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恋愛は来世がんばるつもりが、転生先で婚約破棄されました

柊 一葉 / 著
ザネリ / イラスト
ISBNコード 978-4-86669-509-9
定価 1,320円(税込)
発売日 2022/07/27
ジャンル フェアリーキスピュア

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内容紹介

《柊一葉、初の完全書き下ろし!!》
恋愛ポンコツ令嬢、生涯の伴侶を見つけないと無限ループ!?
転生して恋愛修行なんて無理ゲーです!
神のムチャぶりから始まった恋愛音痴たちによる仁義なきすれ違いラブコメディ!
恋愛願望ゼロのユスティーナは、神から「生涯の伴侶を見つけないと無限ループ」という転生恋愛修行を課されてしまう。せっかく捕まえた婚約者に振られ、焦る彼女が出会ったのは美貌の騎士ヴァルト。「恋愛なんてくだらない」と吐き捨てる彼に、ユスティーナは勢いでプロポーズする。「あなたに恋しない私と結婚しませんか?」無事婚約しミッションクリア!と浮かれるも――なぜかヴァルトが「婚約者らしく振る舞おう」と距離を縮めてきて!?
「君には、遠回しなやり方では気持ちが届かないと知っている。だから覚悟して欲しい」

立ち読み

 ――きゃぁぁぁぁぁぁぁ!
 ――ロベルティ様が優勝よ!
 ご令嬢方の黄色い悲鳴が飛び交う。
 悔しげに笑ったジェイルさんは、ヴァルト様が差し出した手を摑んで立ち上がる。激しい戦いを終えた二人がそのまま固い握手を交わすと、場内は一気にわぁっと沸いた。
「お嬢様、ヴァルト様の優勝ですよ! よかったですね!」
「え、ええ……」
 私は彼が無事だった安心感で、気が抜けてしまっていた。
 こんなにすごい人だったなんて……!
 ヴァルト様の強さを目の当たりにして、あまりの驚きと感動で言葉が出てこない。
 彼はいつものように淡々とした様子ではあるけれど、それでもどこか嬉しそうでじっと喜びを嚙み締めているように見えた。
 静かに喜ぶその姿から、彼が本当に真摯に騎士として腕を磨いてきたのだと伝わってくる。
 これほどまでに強くなるには、厳しい訓練を続けてきたんだろう。私なんかが想像できないくらいに、つらいことや苦しいことがあったに違いない。
 お父様のことやお母様のこと、家を継がなきゃいけなくなったという困難も乗り越えて今のヴァルト様があると思うと、堪らなく胸が熱くなった。
「ヴァルト様、おめでとうございます」
 ぽつりと漏らした声に、意味なんてなかった。ただ、想いが口から出てしまっただけだった。
 それなのに、私の声が届いたみたいにタイミングよく彼がこちらを振り向く。
「え……?」
 目が合ったのか確証は持てない距離だったが、ヴァルト様は私を見つけた瞬間に感極まったように笑顔に変わった。
 どきんと強く心臓が打ちつけ、今すぐ彼のもとへ走り出したくなる。もっと近くで、おめでとうと伝えたい、この興奮を分かち合いたいと思ってしまった。
 この人の世界に私もいたい。誰よりも近くにいたい。そんな風に思っている自分に気づく。
