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異世界トリップして10分で即××された話

えに志田 / 著
猫乃森シマ / イラスト
定価 1,320円(税込)
発売日 2024/12/13

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  • piccoma

内容紹介

恋人だと思っていた男にこっぴどく振られたユウタは、突然全く見覚えのない部屋のベッドの上に落下した。さらに「恥ずかしいの? 可愛いなあ」男娼だと勘違いした騎士団副団長のライナスに迫られてしまい!? 違う世界からやって来たと言うユウタに、ライナスはお詫びに正体を隠して騎士団内で働くことを提案する。ユウタは気の置けない同僚や友人に囲まれ充実した騎士団での日々を過ごしていた。しかしそんな彼に対するライナスの様子は段々おかしくなってきて……!? 「君のここ、とっても素直でいっぱい溢れてきて可愛い」共に入浴したときに誘われて以来、淫靡な触れ合いをする毎日で――!? ヤンデレワンコ系騎士×平凡な異世界人の甘やかされラブ!

人物紹介

ユウタ

恋人だと思っていた男にフラれて傷心の中突然異世界トリップしてしまう。とある事情から、ライナスの保護を受ける。

ライナス

突然やって来たユウタを男娼だと勘違いしてしまったお詫びに、ユウタを保護する。ユウタへの執着が段々おかしくなり…!?

