書籍詳細
旦那様(偽)、お手やわらかに
ISBNコード | 978-4-86669-286-9 |
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定価 | 1,320円(税込) |
発売日 | 2020/04/28 |
ジャンル | フェアリーキスピンク |
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内容紹介
立ち読み
「俺だ。話があるんだが」
「ええ、どうぞ?」
まだ着替える前だったのでそのままベゼルを部屋へ招き入れた。彼はなんだか難しい顔をしてカレンの前に立つ。そしてポケットの中から何かを取り出して、それを突き出してみせた。
「……どういうつもりだ?」
「えっ?」
ベゼルの持っているものがパッと見ただけではよくわからず、カレンはそこに顔を近づけた。紐とレースを使ったリボンのようなものに見えたが、違った。サンドラから渡された、クロッチの部分が破けたいやらしい下着だったのだ。
「あっ。これ探してたの! なんであなたが持ってるわけ? ヤダー……」
「君が俺に持たせたんだろう! 浴場で大変な目に遭ったんだぞ!」
「え、間違えて穿いちゃったとか……?」
「そんなわけあるか! ……君が届けに来た着替えの中に紛れ込んでいたんだが、君が入れたのではないのか?」
カレンはあの日のことを思い起こした。
「あの日家に帰ったら、サンドラ様にちょっとどうかと思える下着を何枚か渡されたのよね……でも、それ、大事な場所が破けてるじゃない? だからあとで縫おうと思ってポッケに入れて……」
そのままベゼルの着替えを用意しに行った。何かの拍子にポケットから落ちて、鞄に入ってしまったのかもしれない。
「ちょっと待て。君はこれが破けていると言ったのか?」
「どう見ても破けてるじゃない」
サンドラはこの大きな穴に気づかなかったのだろうか。だが、本体がレースというなんとも頼りなく、破けやすい下着だ。受け取ったあとに自分がどこかに引っかけてしまったのかもしれない。カレンはそう考えたのだが。
「……たぶん、違うぞ」
「え?」
「これは、最初からそういうつくりなんだ」
「そういう……つくり……?」
「これなら脱がなくてもセックスできる」
「…………」
「脱がなくてもというか……セックスするために、わざわざ女に穿かせる男もいるだろうな」
カレンは下着を逆さまにつまんで持ったうえで、クロッチの破れ目をぱかぱかさせてみた。
「あ!」
「……わかったみたいだな」
「な、なるほど〜。へ〜〜〜」
なるほど。うん。これはエッチだ。サンドラが用意する寝巻や下着はハダカよりもかえっていやらしいものが多いとは思っていたが、これはその中でも一番いやらしい気がした。ベゼルに使い方を教えてもらうことになるとは考えてもみなかったが。
そこでシーツがまっさらだとサンドラに言われたことを思い出した。
「ねえ、ベゼル。あの……こないだね、」
「ああ、なんだ?」
「サンドラ様に、私たちのシーツが汚れてないって言われたんだけど」
「……なんだと? 祖母はそんなことまでチェックしているのか!?」
ベゼルはぎょっとしている。そりゃそうだよなとカレンも思う。初夜のシーツをチェックされたのはまだ理解できるが、サンドラは「毎日のようにシーツがまっさら」と言っていたのだ。だが残念なお知らせはまだある。
「あと、部屋が静かだって言われた……」
「…………」
ベゼルは眉間に深く皺を寄せ、そのまましばらく固まった。
「不思議なんだけど。シーツが汚れてないと、ダメなの?」
「え。いや、それは……そうだろ……」
「セックスすると、汚れるものなの? 処女じゃなくても血が出るの? 血が出るまでヤれってこと?」
「…………」
ベゼルは今度は「無」の表情でカレンを凝視している。薄暗い部屋の中、彼の青い瞳だけが印象的に輝く。いつかも思ったけれど物語に出てくる魔人みたいだ。彼は大きく息をつくと、首を振った。
「……シーツのことは俺がなんとかしよう。あとで君にも説明する」
まずは夕食の時間だ。そう言って、ベゼルはカレンに食堂へ向かうよう促した。
夕食を終えて入浴も済ませたカレンは、脱衣所で例の下着を身につけた。そして自分の下半身を見おろしてみる。足をぴったり閉じていれば、この下着に穴があいているなんてわからないだろう。だが、足を開いてみると……。
「うわあ……」
今度は足を開いた状態で前屈し、自分の股を覗いてみた。クロッチの部分を指でつまんで、ぴらぴらと動かす。うん、これはいやらしい。まあ、この姿をベゼルに見せることはないんだけれど。
そのタイミングでサンドラが入ってきて、自分の股越しに彼女と目が合った。彼女はカレンの格好にぎょっとしたようだったが、すぐに下着に気がついた。
「カレンさん、今日はそのオープンクロッチを身につけるおつもりね?」