 今まで誰かに対して、こんな気持ちになったことはなかった。彼から目が離せなくなり、拍手をするのも忘れてぼうっと見入ってしまっていた。
「お嬢様?」
 サリーに呼びかけられ、私ははっと我に返る。
 隣を見ると、サリーが不思議そうな顔でこちらを見つめていた。
 私は慌てて笑みを作る。
「大丈夫よ! あまりに激しい戦いだったからびっくりしただけ」
「そうですね、とても素晴らしい試合でしたわ」
「ええ、ヴァルト様がこんなにお強いなんて知らなかった。本当に……かっこよかったわ」
 彼がかっこいいことなんて最初からわかっていたのに、なぜか今それを口にするのが躊躇われた。普通のことなのに、何でさらっと言葉が出なかったんだろう。
 自分が感じていることを言うだけで、むず痒いような恥ずかしいような気持ちになってしまう。
「世界一かっこいい婚約者様ですわ」
 ほら、サリーだってこう言っているし、やっぱり普通のことじゃないの。自分で自分がわからなくて、私は混乱していた。
「お嬢様、早くヴァルト様のところへ! 婚約者としてお祝いの言葉を伝えなくては!」
「えっ? いや、あの、今!? 今すぐ行かなきゃダメ?」
「当然でございましょう? 婚約者なのですから」
 理屈はわかる。それに、私だって今すぐヴァルト様のところへ行きたい。でも、なぜか素直に行動することができないのだ。
 私はすぐに移動しようとするサリーにもごもごと言い訳をした。
「ほら、騎士の方々に囲まれているからお邪魔じゃないかしら? 優勝したんだもの、仲間と喜びを分かち合いたいはずよ。そこに婚約者だからって割って入るのは無粋なんじゃない?」
 あああ、何で私はこんなことを!? 私だって一緒に喜びたいし盛り上がりたいのに……!
 今行かずしていつ行くの? とも思うけれど、心の奥底では「ヴァルト様は私が行っても喜んでくれないのでは?」なんていう謎のマイナス思考がやたらと主張してくるのだ。
 何でなの? 私はどうなっちゃったの?
 自問自答、そして自己嫌悪に陥ってしまった。
「お嬢様。いったん感情はすべて置いておきましょう。礼儀として、婚約者にお祝いの言葉を伝えるのではいけませんか?」
「礼儀……!」
 サリーの言葉に、私は目が覚めたような気分だった。
 そうよ、礼儀。これは大事!
「お嬢様に礼儀作法をお教えしたのは私です。私がついていながら、ここで失態を犯すわけにはまいりません。私のために、ヴァルト様のところへ行ってくださいませんか?」
 サリーのため。こんな風に言われれば、行かないという選択肢はなかった。
 にこりと微笑む彼女の顔を見ていたら、なかなか足が動かない私のために無理やり理由を作ってくれたんだというのはわかる。
 こんなめんどくさい私のために……! 今、自分がなぜこんなことになってしまっているのかはいったん置いておいて、まずはヴァルト様のところへ行かなきゃ……!
 私はようやく席を立つ。
「ありがとう、サリー」
「お礼には及びませんわ」
「本当にありがとう!」
「うっ!」
 心のままに、サリーに思いきり抱き着く。好き好き大好き! と頰ずりしながら私は言った。
「こういうことはヴァルト様になさってください!」
 少し照れた様子のサリーが、呆れた声で苦言を呈する。
 私はごめんねと言って笑うと、スカートや髪を手で直してから観覧席を離れるのだった。

