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君は薔薇よりかぐわしい 変態調香師の愛弟子になりました

鳴澤うた / 著
Shabon / イラスト
ISBNコード 978-486669-141-1
本体価格 本体1,200円+税
発売日 2018/08/27
フェアリーキスピュア

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内容紹介

《天才調香師から変態的求愛されて!?》
とある小さな領地の薔薇園でほのぼのと働く勤労令嬢マリエ。そんな彼女に突然求婚者が現れた!? 「貴女の香りは素晴らしい! 頼む! もっとかがせてくれ!」「きゃああ! 変態がいるーー!」見るも麗しきこの変態は、なんと新しく赴任してきた領主様。加えて天才調香師として名高い彼――アレンは、この地で新たな薔薇香料の開発を始め、マリエもそれに協力することに。彼の変態的求愛に振り回されつつも、次第にその奥にある純粋さに惹かれていき――

立ち読み

 ガイダ、カヴァル、ガドゥルカ、ドゥヴォヤンカ。各種楽器の四重奏が明るいハーモニーを奏でる。
 楽器隊を先頭に、村の娘達が薔薇を観光客達に撒きながら行進を始めたら、祭りの始まり!
 勿論、衣装を着た観光客だって一緒に行進していい。
 そうして中央の広場に着くと、皆が輪になって音楽に合わせ、薔薇を撒きながらクルクルと回る。
 中央の広場には出店などが並び、カブロヴァ領の名産品や乳製品で作った飲食物などが売られる。
 薔薇だけでなく、この時期に咲き誇る花々もランプ灯や店の柱などに飾られ、どこもかしこも花だらけだ。
 むせかえるような香りに包まれ、今年は特に花を盛っているな、と思う。
 私は踊りながら小さな女の子を見つけては、「薔薇祭りへようこそ!」と上から薔薇をかけてあげる。
 女の子は小さい頃から綺麗な物に目がない。瞳をきらきらさせながら小さな手を広げて、香り高い薔薇を手に取っていく。
(ああん、もう……! 可愛いなあ!)
 来年は小さな女の子用の花冠も用意しないかと、提案してみよう。
 やっぱり今年は三家合同でやっているせいか、人が多い。
 私は音楽に合わせて踊りながら、観光客にぶつからないよう気を配る。
 ――のつもりだったけれど、うっかり踊りの輪からはみ出して誰かと背中がぶつかってしまい、「しまった」と後ろを向いた。
「ご、ごめんなさい!」
 慌てて離れたけど、その瞬間どうしてか、肩を摑まれ引き戻されてしまう。
 肩を摑む相手と目が合って、そのままじっと見つめ合ってしまった。
 というか、目が離せない――超美形だ。
 自分の胸に甘やかな風が通り、心のどこかをくすぐっていくのが分かる。トクトクといつもより弾む胸の音を聞きながら、彼を見つめる。
 目鼻立ちの整った美しい顔は、キリッとして知的なイメージを漂わせる。
 青い瞳は澄んだ空のように目映く光り、そのたぐいまれなる容貌をさらに際だたせている。
 赤みの混じった金髪は、お日様に当たり微風に揺れてキラキラと輝く。
 整いすぎた顔とも言えるのに、冷え冷えとした感じはなく柔らかな印象だ。
 ――こんな美形、初めて見た。
 一度見たら頭にずっと残る、衝撃的な容貌。
 呆けて、はしたなくもジッと彼を見つめていたことに気付き、口を閉じる。
 向こうも私を見て口を開けたままだ。でも、それでも美形なことには変わらない。
「あ、ご、ごめんなさい。もしかしたら、足とか踏んでしまいました?」
