い、ラスデリーニ殿下が「そうだよね」とさっさと頭を上げた。そして、両手を広げて「おお!」と感嘆する。
「素晴らしい! なんて可愛らしいのだ! その服はアヤメに実に似合っている。宝石に彩られてきらびやかな中にもアヤメの純粋可憐な清き美しさが引き立ち、お兄ちゃんは天使が現れたのかと思ってしまったよ。アヤメは宝石よりも光り輝く天使だな!」
「いや、あはは、殿下ってば盛りすぎ盛りすぎ」
「殿下ではなくラスデリーニお兄ちゃんだ」
「お兄ちゃんになるのは諦めたんじゃないの!?」
「ゼラルクが食らいついている限り、その兄たるわたしも諦めんぞ、我が天使よ! 光り輝く天の遣いよ、グラシアッド国にようこそ! 見れば見るほど可愛らしいな……お兄ちゃんの心はアヤメに釘付けだ」
 なにこのチャラ男的なベタ誉め甘々発言。
 なのに、言っているのがゼラルクさんによく似たイケメン王子さまだからなのか、なんだか許せてしまう。イケメンは得だね。
 っていうか……その輝くブルーの瞳から、彼がこの歯の浮くような言葉を、心から本気で口にしてることが伝わってくるんだけど!
 恐るべし、異世界!
 恐るべし、ラスデリーニお兄ちゃん!
 しかし、ラスデリーニお兄ちゃんの発言を、過保護な駄鷲が許すはずがなかった。
「兄上、なにを言っているのだ! アヤメは俺だけの天使だ、なぜならば!」
 パン! とキールさんが手を叩き、ゼラルクさんの言葉を止めた。
「さあさあ、アヤメも言っていることだし、ここはみんな座って、お互いに楽な気持ちで親睦を深めようではないか。ゆっくりと話でもして、そう、まずはこのグラシアッド国の良さをアヤメに知ってもらいたいな。な?」
 キールさんの言葉に、駄鷲化せずに済んだゼラルクさんが続いた。
「そうだな、グラシアッド国について、まだアヤメはよく知らないからな。この国はなかなかいい国だぞ、アヤメ。時間が許す限り、あとで俺が案内してやるからな」
「うん、ありがとう」
 わたしはゼラルクさんにエスコートされて、椅子にかけた。ラスデリーニお兄ちゃ……殿下も、他の面々を促し、言った。
「父上、母上、皆も遠慮なくかけよう。そしてアヤメにはあとでお兄ちゃんが、もっと素敵な服を買ってあげよう。グラシアッド国の素晴らしい宝石のついた服をな」
 途端に、駄鷲が羽ばたいた。
「兄上、アヤメの服は俺が選ぶ! なぜならば!」
 パーン! とキールさんがまた手を叩いた。
「そういうことは落ち着いてからおいおいということで、ええと、とりあえずエステイリア国とは連絡が取れそうなのかな」
 さすがはキールさん、安定のおかん力でその場を仕切る。彼こそが真の『鷲匠』と言っていいかもしれない。皆がテーブルに着いてから、ラスデリーニ殿下が言った。
「神殿では音声での交信の準備をしているが、魔石のエネルギーが満ちるにはあと十日はかかる。なので、並行して文書を送っているが、こちらはすべてが送られるまでにはほぼ三日かかる予定だ」
 どうやらこことエステイリア国はかなり距離があるようだね。お手紙が届くのに三日というのは早い方なのかな。
「アヤメ、ちなみにこのような文面だ。『ミチルヒメノアニウエブジホゴ』」
 電報かよ!
 まあ、簡潔にわたしの安全が伝わるからいいか。
「到着後、向こうからの返事にまた三日はかかるだろうから、アヤメにはしばらくの間、グラシアッド国でゆっくりと過ごしていただきたい。言うまでもなく、問答無用で、ゼラルクがアヤメの世話役となる。もちろん、困った時にはいつでもお兄ちゃんを」
「頼らず俺だけを頼れ。なぜならば!」
 パアアアーン! と、ゼラルクさんの背中をキールさんが平手で力いっぱい叩く音がした。
 さすがはおかん、相手が王子でも容赦ないな!
 ゼラルクさんが、めっちゃビクッとしたね。
「いやその……俺が、世話役を、責任持って、務めさせてもらうからな。どんな相談にも乗るぞ」
 笑顔のキールさんが続いた。
「そうだな! ゼラルクならアヤメと親しいから、世話役としてしっかり後見を行って、アヤメが快適に過ごせるようにできるはずだ」
「そうだ。俺が一番、アヤメのことに詳しいからな」
 誇らしげに胸を張る、ゼラルク第三王子。
 あれ?