***

「まぁ、あちらをご覧になって? 滝がありますわ」
「素敵ね~! 建物の中なのに、こんなに美しい風景が楽しめるなんてすごいわ」
 オープン前のダイエットサロンに、明るく軽やかな声が響く。
 今日は施設の見学会で、集まってくれた貴族令嬢たちは私の友人やアンバー家になじみのある貴族家のお嬢様・奥様方だ。
 メアリーアンも友人を連れてきてくれて、皆ダイエットサロンのプログラムや美容アイテムに目を輝かせ、新しいもの好きの彼女たちの心はがっちり摑めた気がする。
 私は女性たちの先頭に立ち、旗を持ってサロン内を案内して歩いていた。
「さぁ、こちらはハイキングコースでございます。美しい木々や花々を愛でているうちに、気づけば運動ができているという不思議なコースで、この先にある泉では花びらを投げて恋占いもできますよ! そこでは日替わりで様々な味のハーブティーを楽しめますし、休憩を挟みながら無理なく痩せたい方にお勧めです」
 メアリーアンとサリーがここですかさず恋占いについて解説をし、スタッフたちはハーブティーの試飲を配る。
 まだオープンは少々先だが、すでに入会希望の声もかなり集まっていて、サロンの前評判は上々だと思われた。
 見学会は無事に終了し、私はゲストを笑顔で見送る。
 実際に反応を見られる機会はスタッフのモチベーションアップにも繫がったみたいだし、順調に準備が進んでいると自信にもなった。
「はぁ~、さすがに疲れたわ……!」
 サロン内にあるプライベートルームで、私はソファーに座って目を閉じる。冷たいジャスミンティーを飲んだら気が緩み、心地よい疲労感と達成感に包まれた。
「見学会は、今後もお嬢様が自らご案内なさるおつもりですか?」
 カップにおかわりを注ぐサリーが、呆れたようにくすりと笑いながらそう尋ねる。
 いや、別にほかの人に任せてもよかったんだけれど、やってみたくなったのよね。
「ちょっとツアコンの血が騒いだっていうか」
「つあこん?」
「ううん、何でもない。せっかくだから、自分で案内してみたかったの」
 この後は、入会希望者のリストのまとめと今日のお礼を送る手続きをしなくては。私はお礼の品を選ぶのはサリーに任せ、デスクに移動するとそこに置いてあったリストに目を通す。
 ところがそのとき、まさかの人物が現れた。
 サリーと入れ違いに、薄青色の隊服のヴァルト様がやってきたのだ。
「随分と張り切っていたな。少し見学させてもらった」
「ヴァルト様!?」
 顔を合わせるのは、模擬戦の日以来だ。優勝が決まった後、私は「おめでとうございます」とお祝いの言葉を伝え、彼は少しはにかむように「あぁ」と言ってくれた。
 その後沈黙が続いてうまく会話ができなくなっていたところ、ヴァルト様の婚約者を見に来た騎士たちに取り囲まれてしまい、混とんとした状況になった。
 大柄の騎士たちから「どこを好きになったのか?」「どんな会話をしているのか?」など全部聞き取れないほどの質問を浴びせられ、見かねたヴァルト様が私とサリーをその場から連れ出し、馬車まで送ってくれたのだ。あのとき「また連絡する」と言われたのだが――――
 手紙がくるんだと思っていたから、突然の来訪にびっくりして慌ててしまった。
「まさかここに来てくださるなんて……!」
 やりきった後のぐったりした姿を見られた!? 完全に油断してた!
 私はあたふたしながら両手で髪やスカートを整え、急いで立ち上がる。
 そんな私を見て少し笑ったヴァルト様は、ゆっくりとこちらへ近づいてきた。
「勤務終わりに隊長に食事に連れ出されて街へ出たんだが、その店がこの近くだったんだ。君が今日ここにいると、先週もらった手紙に書いてあったのを思い出して寄ってみたが……」
「?」
「君があんなに案内上手だとは意外だった」
「えっ!」
 いつから見ていたの!?
 恥ずかしさのあまり、私は目を逸らした。
 ヴァルト様はくすりと笑い、私の髪を指で掬ってそっと耳にかけた。その所作があまりに自然で、思わずどきりとする。
 距離の近さといい仕草といい、「婚約者らしく」っていうことなんだろうけれど、とにかく心臓に悪い。
「説明もわかりやすいし、声の抑揚のつけ方もうまいと思った」
「ありがとうございます。面と向かって褒められると照れます……」
 彼が私をまっすぐに見つめるほど、その目を見返すことができなくなる。ドキドキする心音がうるさくて、それをごまかすようにぺらぺらと喋り始めた。
