書籍詳細
レッドカーペットの煌星
ISBNコード | 978-4-86669-078-0 |
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サイズ | 文庫本 |
定価 | 754円(税込) |
発売日 | 2018/02/16 |
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内容紹介
人物紹介
三嶋秋佳(みしま あきよし)
映画祭のためやってきたフランスで美青年に口説かれて!?
ルイ
秋佳を救った美青年。秋佳に一目惚れしたみたい!?
立ち読み
プロローグ
暗くした部屋で、スクリーンに映像が映っている。広い映写室をたった一人で占領していた男は、短いそれが終わると、「うーん、何度見ても見事だ」と満足そうなため息をついた。そして傍らの映写機を巻き戻し、もう一度その短編映画を映し出す。
「今、長編映画を撮っていると聞いたが、ぜひ見てみたいものだ。連絡を取って応募するように促してみるか」
審査員推薦という形を取ってもいいとまで惚込んだのは、日本人の新進監督の作品だ。この短編が一作目、もちろん賞を取っている。そして今撮っているという長編が二作目。映画祭の審査をする彼にとって、見事な映像を見ることはこの上ない喜びだ。
「リシャール」
その至福の時間に、無粋な声が割り込んできた。シモン・オランドが入ってくる。
「なんだ、それは」
ふんと鼻を鳴らす相手に、リシャールと呼ばれた男は、ドアを締めろと言った。
「わざわざ日本から、ちゃちな短編映画を取り寄せたと聞いたぞ。同じ監督が携わったCM映像と一緒に」
「わかっているなら、なぜ聞く」
「どんなものか興味を抱いたからに決まっているだろう」
そう聞くと同時に危機感を覚え、リシャールは素早く周囲の書類を手許に引き取った。その書類には監督名や作品名が書いてあるのだ。うっかり覚えられて、手出しをされては困る。
長身で押し出しのよいシモン・オランドは、リシャールと同じ階級に属し、同程度の資産を持ち、さらに同年配でもあることから、激烈なライバル心をこちらに向けてくる。
つまり、リシャールが推すとシモン・オランドは反対するという図式が出来上がっているのだ。それどころか露骨な妨害工作を仕掛けてきたりもする。さらにリシャールが本選の審査員で理事も務めているのに、自分は監督週間の審査員にすぎないことも、自尊心を傷つけるのだろう。
審査員仲間では、以前から問題になっていた。何か一つでも工作の証拠があれば放逐できるのだが、あいにくそんな不手際をしてくれる生やさしい相手ではない。
ほかの面ではシモン・オランドと同じで、手段を選ばずライバルを蹴落とすこともあるリシャールだが、こと映画に関しては真摯な気持ちを失っていない。唯一の良心と言ってもいいかもしれない。
だからこそ、せっかく見つけた金の卵を、馬鹿げた鬩ぎ合いで傷つけたくないし、なくすわけにはいかない。誰でも入れる事務局のサロンで映画を見たのは失敗だった。届いたと聞いて、期待で気が逸ってしまったのだ。
リシャールは油断なくシモン・オランドを見張りながら書類を鞄にしまい、映写を途中で止めて巻き戻した。映写機から外したそれも、鞄に納めてしまう。
「急ぐので、これで失礼する」
冷ややかに言って立ち上がった。その後ろ姿を、シモン・オランドが薄笑いを浮かべながら見送っている。
リシャールは事務局に顔を出し、念のために、取り寄せたフイルムの監督名と作品名を内密にしてもらうよう要請した。
「特にシモン・オランドには絶対に言わないでくれたまえ」
二人の確執を知っている事務局長は、わかりました、と頷いた。これでシモン・オランドにばれることはないだろう。それでもまだ不安が残るのは、彼の粘着質な性格を知っているからだ。
待たせていたリムジンに乗って帰宅する途中も、リシャールは眉間にしわを寄せながら考えていた。もしあの日本人監督を呼ぶチャンスがあったら、片時も目を離さないようにしようと。自分たちの確執が彼に及ぶのは、絶対に避けなければならない。
「鬱陶しいことだ」
リシャールは、背凭れに身体を預けながら嘆息した。
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