書籍詳細
政略結婚の相手は推しの魔王様 このままでは萌え死してしまいます!
ISBNコード | 978-4-86669-523-5 |
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定価 | 1,430円(税込) |
発売日 | 2022/09/28 |
ジャンル | フェアリーキスピュア |
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内容紹介
立ち読み
ゼル様と正式に婚約をして、なぜかそのまま親睦と交流を目的としたふたりきりのお茶会に参加させられたわたしは、魔王陛下の予想外のスキンシップでいろいろ限界を超えてしまい、萌えがたぎって見事な鼻血を噴いてしまった。
あの、ドアップで見たゼル様の美麗なお顔を思い出すと、今も鼻血が溢れてきそうである。
婚約者との最初のお茶会デートで鼻血をたらっ、ではなく、ぶしゅーっ、と出すなんて、淑女の振る舞いではない。わたしは愛する推しの前で無様な姿を晒したことで、深く深く落ち込んでいたのだが。
ゼル様は優しかった。
どっぷりと自己嫌悪に落ち込んで、子どものようにベッドに潜り込み、ゼル様ぬいぬいを抱きしめながら涙ぐんでいたら、なんとゼル様が直筆メッセージをくれたのだ。
しかも、美しい薔薇の花束と共に。
「陛下は、アネット様に無理をさせたのではないかとご心配をされていましたが、責めるようなお気持ちはこれっぽっちもお持ちではございませんわ。それはこのエルエリアウラが保証いたします」
「……あのような失敗をしてしまったのに、陛下はお怒りではないの?」
毛布から顔だけ出したわたしは、なぜかご機嫌なエルに尋ねた。
「まったくございませんわ」
エルが力強く断言した。
「むしろ、アネット様の努力に感心のご様子でしたわ。他の人間の方と比較するのはあまり適当とは言えませんが……アネット様ほどゼルラクシュ魔王陛下に心身共にお近づきになられた方はいらっしゃいません。特に、魔力への適応の早さは、目を見張るほどでございました」
「本当に?」
わたしは少し気力が戻り、潜り込んでいたベッドの上に起き上がった。
「魔王陛下は自己表現のお得意でない方ですが、そのお心は誠実でお優しいのです。アネット様にはそこのところを信じていただきたいのですが……」
エルが心配そうな顔で言ったけれど。
ゼル様が外見のみならず内面も超絶素晴らしい方であることは、ゲームを通じてよく知っていた。彼は他人のために力を尽くす素晴らしい国王なのだ。
でも、実際にお会いしてみたら、心身共に強いだけではなかった。ほとんど顔面筋が仕事をしない無表情っぷりなのは一緒だったけれど、わたしに対して気遣ってくれているのが伝わってきて『こんなに気持ちの温かな人だったんだ』と、わたしは改めてゼル様の人柄に魅了された。すごくクールで何を考えているのかわかりにくい。でも、婚約者であるわたしとの距離を縮めようとしてくれる。他人との交流に慣れていないみたいな、少し不器用なところも愛おしくて。
孤高の魔王で誰よりも強い力を持つけれど、心の奥に温かな火を灯す人、それがゼルラクシュ様。
わたしの人生をかけて彼を推していたし、この世界で出会ってからはますます好きになった。だから、わたしは胸を張って彼の隣に立ち続けていたいし、彼を幸せにしてあげたい。そのためにはよき王妃になれるよう、いかなる努力も厭わないつもりだ。
「わかったわ、エル。陛下を信じて、わたしはわたしにできることに励むわね」
というわけで、安心したわたしは数日間、心静かに静養させていただいた。
今は涼しい風に吹かれながら、美味しくお茶をいただいている。ゼルラクシュ魔王陛下が用意してくれた、特別に美味しい紅茶だ。約束したコーヒーの方は、機会を見てゼル様が手ずから淹れてくださるとのことで、後のお楽しみなのである。
神官のシモン様に回復魔法をかけてもらったけれど、数日間、身体から怠さが取れなかったので、不安になってエルに尋ねてみた。そうしたら、無意識に大変な力を持つ魔導具を作ってしまい、体内にあった魔力をごっそり使用してしまったからだろうと説明してくれた。萌えに突き動かされてシーツに描きなぐった、わたしの鼻血によるゼル様の肖像画が、なんと強い力を持つ魔道具になっていたと聞いた時は驚いたけれど、その効果がゼル様の役に立つらしいので『愛の力って偉大なのだわ』と感心してしまった。
