書籍詳細
没落殿下が私を狙ってる……!! 一目惚れと言い張る王子と新婚生活はじめました
ISBNコード | 978-4-86669-569-3 |
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定価 | 1,430円(税込) |
発売日 | 2023/04/27 |
ジャンル | フェアリーキスピュア |
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内容紹介
立ち読み
拭き掃除が終わると、オリビア一人では今まで手が回らなかったという、屋敷の大きな窓のカーテンの洗濯も手伝った。
洗濯室で水に浸し、洗剤を振りかけてから二人で足で踏むと、カーテンからは面白いほど黒い汚れた水が滲み出てくる。硬くゴワゴワとした手触りだったカーテンは、柔らかでしなやかな手触りへ戻る。洗ったカーテンはある程度脱水をすると、カーテンレールにそのまま吊るし、窓を全開にして乾燥をさせた。
綺麗になったカーテンを屋敷中の窓にかけ直していく作業はとてもやりがいがあった。
「気持ちが良いですね!」
満足して室内を見渡し、オリビアに話しかけると、彼女は顔をくしゃくしゃにして笑った。
「明るくなりましたね! 奥様が来てくださったお陰です」
オリビアの笑顔は太陽のように温かく、こちらの胸の内まで温かくなる。
一階のカーテンをかけ終えると、二階にある部屋の窓も開けていく。だが桟が錆びついているのか、なかなか開かない。
早くカーテンを乾かしたい私は、えいやと少し力を入れて押し開いた。すると、ガコッと鈍い音がした直後、突然窓が枠ごと外れ、向こう側へと傾いた。
窓はあっと言う間に地面に落ちていった。
目の前で窓ガラスは庭の芝へと吸い込まれ、ガシャン、という大きな音が続く。
窓ガラスは粉々に砕けていた。
(どうしよう……! 窓ガラスを壊しちゃった?)
動転しながら階段を下り、庭に出ると既にそこにノランとリカルドがいた。音を聞きつけたのだろう。慌てて状況を説明する。
「ごめんなさい! 開けようとしたら、落ちてしまって……」
リカルドが優しい声で言う。
「奥様。お怪我はなさいませんでしたか?」
私が首を左右に振ると、ノランはちらりとこちらを一瞥し、また視線を割れた窓に移した。
もう一度謝ると、ノランは面倒そうに首を振った。
「この屋敷自体が古い。貴女のせいではない」
いくら古くても、割ったのは私が乱雑に開けたせいだ。申し訳なさすぎて、情けなさすぎて二人の気遣いにかえって心が痛む。
リカルドが苦笑しながらノランに注意をする。
「それだけでは、ダメですよ〜。もっと女性には優しくしないと!」
いかにも優男、といった風情でリカルドがノランに注意をする。
二人が割れたガラスの後片付けを始めたので手伝おうとすると、ノランは私に危ないから手を出さず下がるように命じた。けれどガラスは四方八方に飛散し、簡単には済みそうにない。
リカルドがほうきで破片をはきながら、ポツリとボヤく。
「修理にいくらかかりますかねぇ。……ああ、またお金が……ははは」
私は来て間もないくせに、なんてことをしでかしたのだろう。ノランは経済的に余裕がない、と言っていたのに。オリビアを手伝ったつもりが、早々に迷惑をかけてしまうなんて。
しょうもない奴だと、思われたくない。この屋敷の皆に、信頼される存在になりたいのに。
私にも今、できることをしなければ。その瞬間、私は弾かれたように動いた。何か少しでも、役に立たないと。
屋敷の部屋に戻り、テーディ邸から持参した金貨を手にすると、オリビアに出かけると簡潔に一言告げ、狼狽える彼女を置いて厩舎に飛び込む。
私のミスなのだから、自分で挽回をしたい。
厩舎から馬を一頭引いて出ると、ダール島の町中へと馬を走らせた。
ここへ来る途中に車窓を眺めていたから、道は分かる。
この屋敷からダール島の中心地までは、そう複雑な道ではなかった。
(町から、窓の修理人を呼んで来よう。私がお金を支払わなくちゃ)
ところが私が乗った栗毛の馬は、気が荒かった。
昨日長距離の旅をさせたから、まだ疲れていて機嫌が悪いのだろう。
なんとか馬を宥めつつ、森の中を走っている時だった。
道が早々に二手に分かれたのだ。分岐点があるなんて、来る時は気がつかなかった。
どうしたものか馬を止めて迷っていると、突如として馬が前足を高く掲げていなないた。不意を突かれて、落馬してしまう。
鞍から滑るように落下し、慌てて立ち上がって手綱を取り返そうとするが、私の手は虚空を?んだ。
「待って! 待ちなさい!」
逃げ出した馬を追いかけるが、当然敵うわけもなく、馬はあっと言う間に姿を消していた。
想像を超える事態の悪化に、血の気が引いていく。
壊した窓を自分でどうにかするつもりが、更なる失態の上塗りをしてしまい、森の中で頭を抱える。
馬は決して安い生き物ではない。むしろ高価な生き物だ。
貧乏を自認してやまないダール伯爵家には、貴重な所有物だったろう。失うわけにはいかない。
地面に転がったせいでドレスは汚れていたが、土を払い落とす間もなく走りだす。私のドレスどころじゃない。
私は森の中を、馬の姿を求めてかけずり回った。
馬は道を外れて、森の奥へ行ってしまったのだろうか。
先へ進んでも見つからず、森を抜ける頃には私は汗だくになっていた。
このまま身一つで屋敷に帰ったら、どれほど顰蹙を買うか。窓ガラスを壊しただけでなく、馬まで紛失してしまうなんて。厄病神と言われかねない。
こめかみから流れ落ちる汗を拭いながら森を振り返ると、どこからともなく、馬の蹄の音が聞こえてきた。
(馬が戻ってきたんだ!)