立ち読み

「俺達、別れようぜ」
 ベッドの上でタバコに火をつけた男に、俺は目を見開き、素(す)っ頓(とん)狂(きょう)な声を上げた。怠(だる)い体にムチ打ってうつ伏せの状態から、隣の男を見上げる。鍛えられて引き締まった彼の上半身越しに、窓の外がとっぷりと暗くなっているのを知る。
「え……? わ、別れるって、なんで……? なんで、急に、そんなこと」
「なんでって、俺、県外の大学行くし。来週早々には引っ越すよ」
「……県外って言っても、隣の県じゃん。会いに行けない距離じゃないよ、孝(こう)輔(すけ)先輩」
「……大学入ったら、サークルとかバイトしようと思ってるから、時間取れねえ」
「でも、一年後には俺も同じ大学行けるし、そしたら」
「ハァ? 大学まで追いかけてくるつもりかよ!? きっしょ、ストーカーかよ」
「……ッ!」
 孝輔は、どこか中性さを感じさせる顔をしかめた。不快感が前面に押し出ている。芸能人みたく整った顔ですごまれ、迫力は凄まじかった。俺は息を呑(の)み、びくりと体を震わせた。
 男はふう、と煙を吐き出しながら、乱雑に頭を掻(か)いた。面倒くさい、とばかりに眉(み)間(けん)にしわが寄っている。体を起こす。バックから乱暴に尻穴を突かれたせいで、下半身がピリと痛んだ。
「……つーか別れようって言ったけど、そもそもの話、俺ら恋人じゃねえだろ。なに彼氏ヅラしてんだよ」
「え……」
「なに、その初耳です、みたいな顔」
「は、初耳だよ! だって先輩、告白したらOKしてくれたじゃん!」
「あ~……男の体がどんなもんか興味があったからな」
 目を見開いたまま愕(がく)然(ぜん)として言葉を失う俺を、孝輔はせせら笑った。
「まじで付き合ってると思ってた? 俺ら、一回もデートとか恋人らしいことしてないのに? ヤる時しか会ってなかったじゃん。おかしいと思わなかった?」
「……それは、学校の奴らに知られると面倒だから内緒にしてよう、って先輩が言ったから……」
 先輩が卒業したら、こうしてこそこそせずとも会ってデートできるって思っていたのに。
「ハハ、まじで。あんな戯(たわ)言(ごと)信じたのかよ。頭の中、とんだお花畑じゃん」
「……っでも、料理とか作ってもちゃんと食べてくれたじゃん!」
「食いモンに罪はねえから食うだろ。一人暮らしだから出来合いのもんばっかだと飽きるし。それに優(ゆう)太(た)、料理の腕は確かだったし」
 孝輔の言葉はまるで鋭利な刃物のように、俺の心をズタズタに引き裂いた。さっきまでベッドの中で、口の中が唾(だ)液(えき)まみれになる程の激しい口づけをした、形の良い唇で。好きな人と体を重ねて、気持ち良くて天にも昇るような幸福で満たされていたのが、ゆめまぼろしだったかのようだ。
 視線を落とし、腿(もも)の上に置いた拳(こぶし)をぎゅうと握る。涙がこみあげてくるのを必死でこらえる。
「なに、泣いてんの?」
「……煙が、目に染みるだけだし」
「あ~あ、かわいそうな優太。泣くくらい俺のことが好きなんだ」
 孝輔が顔を覗(のぞ)きこんでくる。意地の悪い笑みを浮かべているが、それでさえ様になっていて、見(み)惚(と)れてしまう。下唇を噛んだまま、睨(にら)みつけるように真正面から見つめ返した。
「そんなら、今の関係を続けてもいいぜ」
 まさかの提案に、目を丸くする。さっきは別れようと言っていたのに、意味が分からない。酷(ひど)いことを言われているのに、かすかな期待と嬉しさが全身に広がる。
「飯はうまいし、体の相性も悪くねえしさ。つかぶっちゃけ、優太も絶対性欲を持て余すだろ? 毎週俺に抱かれてたんだからさ」
 せっかくだからもう一回やっとく?
 大きくて筋張った手が腿の上をいやらしく這(は)い、手首を掴む。瞬間、浮ついた気持ちは消え、激しい怒りが全身を焼いた。
「ふざけんな! 死ね、クズ野郎ッ!」
 俺は手を振り払い、孝輔の顔面に渾(こん)身(しん)の一撃をお見舞いした。鼻にモロに入り、小枝が折れるような感触が拳に伝わる。痛みに悶(もん)絶(ぜつ)し顔面を手で覆う孝輔をよそに、急いで身支度を整え、彼の家を飛び出した。春になりつつある、生ぬるい風が吹く夜の中、カバンを胸に抱えて走る。追いかけられて殴られるかもしれない、と思って、あちこちを曲がって、息の続く限り走った。