「え? は、はあ……」
そういう名称だったのか……と、身体を起こしたところでサンドラが耳打ちしてくる。
「私があげたものをいくつか試してごらんなさい。そしてどういったものが喜ばれたか、私に報告しなさい。ベゼルがもっと喜びそうなものを、用意して差しあげますからね!」
「は、はい……」
サンドラはベゼルの情欲を煽りそうなものをカレンに着せておけば、ひ孫が誕生すると考えているのだろう。お上品とはとても言えないやり方だが、サンドラがどんなに頑張ってもこの先ひ孫が誕生することは決してないのだと知っているカレンとしては、申し訳なくなってきた。
「さ、ベッドではベゼルが待っているのでしょう? 早く行っておあげなさい」
「はい……」
オープンクロッチとやらの上に下着みたいな寝巻を着て、さらにガウンを羽織る。そうしてカレンは浴室を後にした。
寝室に入ると、素肌にガウンを纏ったベゼルがベッドのそばで待っていた。ただしセックスをするためではない。
「来たか。これからシーツに細工をする」
彼は小さな声でそう言って毛布を捲った。そして手に持っていたカップの中身を、マドラーでかき混ぜる。
「……それ、何?」
「卵の白身。キッチンから持ってきた」
「卵の……白身……?」
「ああ」
金属製の細長いマドラーの先っぽは、小さな匙のようになっている。ベゼルはそれを使ってかき混ぜた白身を掬うとシーツの上に垂らし、伸ばしていった。彼が何をやっているのか、なぜ卵の白身なのか、カレンにはさっぱりわからなかったがベゼルは説明してくれた。
「これが乾けば、体液と似たような感じになる……と、思う」
「へ〜」
ベゼルは精液のことを言っているのだと思った。子供を作るときにそれが必要になるのは知っていたし、男性が気持ちよくなるとおちんちんの先っぽから出てくるのだということも知ってはいたが、実際に見たことはない。乾いたときにどんな風になるかも知らなかった。でも精液をシーツにこぼしてしまったら、それは命中していないというか……子作りしていないことになるのでは? ……いや、女性の中に出しても、溢れてくるのかもしれない。それに二回も三回も続けてヤッたら、こう……摩擦するたびに溢れて……なるほど。なるほど、なるほど!
ようやくシーツの汚れるイメージが浮かんできたカレンだった。
「男の体液だけじゃない。シーツは女の体液でも汚れるぞ」
「……そ、そうなんだ?」
まあ、汗とかかくだろうし、いっぱいキスとかしてたらよだれも出るだろうし、カレンが考えているよりもぐしゃぐしゃのびしょびしょになる行為なのだろう、たぶん。
ただ、思う。こんなにせこい真似をしてまでごまかさなくちゃいけないのだろうか、と。
「ねえ……」
「うん?」
ベゼルは別の場所に白身を垂らし、伸ばしはじめた。透明だからよくわからないが、染みの大小とバランスを考えながら塗っているらしい。
「サンドラ様に、正直に言うつもりはないの? 『子供を作るつもりはない』って……」
「そんなことしてみろ。彼女は本格的になりふり構わなくなってくるぞ。俺や君の食事に媚薬を盛るかもしれない」
「ええっ?」
すでになりふり構わなくなっていると思っていたが、もっと過激な行動があったとは。
「いまのはあくまでもたとえだ……だが、祖母はそういう人なんだよ。彼女のせいで、俺の母は失意の中死んでいった」
「え……」
ベゼルがサンドラへの恨み言を口にしている。カレンはぎくりとした。これまで聞きたくても聞けなかったことだからだ。
「俺の母のアメリアは……身体が丈夫ではなかった。結婚前は普通の健康体だったらしいが、俺を産んだせいで病弱になったんだ」
「産後の肥立ちがよくなかったってこと……?」
「たぶん、そうなんだろうな。俺はしょっちゅう寝込んでいる儚げな母しか知らないんだ」
ベゼルは小さな低い声で語った。
ベゼルの母アメリアは、いったん体調を崩すと一、二週間寝込むような生活だったらしい。
サンドラはそれが不満だった。ギャラガー家の跡継ぎたる男子がベゼルだけでは心許ないと感じていたのだ。だから彼女はアメリアに何度も迫った。もっと孫を産め、男子を産めと。だがアメリアにはそれに応えられるだけの体力がなかった。
「君もそのうち耳にすると思うが、『ギャラガー家の呪い』という言葉がある」
「ギャラガー家の……呪い……?」
「ああ。俺は一人っ子だし、父も祖父もそうだった。男子が一人しか産まれない現象が何代も続いているらしい。社交界の人間はそれを『呪い』と名づけて面白がっている」
逆に言えば絶対に男子が一人産まれているわけで、家としては安泰だし、偶然にすぎない現象を「呪い」と呼ぶなんて馬鹿げているとカレンは思う。
だがサンドラはそうは思わなかったようだ。彼女は「呪い」を打破しようと躍起になった。
「俺が十七の頃……祖母は母に見切りをつけた」
