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諸事情により預かった近所の金髪碧眼の美少年がヤンデレ科ヤンデレ属に属する立派なヤンデレ美青年へと成長した結果、食べられたが夫夫となり幸せになった件について!2

宝楓カチカ / 著
NOUL / イラスト
定価 1,320円(税込)
発売日 2025/05/09

内容紹介

琉笑夢の重すぎる愛に手を焼くものの、晴れて恋人同士となった春人。琉笑夢の芸能界での仕事ぶりを知った矢先、琉笑夢と明らかに彼を狙っているアイドルとの熱愛記事が出る。記事を見ても嫉妬のかけらも見せない春人に痺れを切らし、ついに琉笑夢が限界を迎えて――…「ごめん、春を手放せない。死んでも無理だ」愛の重さとかたちの違う二人は、共に生きる道を見つけられるのか?

人物紹介

春人

平均平凡なサラリーマン(27)。かつて実家で預かった美少年に懐かれたのが運のツキ……?

琉笑夢(るえむ)

モデル・タレントとして人気急上昇中の19歳。なんでもそつなくこなすが、春人のことだけには冷静でいられなくて……。

立ち読み

『家、行ってもいいか?』とメッセージを打てば、思いのほか早く既読がついた。
 そして数分後に、二週間微動だにしなかったスクロールバーがちょっと動いた。

 琉笑夢(るえむ):くんな

 と思ったら一刀両断……あの野郎、それで終わりかよ。
 そっちがその気ならと、春(はる)人(と)の行動は早かった。仕事終わり、すれ違う会社員になんだなんだとチラ見されるくらいの早歩きで会社を出る。
 一旦家に戻り着替えてから買い物を済ませ、目的地へと向かった。
 カードケースの中に、あのシルバーのカードキーを携(たずさ)えて。