「あっ!」
 足がつんのめり、体が傾く。地面に顔面から激突しそうになり、慌てて手を突いた。カバンが落ちて転がる。手のひらがじんと痛んで、擦(す)りむいたのが分かった。靴が片方脱げて、少し離れたところに転がっている。
 辺りはしんと静まり返っていた。どうやら住宅街に辿り着いたらしい。
 アスファルトの地面に水滴が落ちる。雨でも降りだしたのかと思ったが、すぐにそれは自分の目からこぼれる涙だと気づく。目の周りが燃えるように熱い。
「は、はは……」
 口からは乾いた笑いが出た。
 全部、分かっていたことだった。先輩が自分のことを好きではないことくらい。
 孝輔とは、高校一年生の時に友人を通じて知り合った。友人の兄の友達が彼だったのだ。孝輔は校内でも屈指のイケメンだとの評判で、彼のモテっぷりを俺も耳にしていた。童貞を捨てたのは十歳だとか、今までに何百人もの女を抱いたとか、まことしやかな噂まで。
 実際校内を歩くだけで、その場にいる女生徒の目がハートになっているのを何度も目にした。早くから男しか好きになれないことを自覚していた自分も、その一人だった。さすがにあからさまに態度に出すことはなかったものの、密(ひそ)かに好意を抱いていた。友人の兄がブラコンだったせいか、友人と遊ぶと孝輔たちとも一緒につるむのが多くなっていった。
 好意を悟られまいと、わざとつんけんした態度で孝輔に接した。それが逆に面白かったらしい。孝輔は一人っ子だったから、生意気な弟ができた気分でいたのかもしれない。
 優太お前、猫みたいで可愛いな、って笑いながら言われた時は、あまりの格好良さに心臓が爆発してしまいそうだった。
 優越感を感じていた。そこらの女は簡単に孝輔に近づくことはできないが、自分は自然と隣にいる。凡(ぼん)庸(よう)とした顔立ちの自分がグループの中にいることに、女生徒から妬(ねた)まれることは多かったが、ちっとも気にならなかった。
 だが、だんだんと恋愛感情を抑えることが難しくなってきた。一緒にいる時間が増えると、どんどん好きになっていく。しまいには無意識に好きと口走ってしまいそうになった。好きすぎて狂いそうになって、ついに告白した。元より付き合えるとは微(み)塵(じん)も思っていなかったので、気持ちを伝えて振られて諦めよう、という思いの方が強かった。
 だが予想に反して、孝輔は想いを受け入れてくれた。天にも昇る気持ちだった。だから、彼の望むことは何でもしてやった。合鍵をもらって、部屋の掃除洗濯は当たり前、料理もしょっちゅう作ってやった。了承をもらって三日後には、体を開いて受け入れた。慣れないうちは痛くてたまらなくて、行為の後こっそり吐くこともあった。だけど誘われて、必要とされてることが嬉しくて、苦痛も全て我慢した。中出しだって、翌日腹を下すから嫌だったけど、許した。
 どうしようもなく、好きだったからだ。キスも、セックスも、何もかも孝輔が初めてだった。
 でも、本当は気づいていた。孝輔の気持ちが自分には向いていないことに。都合よく使われているに過ぎないことに。
 孝輔の部屋に、明らかに長い髪の毛が落ちていることがしょっちゅうあった。甘い香水のような残り香(が)も。予定があるからと誘いを断られた日に、女の子の肩に手を回して歩いているのを街中でよく見た。
 ちゃんと気づいていたのに、自分で自分に目隠しをしていた。むしろ女の子と違って頑丈だから、少しくらい乱暴に扱ってもいいよ、って自分で自分を安売りした。少しでも長く好きでいてもらえるように努力したのだ。
「はは……っ、俺って、ほんと……みじめ……。救いよう、なさすぎ……笑える」
 今日初めて面と向かって言われて、ようやく現実と向き合えた。
 初めから分かっていたのに。孝輔が最低な男であることくらい。それでもいい、と傍(そば)に居続けたのは自分だ。自分の愚かさ加減に吐き気がする。
「もう、……消えたい……! 消えて、いなくなりたい……っ!」
 地面にうずくまり、嗚(お)咽(えつ)を漏らしながら、そう呟(つぶや)いた。
 その瞬間、地鳴りが轟(とどろ)いて、アスファルトに巨大な穴が開いた。かくん、と体が支えを失う。え、と思った時には遅く、俺の体は穴の中へと吸いこまれた。