「魔導具の作製に慣れた者は、その辺りを加減しながら作るのですが、アランダム国という魔素の濃い場所にやってきて魔王陛下の魔力を大量に取り込んだアネット様は、初心者なのに国宝級の魔導具を生み出してしまい、その反動があったのかと思われます。けれども、陛下を模した魔導人形をお近くに置いておけば、速やかに失った魔力を補給できますので安心なさってください」
「まあ……わたしは知らないうちに、とても危険なことをしていたのかしら」
両手でゼル様ぬいぬいを抱きしめながら身震いした。
あと、今『国宝級』とか恐ろしい言葉が聞こえたような気がするけど……ええ、気のせいよ。
「そうですわね。ですので、ご自分で制御できるようになるまでは、是非その魔導人形を手放さないようになさってください。もしくは、陛下のお側にいて、直接魔力をお受けになるのもよろしいですわね」
エルは「ほほほ」と上品に笑ったけれど、わたしは「直接だなんて恥ずかしいわ」とゼル様ぬいぬいのお腹に顔を埋めてしまった。
「陛下は今、執務が取り込んでらっしゃいまして、出張に出かけているのです」
「出張に?」
「はい。この国やその周辺には大変力のある魔物もおります。ひとたび暴れ出すと大変な被害が起きますし、殺してしまうと生まれ変わって新たな魔物になってしまうため、ゼルラクシュ様のお力で封印をしているのです。そのひとつがそろそろ緩みそうなので、封印し直しに向かわれました」
魔王陛下には、国を治める仕事の他にもいろんな特別任務があるとのことだ。しかも、代わりを務める者がいないため、とても忙しいらしい。確かにゲームの中でも、ゼル様にしか倒せないドラゴンなどたちの悪い魔物も出てきたし、彼はアランダム国の未来をすべて背負う、強大だが孤独な魔王だった。わたしはそんなゼル様の伴侶となるのだから、あの方を少しでもお支えできるようになりたいと思う。そして、気の置けないお茶会とかお散歩とか、可能ならば国の視察(という名の旅行)に行ったりなどといった楽しいこともして、孤独なんて感じないようにしてあげたい。
わたしはおとなしくゼル様を待ちながら、身体に魔力が満ちるのを待った。
数日が経ち、すっかりお気に入りの場所となった庭園の四阿でお茶をいただいていると、突然ゼルラクシュ魔王陛下が現れたので驚いた。
ミーニャとメイド達が一斉に頭を深く下げる。
わたしも弾かれたように椅子から立ち上がり、ゼル様ぬいぬいを椅子に座らせると頭を下げた。
「皆の者、面を上げよ。寛ぐことを許す」
わたしはゆっくりと頭を上げると、輝くばかりに美しいゼル様のお顔をうっとりと見つめながら「お帰りなさいませ、ゼルラクシュ魔王陛下」とお声をかけさせていただいた。
すると、陛下はなぜか不満そうな表情(両眉が一ミリ内側に寄り、花の蕾も恥じらうような完璧な造形の唇が二ミリ尖った)をされた。
「……そうではないだろう」
「はい? あっ」
わたしは再び頭を下げると「畏れ多くも魔王陛下に、差し出がましいことを申し上げました。どうぞお許しくださいませ」と謝罪の言葉を述べた。陛下に話しかけられていないのに、こちらから会話を始めてしまうなんて……わたしはとても不敬な振る舞いをしてしまったのだ。
「そうではない」
陛下はわたしに近寄ると、両手で?を包むようにして顔を上に向けた。
「先日、我のことを『ゼル様』と呼んだであろう」
「……ああっ! 重ね重ねの失礼を」
再び伏せた顔を、また両手で持ち上げられた。
「よいぞ」
「えっ?」
「そなたは我の婚約者であるから、我を愛称で呼ぶことを許す」
「……陛下、でもそれはあまりにも……」
この世界の常識からすると不敬極まりないんですけど!
「構わぬ。もし異論を持つ者がいたら……」
ゼルラクシュ魔王陛下の淡いブルーの瞳の中に、チラチラと赤い炎が見えた。
「我がこの手で」
「あら、わたしが串刺しにしますから陛下のお手を煩わせませんわ」
エルがすごみのある笑顔で恐ろしいことを言った!
「では、処分はエルエリアウラに任せる」
このお助けお姉さんは過激なサポートをするから任せちゃ駄目ーッ!
「わかったか?」
「は、はい、陛下」
「違うだろう」
魔王陛下の人差し指が、わたしの下唇をスッと撫でた。
「婚約者だから愛称呼びをするがよい。心得たか、アニー?」
誰かが「きゃっ?」という声を出した。
萌えが芽生えたの?
仲間になる?
いや、逃避してしまいそうだけれど、今、確かに、魔王陛下がわたしのことを『アニー』って呼んだし!
推しに、アニーって呼ばれちゃった!
きゃあああああああーっ!
「ん?」
麗しすぎる顔が近づいて、少し傾げられた。
何それカッコ可愛いし!
美しすぎてこの世のものとは思えないし!
尊さの極みだし!!!
「そら、アニー、我を呼ぶがよい」
陛下の右手がわたしの?をすりすりして、促す。
マジですか?
