書籍詳細
万能女中コニー・ヴィレ4
ISBNコード | 978-4-86669-442-9 |
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定価 | 1,320円(税込) |
発売日 | 2021/11/26 |
ジャンル | フェアリーキスピュア |
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電子配信書店
内容紹介
立ち読み
世の中には、身分差という壁をものともしないファイターがいる。
先日、義兄ファンの女中たちが、お守りの腕輪を渡そうとして軍施設の入口で出待ち。全員断られたと聞いた。玉の輿を狙う。それは結構なことだが……
何故、ろくに面識のない相手を利用しようと思いつくのでしょう?
テーブルの向こうには十代半ばの女中六名。話したこともないし、名も知らない子たちだ。城下街からくる通い女中なのだろう。その入れ替わりは激しく、コニーと関わることもあまりない。
目の前のテーブル上には、リボンのついた箱が六つ。中身は手作りの腕輪だそうで。
「これをどうしろと?」
コニーの問いに、一人が前に出て自信満々に答えた。
「ダグラー様に渡してほしいの! 私たちは〈翡翠の鳥を愛でる会〉のメンバーよ!」
貴族令嬢の私設ファンクラブは知っていたが、女中の間にもあったとは。翡翠は義兄のマントの色だが、どこから鳥という発想が出てくるのだろう。内心で首をひねりつつ適当にあしらう。
「ご自分で渡してください」
ここは使用人食堂。昼休憩が遅くなり、一人で食事を取っている時に奇襲された。二時半を回っているので、他に食事する人はいない。よくここにいるのが分かったなと思う。つけられていた覚えはないので、当てずっぽうでこの食堂をずっと見張っていたのだろうか?
すると、彼女たちはこちらを取り囲み、いっせいに話しかけてきた。
「そんな冷たいこと言わずに〜」「ヴィレさんが優しい人だって知ってるから」「嫌だけど」「協力してくれるわよね?」「この地味ブスが」「恋するあたしたちを応援して」「態度でかいわね」「彼の義妹だなんて」「万能女中様……プフッ受ける〜」「あなたもファンクラブに入れてあげるわ」「図々しい」「わたしたちの」「役に立てば?」「言うこと聞きなさいよ」「?だけど」「枯れ女は」「愛を届けて」
自己中な押しつけと、蔑みの小声がまんべんなく交ざっている。
ご飯が不味くなる、蹴散らそう。口の中のパンを水で流しこむ。そして——
「その伝言承りました、復唱します!」
大きな声に、彼女たちはぎょっとしたように身を引いた。
「そんな冷たいこと言わずに協力してくれるわよね? この地味ブスが。ヴィレさんが優しい人だって知ってるから、?だけど。枯れ女は恋するあたしたちを応援して。彼の義妹だなんて図々しい。言うこと聞きなさいよ態度でかいわね。あなたもファンクラブに入れてあげるわ、嫌だけど。わたしたちの愛を届けて役に立てば? 万能女中様……プフッ受ける〜——以上」
彼女たちは絶句したかと思うと、サァーッと顔色を失くす。
いや、そんなことは言ってないと言われても、そう聞こえましたので。
「間違いなくお伝えしますよ。自称ファンクラブの高圧的で悪意に満ちた振る舞いに、副団長様がなんと仰るか楽しみですね! ところで仕事はどうしました? まさか揃いも揃って、この中途半端な時間に休憩じゃないですよね?」
「あなただって休憩してるじゃない!」
最初に声をかけてきた女の子が?みついてきた。
「見ての通り、わたしは遅い昼食を取っているだけですよ。では、女中頭に尋ねてあなた方の勤務表を確認しましょうか。失礼ながら、そちらの名前は知らないので教えてもらえます?」
とたんに、彼女たちはシンと口ごもる。
「あぁ、メッセージカードに名前がありましたね」
プレゼントについたそれに手を伸ばそうとすると、彼女たちは弾かれたように飛びつき自主回収。
「もういいわ!」
「ケチ!」
「なんて意地悪な女なの!」
罵声を上げながら、バタバタと走り去ってゆく。顔と職場は知っているので、あとで女中頭に報告しておこう。騒ぎに気づいた賄いのおばちゃんと若い料理長が、あっけにとられた顔で厨房から覗いていた。
「なんだい、あのコたちは……コニーちゃん、大丈夫かい?」
「あの群れ方……故郷で畑を荒らしていた猿を思い出したよ」
夕刻から経理官として働く。最初は上官への返礼として始めたことだが——今は、リフの再教育もあり、昼間の勤務が難しいための遅出勤である。
執務棟へ向かっていると、顔見知りの王宮商人と会った。糸目のおっとりした青年だ。
「いつもご贔屓にして頂いているので〜、こちらを無料で差し上げますよ〜」
上質な純白の糸を一巻き、ありがたくもらった。紺ドレスの内ポケットに入れておく。しかし、書類を運んで行ったり来たりしている内に落として、アベルに拾われてしまった。
「コニー。よかったら、俺に守りの腕輪を作ってくれないだろうか?」
「え?」
「御前闘技大会への出場は緊張するから……」
彼の剣技は遠目でしか見たことはないが、それでも敵を一掃する様は凄かった。
そんな人でも大会となると緊張するのか……控えめな頼み方、どこか困惑を隠し切れない様子に、初めて出会った時の森の熊さんを思い出す。頼られている。ここは部下として、一助をすべきでは——そんな風に心揺れていると。
バン!