「慎ましやかな淑女としてはダメだなってわかってはいるんですが、案内するのってすごく楽しくて……。ゲストの皆さんの表情が変わるのがおもしろいんです」
「表情?」
 ヴァルト様は、私の話を黙って聞いてくれる。
「はい。最初は何があるんだろうって不安と期待が混ざっているような表情なんですけれど、それが次第に輝いたり声を上げて驚いたり、皆さんの反応が嬉しくてついはりきっちゃって。今日、皆さんの楽しそうな姿を見ていたら、サロンを始めようって思ってよかったなって……。なくてもいいものだけれど、やっぱりあったらいいなって思って」
「なくてもいいもの?」
「人って衣食住があれば生きていけるじゃないですか? ダイエットサロンって結局は娯楽だから、なくても生きていけるけれど、でもあったら嬉しいなって……」
 私は一体、何の話をしているんだろう?
 普通に会話すればいいだけなのに、ドキドキしてしまってその「普通」がわからない。ヴァルト様が近くにいるっていうだけでいつもの自分じゃないみたいだし、そわそわしてしまう。
 これ、大丈夫なの?
 疲れて不整脈を起こしてない?
 そんな不安を抱いていると、ヴァルト様は妙に納得した顔つきで頷いた。
「なくても生きていけるが、あったらいいもの、か。――恋もそうかもしれないな」
「恋……?」
 ヴァルト様から恋なんて言葉が出てくることが意外すぎて、私は目を瞬かせた。
 恋なんてくだらないって、初めて会ったときに言ってませんでした?
「それはなぞなぞですか?」
「そんな趣味はない」
 不思議そうに首を傾ける私。ヴァルト様は、まっすぐに私を見下ろし苦笑する。
 そして、少し寂しそうな目をして言った。
「――もしも誰かが、君に恋をしているとしたらどう思う?」
「え?」
 じっと瞳の奥を覗かれて、これが重要な質問であるかのようだった。誰かが私に恋を、なんて思い当たる節はないけれど真剣に考えれば考えるほど答えは一つだ。
「迷惑ですね」
「っ!!」
 そう答えた瞬間、ヴァルト様がものすごく険しい顔になる。
 あまりに眉間のシワが深くなったので、私はぎょっと目を見開いた。
「どうしたんですか!?」
「何でもない」
「何でもないって……」
「いや、もう少し詳しく知りたいんだが、その迷惑の度合いは何ジュールほどか答えられるか?」
「何ジュール?」
「……物体に力を加えて動かすときの単位だ」
「すみません、数値ではお答えしづらいです」
 一体どうしたんだろう?
 ヴァルト様は物事を正確に把握したいタイプなんだろうか?
 だとしても、私の気持ちを正確に伝えることなんてできない。困惑した私は笑みを浮かべながら言った。
「私はヴァルト様の婚約者なんですよ? 誰かの好意なんて受け取れません。私はあなたと結婚するのに」
 好きになられたところで、応えようがないのだ。
「俺の婚約者だから……?」
「はい、そうです」
 ヴァルト様は笑みを堪えるかのように顔を背ける。
「どうかしました?」
「喜んでいいのか複雑な心境だ」
「喜ぶ? あぁ、浮気の可能性がないからですね? 大丈夫ですよ、私は不誠実なことはしません」
 どうやら彼は心配性らしい。
 私は自信満々で胸を張って宣言した。
「誰のことも好きになりませんから! どうぞご安心を」
「くっ……!」
 悔しげに拳を握るヴァルト様。
 私もかなり不整脈が心配だけれど、彼も彼で情緒不安定なのでは?
「大丈夫ですか?」
 彼の顔色を確認しようと恐る恐る手を差し伸べる。その手が頰に触れる寸前でぱっと摑まれ、二人の顔がこれまでで一番近づいた。
 真剣なその目に圧倒され、思わず息を呑む。
「君の心が動くことはあるんだろうか?」
 ふと漏れ出したような切実な声。前世で読んだ少女漫画みたいなセリフだわ。
 なぜか胸がきゅっと締めつけられる。
 もしかして、これは実験? 私がヴァルト様に恋してないか、確認してる?
 はくはくと唇を動かすだけで何も言えずにいたら、緊張感から妙な汗が背中を伝った。
 心臓が爆発しそうなくらいに速く鳴り続け、鏡を見なくても顔が真っ赤になっているのがわかる。ヴァルト様も緊張の面持ちで、何か言おうとしているのだと思った。
「ユスティーナ、もしも俺が……」


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