書籍詳細
麗しの王子と結婚したら、犬のご主人になりました
ISBNコード | 978-4-86669-200-5 |
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定価 | 1,320円(税込) |
発売日 | 2019/04/27 |
ジャンル | フェアリーキスピンク |
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電子配信書店
内容紹介
立ち読み
早朝のセキスト国王宮を、美しい男性が足早に進んでいく。
さらさらと金糸のような髪を揺らし、瞳は澄んだ青のその男性は、朝の光を浴びて全身が高貴に輝いていた。
しかし、彼は自分の部屋に辿り着くと服をすべて脱ぎ捨てて、浴室に駆け込んだ。惜しげもなくさらされた引き締まった体躯は肉体美の化身のようであったが、頭から湯をザバリと豪快に浴びた彼は浴室の壁を拳で叩いて叫んだ。
「あれが嫁という生き物なのかーっ!」
こんなはずではなかった。もっと淡々と義務を果たすはずだったのに。
今まで自分に近づいてきた女性たちとはまったく違ったタイプの姫へと、予想外に惹かれていく気持ちで、ジェラルドの頭と身体は翻弄されている。
さらに、彼は頭に冷水を被る。また被る。何度も被る。
「くっ、落ち着けジェラルド! た、たかが女性のひとりを知ったくらいで……」
彼は、こんなに冷やしたにもかかわらず、身体の中心で誇らしげにそびえ立つモノを叱咤した。
「情けないぞ! たかが、初めて、女性と、しかもあんなに無邪気で可愛くてあどけなく笑うとびきり愛らしいご主人さま、もとい、妻の中に入ったくらいで……」
彼は、昨夜の新妻ユーディリアを思い出す。
彼女の軽やかな笑い声を、彼を撫でる優しい手を、そして彼にだけ見せた白く透き通るような肌と、彼の手で暴かれた恥ずかしい秘密の場所を……この屹立を、熱くぬめったその中の、奥へ奥へと進める、あの何とも言いがたい甘やかな快感を……。
「うわああああああああああ、ダメだ、落ち着けない! というか、思い出すと興奮してたぎってしまう! こんな爽やかな朝なのに!」
自分はなんて卑しい犬畜生なのだ、あんな清らかなご主人様……もとい、姫に欲情して、朝っぱらから男性自身を屹立させてしまうとは!
ご奉仕だけで満足できるはずもなく、『馬鹿犬』と罵られるほどに激しく姫を蹂躙し、欲望をぶつけ、破瓜の痛みを訴える涙目のまだ少女めいた身体に棍棒状の凶器を突っ込むような無体を働いてしまった。
むしろ、姫に罵られて一層興奮してしまった!
そして、このままでは公務に支障が生じるというのに、頭の中はユーディリア姫でいっぱいだし、下半身は違ったものでいっぱいだ!
「ダメだ、このままでは収まらない……わたしは淡泊な質の男だったはずなのに……」
全裸の王子は自分のふがいなさに唇を?みしめながら、男の事情を解消するために行動したのであった。
そんなわけで、とりあえず湧き上がる衝動を解消した彼は、衣服を身につけて朝食をとり、いつものように執務室に移動した。
朝が終わり昼が終わり夜になるとまたあの姫に会えるし、照れ隠しについ義務扱いしてしまった『夫婦の楽しいアレ』がまたできる。そんなことをうっかり考えると、仕事の邪魔になるくらいに身体の一部が元気になってしまうので、ジェラルドはなんとか気持ちを逸らそうと努力していた。
(冷静になれ、ジェラルド。セキスト国の第二王子として、本日も公務に励むのだ)
そんな言葉を時折口にして自分を抑えながら書類のチェックをしていた彼に、不用意に声をかける者がいた。
「おお、ジェラルド、新婚初夜はどうだった?」
「兄上ーっ!」
ものすごい剣幕で弟に怒鳴られたラゼック第一王子は、思わず一歩退いてしまう。
「ジェ、ジェラルド、獰猛な狼の群との戦いでさえ怯まぬこのわたしを下がらせるとは、弟ながら恐ろしい奴め」
「そういうのは要りませんから!」
「おう、すまぬ」
ひゅううううう、と凄みのある顔で冷気を噴き出す弟を見て、さらにもう一歩下がるラゼックである。
「……いや待て、わたしはお前を怒らせるようなことを言っていない気がするぞ?」
すぐに体勢を立て直す辺りは、さすがは未来の国王である。
しかし、凍てついた氷の視線が彼を貫いた。
「ひっ!?」
「兄上、畏れながら業務の邪魔は慎んでいただきたい」
「い、いや、わたしは単に、新婚の弟夫婦の関係はうまくいっているかなと、軽く聞いてみただけであって……」
「日中に思い出したくないのです!」
「な、なんと……」
(昨夜に、思い出したくないようなことが起きたのか!?)