執務室の扉が開いて、義兄が乱入してきた。
「私の義妹に何を言ってるんだ君は! 白々しい!」
「彼女への頼み事に、〈義兄〉の許可はいらないだろう」
呆れたように返されても、ツカツカと足早に近づくリーンハルトは強気だ。
「いるに決まっている! この真面目の皮を被った狼が!」
「お前は、一度じっくり己の過去を振り返ってみたらどうだ?」
数多の女性遍歴について、ちくりと刺されるも。
「大事なのは今だよ! 私の一番はコニーだ!」
臆面もなくそう言い放ち、二人の間に割り込んできた。彼はさりげなく右腕でアベルを阻みながら、きらっきらの微笑みでコニーを見つめる。
「コニー、私に腕輪を作ってくれるよね?」
ベシッ! アベルは彼の右腕を、鋭い手刀で叩き落とす。
「痛いじゃないか!」
「頼むなら言い方があるだろう、強制するな!」
「遠回しに口説いたって気づかないだろ!」
リーンハルト様……わたしのこと、めちゃくちゃ鈍いとか思ってます?
いや、色恋に関してはあながち間違いでもないが……人に言われて自分の枯れ具合を再確認。
睨み合う二人。そして、同時にコニーを見た。さすがに分かる、催促される流れだ。
「「コニー!」」
真剣な表情で詰め寄られる。白糸を背中に隠して、コニーは尤もらしい断りを述べた。
「大変申し訳ありませんが、編み物は得意ではないのです」
◇◇◇◇◇
——なんてやつだ! 酒、強過ぎだろおおおおおお!
バットマッドは、渋々、コニー・ヴィレの欲する情報を提供した。
もともと、〈黒蝶〉の一員だという噂が流れてきた時に、彼女のことは調べておいた。怪力があり、下働きでの相談役のようなことをして、〈万能女中〉という大層なあだ名がついている。だが女中を本業としている時点で、〈黒蝶〉としては役立たずなのだろう、とも。
世間では暗殺部隊と思われている〈黒蝶〉。あれは第二王子への暗殺を阻むために作られた諜報部隊に違いない。女諜報員の役割は、ほぼハニートラップだ。男を誑しこむ色香があり、酒が呑めないと出来ない。本格的な諜報活動をしないこの女は呑めないと踏んだ。酔い潰して、〈黒蝶〉の情報を引き出し、反勢力に売りつければ金貨数百枚! そんな目論見はパアになった。
しかし、女も限界だったようで、話が終わった途端にテーブルに突っ伏した。
「ガラにもなくハラハラしちまったが……楽しかったぜぇ」
女の脇にある金袋を、するりと盗る。足音もなく入口に向かい扉を開けると、ニヤついた男が四人立っていた。入れ違いに室内へと押し入ってゆく。
助けてやる義理などない。むしろ後片付けが出来て好都合。
情報屋はこれ幸いと見捨てて帰ろうとする。この酒場にいたのは、人殺しも厭わないチンピラどもだ。豊かな王都とて影もある。他国から流れ着いた犯罪者は、明るい道にいる者を妬んで絶望の淵に叩き落とすのが大好きだ。あれだけ酔い潰れてしまえば、反撃も出来るわけが——
ドンッ! ドゴッ! ドオオン!