そのときアメリアは三十九歳。健康であれば産めない年齢ではないが、しょっちゅう寝込んでいるアメリアに、これ以上の出産は無理だとサンドラは考えたようだ。
「祖母は、何をやったと思う?」
ベゼルは自嘲気味に笑った。泣きそうな顔にも見えた。
「別の若い女を連れてきて、屋敷に住まわせようとしたんだよ」
「……!!」
「その若い女を父にあてがい、男子が産まれたら母とは離縁させるつもりだったようだ……母はショックで寝込み、そのまま弱って死んだ」
ベゼルの父ウォードは最初の若い女性を追い出したが、サンドラはまた別の女性を連れてきた。彼女の容貌はなんとなく元気だった頃のアメリアに似ていたという。
若い女性がこの屋敷に住むことは結局なかったが、アメリアのショックは大きかった。いつもは一、二週間で回復していたのに、彼女は数か月にわたってベッドから出られなくなってしまったのだ。そのまま衰弱していき、ベゼルが十八になってすぐアメリアは亡くなった。
「もともと、母の寿命は短かったのかもしれない。だが、祖母があんなことをしなければ、もう少し生きていられたんじゃないかとも思う。そもそも……ギャラガー家とは、そこまでして存続させなくちゃいけない家なのか? 領地だってとっくの昔に失っているんだぞ。俺の母のようになる女は、もういないほうがいいに決まっている。俺は、そう考えた……」
カレンは黙り込んでしまった。知りたかった話だったけれど、知ってしまったことを少し後悔している。
「やめたくなったか?」
「……え?」
「俺と夫婦でいることを」
ベゼルが祖母を恨む気持ちはわかる。サンドラは息子夫婦と孫息子にひどいことをした……そう思う。しかしサンドラの産んだ子供が前男爵ウォード一人だったことを考えると、彼女も若い頃は周囲から責められたのではないだろうか。その時点でサンドラは病んでしまい、いまも跡継ぎを作ることに囚われているのかもしれない。そうだとしたら、みんな可哀想だなと思った。
この話を知ってしまった以上は、いままでと同じように振る舞うのは難しい気がした。しかし、カレンがこの話から降りたら……ベゼルはどうするのだろう。別の女性、自分を好きにならない女性を探してまた偽装結婚をするのだろうか。実態の伴わない結婚だとわかってはいるが、ほかの人がベゼルの妻になるのは……なんだか嫌だった。カレンは首を振った。
「別荘をもらうまでは、やめません」
「なるほど、いい返事だ……」
そう答えたあと、ベゼルは視線だけを扉に向けた。それから白身の入ったカップをナイトテーブルの上に置くと、傍にあったランプの灯りを絞る。
「え、ちょっと……?」
「(いいから、ベッドに入れ!)」
急に真っ暗になったのでベゼルに抗議しようとすると、彼はカレンだけに聞こえるよう小声で囁いた。だが返事をする前にベッドの中へ引き摺り込まれてしまう。白身がまだ乾いていないんじゃないかと気になった。
「な、なに……?」
「(シッ……廊下に、誰かいる……祖母か、祖母に頼まれたメイドだと思う)」
ベゼルはカレンの身体に覆い被さるかたちでベッドを揺らした。ギシ、ギシという音が暗闇に響き渡る。セックスしているふりということだろう。
それにしても騎士団長を務めているだけあって、ベゼルは勘がいい。カレンが彼のハダカを視姦したときはまったく気づかずに寝ていたはずだが、やはり起きているときは違うようだ。
ベゼルはベッドを大きく弾ませながら言った。
「(おい。声を出してくれ)」
「(……は?)」
「(喘ぎ声だよ。うるさくしとかないと、またなんか言われるぞ)」
「(あ、喘ぎ声ですって……!?)」
「(ああ、女が感じたときに出す声だ)」
「(え、えー……アハンとかウフンとか言えばいいの?)」
ベゼルはベッドを揺らすのをやめた。
「(それはさすがにセンスなさすぎだろ)」
「(だって、いきなり言われても困りますぅうう!)」
カレンにとっては喘ぎ声といえばアハンとかウフンだし、そんなものにセンスが求められるとかも聞いたことがない。
そのとき、ベゼルが「許せ」と呟いた。カレンに無茶を言ったことを詫びているのかと思ったのだが、ガウンの合わせ目からベゼルの手が入ってくる。
「えっ」
彼の手はガウンの前部分を思い切りぐいと開くと、下に着ているシュミーズタイプの寝巻の肩紐を探り、カレンの胸が露わになるようにそれをおろした。
どうなっているのか暗くて見えないけれど、肌で感じる空気の感触からして、乳房がむき出しになっているのだと思う。
「え、ちょ、ちょっと……あっ」
指で、乳首をつままれたようだ。先端を何度か擦られ、未知の快感に鳥肌が立った。
「ひゃ、あっ……」
「(いいぞ、その調子だ)」
そう言って、ベゼルはカレンの胸にキスをした。胸の先を吸いあげられ、カレンは身を捩りながらひときわ大きな声を出した。
「あ、ああん……っ」
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