部屋に静寂が訪れる。
「……失礼」
ジェラルドが不意に退室した。執務室が凍り付く。
この時、兄の言葉でユーディリアとの夜を思い出してしまったために、冷静沈着なジェラルド第二王子の股間に異変が起きたとは誰も思いつかず、ジェラルドの言動は皆を勘違いさせる元となってしまったのであった。
◇ ◇ ◇
さて、新婚初夜が明けた。
昨夜はあの後『二国間の関係をより強固なものにするためのプロジェクト』に対して前向きに取り組むジェラルド王子に、二度目の試みを求められたが、出血もしてかなりの痛みを感じていたし、初回に入った子種が出てしまうと困るので断った。
だいたい、王子のモノが大きすぎるのがいけないのだ。
男性が皆、あのようなモノを服の中に隠し持っているとは、まったく気がつかなかった。
顔だけ見れば、秀麗な美形であるジェラルド第二王子が、あのような凶悪なモノを持っていると知ったら、彼に想いを寄せる女性はがっかりするのではないだろうか? あれは決して美しいモノではないからな。
まあとにかく、子を成すためには他に方法がないというので仕方がないとはいえ、あんなモノをあんな場所に入れられ、それだけでも痛いというのに何度も激しく貫かれ、無駄に腰を振って叩きつけられるなどという目に遭ったのだ。そのような行為に慣れている結婚生活のベテランである妻ならばともかく、何もかもが初めてのわたしにはダメージが大きすぎた。しかも、思わず声を荒らげると、なぜだかアレが大きく……思い出すだけで痛くなるので、もうよしておこう。
とにかく、この作業を終了させたくて、もう一度試みようとする夫に昨夜わたしは言ったのだ。
「すまないが、かなり痛みがあるし、正直辛いんだ。今夜はもう安静にして、受胎に成功したことに期待したい」
すると、わたしの股間に視線を落とし、続いて自分の股間についたものにも注目したジェラルド王子(無駄に美しく、無駄に凛々しく、無駄にモノが大きい、才色兼備の麗しき残念王子)は潤んだ瞳でわたしを見つめながら言った。
「ああ、しまった! わたしとしたことが、初夜だというのに、初々しくも愛らしい妻に無理をさせてしまうとは! 新婚の風上にも置けないこの欲望に塗れた卑しき犬をお許しください。いえ、許さずに叱ってこの身体に刻みつけてもらった方がいいですね。さあ、思う存分愚かなわたしに仕置きを! その麗しい脚でわたしの身体を余すことなく、思う存分……」
「……踏まないよ?」
わたしが言うと、彼は「なんと、お預けなのですね。さすがは姫、一番心をえぐるキツい仕置きをなさるとは! こんな駄犬を厳しく躾けてくださってありがとうございます」と嬉しいのか悲しいのかよくわからない表情でうなだれた。
というわけで、営みは一度で終了して休むことになった。見た目が麗しいので、駄犬になってもやっぱり麗しい我が夫は「ならばせめて、この腕にあなたを抱いて、共に夢の世界を旅したい」などとちょっとばかりしゃれたことを言ったのだが、その正体が犬だと知ってしまった今となっては、わたしはおとぎ話の姫のように心震わされることもなかった。
なので、薄い寝衣を着たわたしはきっぱりと夫に言った。
「わかった。同じベッドで寝ることを許そう。だが、寝相が悪かったら即寝床から蹴り出すが、いいな……おい、言っておくが、わたしに蹴られたくて寝相が悪いふりをしてもダメだぞ!」
「さすがは姫! 鋭い読みですね!」
「普通に読めるわ!」
駄犬の主人業が板についてきてしまった気がするよ。
「それでは姫、わたしは仕事に励んでまいります」