よ、呼んじゃっていいの? いいのね? 心の中で叫んでいたそのまんま、呼んじゃうわよ?
「……ゼル、様」
「ふむ。よくできた」
ゼル様のおでこがわたしの額にくっついた。
ああああーっ、おでこっつん!
からの!
鼻の先にゼル様がちゅっとキスを落とした!
「きゃあああーっ!」
「こ、これがアネット様がおっしゃっていた『尊い』なのですか?」
「ハアハア、何なのこの胸の甘い疼きは!」
女子達が大騒ぎをしている。その反応が怪しいのは、わたしが萌えや推し活などについてを日々彼女達に伝授しているからである。
けれど、わたしはそれどころではないのだ!
ゼル様は、今度は右の?をわたしの?にぴたりとくっつけて言った。
「アニー、我は忘れていないぞ? そなたが我を……好き、と申したことをな」
ふふっ、と、ゼル様の息がわたしの耳にかかった!
うきゃあああああーっ!
何なの、いったい何が起きているの?
そういえば言いました、鼻血を噴き出した時に好きだって思いっきり告ってましたね!
「我が婚約者は何とも愛い姫君であるな」
そう言うと、すりすりをやめたゼル様は、わたしのほっぺたに……。
「きゃああああああーっ?」
侍女&メイド女子達が叫んだ。
ゼル様からほっぺにちゅー、いただきました!
もう、死にそう!
救護班員と一緒に昇天してもいいですか?
「どうした、アニー。我の魔力に酔ったか」
わたしの髪を撫でながら、至近距離でゼル様が囁く。
推しの声が素敵すぎて、お耳が幸せ。
「いえ、大丈夫でございます。魔力にはかなりの耐性がつきました」
魔力ではなくて、あなたの放つ、乙女の胸にきゅんきゅん突き刺さる、ある意味殺人的な魅力に酔ったのでございます。
好き。
もう、好きすぎて辛い。
萌えが膨らんで胸が張り裂けてしまいそう。
周りの女子達は目をハートにして、ゼル様……と、ついでにわたしのことも見ている。超絶美麗な魔王陛下のお相手がわたしで、本当に申し訳ない。
でも、ゼル様を愛する気持ちは世界一だと思うから、許して欲しい。
皆、?をピンクに染めて大変可愛らしい。推しを推す女の子はとても可愛い表情をしているとわたしは思うのだ。
「そうか、こんなに早く耐性がついたか。そなたは本当によくやっているな」
完璧な美貌の完璧な唇の両端が、それぞれ五ミリ持ち上がって仄かなカーブを描き、蕾が綻ぶような尊い笑みになる。
あっ、もう駄目……眩暈がするほど美しい。
尊すぎて耐えられないわ。
美しすぎるゼル様が罪なの。
下半身に力が入らなくなりふらつくわたしの腰を、大きな手が支えて、そのまま強く引き寄せられた。
「あっ……」
のけぞるわたしにゼル様が覆いかぶさるようになって、わたし達の身体が密着した。
女子達が「きゃああーっ」と黄色い悲鳴を上げる。
「アニー、まだ身体が辛いのではないのか?」
右手で腰を抱きしめ、左手でわたしの後れ毛を後ろに流してから後頭部を支える。
当然、わたしの視界は推し一色である!
しかも、これは夢でもゲームでもないから、ゼル様に触れている場所には感触があるし体温も伝わってくるし、ああもう駄目、本当にもう駄目、魂が出てしまうわ!
「大丈夫ですわ、陛下。ひとりで立てますので」
「アニー……」
「ああっ、ご無体はおよしくださいませ!」
少し不機嫌を滲ませたゼル様がわたしの耳に唇を寄せ、甘く?んだ。
推しがっ、耳をっ!
背中がぞくぞくするーっ!
「そなたはまた呼び方を間違えておるな。きちんと覚えるまで、我がこの口に仕置きをせねばならぬのか?」
切れ長の淡いブルーの瞳が狙っているのは……わたしの唇?
待って、ゼル様!
婚約はしたけれど、わたし達は清い関係でいなくてはなりませんわ!
結婚式のその時まで、お口は、お口ちゅーは、しては駄目なのです!
「どうかお許しを、ゼル様、わたし達はまだ……」
く、唇が、ゼル様の麗しき唇が、わたしに急接近!
女子達が「きゃあああああああああーっ!!!」と悲鳴を上げる。
「いけません、ゼル様、どうぞ堪忍してくださいませ」
わたしが涙目になってゼル様に訴えると、あと一センチで……というところで止まり、少し酷薄な魔王スマイルになった。
誰か、スクショを!
スクショをお願いいたします!
魔王スマイルが素敵すぎてわたしの脳内に留めておくことが不可能なのです!
「ふむ、婚約してもまだ唇は許さぬか」
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