 私の顔を見て、どうしてそんなに呆けた顔をしているのか分からない。
 しかも、無言のまま肩を摑んできて微動だにしない。
(もしかしたら……これは……)
 ――恋に落ちたの?
 なんて、一瞬そんなロマンティックな展開を想像して大きく胸が高鳴ったけれど、どうやら私が思うものとは違うらしい。
 だって、本当にそこだけ時が止まったように、ピクリとも動かない。
 あまりの硬直ぶりに、この美形がどんどん不気味に思えてきた。
「あの……大丈夫ですか……?」
 実は、既に心の臓が止まっているのかも、と再び恐る恐る声をかける。
「……やっと見つけた。俺の幸せの香り」
「えっ?」
 ――『幸せの香り』?
 ようやく発した言葉に、私は首を傾げる。
 美形の青い瞳がキラキラと、星のように一層輝きを増す。
「見つけた! この薔薇の香りの中で漂う貴女の、身体のにおい!」
 ――身体のにおい? 
「……そんなに、においますか……? 私?」
 昨晩、湯浴みをしたけれど身体、洗い足りなかった?
(『湯冷めしたらどうする!』と風呂場にまで侵入しようとした父様が鬱陶しくて、早めに出ちゃったからかしら?)
 初対面の美形ににおうと言われて、私の父様への恨みが増大した。
「ご、ごめんなさい……! に、におっていたなんて! は、離れてください!」
 ここから逃げたい!
 恥ずかしさに身体が熱くなる。
 ショックで離れたら、今度は手を握られた。
「駄目だ! 逃げたらいけない!」
 ぎゅっと力をこめられ、顔が近付いてくる。
「えっ? えっ? えっ?」
 キス?
 会って数分で、こんな早い展開? 私は咄嗟に後ろへ下がる。
「逃げないで……俺によくかがせて」
 切ない口調で美形は私に顔を近付けると、スッと鼻で吸い入れて、止めて、またスッと鼻で吸って止めて、と鼻をひくつかせる。
(かいでる……かいでるわよね……)
 彼の鼻が頭のてっぺんから徐々に下へおりていく。
 髪の毛、首筋、腕に爪先――。
「……あ、あの……一体?」
「すまない! しばらくそのままで!」
 強く言われて従う私――というより、この展開に驚いて身体が硬直したまま。
 私は美形のおかしな行動に、すっかり怯えてしまっていた。
 それどころか、恐怖に包まれて声さえ出ない。
 ――何、この人――――!?
 彼の異常さは周囲にも伝わったらしく、皆、立ち止まり様子を窺っている。
「はあ……」と満足げに息を吐きながら、美形は再び私と向き合う。
 先程と違う。明らかに満足げな表情に変わっている。
 いや、満足を通り越して恍惚としていない?
 顔を紅潮させて、潤んだ瞳で私を見つめたまま、手を握ってきた。
「貴女の体香は素晴らしい……!」
「……はっ?」
 体香? 何ですか? それ?
「この広場に来た途端、花や出店の食べ物以外の麗しい香りに気付いた! 懐かしくも優しく、思い出深い香りに引き寄せられて……貴女にたどり着いたんだ。薔薇よりも甘く、百合よりも気高く、ジャスミンよりもフレッシュで微かに香るスミレのように優しくて……」
 そう一気にまくし立てると、握っている私の手をまたクンクン、とかぎ始める。
 そして「はぁあああ……」とながーく息を吐き出すと、私の手を自分の頰に当てる。
 しかも悶えているのか、身体が震えているような……。
「感動が止まらない……。俺の鼻腔を魅了してやまない貴女は誰? ――ああ! またかいでもいいだろうか!? 今度は上から下まで! いや、かがせてくれ! 今度は口の中とか、スカートの中とか――! ぶっ」
「きゃあああああああ! へんたーい! 変態がいるーーー!」