 ***

 俺は悲鳴を上げて真っ暗闇の中を落下していたが、それはすぐに終わった。何か弾力のあるものの上に、背中から着地した。相当な高さから落ちたように思えたのだが、着地の衝撃は軽いものだった。
 素早く体を起こして、周囲を確認しても状況を把握できなかった。俺がいるのは、大きなベッドの上だった。勉強机に本棚、クローゼットの備えられた部屋の中にいるようだった。
「え……どこ、ここ……」
 口から混乱の言葉が漏れる。自分は道端にいたはずだ。なのに、今はどこか分からない室内にいる。
 え、死んだ? 俺、車か何かに轢(ひ)かれた?
 微(かす)かな痛みを感じて手のひらを見ると、擦りむけて血がにじんでいた。足がもつれて転んだところまでは実際に起きたことのようだった。
 まるで時が止まってしまったかのように動けないでいると、突然扉が開いた。その音に我に返る。見れば、大柄な男が入ってきた。
 明るい薄茶色の髪を短く刈り、目尻が大きく垂れた瞳は澄んだ緑色だった。なで肩で、首が太い。ファンタジーの世界に出てきそうな妙な服を着ていて、その上からでも筋肉がしっかりついているのが分かった。
 明らかに日本人とは程遠い容貌に、更(さら)に混乱に見舞われた。声も出せずに固まっていると、男はベッドの上にいる俺を目にして、ぱあっと表情を輝かせた。垂れ目のせいで元より柔和な顔が、笑うことでより優しそうな顔になる。
「もう、来てくれてたんだ」
「は」
 男は後ろ手でドアを閉め、腰に差していた二本の剣を壁に立てかけた。その剣を二度見した。コスプレやおもちゃなんかでよくある模造のものではないように思えた。鞘(さや)や柄(つか)にはところどころ傷や汚れがあり、日常的に使用しているように見えた。
「わ、僕好みの子が来てくれて嬉しいな。待たせちゃって、ごめんね。部屋で待っていたんだけど、急に呼び出しを受けちゃって」
 待って、待って。一般人じゃないだろ、この男。あんな物騒なもの、銃刀法で禁止されてる! ヤクザか? でもどう見ても日本人には見えないから、マフィア? 俺、拉(ら)致(ち)されたのか!?
「僕の部屋、何も面白い物ないから、退屈だったでしょう? 本当に、ごめんね」
 男がベッドの上に乗り上げてくる。体格や顔立ちと違(たが)わず、声も柔らかで喋(しゃべ)り方がおっとりとしていた。男の肌は陶器のように白くて、頬(ほお)がぽっと紅潮していて、無(む)垢(く)な赤ん坊のようだった。
 大きな手が俺の頬を撫(な)でる。手のひらがぬくい。手はそのまま胸へと下がり、俺の着ている制服にかかった。卒業式を翌日に控え、在校生である俺は卒業式の練習のために学校に行っていた。その後孝輔の家に直行したのだった。
「変わった服を着てるんだね。それとも、これが今の城下の流(は)行(や)りなの?」
 さっきから男の言っている意味が分からない。
 自分はこの男を待ってなんかいないし、ベッドに着地したのもついさっきだ。なのにまるで自分を待っていたかのような口ぶりだ。それに、ジョウカとは何だろう。もし城下のことであれば、ますます困惑する。自分の住む市や県に城などないし、現代でそんな表現をするのも変だと思った。
「むう……ボタン小さくて外しにくい。……ごめん、服代の弁償分も上乗せするね!」
「え?」
 矢(や)継(つ)ぎ早(ばや)の男の発言の意味を理解しかねていると、突然制服を破かれた。シャツのボタンがスローモーションで吹っ飛んでいくのが見えた。
「ちょ……!」
「ごめん、ごめんねっ。乱暴はしないから……」
 もう既(すで)に乱暴してるだろ! と喉(のど)元(もと)まで言葉が出かけたが、眉を八の字に垂らして必死に謝罪する男に、俺は自然と唇をひき結んでいた。男の頭上に犬耳が垂れているように見えたのだ。キュゥーン、と犬がしょげるような効果音つきで。もちろん、実際にそんなものはない。
 たじろいでいる間に、下着もろともズボンまで脱がされた。素肌が外気にさらされる。
「な、何するんだよ!」
「恥ずかしいの? 初(う)心(ぶ)なんだね。可愛いなあ」
 突然素っ裸にされて、さすがに声を張り上げる。体を丸め、両手で局部を隠す。覆いかぶさるような体勢で、男はにこりと笑った。
 初心だと言われて、カッと顔が熱くなる。いきなり服を剥(む)かれた側としては、自分の反応は当然のことだと思うのに、なぜだか羞(しゅう)恥(ち)に見舞われる。
 薄々、自分がこれから何をされるか理解していた。孝輔とあんなことがあって、そんな気分になれない。そもそも好きでない男とセックスするなんて、まっぴらごめんだった。