 初めて使ったカードキーは、簡単だった。
 センサーにキーを翳(かざ)し読み取りを行う。当たり前だがすぐに玄関の扉が開く。
 琉笑夢が不在かどうかはわからない。聞いていない。いたらいたで話し合いができるし、いなかったら仕事で疲れて帰ってくる琉笑夢を出迎えてやるつもりだった。
 持参したのは、琉笑夢の好物のシュークリーム。
 銀座などの有名店のものではないのだが、子どもの頃によく買ってやったチェーン店のものだ。
 琉笑夢が遊びにくる日は決まって母親がこれを用意していた。家に帰り冷蔵庫にシュークリームがでんと入っていれば、「ああ今日は来るんだな」なんて思ったものだ。
 しかも今回のは、馴染みのシュークリームよりも三十円ほど高い。
 ブドウの話題も出たことだし、季節限定のマスカットシュー。春人にしてはちょっと奮発した。
 琉笑夢が出てきたら、まずはこの箱を押しつけよう。「土産、冷やしとけ」なんて言って。たぶんシュークリームを受け取ったまま「は?」って顔で立ち尽くすだろうから横をすり抜けて部屋に入って、どっかりソファに座ってやろう。
 左隣に一人分のスペースを残して。いつも、琉笑夢が座る位置だから。
 また「春見てると狂暴な気持ちになる」とかわけのわからないことを言いだして襲われかけたら、今度こそブン殴る。四の五の言わずに、ブン殴る。「おまえのせいで三日間ぐらい会社の椅子に座んの大変だったんだぞケツ痛くて!」って文句の一つや二つや三つ以上は言ってやる。
 ……でももしも、出ていけって言われたら?
 そこは考えないようにした。
 勇んで取っ手を掴んだ手が、指が、震えている。緊張を薙(な)ぎ払うために、おりゃ! っと勢いよく引いた。
 ──なので。脳内のシミュレーションとは異なる光景が目に飛び込んできた時には、全く反応ができなかった。
「……え、誰? コンシェルジュの方?」
 まさか琉笑夢以外の人間に出迎えられることになるとは。
 玄関先に、びっくりした顔で立っているのは見覚えのある顔だった。とは言っても一方的に彼女を知っているのは春人の方で、彼女は春人を知らないだろうけれども。
 この前テレビ画面の中で、歌舞伎町のホストに無理矢理唇を奪われていた男運の悪いヒロインがそこにはいた。
「違うよね。ええっと……受付通って入ってきたんですか? そんなの聞いてないけど……」
 春人も内心で若干狼狽(うろた)えつつ、言葉を濁した。
「あーその……オレは」
 女性のびっくり顔が徐々に警戒心に満ちたものへと変わっていく。見知らぬ不審者を見る目だが、春人にとっての不審者は相手の方だ。
 どうして琉笑夢の部屋に、他人がいるのか。彼女と琉笑夢の関係がわからなくて、次の言葉が出てこない。これはどう答えるのが正解なのか。
「なん、で」
 女性の後ろから顔を覗かせた甲斐性無しも、同じくらい唖然とした顔をしていた。急いた様子で玄関先まで出てきた彼に女性の顔がぱっと輝き、さっと彼の後ろに隠れる。
 シャワーを浴びてきたばかりであろうその姿に、一瞬で、様々なことが頭の中を過(よぎ)った。
(……は? どういう状況だよこれ。夜にアイドル家に呼んでお泊まりとかこれスクープだろ。つーかおまえオレ以外で勃たなかったんじゃないんかい。あれ嘘かよ)
 あれ。もしかしてこれ、修羅場ってやつか?
「──驚いた。どうしたんですか鈴(すず)木(き)さん、こんな時間に」
 と思ったら、琉笑夢の顔が一瞬で外用のそれに切り替わった。
「えーなんだディディの知り合い? びっくりしたぁ、泥棒かと思っちゃったよ」
「違うよ。心配しないで。この人は大丈夫だから」
 腕に引っついてくる女性をさりげなく振り払いながらにこやかに笑う琉笑夢に、ゆっくりと、固く引き結ばれかけた緊張が解けていく。
 これは、もしかしなくとも。
「あー……近く寄ったんで、大丈夫かなと思って。すみません、夜分遅くに突然」
 春人も社会人としての顔を取り繕って二人に向き直る。
 突然の女性の出現に、自分もだいぶ平静さ欠いていたようだ。そして落ち着いた気持ちで改めて周囲を観察すると、足元には大量の靴が放り投げられている。しかもほとんどが置きっぱなしでシューズクローゼットに収納されてもいない。
 まるで、酔っぱらいが突然家に押し掛けてきたような惨状だ。それに。
(めっちゃイライラしてんな……)
 琉笑夢の微(ほほ)笑(え)みの下に、とぐろをまくような苛(いら)立(だ)ちが潜んでいる。
 彼女がここにいるのにも、何か事情がありそうだ。
 とはいえ、近い距離の男女に内心穏やかではなく、「人が来てるとは思ってなくて。すみません帰りますね、また伺います」と頭を下げて足早に立ち去ろうとしたの──だが。
「え、待って」
 引き留めてきたのは、琉笑夢の隣にいる女性の方だった。
「すぐ帰っちゃうんですか? せっかくだから上がってってください。ね? いいよね、ディディ」
 琉笑夢はうんとも嫌だとも言わない。ただ「ええ?」と困ったように笑っている。
「あーその、お誘いは有難いんですけど……」
「だって知り合いなんでしょ? みんなも盛り上がってきてるから大勢いた方が楽しいと思うし……ね、早く早く!」
 意外にも女性の押しが強い。ぐいぐいくる。
 どうするべきか迷ったのは、琉笑夢のことが気になったからだ。
 苛立っているのもそうなのだが、それ以上に酷く疲れた顔をしている。もしかしてちゃんと寝ていないのではないだろうか。よく、「春が傍にいてくれないと眠れない」とか嘆いてたし、こんな状態の琉笑夢を一人残して帰ってもいいのかとしばし逡巡(しゅんじゅん)する。
「……じゃあ、お言葉に甘えて。失礼します」
「うん、どうぞどうぞ!」
 結局、ニッコリと春人を招き入れてくるヒロイン役の子に若干引きつつも、少しの間だけ部屋に上がることにした。
 まさかの展開に、笑みが凍りついている家主は放っておく。
 数分でもいい。琉笑夢ときちんと顔を合わせて話がしたい。


