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愛おしき姫君の蜜愛マリアージュ

立花実咲 / 著
ことね壱花 / イラスト
定価 1,320円(税込)
発売日 2020/12/25

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内容紹介

毎日の逢瀬はとろけるほどに甘く
パルフェ王国第二王女で末娘のノエラは、隣国の幼馴染みの王子ディオンが婚約すると聞き胸の痛みを覚える。それまでは、政略結婚先を王が決め世継ぎを残す。それが王族の務めであると疑わなかったから。だが、ノエラはパーティで突然、ディオンから強引に腕を掴まれて連れ出されてしまう。熱い眼差しのディオンに「このまま俺の部屋に連れていきたい」と噛みつくようなキスをされて!?ただ流されるままだったノエラは、ディオンの熱い腕に包まれ、花芯を啜られ痺れさせられ、激しい挿送に本当の愛を教え込まれて!?恋を夢見たこともない王女が、恋を知り愛する人に蕩けるように純潔を散らされる運命の溺愛!!

立ち読み

◇序章 恋のつぼみ


 山々の雪が解け、パルフェ王国とフィリア王国の国境の橋が、数ヶ月ぶりに開かれたある日のこと。
 十六歳の誕生日を間近に控えた、第二王女ノエラは、早朝に従者を連れ、隣国のフィリア王国へと出立した。フィリア王国の第三王子リュカ王子を見舞うためだ。
 昔から身体が弱いリュカ王子が、風邪をこじらせたあとも体力がなかなか戻らず、療養しているということだ。感染の危険はないだろうという医師の判断により、ついこの間、面会が可能になったと書簡が届いた。
 末姫のノエラは幼い頃から外交役として近隣諸国に連れ出されることが多く、また彼女自身も出かけるのが大好きだったので、国王に命じられるまでもなく心待ちにしているものだった。
 両国は馬車で早ければ半日、遅くても一日程度で到着する距離にある。早朝に出た一行は、春のおだやかな天候に恵まれたおかげで、彼女の紅茶色の美しい髪が夕焼けに染まる頃には無事に到着することができた。
 出迎えてくれたのは、ノエラよりも二つ年上の第二王子のディオンだった。
「ごきげんよう、ディオン」
 いつものようにノエラは王女らしい品のある振る舞いを心掛け、挨拶をする。
「やあ。暖かくなって、さっそく会いにきてくれたのがノエラで嬉しいよ」
 ディオンはにこやかに応じてくれた。
 フィリア王国を訪ねるときに最初におもてなしをしてくれるのがディオンの役目だ。この光景にもノエラは慣れていた。
 しかし。今日は何故かノエラはそれとは別の、不思議な感覚を抱いていた。
 ノエラはじいっとディオンを観察する。
 さらさらとした錦糸のような金髪がそよ風に揺れている。端整な顔をより美しく輝かせる青い瞳(サファイアブルー)、そして優しげな笑顔は、もうすでに大人の風格があった。
 たった三、四ヶ月、会わなかっただけのことなのに、知らない人のようにも見えた。
(どうしてかしら)
 ノエラの翠玉色(エメラルドグリーン)の瞳が戸惑いに揺れる。そんな彼女の瞳に映るディオンは、絶えず慈(いつく)しむような眼差しを向けてくる。そう、彼はいつもノエラに対して妹を見るような目をしていたはずだ。
 生まれた時から交流があったディオンは幼なじみといってもいい相手。ノエラには兄が二人、姉が一人いるが、ディオンも兄のひとりといえるかもしれない。そういうポジションにいる相手だ。
 それなのに、急に遠くなったような寂しい気持ちが胸をつよく突いた。しかしノエラにはその正体がよくわからなかった。
「あの、ディオン、どこかに留学にでも……?」
 ノエラがおずおずと尋ねると、ディオンは質問の意味がすぐには掴めなかったらしい。きょとんとした表情を浮かべたあと、すぐに破顔した。
「まさか。どうしてそうなるんだ。俺はもう十八だ。留学するならもっと前にしているよ」
 妹をなだめるかのような口調で、ディオンは言った。
「……わからないけれど、なんとなく、そう感じたの」
 ノエラとしては腑に落ちない。
「心配しなくていい。俺たちはこれからもずっと一緒だ」
 何か発言をするたびになだめられてしまうことにばつが悪くなったノエラは、ツンと顎を引き上げた。
「仕方ないわね。お互いの国のためだもの」
 素直になれないのはノエラの性格だった。そんな彼女のこともディオンはよくわかっていた。
「リュカに会っていくか?」
「聞くまでもないわ。当然じゃない。私はリュカのお見舞いに来たのだもの」
 まさかディオンに会いたくて来たと思われたのだろうか、とノエラは顔を赤くする。そんなふうに捉えられてしまうことが恥ずかしいと、彼女は思った。
 しかしディオンは意に介したふうもなく、ノエラの手を取った。悲鳴をあげる間もなかった。
「こっちだ。さっそくリュカのところへ行こう」
 ディオンが強引なのはいつものことだった。けれど、繋(つな)がれた手にも違和感を覚えた。
(こんなに、大きな手だったかしら?)
 しっかりとした骨格を感じられる指先に、ノエラは焦燥感のようなものを抱く。
「ねえ、ディオンったら、私いつまでも子どもじゃないのよ」
「おまえはいつも迷子になるじゃないか」
 と、ディオンは彼女を軽くあしらう。
「それは小さな頃の話でしょう。まだここに何回も来ていないときのことだわ」
 ノエラはむきになって頬を膨らませた。
「そうだったな。子ども扱いして悪かった」
 ディオンは素直に謝り、ノエラの頭をやさしく撫でた。それが子ども扱いだというのに、彼はわかっていない。しかし、悪気がないことは、彼女にはわかる。
 いつもこうしてちぐはぐな二人だが、ずっと仲良くやってきた。これから先もずっとそうだと思っていたのだが。
「そういえば、この間、兄さんの結婚が決まった」
「まあ、そうなの。フランシス殿下にお会いしたら、おめでとうって言わなくちゃだわ」
 ノエラは両手を上品に合わせて、彼の兄の幸福を喜んだ。
「ノエラのお兄さん……ジェレミー殿下も、結婚するんだってな」
「ええ。二番目のロイクお兄様にも婚約の話があるから、おめでたいことが続くわね」
 そう言ってから、ノエラはハッとする。二人目の兄ロイクが婚約をしたということは、同じ第二王子という立場にあるディオンにも婚約の機会が近いということだ。しかしあまりピンとこない。