ジェラルドは、申し分のない貴公子の振る舞いでわたしの手の甲に唇を押し当てて、わたしの髪を優しく指で梳くと、朝日よりもまぶしいキラキラした笑顔で執務に向かった。
「あらまあ……あの殿下と仲良くなられたのでございますか?」
王子が去った後、わたしの身支度をするためにやってきたマレーンが、昨日までとうって変わって表情が柔らかくなった彼を見かけてから、わたしに言った。
「あんなに取っつきにくい王子殿下が、今朝になったら別人のようですわね」
「うん。なんていうか、彼は犬……だったよ」
「犬、でございますか?」
マレーンは首をひねった。
「犬に似たところのある男性でしたのでしょうか。まあそういうことならわかるような気がいたしますわ。さすがは姫さま、動物を手懐ける手腕には光るものがありますね」
「ありがとう」
確かに、あれは犬男だからな。
「あの第二王子は、派手な外見と違って真面目に仕事をする男だ。セキスト国とフルメルス国との間の結びつきを強めるためにと、積極的に子を成そうと考えている」
「お子さま……ですか」
「ああ。それが王族の義務であり宿命だからな。彼ももちろん、セキストの王子であるからその点をよく理解しているようで、大変協力的で良かったよ」
「子を成す義務……そのようなお話には、姫さま、マレーンは納得できませんね!」
有能な侍女は、ぷんすかしながら言った。
「姫さまのような素晴らしい方と結婚できたのですから、国や王族などという前に、まずは姫さまのことをありがたく思い、大事にするのが筋であると存じます! それを、国のために義務でなどと、新婚の床でおっしゃったのですか?……あんまりでございます。姫さまも姫さまでございます、夫婦というものをそのようにお考えになるだなんて……」
「落ち着きなさい、マレーン」
わたしは笑いながら言った。
「わたしとジェラルドは、まだお互いのことをよく知り合ってないのだよ。マレーンの言う通り、国のためだというよりも先に夫婦としての結びつきを強めるのは当然なのだと思う。でも、まだ始まったばかりなのだ。わたしたちは結婚という出発点に立ったところなのだよ。ジェラルド王子とは、焦らずにゆっくりとわかりあっていければと考えているんだ」
そうなのだ、昨夜だけでも、我が夫についてずいぶんといろいろなことを知ることができたぞ。
まさか、男性は閨で犬になるものだったとはな!
わたしも早く中級編をマスターしなければな。
「マレーンにも世話をかけると思うが、わたしたちを長い目で見守ってほしい」
すると、マレーンは頭を下げた。
「畏れ多いことでございます! 不肖マレーン、今後も全力でお勤めさせていただき、姫さまと殿下が良き夫婦となられるために力を惜しみません!」
「ありがとう、頼りにしているよ」
わたしは、親切な侍女に微笑みかけた。
「さて、マレーン。さっそく頼らせてもらいたいことがあるのだが……」
「姫さまのお役に立つのならば、この命を差し出しても」
「うーん、命は使わなくて大丈夫だから、きちんとしまっておきなさいね。今回はマレーンの知恵に頼りたいんだ」
「はい、わたくしの頭をかち割るようなことになりましても」
「割らないで、長く大切に使おうね」
誠に熱い侍女である。
「実はね、昨夜の作業をしたら、まだ身体が慣れていないらしくて……」
わたしは、脚の間に痛みがあり、何かが挟まったような感覚があること、そして、張り切って遠乗りしすぎた後のように腰から下にだるさがあることを相談した。
「はい、大丈夫でございます、それは想定しておりました!」
「そうなの? これは新婚の花嫁には当たり前のことだったの?」
そうか、いろいろと衝撃的な夜だったが、あれらは皆が経験することだったのか!