 部屋に、テレビでも見たことのある華やかな顔が四、五人揃っていて驚いた。
 琉笑夢に、芸能界の友達がこんなにいたなんて。
「え、一人増えるとか聞いてないけど?」
「業界関係者……いやまさかなぁ」
 スーツではなく着の身着のままというラフな格好の春人の登場に、「誰?」とざわめきが広がる。
(そうなるよな、明らかに芸能関係者じゃねぇし)
「ううん違うの、ディディの知り合いの方なんだって」
 助け船を出してくれたのは、春人をこの部屋へと招いた女性だ。
「へえ。なんか意外」
 程よく酒も回っているらしく、じろじろと不躾(ぶしつけ)な視線が集中する。
 琉笑夢はというと、春人に視線すらよこさずさっさとキッチンへ行ってしまった。
 とりあえず、「突然お邪魔しちゃってすみません。鈴木っていいます」と頭を下げれば、ぴりついた警戒心が少しだけ和らいだ。
「ディディとは友達なん?」
「いや、友達っていうか……」
 どういう設定で通せばいいのかわからずちらりと視線を送ると、流石の琉笑夢が先に案を出してくれた。
「鈴木さんは古賀(こが)さんの知り合いなんだ。一般の方だよ」
 その間も忙しなく手を動かし続けている。じゅうじゅうとフライパンが何かを焼く音。どうやら追加のつまみを作っているらしい。
「古賀さんが忙しい時に、代わりにこうやって生存確認しに来てくれるんだ。今日はタイミングが被っちゃったね。すみません鈴木さん、ゆっくりしていってください。あ、今追加のおつまみ作ってるんで、待っててくださいね」
 キラッキラの、まさにモデルスマイルを顔に張りつけたままの琉笑夢が、胡椒(こしょう)をペッパーミルでガリガリ削りながら言う。
 ──マネージャーの知り合い、か。他でもない琉笑夢にそんな風に紹介させてしまったことに、ちらりと罪悪感を覚える。
 琉笑夢との関係を公表しない限り、人前ではお互いにずっと、こういった態度を取り続けなければならないのだ。
「ええ~よう知らん他人が家に来るん? そらちょっと……ええんか、ディディはそれで」
「こらこら、人には人の事情があるんだろ」
「えーだって俺だったら嫌やわ~、マネさんから鍵もらったん?」
「あ、はい。まぁそんなところです」
「なら一言連絡でもよこしーや。びっくりするやん」
「あっ確かにそうですよね、すみませんでした」
 彼らは他でもない琉笑夢の同僚だ。言い分は飲み込んで頭を下げる。
「ま、俺はええよ」
 赤いワインの入ったグラスを片手に、睨(ね)めつけるように春人を見る男は、確か二人組の大人気Vチューバーの片割れだ。ドラマではディディが演じるホストの親友役で、父親の跡を継ぎ夜のお兄さんやお姉さん相手に深夜に弁当を売っている。
 ストーリー上では癒しキャラ担当で、店自体はディディ扮(ふん)するホストたちが唯一本音を出せる憩いの場であり、セーブポイントのような場所だ。
 本人も、「チャラい見た目には似合わず純粋で真面目」とその人柄で大人気だ。しかし、ぴりっとする視線はテレビのそれとはあまりにもイメージがかけ離れていて、好意的ではない。
「あー鈴木サンごめんね、こいつちょっと目つき悪くてさ。でも根はイイ奴だから安心してよ」
 いえいえと、とりあえず濁して手を振っておく。
 全員が、端から名を名乗ってくれたことで、ようやくそれぞれの名前と顔が一致した。聞けば、今日の会は例のドラマで共演している人たちの集まりだとか。
 確かに顔ぶれはそうだ。出演しているメンバーの中でも若手組といったところだろう。
(意外と芸能人の名前って覚えてないもんなんだな、聞けばああ、あの人ってなるけど……)
 どうやら自分は、琉笑夢以外の若い芸能人にほとんど興味がなかったらしい。
「じゃあ次は私ね。苗字も名前もナから始まる酒焼け天使アイドル、なーちんです! どうぞよろしくっ」
 明るい自己紹介に笑いが起こる。そうだそうだこんなキャラだった。バラエティ番組でも同じ自己紹介を繰り返すので、インパクトがあって耳に残っていた。
 成(なる)海(み)、奈智(なち)さん。
 そんなに酒に焼けているような声には聞こえないけれど。
「鈴木さん、さっきはごめんね? 変な態度とっちゃって。ちょっと私のストーカーかと思っちゃって!」
「ス……いや全然。気にしてないです」