 キールさんの額に汗が光ってるよ。
 なんだか最近、駄鷲がより駄鷲になってきたように思えるんだけど、自分の国に着いたからゼラルクさんも気が緩んでいるのかな。
「ありがとう。よろしくね、ゼラルクさん」
 しかし、日本のいちOLとして日頃それなりにコミュニケーション力を磨いているわたしは、にっこりと笑ってゼラルクさんにお礼を言った。すると、彼はぽっと頰を染めて、紫色の瞳をきらめかせた。
「ああ、安心しろ。アヤメはこの俺が、命にかけて守る」
「ひょっ!?」
 左側にいたゼラルクさんがわたしの左手を取ると、手袋をしたわたしの手のひらに唇を当てた。
 な、なんか、ヤらしいんですけど!
 手の甲ならわかるけど、手のひらにキスとか!
 ちょうどユーレイラルの花が咲いてる辺りで、ゼラルクさんはそこを狙ってしたんだろうけど、王家の皆さんは花のことを知らないんだからね。普通にヤらしいからね。
 わたしは思わず奇妙な声を上げてしまったが、王家の皆さんも「ほうっ!」「ふぇっ!」「わひっ!」と揃って変な声を出したので目立たずに済んだ。唇を離したあとも、ゼラルクさんはわたしの目をじっと見つめてくるものだから、なんだか無駄にときめいてしまう。
 ヤバい、今、私の顔は赤くなってる。
「アヤメ、ずっと側にいるぞ」
「ゼラルクさん……」
 そして、そんなわたしたちの姿を見て、当たり前だけど誤解が生じてしまった。
「ゼラルク……お前はやはりそうだったのか? アヤメ殿は確かに美しい少年だが……しかし、少年なのだぞ……いや、わたしの偏見なのか、だが、息子がそのような趣味であるということを、ああ、簡単には受け入れられん! 神よ、未熟なわたしを赦したまえ!」
 わなわなと震える国王。
「母はあなたの幸せだけを望みます。あなたが心を傾けられる相手に出逢えたことを喜びたい……のですが……美少年……男性がお相手なのですね……ほほ、また息子が増えますのかしら」
 目元にハンカチを当てる王妃。
「叔父上が……勇猛果敢な『グラシアッド国の猛き鷲』が……男の手に口づけを……」
 現在思春期らしい王子が、口をぽかんと開けて顔に『理解不能』のサインを出す。
「まあ、アヤメさまって……なんて素敵な方……どうしましょう、この胸のときめきはなに?」
 両手の指を組み合わせて、うっとりした表情の……いや待て、キャロルちゃん! それは一番あかんパターンでしょ! 
「なんということでしょう、凜々しくて気高く美しい、キャロルの運命の王子さまがとうとう現れましたわ。でも、この恋のライバルは叔父上なのかしら? わたくし、叔父上と闘わなくてはならないのね……でも、キャロル負けない!」
 ちゃうちゃうちゃうちゃうちゃうちゃう!
 闘ったらあかん!
 わたしの性別は女だから!
 ああっ、でも言えないんだった!
 潤んだ青い瞳で見つめてくるキャロルちゃんをどうしたものかと考えながら、わたしはゼラルクさんから左手を奪い返し、ユーレイラルの花が咲いてる辺りをさすった。そして、視線でキールさんに『おかん、なんとかして! 誤解を解いて!』と語りかけたつもりだったが、それがめっちゃ鋭い目つきだったようで、キールさんは自分の首を押さえてびくっとした。
 いやいや、スパーン! しないからね。
 わたしは顔を上げて「皆さんすみません、変な想像をするのはやめてもらえますか?」ときっぱりと言った。
「ラスデリーニ殿下にはすでに説明しましたが、ゼラルクさんはわたしを恩人として丁寧に扱ってくれているだけなので、わたしたちはやましい関係ではありません」
「……そうなのか?」
 あからさまに疑いの目で、国王が見てくる。いや、ラスデリーニ殿下以外の全員が、見てくる。
 ラスデリーニ殿下が笑って言った。
「ははは、アヤメが男性なのに可愛らしいから、皆誤解してしまうんだな。大丈夫だ、ゼラルクは弟分ができたと喜んでいるだけだから。アヤメはこんなに華奢で愛らしい見かけなのに、驚くほど腕が立つというから、武人であるゼラルクは余計に気に入ってしまったのだろう」
「そうだ。俺はアヤメに対してやましい気持ちなど微塵も抱いて……ない、と、思う。だ、だいたい、アヤメは『精霊に愛されし者』の兄上ではないか! そんな方に邪心を抱くわけがないだろう!」
 途中で失速しそうになったが、なんとか持ち直してゼラルクさんが宣言した時、部屋のドアが再びノックされた。
「アヤメ殿、我が妃、ルシアが公務で遅れて参りましたようです。招き入れてもよろしいでしょうか?」
 第一王子のリノアルトさん(かなり年上だが、やっぱりゼラルクさんに似たイケメンである)がわたしに許可を求めた。
「あ、お仕事ご苦労さまです! どうぞ、入ってもらってください」
 開かれたドアから、レスターくんとキャロルちゃんを産んだとは思えない、まだ若そうなお妃さまが「失礼いたします」と入って来た。そして、国王陛下のナイゼルさんとゼラルクさんの顔をそれぞれちらっと見てから「アヤメさま、ご拝謁の栄誉に遅れまして、大変申し訳ございませんでした。第一王子が妃のルシアにございます。実は内々で国王陛下にご報告したい、緊急の知らせがあるのですが……」とドレスをつまんで低く頭を垂れた。
「あ、いいよ、頭を上げて、お仕事を優先してください」
 わたしが言うと、国王のナイゼルさんが軽く頭を下げてから言った。
「ルシアよ、『精霊に愛されし者』の兄上になにも隠すことなどない。アヤメさまが許されるのなら、今、ここで報告しなさい」
 うわ、この世界では、わたしはどんだけ信用度の高い立場なんだろう。
 もちろん、この大沢アヤメ、国の機密事項を他言するような人間ではないけどな!