 だが、男の正体も現在地も状況も分からない状態で、どうすればいいのか分からなかった。逃げることも考えたが、視界の端にちらつく剣に体が竦(すく)む。
「こっちは、隠さなくていいの? 可愛い乳首が丸見えなのに」
「っひ……!」
 指で剥き出しの乳首を軽く摘(つ)ままれただけで、下半身に快感が走る。少し前まで孝輔に抱かれていたせいか、感覚が酷く過敏になっている気がした。
 少し触られただけで反応したことに男は嬉しそうだったが、その表情が一変して曇(くも)った。
「これ、精液?」
 尻穴に触られたかと思うと、男の指には白い液体が付着していた。孝輔の精液だ。掻き出す暇(ひま)もなく飛び出したから、中に入ったままだ。
「僕が戻るのを待ちきれずに、誰か相手にしてたの?」
 そう言って男は俺を抱き上げると、奥のドアを開けた。中はシャワールームで、床の上に座らされた。
 怖い。いよいよあの剣で斬(き)り捨てられるのだろうか。血の処理が面倒だから、バスルームに移動させられたのかな。
 男の機嫌を損ねてしまったのはなんとなく理解できていたので、体が震えだす。後ろを振り返ることができずに俯(うつむ)いていると、頭から湯をかけられた。驚いて、肩がすくむ。振り返ると、男は湯が出ているシャワーヘッドを手にしていた。
「……待たせた僕が悪いけど、後処理くらいは済ませてほしかったな」
 大型犬のような表情とは打って変わって、眉間にしわが寄った険しい顔をしている。声も機械のように淡々としていて、恐怖を覚える。男の妙な迫力に、事情を説明することなどできそうになく、俺は謝るしかなかった。
「ご、ごめんなさい……」
「中、綺麗にして。体も洗って」
 出て行ってくれるのかと思ったが、男はその場から微動だにしなかった。監視の下、洗えと言うことらしい。拒否権などなく、恐る恐る石(せっ)鹸(けん)に手を伸ばした。後処理をしている間、背中を向けてはいたものの、男の視線が注がれているのが分かった。まるで舐(な)め回すかのように、蛇(へび)のように全身を這う。人前で精液を出すのは、酷くみじめで死にたいくらいに恥ずかしかった。
 体の泡を洗い流し終わるなり、後ろからタオルでくるまれ担ぎ上げられた。ベッドの上に落とされ、男がのしかかってくる。足を大きく広げさせられ、カエルがひっくり返ったような体勢にされた。
「次からは、そんなことしちゃだめだよ。誠意を持って臨まないと」
 今から自分を犯そうとしているのに、どの口が誠意とか言うんだよ。
 体を洗ったことで機嫌が直ったのか、男はにこにこと笑みを浮かべていた。彼が服を脱ぐ間、自分で塗って、と潤滑剤を手渡された。せめてシャワールームでしたいな、とは思ったが、服を脱いだ男の体を見て、大人しく従うことにした。
 アメコミ映画のヒーローみたいに筋(きん)骨(こつ)隆(りゅう)々(りゅう)だった。抵抗したが最後、剣などなくても、握力や腕力だけで殺されてしまいそうだと思った。
 足を開いた状態のまま、二本の指に潤滑剤を纏(まと)わせ、尻の中に丁寧に塗りつける。孝輔とする時も、自分で準備させられていた。彼自身にするつもりがないのを見て取ったから、自分でやるしかなかった。
 やっぱり、孝輔はクズだ。でも求められるのが嬉しいから、とそれに順応した自分もバカだ。どっちもどっちで、孝輔だけを責めることはできない。
「ひっ……!」
 中を解(ほぐ)すのに夢中になっていると、股(こ)間(かん)に性器を擦りつけられた。その長さと太さに、悲鳴が喉をついて出る。体格に比例してか、孝輔のよりもずっと大きかった。今からその化け物を入れられるのかと思うと、恐怖で血の気が引く。
「……怖い?」
 垂れ目の男が顔を覗きこんでくる。彼の長大なチンコから目を離せない。けれども本当に怖くて、俺は小さく頷(うなず)いた。涙まで浮かんでくる。
「あんまり経験ないんだね。可愛いなあ。大丈夫だよ。優しくするからね」
 そう言う男は蕩(とろ)けるように笑った。
 硬い熱の塊(かたまり)が中を押し広げていく感覚に、俺は歯を食いしばっていた。
「ん、ぅく……っ」
 それでも、呻(うめ)くような声が思わず漏れてしまう。きつく閉じた目の隙(すき)間(ま)から涙があふれた。言葉通りゆっくり挿入してくれているおかげで痛みはない。でも圧迫感がすごく苦しくて、恐怖はある。
 孝輔に振られたその日に、知らない男とセックスをしている。コンドームもなしで、生で犯される。
 なんでこうなったんだろう、と考えるだけで悲しかった。