◇◇◇◇◇

「俺の思った通りだったら、まず、このバニラのにおいと薔薇の香りを掛け合わせて新しい香りを作りたい。それから石鹸や整髪料――うん! 食品に使えるような香料も開発したいね」
「夢が尽きませんね」
「ああ! だってこのカブロヴァは、花の種類に恵まれている美しい領地だし」
 そう、アレン様と領地を回って花の種類を数えたけれど本当に多い。香料作りは薔薇に特化していたけれど、それだけではないのだと気付かされた。
「そして――俺の好きなにおいがある」
 突然、じっと見つめられて思わず自分も彼を見つめてしまう。
「…………アレン様」
「求めていたにおいを持つ、君にも会えた……」
 近い距離。手を伸ばせば、すぐに私の頰に手が掛かるほどの。
 アレン様の手が伸ばされて、私の頰に触れようとする。けれど、私はその手を拒絶するように言葉を発した。
「においで……私に求婚をしたのは分かっています。……今も、それだけですか……?」
 思い切って尋ねた。ずっと心に引っかかっていたこと。
 彼は私のにおいが幸せだった頃の懐かしいにおいと似ているから、好きになって求婚した。
 それは構わないと思う。だって人を好きになる理由なんて様々だ。
 顔とか身体つきが好みだったという、けしからん奴もいるけれど、それ以外にも声が好きだとか、手の形が好きだとか、その雰囲気が良いとか――好きになるきっかけなんて、山ほどある。
 だけど、出会いがそこからでも、こうして顔を合わせて会話して――相手の人となりが分かってきて、嫌になったりますます好きになったりと変化していく。
 ――私は、アレン様にとってどっちなのだろう?
 好きになってもらえたのか?
 嫌われてしまったのか?
 ただ、こうして助手として重宝するから優しく接しているとかだったら――胸だけでなく、身体中が軋むような痛みを感じる。
(私は好きなんだ、アレン様のことが)
 彼の仕事に取り組む真摯な姿に。人の失敗を許せる寛容さに。素直に自分の非を認める潔さに。
 そして――自分に向けられるその笑顔に。
 屈託のない、邪気のない、誰にでも分け隔てなく光を注いでくれる、お日様のような笑顔に。
「私のにおいが好きなのは分かっています。今もそれだけですか……?」
「マリエ……」
 緊張した雰囲気が漂う中――それは香った。
 甘い、濃厚なバニラのにおい――。
 私もアレン様も、その花の香に誘われて顔を上げた。
 花だけだと、華やかで官能的なにおいを発するのに……。
「空中に漂うと、どうしてこんな風ににおいが変化するの……?」
 夜のしめやかな空気に導かれるように開いた花弁から香るそれは、不思議な変化を遂げて甘い芳香となって空間に舞う。
「マリエ、この空気中に漂うにおいを捕集する」
 アレン様は短く言って、袋から道具を出し手際よく組み立てていく。
「は、はい……!」
 私も弾けるように動くと、一緒に組み立てて準備をする。
 お喋りは厳禁だ。大気中に自分の呼気のにおいが混じって、それをも捕集してしまう可能性だってあるらしいから。
 棒を限界まで伸ばして、なるべく樹木の上の方から捕集する。
 フラスコに三つほど捕集して、それで終了。
「これで、あの香りが捕集できているかしら?」
 不安だ。
「大丈夫。捕れていなくても俺とマリエの鼻が記憶しているし。作れると思うよ」
 彼が自信ありげに答えた。でも――疑問がある。
「どうして大気中に拡散すると、においが変わってしまうんでしょう?」
「――そう! それがこのカブロヴァの、最大の売りになるかもしれないんだ!」
 ランプの明かりだけでも分かるほど、アレン様の顔に喜色が表れる。
 私にはいま一つ分からず小首を傾げたけど、それに構わず彼は言葉を紡いでいく。
「それこそがこのカブロヴァの特徴なんだ! このカブロヴァ領にしかないにおい。それがこの土地を作っている! 今まで採取したにおいは、どれも僅かに甘い、ミルクに近いにおいがあった。――それは薔薇もしかり。今回、この花のにおいにだけ如実に現れただけで、カブロヴァの香りには、そのにおいが必ず含まれているんだ」
 ――そうなの?
「気付かなかった……」
 甘い、ミルクのようなにおい。ここに咲く花達は大小さまざまだけれど、そのどれにもこのにおいが含まれていた?
「本当に微かに含まれているだけだから、鍛錬した調香師ぐらいしか気付かないと思う。――でも、はっきりと気付かなくてもどこかで香りを聞いていると思うよ」
 例えば――と、アレンは恭しく私の手を取る。
「気付かなかった……? マリエのにおいの中にも隠れてる」
「私の……?」
「お菓子のような、重い甘さじゃない。懐郷の念に駆られるような。昔の、幼くて楽しかった時代を思い起こして、懐かしい友や家族に会いたくなる。人によっては終わった恋人との時間や、泣くと抱き締めてくれた母親を思い出すだろう――そんな優しくて甘くて浸っていたいと思う、安らぐにおい。……マリエのにおいはそんな感じで、それは君が生まれ育ったこの地から受け続けた、恵みのにおいなんだと思う」
「もしかしたら――カブロヴァに着いて、私と接してからずっとそのにおいを探していたんですか?」
「このにおいが、この地を盛り上げることになると考えた」
 そう、アレン様が答えた。
 スッと、身体が冷えていく。まるでこれからの哀しみを予測したかのように。
「そのにおいは私だけのにおいじゃなくて、この地特有の香りで――皆がそのにおいを持っていて……そのにおいが好きなアレン様は……じゃあ、私はもういなくても……?」
 アレン様は「違う」と首を振る。
「前半は合ってる。でも後半は違う。言ったろう? それはマリエのにおいにも隠れているって。たったの一部だ、それは。――マリエはマリエしかないにおいがあって、俺はまずそこに惹かれた」
 そう言い、私の両手を持ち近付いてきた。
「けれど、今の俺はマリエのにおいだけが好きなわけじゃない。こうして傍にいて俺のことを心から心配してくれて、精一杯手伝おうとしてくれている。何でも一生懸命で、鼻だけで、においの研究しか取り柄のない俺を笑顔で励ましてくれて……好きなんだ、マリエが」
「アレン様……」
「これからはアレン、と呼んでほしい」
 そう言って私の手の甲に口付けを落とす。
「マリエがいると、俺は挫けずに頑張れる。きっと。いつだって前向きでいられる。君は俺にとってアルノー・ド・ヴィルヌーヴの『生命の水』なんだ」
「改めて言うよ」と私の目の前で片膝をつくと言った。