背後から、何か重い物体を壁に投げつける音が響く。
「ぎやああああああ!?」
「やめでぐでええええええ!」
野太いおっさんの悲鳴。酒場に出ていたバットマッドは、「え?」と後ろを振り返る。
あの女がカツカツと靴音を鳴らし廊下をやってくる。まったく乱れのない様に?然とする。
酒場にいた酔客二人が、赤ら顔に下卑た笑みを浮かべて女に近づいてゆく。
「よぉ、ネェチャン! オデの相手を」
直後に裏拳で横っ面を張られ、カウンターまで吹っ飛んだ。もう一人の男が血相を変えて拳で殴りかかるも、女はひらりと身をかわす。足をかけてすっ転ばし、その背中を苛立つようにダダダダダダッと高速で踏みつける。男は白目を?いて伸びた。女はすっと足を上げて床に下ろすと、こちらに向けて手を差し出してきた。目を据わらせて。
「わたしの金貨、返しなさい」
「ハ……ハイ……」
気圧されて金袋を渡した。女はそれを受け取ると、もう片方の手で胸倉を?んできた。
「アレは聞いてませんよ?」
金袋で顔を強かに殴られた。歯が何本か折れて飛んだ。
「盗みたいほど、大好きなお金で殴られて気持ちいいですか?」
「わ、わりゅが、った……! 酔ぃ、ぎゃ、まばって、で……」
女はにこやかに微笑んだ。
「酔うと手癖が悪くなると? では、特別に手伝ってさしあげます。酔 い 覚 ま し」
がしっと女に襟首を?まれた。勢いよく階段を駆け上がり、店の外に出る。いきなり地面に転がされた。少し離れた場所から、女が無表情ですっと片手を上げて言った。
「行きます」
助走をつけて突進してくる。逃げる暇もない。鉄のような硬い靴が、横腹を抉るように蹴り上げてくる。ドガンと体が吹っ飛んだ。夜空を舞い、アパートの屋上を見下ろした瞬間——恐怖に耐え切れなくなって意識は途切れた。
4 黒歴史の爆誕はスルーで
ゆらゆら揺れる感覚に意識がはっきりしてきた。
暗闇に浮かぶ明かりが街灯だと気づく。それを見上げながら視線を左に移動させると、リーンハルトの顔も見える。なんで彼を見上げているのか。疑問符を浮かべながら、この状況を考える。
「お姫様だっこはイヤです!」
掠れた声で叫ぶと、彼は瞬きしてこちらを見た。
「少しの間だから暴れないで」
横からぬっと出てきた白く輝く馬面が、ふんふんとコニーの頭を嗅いでくる。なんだ? と思っていると馬の背に乗せられた。これは白馬魔獣のリズだ。
「うしろがいいです!」
「ダメだよ、落ちるから」
「何故ですか! この間はいいって言ったじゃないですか!?」
「今日は絶対ダメ」
淡々とそう言われ、お腹に手を回される。うぷ、吐きそう。吐き気に耐えている内に、リズは空に舞い上がる。びゅうびゅう冷たい風が全身を吹き抜けてゆく。
——そうだ、お酒をしこたま呑んだ。あの情報屋とはいつ別れたんだっけ? 話を聞いたあとの記憶がまったくない。いつ、義兄が迎えに来たのかも。
「どうして、ここに……?」
「官僚宿舎を訪ねたら君がいなくて。君とお使いに行った同僚から、途中で別れたって聞いたよ。まさか、あんな治安の悪い路地裏で倒れているとは思わなかったけど……一体、何してたの? リズが君の匂いを覚えていたから、見つけることが出来たけど」
心配して探しにきてくれたらしい。しかも路地裏で寝ていたのか——
白馬のゆるやかに舞う振動で眠気も襲ってくる。説明が億劫だ。彼なら、ちゃんと官僚宿舎に届けてくれる——そう考えたところで意識が遠ざかる。
☆
「官僚宿舎に着いたよ」
声をかけると、彼女はパッと目を開いた。白馬から下ろしてあげると、平衡感覚が?めないのかフラフラしている。そして、息が強烈に酒臭い。
これは自分で呑んだのか、それとも誰かに呑まされたのか……
彼女が酒に弱いのは一目瞭然だ。やはり、自分から泥酔するほど呑むとは思えない。経緯を聞き出そうにも、青ざめて辛そうに口を押さえている。吐きそうなのか。抱き上げようとすると拒否。
「義妹なのでっ! それは要りませんから!」
何故、そこははっきりと声を大に出来るのか。お姫様抱っこはそんなに嫌か。
「じゃあ、こっちに?まって」