「はい」
 ルシアさんが頷いた。
「ケシュテール国から、平和条約の締結の申し出がありました」
 その場にいた者は息をのんだ。
「なんと、ケシュテール国から!?」
「あんなに攻撃的だったのに、平和条約だと?」
「へえ、ケシュテールはあんなにやる気満々だったのに……このところのゼラルクの迫力に、逆に国が潰されるかと危機感でも持ったのかな。アヤメの秘薬を使えば充分可能だが。もしや、エステイリア国からアヤメの存在についての情報が漏れたか? いや、『精霊に愛されし者』が、兄上を危険にさらすなどという失態をするとは思えないし……」
 皆が驚く中で、キールさんが呟いた。
 でも、これで戦争が終わるってことだよね?
 良かったね!
「その締結の条件なのですが」
 ルシアさんが話を続けた。
「ゼラルク殿下とケシュテール国のシャロン姫の婚姻が、条件のひとつにあげられていますの。姻戚関係となって、そこから利益を得る作戦のように思えますわね」
「うむ。シャロン姫と言えば、美姫で名高い姫だ。女を使ってゼラルクを陥落させるつもりかもしれんな」
 夫のリノアルトさんが頷いた。
「な、なんだと!?」
 ゼラルクさんが声を上げた。
「この俺に、結婚しろというのか!?」
「平和条約を締結するなら、そうなるな。政略結婚だが、シャロン姫はたいそう美しい姫君らしいから……」
 と、ここでリノアルトさんが言葉を切った。そして、わたしの顔を見る。
「アヤメ殿?」
 噓……。
 ゼラルクさんが、結婚、するの?
 わたしは、左手をそっと押さえた。



   その22 もしかしなくても、恋?

 ゼラルクさんは、グラシアッド国の第三王子だ。
 だから、王族として、国のために政略結婚をしてもおかしくない。
 けれど、『浮いた噂ひとつない』というゼラルクさんの評判を耳にして安心しきっていたわたしは、ゼラルクさんの結婚話を聞いてひどく動揺してしまった。 
 王家の人たちも、強引な敵国からの突然の和平交渉に戸惑い、どうやらわたしと和やかに交流している余裕がなさそうだった。
「すまないが、少し疲れが出たので部屋で休ませていただきたい。この続きは後日にして欲しい」
 わたしが左手をぎゅっとつかみながら背筋を伸ばして、ほぼ自己紹介をしただけの会談の中止を求めるために、あえて強い口調で言うと、国王は「アヤメ殿、申し訳ないが甘えさせていただきます」と軽く頭を下げた。わたしが気を使って申し出たことに気がついたようだ。
「ゼラルク、アヤメ殿を部屋にお送りしなさい」
「アヤメ、大丈夫か? 顔色が悪いぞ」
 心配顔で手を伸ばしたゼラルクさんを避けながら、わたしは「ひとりで歩けるよ」と言った。
「これから話し合わなくちゃいけないことが、たくさんあるんじゃないの? わたしは他の人に部屋に連れて行ってもらうから、わあ!」
 ずんずん迫ってくるゼラルクさんに捕まり、お姫さま抱っこされてしまった。
「他のどんなことよりも、アヤメの世話が最優先だ」
「そんなこと言って。……ゼラルクさんの、お嫁さんの、話だよ?」
 なぜか声が出しにくくなってひっくり返りそうだったけれど、なんとか抑えて言った。
「わたしのことはいいから、わああああああ」
 ゼラルクさんがドアに突進するので声を上げると、まるで餅つきのペアのような絶妙のタイミングでキールさんがドアを開けて「行ってらっしゃーい」と手を振った。そのまま王宮内を長い脚で闊歩するゼラルクさんに抱かれて、わたしは自分の部屋に連れて行かれた。
「アヤメ、」
 わたしをどさりとベッドに下ろすと、ゼラルクさんが覆い被さってきたので「近い! 近いよ!」と厚い胸を押し退けようとした。
 が、やはり胸を揉んだだけに終わった。
 筋肉がつきすぎや!
