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青年貴族_書影大

青年貴族に愛されて、妖しの異界で姫君になる。

上原ありあ / 著
ODEKO / イラスト
ISBNコード 978-4-86669-066-7
サイズ 文庫
本体価格 本体685円+税
発売日 2018/01/25

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内容紹介

異世界トリップして、平安時代な世界の姫君に!?
両親を事故で亡くしひとり生き残った清花は、自分そっくりの少女を見た後、呼ばれるように平安時代のような世界にトリップした。落ちた湖から救われ『人魚の姫君』と呼ばれるように!? 天照帝が治める瑞穂の国から帰る方法もわからず、助けてくれた美しい青年貴族・千冬の元で暮らすことに。不安で震える清花を温かく包んでくれる千冬。優しく慈しむように身体をひらかれ純潔を散らされて…。真実を知るため千冬に問うもはぐらかされるが、清花には何か使命があるようで!? ピュアロマンス♥
★初回限定★
特別SSペーパー封入!!

人物紹介

北沢清花(きたざわ きよか)

天涯孤独の女子高生。
異世界に飛ばされ、 人魚の姫と呼ばれて過ごすことに。

千冬(ちふゆ)

異世界で戸惑う清花を、

見守ってくれる上流貴族。

立ち読み

人は地に満ち、戦は止まず。
 八百万神(やおよろずのかみ)、穢(けが)れ尽くし山河捨て、常永久の国冥府伊勢へと去り賜。
 人は国荒らす腐種。人と交わりし神、高天原(たかまがはら)に墜とす理(ことわり)。
 姫神天照、人の子宿し高天原に捨て置かれ、幾年月。
 再び姫神ひとり高天原に流されり。人と交わり、子を産したこと大神の怒り触れ、呪(じゅ)を深く刻まれり。
 ―時を経て、地を隔ても呪は我を追うだろう。道筋を辿り咎(とが)を知る迄。







 1


「ただいまぁ」
 ……って言っても、誰も返事をしてくれない。
 
 あたし、北沢清花(きた ざわ きよ か)は真っ暗な玄関でローファーを脱ぎながら照明のスイッチを入れた。
 いいかげん、慣れなくちゃいけないんだけどな……。
 そんなことを思いながら、明るくなった玄関から真っ暗な居間へ行く。照明を点(つ)けて、誰もいないがらんとした部屋の中を見回した。
 はぁ、とため息が出て、慌てて首を振る。
 いけない、気を抜くとすぐに暗くなっちゃう。
 ソファに学校のカバンを放り投げ、駅から歩いてうちに帰ってくる間に、すっかり冷たくなってしまった両手を頬に押し当てる。
 その手でセーラー服の肩にかかった髪を払おうとして、空振りするみたいに指が髪の先端に触れた。
 春、高校に入学した時には腰まであったあたしの長い髪は、今は肩に触れるギリギリの長さしかない。
 これも、慣れなくちゃいけないことの一つ、か。
 ぼんやりと考えながら、あたしは居間と続きになっている和室に入った。
 真新しい、ぴかぴかの金の装飾のついた立派な仏壇の前にきちんと正座する。ぽん、と両手をあわせて頭を下げた。
「お父さん、お母さん、ただいま!」
 わざと元気に言ってみる。
 お父さんとお母さんの「お帰り、今日はどうだった?」って聞いてくれていた声が、今も耳に残っている。
 うん、あたしは元気だよ。
 お父さんとお母さんに、胸の中だけで返事をする。
 お線香を取り、マッチを擦って火を移す。ちり、と芯が赤くなって煙が立ち上がってきたところでお線香立てに差した。
 もう一回ぽんと両手をあわせてから、勢いをつけて立ち上がる。
 まず手を洗って、ご飯の準備して……。
 ああ、ちょっと面倒。コンビニでいいかな……って、やっぱダメだって! お母さんコンビニご飯嫌いだったし。
 一人でぐるぐる考えながら洗面所に向かう。その間も、台所廊下洗面所と、行く先々で照明を点けまくる。
 電気代、もったいないよね。でも、一人きりで暗い家にいるのが嫌なんだもん。
 あたしが灯りを点けなくちゃ、この家は暗闇のまま。お父さんとお母さんがいっぺんに亡くなった、あの日からずっと―。