しゃがんで背中に?まるようにと言うと、これには抵抗がないのか、ぽふっとしがみついてきた。背負って立ち上がると。
「義兄さーん、すみませーん、ありがとうございますー」
酔っぱらいのテンションに、義妹が壊れたようで心配になる。
「どういたしまして……君、ちょっと酒癖悪いんじゃないかな?」
「あー……昔ですねぇ……こんなキラキラした毛の……ちっさなネコさんに会ったんです……大きくなったら背中に乗せてって……約束をしたんですよー……」
白金の髪を間近に見てか、唐突にそんなことを言う。猫には乗れないだろう、と思わず苦笑。
「白金の猫? 珍しいね」
「……いえ、……っとちがう……白くて……銀のもようが……?」
官僚宿舎の広い庭を突っ切り、玄関を通って一階の彼女の部屋まで辿り着く。
「到着です! 下ろしてください!」
背から下りた彼女は、スカートのポケットから鍵を出す。それで扉を開けて中に入ると、右へ左へと大きく蛇行しながら進む。
「コニー、吐きそうなら水場へ行った方が……」
心配になってあとをついていくと、寝室に入った彼女はくるりと振り返った。
「大丈夫ですっ! もう寝ますから!」
バン! と目の前で扉を閉められた。勢いよすぎて跳ね返る扉。その隙間から覗くと、彼女は床に伏せて寝ていた。
「寝るならせめて寝台に——」
肩を軽くゆすると、ペシッとその手を払いのけて、彼女はむくりと起き上がる。
「それじゃ、お風呂に入ってきますのでお引き取り下さい」
真顔でそう言い、すたすたと去っていく。風呂で溺れるんじゃないかと心配になった。そのため、別の部屋で待つことも出来ず、脱衣所前の廊下で立ち尽くす。
最初は給水ポンプを動かす音が聞こえていたが、そのうちまったく水音がしなくなった。
「コニー、大丈夫かい?」
浴室と脱衣所の二重の扉越しに声をかけるが、返事がない。
「コニー? まさか溺れてないよね?」
ノックをするが返事がない。しんとした中、ごくかすかな泡の音を聞いた。慌てて浴室に飛びこむと、彼女は頭の先まで水没していた。即座にその体を湯から引き上げる。脱衣所にあるタオルで包んで抱き寄せ、息をしているか確認。ほっと安堵の息をつく。
「こんなに手のかかる子だと思わなかったけど! 今後は絶対、お酒は禁止だよ! ……コニー、聞いてる!?」
「……んにゃ……」
「待って、寝ないで! ちゃんと拭かないと! 私がやることになるよ!?」
◇◇◇◇◇
「濃すぎる瘴気は生物を腐らせ溶かす」
市壁の揺れがぴたりと止まった。
心地よい美声に振り向けば、白緑の光に包まれた精霊が胸壁の上に立っている。
コニーは目をまるくして彼を見つめた。裁定者であり〈緑の佳人〉たる彼が、城外に出ているのを見るのは初めてだ。彼は異形ではなく、市壁の真下を見ている。何かあるのかと、コニーも胸壁から身を乗り出して下を見た。門前に黒ずみ溶けたような死体が落ちている。見覚えのある髪型と衣装に、あの情報屋だと分かった。この混乱に乗じて脱獄したのか——
イバラが現れた瞬間から、王都内の地震は静まり、結界の震えも収まった。
以前、彼は防御の魔法が得意だと言っていたので、結界を補強してくれたのだろう。とりあえず、目の前にあった〈結界消失〉という危難は去った。コニーは安堵の息を吐く。
「イバラ様……あれは憑物士なのですか?」
ひらりと、胸壁から下りた彼は頷く。
「元・憑物士だ。悪魔化は完了している」
コニーの傍まで来ると、その深緑の双眸を空にいる異形へと向けた。
「あれは〈不浄喰らい〉と呼ばれしもの。元々は下位悪魔である。長き年月をかけて死骸を食らうことで、その魔力は高位悪魔と同等にまで進化する。だが、人世においては下位である内に駆除され、高位に至ることは無い。よって、極めて異例の事態が起きていると言えよう」
死骸を食らう……巨大な憑物士……そういえば、もっと前にどこかで聞いたような……そうだ、同僚の怪談にあった。確か九年前、村の共同墓地を荒らされたと。足跡が成人男性の倍あった……ということは、当時の身長は三、四メートル? それが駆除されることなく進化した?