「あはは! え、あれ、後つけられたか? って焦っちゃったぁ。ほら私、ここにいる誰よりもファン多いからね?」
 自分で言うか~? やらディディの方が上やろ? と再び合いの手と笑いが起こる……ちょっと失礼な発言をしてくるが元気な子だ。どうやら盛り上げ役らしい。
 ガラステーブルの上には、食い散らかされた料理の残骸や食べかすが散らばっていた。潔癖なきらいのある琉笑夢の部屋が、随分と汚されている。
 コンビニで買えるような酒の空き缶や瓶も大量に転がっていた。
(あー……これ仕事仲間っつーか、宅飲みしてる大学生のノリだな)
 年齢的にも、確か全員そのくらいだった気がする。
「あー、鈴木サンもなんか飲みます~?」
「いえ、お酒強くないんで大丈夫です」
「あ、まさかの未成年とかないよね」
「あー、二十八、です」
「え、うそ」
「やっばぁ俺タメ語やん。堪忍な」
「大学生とかじゃなくて? みえなーい、童顔」
「えー童顔と言ったら俺っしょ、童顔の申し子」
「はは、ポジ奪われてかわいそユーヤ」
「うっせ」
「じゃあうちら全員年下じゃん。なんで鈴木サンずっと敬語使ってんの、クセ?」
「はは……じゃあお言葉に甘えて」
「趣味やったらええよそのまんまでも。ま、とりあえず座れば?」
 促され、ちらりと琉笑夢を確認するも、既に成海さんが彼の傍を陣取っていた。今はダメか。一瞬でも外に連れ出して、二人だけで会話ができるタイミングがあればいいけど。
「じゃあちょっとだけ。すぐお暇(いとま)するんで。失礼しまーす」
 そろそろと空いていた端っこに正座する。ソファに、春人が座るスペースはない。
 適当に相槌(あいづち)を打ち続けるも、当たり前だが会話は平行線で大して盛り上がらない。自分と琉笑夢の関係性の設定が定まっていないので下手なことは言えないし、そもそもあまりにも世界が違うため、春人がここにいる状態では彼らも現場の愚痴だって言い合えないだろう。
 もちろん春人とて馬鹿ではない。社会人として読む必要のある空気は読むし、ましてや読めよと訴えかけてくる空気は読む前に読む。
 おまえらの言う鈴木「さん」ってたぶんカタカナだろってぐらい読む。
 端っこに座った瞬間、「は? マジで座るんかこいつ」みたいな歓迎されていない視線を向けられたことにだって気づいている。気心知れた集まりなのにどうして年上の、しかも見知らぬ一般男性の相手をしなきゃならないんだと、ひりつき始めた空気だってひしひしと伝わってくる。
 それでも彼らがなるべく顔に出さないようにしているのは、春人が他でもない家主のディディから「ゆっくりしていって」と言われてしまった手前、相手にせざるをえないからだ。
 正直春人も、この場違いな空気の中ここにい続けるのは厳しい。
 一刻も早く立ち去りたいし、楽しい飲み会の最中に申し訳ないことをしているなとも思う。
 けれども、こちらにも空気を読まないのっぴきならない事情というものがある。
 まだ琉笑夢と話せていない。それに、聞きたいことだってあった。
「えーっと、オレ、現場でのディディさんの姿って知らなくて」
「へーえ、古賀さんから聞いてないの?」
「そういう話はあんまり。ディディさん、最近どうなのかな?」
「どうって?」
「……忙しくて眠れてないとか、あんの? ちゃんと休めてるのかなぁなんて、はは……」
「うーん、悩み事はあるっぽい?」
「な、最近ちょっと気落ちしてるし」
「え」
(マジか……しかもオレじゃなくて他人が見てもわかるぐらいなのかよ……)
 たぶん、「ちょっと気落ち」どころではないぐらいの疲労困憊(こんぱい)具合だとは思うのだが、これはもしや一大事なのではないだろうか。
「そーそー、せやから今日ここに集まったってのもあんねんで」
「ねぇ」
「だから知らない人来てびびったわ」
 大阪弁の目つきぴりっと君を筆頭に、全員の言いたいことはわかる。
 訳:はよかえれ、だろう。
 一時期話題になった犬猫翻訳機アプリ、「わかーる君」を駆使せずとも心の翻訳機を通せばわかる。
(あーこれ長居は無理っぽいな。でも……)
 やっぱり琉笑夢が気になった。だって平気そうな顔をしているが周囲の騒音すらも煩わしいって表情だ。あの様子じゃ頭も痛むのだろう。爆弾低気圧によるいつもの片頭痛かもしれない。
(アプリで確認したけど今朝からずどーんって気圧落ちてたもんな……また左のこめかみの辺りかな……)