 目の前にあったのは、真っ黒なアスファルト。
 体が自分のものじゃないみたいに動かない。凄く近くでごうごうと炎が燃える怖い音がして、ガソリンの臭いがする。
 お父さん、お母さん! って叫ぼうとしたけど、上手く声が出ない。胸が苦しくて息が出来ない、熱い。自分の髪が焦げている嫌な匂いがしはじめる。
 今日はあたしの高校の入学式。
 専業主婦のお母さんはともかく、お父さんまで会社休んで来てくれなくたっていいっていったのに「一人娘の入学式に出席しないでどうする」って、二人揃って入学式に出席して。お祝いだからって、ちょっといいレストランに行って。
 帰り道の首都高速道路、―お父さんが運転していた車が……目の前にカーブしている首都高速の灰色の壁が―!
「……お父さん、お母さんっ」
 必死で気力を振り絞り、顔を上げて振り返ったあたしは、凄い音をたてて燃えている車の残骸を見た。
 真っ赤な炎が首都高速道路の壁に立ち上がる。ゆらりと細長い形になったとき、ぽきん、と枝が折れるみたいにあたしは意識を失った。
 次に気が付いた時に見たのは、真っ白な天井だった。
 どこ、ここ……?
 ぼんやりそう思った時、白衣を着た女の人があたしの顔を覗き込んで、「良かった! 意識が戻ったんですね!」っていった。
 意識が戻ったってなに? あたしはいったい……。お父さんとお母さんは?
 よく理解出来なくて、さっきの女の人を捕まえて聞きたかったけれど。あたしの体は、点滴のチューブでベッドに繋がれていて動けない。
 その後、また意識がぼんやりとしてしまって……。
 次に気がついたのは、あたしの意識が戻ったって聞いて病院に駆けつけてきた叔父さんと叔母さんに、『悲しみの入学式』って見出しの付いた新聞記事を見せられた時だった。
 少し湿った新聞紙の手触りと、紙の匂いを今でもはっきり覚えてる。
 半年前の新聞だっていわれて受け取った、その記事にはこんな文字が並んでいた。
 北沢和史(四十八歳、会社社長)妻、佐智子(四十六歳)即死。首都高速道路を走行中、ガードレールに接触横転、同乗していた長女(十五歳)は、意識不明の重体。なお、この日は長女の高校の入学式だった。
 新聞紙を握り締めて記事を読んでいたあたしのベッドの横で、叔父さんと叔母さんが揃って悲しそうな顔をした。
 そして、「親のお葬式に出られないのはかわいそうだけど。いつまでも式を先延ばしにするわけにはいかなかったから」っていった。
 あたしが病院で意識を無くしている間に、お父さんとお母さんのお葬式は終わっちゃってたんだ。
 叔父さんと叔母さんは、気の毒そうな顔をしてこうもいった。
「清花ちゃん。お父さんが持っていた、うちの会社の自社株は手放したらどうだろう。未成年の清花ちゃんが持っていても管理に困るだけだし。実の娘でもないのに、うちみたいな古い同族会社を継ぎたくないだろう? 生活していくのに十分な貯金と自宅は手元に残しておけるよ。でも、自社株だけはね……」
 お父さんが社長をしていた会社の役員は、叔父さんと叔母さん達だ。
 あたしがお父さんから相続することになる自社株について、叔父さんと叔母さん達はいろいろ思うところがあったみたい。
 そうだよね、あたしはお父さんとお母さんの本当の子供じゃないんだもん。
 あたしは、赤ちゃんのときこの家にもらわれてきた子。いつか本当のお母さんが迎えに来るよ、っていわれ続けて育った子。
 あたしは何度も、本当の親なんかいらない、お父さんとお母さんがいればいいっていった。
 けれど、お父さんとお母さんは優しく笑っていったんだ。
 「でもね、清花。人は本当の自分から逃れることは出来ないんだよ」
 って……。
 いらないよ、本当の親も、お父さんの会社の持ち株も全部。
 お父さんとお母さんが側にいてくれたら、それで良かったのに……!

 一人っきりの自宅の洗面所で、あたしは蛇口を捻りながら目の前の鏡を見つめた。
 頑張って合格した有名女子校といわれている高校の制服は、古風な紺のセーラー服だ。胸元で臙脂(えん じ)色のリボンを結んで、袖に月桂樹を象(かたど)った校章の刺繍が入ってる。
 洗面所のオレンジ色の照明の下、ぼんやりとした顔で映っている女子高校生が一瞬、誰かわからなくなる。
 すぐに気を取り直して、「なにしてんの、あたしは」って呟いた。
 蛇口からざあざあと流れ出している水に両手を浸し、濡れた手で肩にかかるくらいの長さしかない髪をなでつける。
 事故で焦げてしまって、短くした髪が元通り腰までの長さになるのは何年くらいかかるんだろう。
 ―どうして、あたしだけ生き残ってしまったの?

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