「結婚か。あまり想像がつかないな。ノエラはどうだ?」
 ディオンが呟く。彼も同じことを考えていたらしい。
「私も、よくわからないわ。でも、それが私たちの務めでしょう」
 そんな話をしながら、ふたりはリュカのいる部屋へとたどり着く。
 訪ねると、リュカはベッドにいた。しかし臥せっているわけではなく、カーテンは開かれ、バルコニーの窓も開け放たれていた。
 夕暮れ時の爽やかな風が心地よく肌を撫でるようだ。リュカの、肩のあたりまで伸びた金色の髪がそよそよ頼りなく揺れている。少し痩せたようにも見えるが、想像していたよりもだいぶ顔色がよく、ノエラはホッとした。
 リュカはノエラの顔を見るとすぐに表情をほころばせた。
「やあ、ノエラ。よく来てくれたね」
 歓迎の挨拶を受け、ノエラはリュカの側に駆け寄った。
「リュカ、元気そうでよかった」
「うん。心配をかけてごめん。だいぶ回復したよ」
「お土産に林檎と蜂蜜のジャムをもってきたの。あとで召し上がって」
「嬉しいな。僕の大好物だよ。兄さん、ノエラを連れてきてくれてありがとう」
 ほのぼのとした会話を眺めていたディオンに、リュカが御礼を言う。
「構わないさ」
 ノエラは首をかしげる。なぜ改まって御礼を言うのだろう、と思ったのだ。彼女の様子に気づいたリュカはにっこりと笑った。
「ああ、実はね。僕がどうしても会いたいって我儘を言ったんだけど、許可されなかったんだ。十六歳の誕生祭を控えているノエラ王女に、万が一にもうつしたらいけないって」
「感染症は大丈夫だって言っていたわ」
「それは兄さんが実験してくれたからだよ」
「実験?」
 意味がわからず、ノエラはまた首をかしげた。
「そう。三週間一緒にここで寝て、伝染(うつ)らないことを確認したんだ。ただの風邪だってわかったから」
「医者にお墨付きをもらったんだから大丈夫だろうとは思っていたが、両国の友好に関わる部分で、陛下もすんなり良しとはしないからな」
 ディオンは肩をすくめてみせた。
 そこまでして会いたいと思ってくれたリュカにも、弟のために力を尽くしてくれたディオンにも感動して、ノエラは温かい気持ちになった。
「元気になったら、今度はパルフェ王国に来て。私の誕生祭には今度は桃のシロップジュースをごちそうするわ」
 ノエラは言って、満面の笑顔を見せる。
「いいね。桃も好きだよ」
 リュカは嬉しそうに頬を赤くする。そして彼は思い立ったように言った。
「誕生祭か。兄さんは婚約者を同伴することになるのかな」
「え?」
 ノエラは耳を疑った。
 今、リュカはなんて言っただろうか。
 婚約者……ノエラはディオンを見た。
「婚約って?」
 ノエラに問われ、ディオンは少し遅れて表情を変えた。
「ああ、そういう話が出たっていうだけだ。決まったわけじゃない」
 大したことじゃないようにディオンは言った。
「どうして言ってくれなかったの。さっき話をしていたときに……」
 なぜだろう。その続きの言葉がうまく出てこない。責めることではないし、おめでたいことであるはずなのに、なぜこんなふうに口走ってしまったのだろう。説明のつかない感情に翻弄され、ノエラは混乱していた。
 申し訳なさそうに、ディオンが眉尻を下げる。
「黙っていたわけじゃないさ。俺たちはそういう運命にあるんだから、不思議じゃないだろう? おまえだって誕生祭には婚約しているかもしれない。ある日、突然という決定だってある」
「そうね。そう、だけど……」
 ディオンのいうとおりだ。なぜノエラがこんなにショックを受けなくてはならないのだろう。王族ならば、当たり前にあることだ。あまり考えたくないことではあるが、国王や王太子に何かがあれば、王位継承権をもつ王族たちは、順に使命を背負うことになる。
 ディオンは第二王子だ。末の王女であるノエラよりもずっとその立ち位置にある。
 当たり前に在ること。解っている。それなのに、もやもやするものが消えない。ノエラは呼吸をするのが苦しくなって、胸のあたりを押さえる。
「どうしたの? ノエラ、胸が苦しいの?」
 リュカが目を丸くし、ノエラの顔を覗(のぞ)き込む。彼女の顔はピンク色のドレスと正反対に青ざめていた。
「違うの。なんでもないわ」
 ノエラはかぶりを振る。それでも胃のあたりがむかむかしてたまらなかった。
「無理はしない方がいいよ。きちんと診てもらわないと。僕が言うんだから間違いないよ」
 慌てふためているリュカをよそに、ディオンがノエラを手早く彼の方へ引き寄せ、そのまま両腕に抱きかかえてしまう。ノエラには反応する暇もなかった。
「は、離して、ディオン。何をするの」
 遅れて出た声は、情けなく震えていた。
 ディオンは動じることなく、そればかりか真剣な顔をして言った。
「旅路の疲労もあるんじゃないか? もうすぐ十六歳の誕生祭なんだから、大事にしないとだろう」
「だ、だからって、こんなお姫様みたいなことしなくたっていいの。ひとりで歩けるわ」
「何を言っているんだ。おまえはお姫様じゃないか」
 今さら、と呆れた顔をするディオンに、ノエラは必死に訴えた。
「そ、そういう意味じゃないの。小さなお姫様っていう話よ」
 しかし彼には意図が伝わらないらしかった。
「ノエラは、俺達にとって大切なお姫様だ。そして大事な王女様だ。なあリュカ?」
 ディオンの言葉にリュカも首を振る。ふたりの王子に視線で制されれば、さすがのノエラも黙るしかなかった。
「……っ好きにすればいいわ」
「兄さん、ノエラをよろしくね」
「ああ。リュカもはしゃぎすぎて熱を出すといけない。休むんだぞ」
「うん。ありがとう」
 リュカは控えめに微笑んで、ふたりに手を振った。
 ノエラはディオンの腕に抱かれながら、リュカの部屋をあとにする。
 力強い腕や、真剣な眼差しを、ノエラは意識しないようにしていた。それは逆に彼女にとって無意識の行動だった。どうしてそうしなければならないのか、ということが彼女自身わかっていないのだ。
「どうなさいましたか」
 王子付きの侍女が慌てて駆け寄ってくる。
「少し診てもらいたい。気分が悪いようなんだ」
「まあ、大変です。すぐに医師を呼びましょう」
 大事になってしまった。大したことないのに。リュカのお見舞いにきたというのに、みっともないといったらない。
(それとも私、本当にどこか悪いのかしら……)
 ノエラは唇を噛んで、ただただひたすら羞恥に耐えていたのだった。