「苦しい? ごめんね? でも、全部入ったよ」
「……う、うそっ……」
「本当だよ、ほら」
 頭を起こして結合部を見れば、彼の言う通りに二人の下半身がぴったりとくっついていた。どくんどくん、と自分の中で男の性器が脈打ってるのが分かる。
 本当にあの巨根を受け入れたのか、すごいな自分。なんてまるで他人事のように思った。
「熱くて、ぎゅうぎゅう締め付けてきて、すごく気持ちいいよ。動くね」
「……ぁ、ま、待って……!」
「大丈夫、いきなり激しくはしないよ~」
「ぃ、あ……ッ!」
 こちらの制止をやんわりと無視して、男は腰を動かし始めた。中に埋まっている陰茎がずるりと引き出され、再び戻って来る。それだけで、脳天を突くような衝撃が走った。一瞬何が起こったのか分からなかった。だが、男がもう一度動いて、その衝撃が快感であったことを知った。
 前立腺を嵩(かさ)のある部分が掻くように出て行き、亀頭が奥の弱い部分を刺激する。まるで全身に電気が走るようだった。孝輔とのセックス以上に大きな声が出てしまう。
「……あ、んァッ……あ、は……!」
「気持ちいーい? もう少し激しくしても大丈夫かな……?」
 抽(ちゅう)挿(そう)が激しくなって、俺は髪を振り乱しながら喘(あえ)いだ。自分の身に起こっていることに困惑する。
 何これ! 何だよこれ! 知らないっ。こんなに気持ち良く、なったことないっ!
 体験したことのない快感だった。孝輔とのセックスも気持ち良かったが、たまに乱暴にされて痛みを感じることもあった。それなのに今、彼のよりも大きな屹(きつ)立(りつ)を受け入れて、苦しさや痛みを感じるどころか、これまでで一番と言って良いくらいの快楽が絶えず襲ってくる。
「……あ、ぁ……おく、あた……っ、あたって……え、ぅ!」
「奥? 奥突かれるの好きなの? じゃあ、もっとたくさんしてあげるね」
「や……! だ、めっ……やぁ、アあ……っ!」
 腰を大きな手で抱えられて、ねちねちと奥ばかりを責められる。元気なく萎えていた自分の性器も、いつの間にか勃(た)ち上がって、男の動きに合わせてゆらゆら揺れている。
 自分の尻と男の下腹がぶつかる度に、高い音が響く。結合部では潤滑剤がぶちゅぶちゅと泡立っているのが、見なくても分かる。
「手……どうしたの? 中出しした奴に、乱暴されたの?」
 ベッドの上に投げ出していた手を取られ、擦りむいた部分をまじまじと見られる。その間も男の腰は動いている。
「酷いことするなあ。かわいそうに」
 喘ぐばかりで答えられずにいると、ベロリと舐められた。擦りむいた部分を丹念に舐められ、口づけを落とされる。ピリッとした痛みが走るが、それすらも快感に置き換わってしまう程、俺は自分の体がおかしくなっているのを感じた。
「や、そこ、やぁっ、も、……つか、突かな、っでぇ……っ!」
「……えー? でも気持ち良さそうだけど……」
「もっ、おが、おかしく、ぅっ……な、ぢゃっ……あ!」
 恥もプライドもかなぐり捨て、激しく泣きじゃくりながら男に懇(こん)願(がん)した。過度の肉体の悦(えつ)楽(らく)に、気が狂ってしまいそうになる。口からは飲みこみ切れなかった涎(よだれ)が垂れ、きっと見るも無(む)残(ざん)な顔になっているだろうと思った。
 必死の訴えを受けてか、男の動きが止まる。安(あん)堵(ど)するも、すぐには涙は止まらなかった。ひっく、と喉が引き攣(つ)る。顔に影が差す。なんだろう、と目を動かせば、男がにこにこ笑いながら顔を近づけてくる。額には玉のような汗がにじんでいた。
 睫毛(まつげ)も、髪色と同じ色をしている。瞬きをする度に、長いそれがバサバサと上下する。
 朦(もう)朧(ろう)とした頭でそんなことを考えながら、男の整った顔面を眺めていると、どんどん近づいて来て、やがて唇に柔らかいものがあたった。上下の唇をそれぞれ優しく啄(ついば)まれる。まるで壊れ物に触れるかのような繊細な口づけが心地良い。やがて、唇の隙間にお伺いを立てるように舌先を差しこまれた。バードキスが気持ち良かったので、入れてもいいよという意味で口を少し開ける。見ず知らずの男とのキスでそんなことを思うなんて、頭がどうかしている。
「……んぅ、ン……っ」
 意図はしっかりと伝わったようで、すぐに口の中が舌でいっぱいになった。孝輔としか経験がないながらも、キスが上手だな、と思った。丁寧で優しくて、自分勝手じゃない。まるで恋人のように指を絡(から)み合わせた状態で、両手がシーツの上に縫(ぬ)いつけられる。
 キスって、こんなに気持ちが良いんだ。舌を甘く吸われる度に、下腹部がきゅうと疼(うず)いた。