異形の女は歌いながら、結界の上を蠅のようにくるくると這い回っている。術が強化されたことに気づいたのか、平手で殴りつけている。
イバラは話を続けた。
「先月の終わり頃、副団長より知らせがあった」
「リーンハルト様から?」
「討たれた憑物士を食らい、急速に巨大化する異形の目撃が各地で相次いでいると。討伐隊に情報共有もさせていたが、どの隊も接触すら出来なかったと聞いている」
それは知らなかった。機密情報を横流ししてくれる梟がいないためだ。彼は消えた隊長を探して王都を出ている。
「そういえば、城の魔法士たちは来ないのでしょうか?」
「魔法士団の中に高位悪魔を滅せる者はおらぬ」
「だから、イバラ様が来られたのですね」
「うむ、あれだと高位の最下級あたりか……一度の攻撃では足りぬな」
——え、あの巨大なミミズ魔獣を粉砕した力でも足りない、と……!?
「我の攻撃魔法は最大出力で、一日一度が限度だ」
「はい、存じています」
以前に彼自身から聞いたことなので、覚えている。
「〈不浄喰らい〉の吐息は、瞬時に生物を腐らせる。夜が明ければ、王都を訪れる多くの者たちが犠牲になるであろう。風に乗った瘴気は周辺の街にまで流れつく。今ここで多少の無理はせねばなるまい。娘、〈砦の母〉から渡された石は持っておるな?」
「はい、ここに」
コニーは手首につけた腕輪を見せた。
「それは邪悪なものを寄せつけぬ。我が身は極限まで魔力を消耗すれば、その代償として縮む。転移等の術も使えぬ。そなたは我を庇護し、城まで送り届けよ。出来るな?」
縮むというと、彼の仮初めの姿である〈庭師見習いの子供〉になる、ということだろうか? いや、庇護を頼むのだから、もっと幼くなるのかも知れない。そして、この魔除け石。イバラが必要とするほどの凄い力を秘めていたことにも驚く。
これは重大任務だ。彼がいてこそ、この国と主の未来は輝く!
「分かりました、お任せください!」
彼は「うむ」と鷹揚に頷くと、光の粒子を撒いて姿を消した。次いでコニーは上空に向かう白緑の星を見つける。
彼は結界をすり抜けて、黒髪を逆立てて威嚇する巨女——〈不浄喰らい〉に対峙した。それからスーッと飛んで、王都中心の真上にまで相手を誘導する。イバラの周囲は球状の結界で防御されているらしく、女が口を突き出して噴きつける瘴気もその身に届いてはなかった。
彼が優雅に腕を伸べると、複雑に描かれた光の魔法陣が大きく楯のように浮かぶ。
ドウッ!
楯から眩い砲弾を発した。流星のように——一撃で異形の腹を撃ち抜き、続く二撃目で頭部を跡形もなく吹き飛ばした。大気中に散った光の刺が、残った手足や胸部に吸い寄せられるように刺さり、内側から小爆発を起こして〈不浄喰らい〉を粉砕してゆく。容赦のない徹底した殲滅。
——何故、国の守護者でありながら、〈戦いの力〉が契約で制限されているかが分かった。諸刃の剣だからだ。
強大な攻撃魔法を幾度も撃てるなら、その存在は戦火を引き寄せる。他国からは狙われ、有事の際には国内からも求める声が上がるだろう。戦で大地が疲弊したら〈緑の力〉で甦らせればいいと、愚考する者も出る。契約者である国王とて国の危機なら使えるものは使う。
生き物にある魔力は有限だ。だからこそ、イバラは自身が消耗しないためにも、あえて契約で制限をかけているのだ。
さらに、イバラは四方に魔法陣の楯を描く。そこから白緑光の波を出現させると——王都上空から周辺地までを覆い、吹き溜まる紫の瘴気を打ち消していった。
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