「マリエッタ・ブラン嬢。俺の恋人になってほしい」

◇◇◇◇◇

――誰か来たの?
 こちらに向かって、真っ直ぐ歩いてくる男性がいる。
 朝靄がなくなった今、はっきりと顔の造作も分かる。
 黒髪を揺らしてにこやかにやってくる。アレンより年上だろうか?
 誰? と私が横目で見ると――アレンは明らかに緊張している。
「おはよう、アレン。そのお嬢さんは、どなただい? お前のいい人かい?」
 ハスキーな穏やかな声。その声音はアレンと似ている気がする。
 でも、顔は似ていない。こちらも好青年な印象の顔立ちだけど、華やかな明るい容姿のアレンと違って、堅実そうで如何にも真面目そう。
 笑顔が声と同じくらいに穏やかで、一目で好感が持てる。
「おはようございます……ユリウス兄さん」

 ――この人が、アレンのお兄様。

 この青年の正体を知り、私も緊張で身体を強ばらせる。
 そんな私に、ユリウスと呼ばれた青年は近付いてくると恭しく頭を下げた。
「可愛らしいお方だ。アレン、紹介してくれないかい?」
 先程と変わらない笑みを浮かべ、アレンにそう頼んでくる。
「ええ、マリエ……。俺の兄であるユリウス・エリアソン伯爵です。兄さん、こちらブラン男爵の娘さんであるマリエッタ嬢です」
「初めましてエリアソン伯爵様。そしてようこそ、このカブロヴァへ」
 私は、緊張を隠すように微笑むと、スカートを摘まみながら膝を曲げた。
「良かったら、貴女の手に親好の口付けをさせてもらえませんか?」
「恐縮です」
 そう会話を交わしながらユリウス様は、スマートに私の右手を取り、軽く唇を当てる。
 その動作にはぎこちなさなんてなく洗練されていて、さすが王宮勤めなんだと感心してしまうほど。
 それに、彼の穏和な態度には、アレンが言うほどの確執など感じない。
「こんな可愛らしいお嬢さんが、アレンの恋人だとは……。我が弟も、なかなか女性を見る目があるようです。いや、においにしか興味がないようなので、兄として心配していたのですよ」
 そんな兄の言葉にアレンは、肩を竦めつつ口角を上げる。
 友好的な態度の兄に対して、アレンは警戒しつつもそれなりに応じている感じだ。
 私もきっと事前に聞いていなければ、すぐにユリウス様に対し友好な態度をとっていたと思う。
 彼は、それほど敵対心を見せていない。
 こうして直接対面していても――本当に彼はアレンを嫌っているの? と首を傾げたくなるほど。
(もしかして、お兄様は、本当にアレンと仲直りしたくて王妃様に同行してきたんじゃ……)
 そんな期待がよぎる。
「――しかし、アレン。この可愛いお嬢さんに、自分のことをちゃんと話したのかい?」
「はい……大体は」
「……そう、その鼻が死神を呼んで、僕達の父を連れ去ってしまったことも――勿論、話したんだね?」
 アレンの肩が、大きく揺れた。

 ――死神を呼んだ?