「ん、はぁ……ぁぐっ!?」
 口づけが終わって唇が離れた途端、どすんと奥を貫かれて、俺は目を見開いた。再び激しい快楽の渦に呑まれる。
「キス、気持ち良かった? 僕のに、中が吸いついてきて……たまらないっ」
「ア、あぁっ……やだ、もう、ぅ……っ! しぬっ……死んぢゃ……」
「ふふ、大丈夫、だよ。人って意外と、頑丈だから……」
 あんたはそうかもな! そんな体してたら、そら頑丈だろうよ! でも俺は違うの!
 短く息を吐きながら笑う男を、鬼畜だと思った。怒りすら湧いてきて、尻穴を力の限り締めた。
「うっ……!」
 途端に男が短く呻いて、動きを止めた。繋いでいた手が離れて、彼は背筋を正すと天を仰ぐように細く長く息を吐いた。まるで射精するのを我慢しているように見えた。俺の尻の締め付けがよっぽどキツかったらしい。
 このまま締め付けたら、イッてくれるかも……!
 激しく乱れる呼吸をどうにか落ち着けようとしながら、早く終わってほしい一心で、俺はお尻に力を入れた。
「ん、んぅ、ぅ…っ」
 力の限りに締め付けるんじゃなくて、緩急もつけて太いペニスを扱(しご)く。体内でビクビク震える熱の塊に、男が気持ちいいと感じているのが伝わってくる。
 この調子で──……。
「やっ、ァ……ッ!?」
 俺は懸命に腰をくねらせていたのだが、唐突に両手で掴まれた。え、と思う暇もなく、ペニスに一番奥を貫かれた。その衝撃に、一瞬呼吸が止まる。
 腰を掴まれているせいで、男の陰茎が根元まで入ってくる。彼の恥(ち)骨(こつ)が俺のお尻にあたっている。男はその状態で、円を描くように腰を動かした。
「……あッ、は、ァ、……ゃあ、アゔぅ……っ!」
「ああ、本当に気持ちいい……。中がうねって、すごく上手に僕のをしゃぶって……」
 奥の弱いところを亀頭でこねくり回されて、俺はたまらず体を仰(の)け反(ぞ)らせた。涙で歪(ゆが)む視界に、俺のチンコから先走りが流れるのが見えた。
「さすがに余裕なくなってきちゃったなあ。理性、ぶっ飛んじゃいそう……」
 泣きながらも、どうしようもなく感じてしまっている俺を、男が髪をかき上げながら見下ろしてくる。頬はさっきよりも紅潮して、目尻の垂れた優しそうな緑の瞳は猛獣のようにギラギラしている。極めつきには、赤い舌で唇をペロリと舐めた。
「……や、ゃ…ぁっ、だめ、ぇう……っ!」
 腰を拘束する腕を剥(は)がそうと手を伸ばすも、逆に掴まれて、またベッドの上に縫いつけられてしまう。男の律動はさっきよりも激しさを増した。パンパンと高い音が立つくらいに腰を打ちつけられている。
「……っ。もう、出すよ」
「……ぃあ、ぁっ、あァ、あ……―……っ!」
 ひと際奥に押しこまれると同時に前立腺をくじられ、俺も悲鳴のような嬌(きょう)声(せい)を上げて達した。自分の中で何かがバチバチとスパークする。頭の中が真っ白だ。中出しされるのが分かって、反射的に繋いだ手を握りしめる。
「っはー……気持ちいい……」
「……う、ン……うぅ……」
 残(ざん)滓(し)すら余さず中に注ごうと、男がゆるゆると腰を動かす。絶頂の余韻が続く体が小さな刺激さえ拾ってしまい、気持ち良くて逆に辛い。
「ふう、最高だったなあ。……もう一回どうかな?」
 額の汗を拭(ぬぐ)う満面の笑みの男に、戦(せん)慄(りつ)した。
 またあれをもう一回だなんてとんでもない! 既にこっちは孝輔とも複数回やっているのだ。体力も限界なのに、もう一度あの強烈な快楽に突き落とされたら、本当に腹上死してしまう!
「……ゃ、やだ……むり、むり、ぃ……!」
「えー……駄目? 君も気持ち良かったでしょう?」
「しぬっ、……しんじゃぅ……っ」
 疲労のあまり指一本すら動かせない状態で、俺は泣きじゃくった。駄目? と懇願する男に、必死で頭を振る。
 けれども一向に男が陰茎を抜く気配が見られない。尻の中で変わらぬ硬度を保つ凶器が恐ろしくてたまらなかった。
 押し問答が終わらない状態で、自分の意識が遠のいていくのが分かった。今置かれている状況から逃避したくて、抗(あらが)うことなく、その波に身を任せる。
「ごめんなさい、遅くなりました! 道に迷っちゃって……」
「え、君が約束の子? …………この子、誰?」
 薄れる意識の中、妙な会話を耳にしたが、そのまま目を閉じた。
 どうか夢でありますように。次に目が覚めた時は現実に戻っていますように。


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