     ***


 ノエラを医務棟に連れていったあと、ディオンはリュカの部屋を再び訪れた。彼女を心配していた弟に報告するためだ。
「兄さん、ノエラはどうだった?」
 ベッドで読書をしていたリュカは、その場で飛び跳ねるかのように背筋を伸ばした。
「ああ、大事ないようだ。おまえにお土産といってもってきた林檎と蜂蜜のジャムを食べていたよ。呆れてしまうな」
 ディオンのその発言は言葉通りのものではなく、妹を愛でるような慈しみにあふれていた。
「いいよ。それでノエラが元気になるなら。緊張して空腹を我慢していたのかも……ノエラって、実はすごくがんばりやさんだから」
 リュカはホッとため息をつく。
「そうだな。気にしていたぞ。リュカが心配しすぎてハラハラしていたら申し訳ないって」
 風が冷たくなってきていた。ディオンは窓を閉めながら言った。
「そういうところだよね」
 と、リュカは笑った。
「じゃあ、俺はいったん公務に戻る。落ち着いたらノエラを晩餐会の席に誘うつもりだ。リュカも会いたければ、明日の朝、体調を見て外に出るといい」
 ディオンは言って、弟の頭をぽんと軽く撫でた。
「うん。そうするよ。居ても立ってもいられないし」
「おまえも無理をするな」
「大丈夫。僕は臆病だから、くれぐれも慎重に行動するよ。ノエラの十六歳の誕生祭に行けなくなったら、一生後悔するし」
「そうだな。特別な誕生日にお祝いをしないとな。落ち着いたら、一緒にプレゼントを考えよう」
 それじゃあ、とディオンが踵を返そうとしたとき、リュカが待って、と兄を引き止めた。
「どうした?」
「あのっ。兄さんは、ノエラをどう想っているの?」


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