「突然のことで驚いただろうが、俺とお前はユーレイラルの花の誓いで繫がれた者同士だ。なにがあろうと、俺はこの身に代えてもお前を守るし、俺がお前を一番大切にしている気持ちは未来永劫変わらん」
「ゼラルクさん……」
「アヤメ。俺たちは運命的な出会いをした。そして、お前に命を助けられた時から、俺はお前だけのために生きる定めとなったのだ。確かに、俺たちは男同士だ。しかし、性別を超えて、俺はお前のことを大切に思っているし、お前が一生笑顔で暮らせるように守り続けたいという気持ちは本物だ。ゼラルク・アシュレイ・グラシアッドの名にかけて、ユーレイラルの花に誓って、俺はお前のために生きる」
 至近距離で、深い高貴な紫色に輝く瞳に吸い込まれそうになる。そこには真実の光があった。
 しかし。
 わたしはぎゅっと目をつぶり、涙をこらえた。
「ゼラルクさん。あなたの気持ちはありがたく思う。でも……」
 ごめんなさい、ゼラルクさん。
 可愛くない女で、本当にごめん。
「わたしは本当は女なんです!」と、その胸に飛び込んでいけなくて、本当にごめん!
「あなたはこの国の第三王子だ。グラシアッド国の王族として、あなたには国民を守る責任がある」
「それは……」
「この平和条約が結ばれたら、戦争が終わるんだよ。もう誰も戦わなくていい。ケガをしたり、命を落としたりする者もいなくなる」
 ベッドに横たわったまま、わたしはゼラルクさんの頰を両手で包み込んだ。
「あなたは『グラシアッドの猛き鷲』だ。誇り高い武人だ。ゼラルクさん、あなたの気持ちはとても嬉しく思うけれど、あなたにはあなたらしい生き方をして欲しい。わたしは故郷に戻らなくてはならない身で、あなたとずっと一緒にはいられないんだよ」
「……ここに、ユーレイラルの花が咲いているというのに、俺たちは離れ離れにならなければいけないと、アヤメはそう言うのか?」
 ゼラルクさんは、自分の頰からわたしの左手を外すと手袋を取り、手のひらに咲く花に口づけた。
「そうだよ、だってわたしたちは……男同士じゃないか。ユーレイラルの花の意味だって、普通とは……きっと、違うよ」
 わたしの胸がぎゅっと痛くなり『違わない! 違わないよ!』と叫んでいた。
 苦しいよ。
 息が詰まって、うまく呼吸ができないよ。
 なんで、会ったばかりのゼラルクさんと離れることを思うと、こんなに胸が痛くなるの? 
 全身が離れることを拒否するの?
 けれど、わたしは自分の本心を精神力でねじ伏せて言った。
「……旅の疲れが出ちゃったかな。少し休みたいからひとりにしてくれる? ゼラルクさんは会議に出てきなよ、きっとてんやわんやだよ」
「アヤメ、声が震えているぞ」
「疲れたせいだよ! ほら、わたしは子どもじゃないんだからさ、ひとりで休んでいられるよ。あ、ジェアーナちゃんにお茶を淹れてもらってゆっくりしようかな。うん、そうしよう」
 わたしはゼラルクさんの腕をすり抜けてベッドから下り、侍女を呼ぶためのベルを鳴らした。
「さあ、ゼラルク・アシュレイ・グラシアッド、しっかり自分の務めを果たしてきなよ!」
 すると、ゼラルクさんはひどく鋭い瞳でわたしを見つめ、素早くベッドから下りるとわたしを捕まえた。
「ちょっ、やめ、」
「……頼む、今だけ……」
 ゼラルクさんに突然抱き締められて、もがいていたわたしは、彼の低い声を聞いて動きを止めた。
「ゼラルクさん?」
「アヤメ、俺の気持ちは変わらない。しかし、アヤメが望むなら……」
 こんこん、と、ドアがノックされた。ジェアーナちゃんだ。
 ゼラルクさんが、身体を離した。そして、強く輝く瞳でわたしを射貫いた。
「お前が誇れる生き方をする」
 彼は、その場に立ち尽くすわたしを残して、ジェアーナちゃんと入れ替わって部屋を出て行った。


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