なんだかほっとしたよ。
マレーンは、わたしに向かって重々しく頷いた。
「姫さまのような素晴らしい女性を娶ったら、男性はメロメロのギンギンのヘラヘラになってグイグイと攻めてこられることは、もちろん予想がつきました。ですので、フルメルスより、新妻のためのお薬を持参して参っております。お待ちくださいませ」
マレーンは、寝室に用意された豪華な収納家具を開けて、さらに小さな抽斗を開けた(その時、彼女は「こちらには閨に関するものをしまっております」と目配せしてみせたので、わたしもよくわからないながらも「そうか」と目配せし返してみた。何が入っているのか、後で確認してみようと思う)。
「こちらが、そのよく効くお薬にございます。ご用意いたしますね」
「ああ、頼む」
ジャムの瓶にも似たその蓋を開けると、そこには透明で粘り気のあるドロっとした薬が詰まっていた。マレーンは木のヘラを取り出して薬をすくい、それを布に塗り広げた。
「さあ、これを痛む場所にお当てください。その上から下穿きを穿けば取れません」
わたしはマレーンの指示通りに薬を当てた。そこには薬草がたっぷりと使われているようだった。
「わあ、なんだかすうっとするね。すぐに痛みが軽くなったよ」
「フルメルスの女性たちに代々伝わる、秘伝の薬にございますから」
「すごいね! これはいい薬だね!」
薬の効き目で、腰すら楽になってきたわたしは、上機嫌で言った。
「この薬の良いところは、効き目ももちろんでございますが、花嫁が休める点にもあるのです」
「休める?」
「はい。しっかりと身体を癒すには、閨の務めを休むことが大切ですから。この薬は瓶の中では色がございませんが、塗った場所では青く変わるのでございます。そして、そこが青いうちは、夫は花嫁に触れないお約束なのでございます」
フルメルス国の薬は、夫に酷使された身体にとてもよく効いた。しかし、回復が早まったとはいえ、初めての経験でかなりの負担がかけられたため、半日では完全には治らなかった。
そうだ、あの犬はいろいろな点で激しすぎたのだ!
わたしと同様、多くの摩擦にさらされたジェラルドのアレは皮が?けたりしていないのだろうか、とマレーンに尋ねたら、彼女はしらっとした顔をして「殿方のアレの皮と顔の皮は厚いと申しますので、お優しい姫さまが気遣う必要はまったくございませんでしょう」と言った。
知らなかった。
あの棒状の器官がそれほど丈夫なものだったとはな。
となると、痛むのはわたしだけということか。
少々納得がいかないな!
でもまあ、薬のおかげでわたしは若干ガニ股ではあるが室内を歩けるようになったし、自室にこもって一日中おとなしく刺?などしていたら(そうだ、わたしだって素敵な刺?ができるのだぞ! フルメルスの女性は刃物の扱いが得意なのだ。……えっ、針は刃物ではない? 刺さると血が出るのだから、わたしの中では刃物に分類させてもらっているよ)夜には普段通りに浴室で身体を洗うことができるようになった。
「わあ、本当に青くなっているな」
薬を塗った布を?がし、湯で洗い流してからそこを観察すると、空のような青に染まっていたのでびっくりした。
湯から上がって身体を拭き、マレーンが用意してくれた新しい布を貼って下着を身につけ、寝衣に着替えた。髪が短いので、乾かすのが簡単だ。マレーンは「せっかくお美しい髪なのですから、長くお伸ばしになってもよろしいのに」と言いながら、香油を塗ってブラシをかけてくれた。
本来ならば夕食は夫婦でとるらしかったが、ジェラルド王子は忙しいらしく、ダイニングに姿を現すことがなかった。なので、今日は朝別れたきり夫の顔を見ていない。
さて休むか、と思っていたら、廊下に続く居間のドアがノックされた。
「ユーディリア姫、ジェラルドです」
わたしとマレーンは、顔を見合わせた。
「今夜は来ないと思っていたのに、やっぱり仕事熱心な王子なんだね」
「……そのようでございますね。それは『お仕事』ではないと思いますが」
マレーンは扉を開けてジェラルドを部屋に入れると「わたくしはこれにて失礼いたします」と部屋を下がった。
「……ああ、我が妻ユーディリアよ、今宵も輝かんばかりに美しい!」
「ありがとう」
「『オーロラの輝きの中より生まれた、いと気高き姫』という評判は、正しかったのですね」
「へえ、そんなのがあったんだね」
「その気高きおみ足で、今宵もこの卑き犬の」
「踏まないよ」
「……踏みませんか」
「踏みません」