 そわそわしてしまう。人がいなければすぐにでも駆け寄って、苦しんでいるところを撫でてやれるのに。
「はーい、おつまみ追加!」
「わ、ありがとなーちん」
「やばうまそう。ディディー、ありがとなー!」
「簡単なもので悪いけど」
「そんなことないって」
 わっと餌をほしがる雛(ひな)の如く料理をつつく箸の奥、こうやって離れたところで黙々と(決して微笑みと相槌は絶やさずに)何かを作っているのだって、誰かと会話をすることさえしんどいからだろう。
 頭痛が酷い時は、二人でいても一言も喋らず春人の腹に顔を埋めてうんうん唸(うな)っている日もあるくらいだ。
「こっちはディディが作ったやつで、こっちは私のね」
「えっ、なーちんの手作りまだあったん?」
「ふふ、大トリで隠してましたっ」
「せこ~い!」
 なぜこうして彼らと宅飲みなんかを決行しているのかはわからないが、たぶん、今すぐにでも落としてベッドに寝かせてやった方がいい。できるなら、琉笑夢の体調も考えず騒ぐこいつらを「ちょっとおまえら全員帰れ」って追い出してやりたいくらいだ。
 もちろん彼らのせいではないことぐらいわかっている。琉笑夢が具合の悪さを隠しているのが悪いのだ。
 でも、自分がこのまま帰ってしまったら琉笑夢はどうなるんだろう。彼らに帰る意志がないのなら、理由をつけて春人の家まで連れて帰って休ませるという手もある──それとも春人が知らないだけで、ここで仲間と騒ぐことによって琉笑夢のストレスは軽減されるのか?
 だから今日、こいつらを部屋に招き入れたのか?
(いやでも、酒の臭いもキツいって顔してるし……)
 あああほら、しんどすぎてバルコニーに出た。外の澄んだ空気を吸いにいくのだろう。ここは最上階だ。あんな薄着じゃ夜風だって冷たいだろうに。それに髪だってまだ濡れっぱなしなんだ、早く乾かしてやらないと。このままじゃ風邪を引く。なんとか琉笑夢と二人だけで話せるいいタイミングはないものか。ないか──って、あれ? と春人はひらめいた。
(今、行けばよくね?)
「──ディ」
 琉笑夢の後を追うために、立ち上がろうとしたのだが。
「あ、ちょい待ち鈴木サン」
「だめだめ」
「今はやめた方がイイ」
「は?」
 右と左から両腕を掴まれて、止められた。
 見れば、成海さんが料理を載せた皿を片手に、バルコニーに出るところだった。
「ほら、よう見とき」
 皿をガーデン用のテーブルに置き、バルコニーで寒そうに二の腕をさする成海さんに、琉笑夢が脱いだ上着を着せてやった。
 紳士的なその行動に、周囲から「おお!」と感嘆の声が上がる。
「絵になるわ~マジで……」
「な? なーちんとディディ、お似合いやろ?」
「ちょっとさぁ、今日はそのために集まったっていうか」
「だからごめん、今は邪魔しないでやってくんない? 空気読んで~(笑)」
「あ、でも今日みんなで集まったってことは古賀さんにはナイショな? 後が怖いから」
 空気の読めない春人に対して苦笑するような声が上がる。そうか、他の芸能人にも一目置かれているのか古賀さんは……じゃなくて。
(いやいや、空気読んで~かっこ笑いじゃねぇだろ、空気読んであのまんま琉笑夢が倒れたらどうすんだよ!)
 もうこの際どう思われてもいいから、琉笑夢を無理矢理連れ帰ってしまおうかと、巻きついてくる手を振り払おうとした──その時。
「なんでそんなこと言うの!?」
 ぱっちん! それは、やたらと大きな音だった。
「なんで……どうしてそんな悲しいこと言うの? 私、知ってるよ。ディディは裏があるとか笑顔がうさん臭いだとか本性見せないとかアンチにも散々言われてるけど……でも、ディディが本当に優しい人だっていうのは、私が一番よく知ってる!」
 唖然と、してしまった。
 全面ガラスの向こう側では、奇妙なストーリーが展開されていた。
 手を伸ばす成海さんと、そんな成海さんの両手に頬を挟まれて、琉笑夢が硬直している。
「ディディは誰よりも優しい人だよ。私にはわかるの。だからそんなに自分を卑下しないでよ! 私の大好きなディディを、ディディが貶(おとし)めるのだけは許せないよ!」
 え、なにこれ。演技の練習?


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