 私は訳が分からず、目をパチパチさせアレンを見つめた。
「おや? ご存じない? 駄目じゃないか、せっかく出来た恋人にきちんとお話ししないと」
 そう軽くアレンを叱るとユリウス様は、聞いてもないのにペラペラと話し出した。
「どこまでお嬢さんにお話をしたか分かりませんが――我が弟の鼻は『死神を呼ぶ鼻』と言われて、生家のエリアソン家では恐れられていましてね。死神をにおいでかぎつけて呼んでしまうんですよ。……それで父が亡くなりましたよ。気味悪いでしょう? だからその鼻が、このカブロヴァの皆さんにご迷惑をおかけしていないかどうか心配でこうして――」
「――兄さん、やめてください」
 絞り出したようなアレンの声。掠れて、声を出すのにも必死な様子で、顔色も酷く悪い。
「僕は心配でこうして来たんだ。アレン、どうしてお前はそんな風に僕を嫌うんだ? ただ、お前のその鼻が原因で、余計な死が訪れるのを防いでいるだけじゃないか」
 ――この人、悪質だ。
 いい人ぶって、こうしていかにも心配してますって態度なのに、話すことは人を貶める内容で。
 苦悩と憂いのこもった口調だけれど、顔には歪んだ笑みが浮き出ては引っ込み、本心が見え隠れしている。
「死神なんて呼んでいない。いい加減にしてください……!」
 アレンが掠れた声で訴える。
 分かる。
 この人――怖い。
 今までその穏やかな笑みに親しみを持って接していたのに、次第にその顔が蔑みに崩れてきてこっちが不安になってきてしまう。不均衡な態度と口調に恐怖さえ覚えてしまう。
(……まさか、王宮にいる人達ってこんな人ばかりなの……?)
 とまで思ってしまう。
 アレンの必死の訴えに耳を貸すことなく、ユリウス様は貼りつけたような笑みを浮かべて私を見る。
「お嬢さん、我が弟とのお付き合いを応援したいところですが……貴女自身やご家族に大変な不幸が襲ってくるかもしれない――それを思うと、諸手をあげてお付き合いに賛成することができないのです」
 いい人ぶった忠告だけど、要するに「弟が幸せになるのは許せません! 嫌がらせして壊してやる!」ということだろう。
 隣にいるアレンの顔は蒼白で、可哀想なくらいに肩を震わせている。
 きっと言えなくて、ずっと悩んでいたはずだ。
 それでも、いつかは私に話してくれたはず。
(それを……! 面白そうに本人の前で、堂々と告げ口みたいな真似して……!)
 私の闘争心が目覚めたのか胸がカッと熱くなる。
 その熱さに押されるように私の口が開いた。
「――ごめんなさい、田舎娘だから王宮の言い回しって分からなくて」
 と、私はにっこり、とユリウス様に極上の微笑みを向けた。
「……えっ?」
「わざわざ、それを言うためにここまでご足労いただいて、ありがとうございますぅ。と――――っても弟思いのお兄様なんですね、感心しましたわぁ。でも、アレン様はもうエリアソン家から出てカブロヴァ伯爵としてこうして独立しておいでですぅ。もう独り立ちなさって土地の運営まで立派にされておりますわぁ。――あっ! そうですよねぇ、可愛い弟さんが、知らない土地で頑張っているか心配ですよねぇ? でも大丈夫ですよぉ? 順調に運営なさっておいでですう。もう成人なさっているのですから、お付き合いだって応援していただかなくっても大丈夫ですよぉ? ――あ! 弟さんが『死神』だなんてぇ昔言われたから、お兄様心配だったんですよねぇ」
「あ、貴女は、怖くないんですか? 奴は『死神』と呼ばれて……!」
「嫌ですわぁ、お兄様。私達、死神なんて吹き飛ばすほど愛し合っているんですよぉ?」
 ――恥ずかしくて普段は絶対言えない言葉も、堂々と言っちゃいます。
「あ、そうそう! その『死神』って誰が最初にアレン様に言ったんですぅ? ……まさか! お兄様では……!?」
「――!? ぃ、いや……」
 きゃっ、と言いながら可愛く小首を傾げてみせる。
「ありませんよねぇ? まさかこ――――――んなに弟思いなお兄様が、そんなこと言うなんてぇ……ねぇ? アレン様?」

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