今夜もやっぱり美しい『青き氷の輝ける精霊王子』(彼はいつも冷静なため、そんなふたつ名もあるのだよ)は、わたしの言葉を聞くとふっと視線を落とし「この焦らし具合がたまらないな」と?を染めてから、はっとしたように顔を上げた。
「いえ、ユーディリア姫の白きおみ足で駄犬を蹴り転がし踏みつける話の前に」
「わあ、その犬はかなり酷い目に遭ってるよね、そんなかわいそうなことをわたしはやりたくないからね」
「やらねばならないことがあります!」
「聞けよ!」
どうやらこの王子は俺様王子の気があるようで、わたしの話をあまり聞かずに妄想をたぎらせているようだ。わたしは腰に手を当てて、王子を叱った。
「いったいなんなのだ君は! 朝以来に会う新妻に向かって、いきなり犬を蹴る話か! 他に言うことはないのか! セキストの王子は『こんばんは』の挨拶もできないのか!」
睨みつけるわたしの顔を見て、しばらくもじもじしていた王子は(その場に転がって腹でも見せそうな雰囲気だった)やがて小さな声で言った。
「……こんばんは」
「……こんばんは」
なんだか絨毯にしゃがみこみたい気分になってきたよ。
わたしは絨毯ではなく、ふらふらとソファに倒れ込んだ。
「姫、大丈夫ですか?」
ジェラルドは素早くわたしの身体を支えて、ゆっくりとソファの座面に座らせてくれた。こういう所は気が利くいい男なのだが、王子というよりも下僕っぽくなってしまうのがなんとも残念だなあ……。
「すまないな、少々身体が辛くて」
武道の訓練とも負傷とも違う、妙に気怠い身体の不調で、つい愚痴を言ってしまう。
「なんと、お身体の具合がよろしくないのですか?」
彼はわたしの手を握って言った。
「いったいどうしたことでしょうか」
「どうしたことって……誰のせいだと思う?」
わたしは、原因となった本人がまったく気づいていないようなので内心むっとしたが、表面上は『伝説の薔薇がほころぶかの如く麗しき笑み』とやらを浮かべて、優しく我が夫に言った。
「え…………ええと、やはり……」
王子が顔を引き攣らせながら「昨夜のわたしのせい……ですか?」己を指差したので、わたしは笑顔で頷いた。
「そう! 君が昨晩暴走してくれたものだから、かなり痛むんだよね」
「そっ、それは、申し訳ございません!」
彼は素早く絨毯に膝をついて言った。
「わたしは欲望に負けた卑しき駄犬です、最低の犬畜生です」
「よし、妙な謝罪はもう良い。立て。そんなわけで、今宵は例の案件には取りかからないからね」
「それはもう致し方ないことです。閨に慣れない無垢なるお身体を、姫がお辛くなるほどに責め立てて、新婚初夜に子を孕ませてしまおうと淫らな欲望を注ぎ込むなどとは、優しき夫の振る舞いではありませんでした。申し訳ありません」
「ええと、そういう言い方をされると少々恥ずかしいんだけど……」
昨夜の痴態というか辱めというか、夫にされた恥ずかしいことを思い出して顔が熱くなってしまった。青く染まったあの場所も、なんだか夫の形を思い出したようでむずむずとしてしまい、身体を動かしてしまうと、ジェラルドは「は、恥ずかしがる新妻とか、ちょっとぐっときてしまいますが」とやはり身体をもじもじさせた。
「いろいろ思うところもありますが、不肖ジェラルド、姫のお身体が健やかに戻るまでは謹んで『待て』をさせていただきます。それよりも、お身体は大丈夫ですか? すぐに王宮の医師を手配します」
「いや、その必要はないよ。よく効く薬をフルメルスより持参して、その、あの部分に塗ってあるから案ずることはない。あと、犬からは離れようか」
ジェラルド王子があまりにもしょんぼりと消沈しているので、少し哀れに思えてきた。
「もしかすると、昨日のアレで子が成せているかもしれないし、そんなに気を落とすな。フルメルスの薬は良く効くからね。あの部分が青く染まったのが取れればまた励もう」
「ええまた励みましょう! え? 青く染まるとは? どういうことですか?」
どうやらセキストにはあの薬は知られていないらしい。フルメルス国は豊かな森に様々な植物が育っているため、薬になる植物が豊富なのだ。そのため、薬草学が他国よりも進んでいるし、ハーブや植物由来の成分が入った効果のある化粧品なども多岐にわたって産出していて、輸出業も盛んなのである。わたしが薬について詳しい説明をすると、ジェラルド王子は大変興味を示した。
「そのような不思議な薬があるなら、ぜひ拝見したいと思います」
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