喜んだのも束の間、響いて来る馬の足音は明らかに一頭のものではなかった。私が見失った馬ではないのだろう。
こちらへ駆けてくるようなので、避けるために道の端に寄る。
やがて木々の間から姿を現したのは、騎乗したノランその人だった。
ノランは二頭の馬を並べて駆けていた。——うち一頭は私が見失った馬だ。
こちらに気がつくと馬を止め、鞍から滑り下りて私の方へ向かってくる。
「ノラン様! 馬を探しに来てくださったのですね」
「そうではない! 貴女を探しに来たのだ!」
大きな声で怒鳴られ、私はビクリと萎縮した。
「……すみません。町まで窓の修理をお願いしに行こうと思ったのです」
ノランは長い溜め息をついた。
「島とはいえ、崖もある。一人で飛び出すのは危険だ」
「はい。あの、窓の修理は……」
「オリビアの夫がやってくれる。心配いらない」
ああ、そうなのか。私は完全に無駄なことを、いらんことをしていたらしい。
せめてものお詫びに、私は金貨を差し出した。
「修理代に、どうかこれを」
差し出した金貨を見て、ノランは一瞬目を見開いた。だかすぐにそれは閉じられ、次に私に向けられた水色の瞳には、失望の色が浮かんでいた。
「そんなことを貴女にさせるつもりはない」
ノランの矜持を傷つけてしまっただろうか?
子爵家の居候娘に王子様が恵んでもらったと。
ノランが受け取らないので、私は伸ばした手をぎこちなく下ろした。
馬に乗らずにそのままゆっくりと歩き始めるので、私も肩を落としたままトボトボと彼についていく。
少し進んだ後でノランは道を外れて獣道に分け入っていった。どこに行くのだろう。
しばらく歩くと、道がひらけて小さな湖が目の前に広がる。
まるで空を切り取ったような、冴え冴えとした綺麗な湖に目を見張ってしまう。水はとても澄み、底まで透けて見えている。
ノランは近くの木まで歩いて行くと、馬の手綱を結んだ。そうして彼は湖の縁へ行き、倒れて地面に転がっている木の幹に腰を下ろした。そのまま彼は、湖の美しい水面を黙って眺めていた。
どうしたものかと私が所在なく立っていると、ノランは前を見据えたまま、自分が座っている木の幹のすぐ近くを軽く叩いた。
「ここに座ってくれないか?」
隣に座るのは、少し緊張する。
互いの身体が触れない程度の適度な距離を取って、恐る恐るノランの横に座った。
「先程貴女が馬で出て行った時……正直、貴女がここの暮らしに嫌気がさして、逃げ出したのかと思った」
私は木の幹から転げ落ちそうなほど驚いた。
「逃げるだなんて! どうして」
そもそも私には逃げる先がない。
「王都の屋敷で育った貴女には、ここの暮らしは酷だろう。何もない」
「ノラン様……全然そんなことないですよ。そりゃあ、王都とは色々違いますけど」
私は力一杯反論してから、ふとノランをまじまじと見つめた。
「ノラン様は、ここの島での生活を始めた時、逃げ出したくなったのですか?」
ノランは足元の小石を拾った。それを無意味に指で転がし、またひょいと放った。
「五ヶ月前にこの島に来た時、私もかなりの戸惑いがあった」
淡々と語り始めたノランに少し驚きながらも、私は静かに聞いた。
「途方に暮れて、何もかも嫌になったこともある。そんな時、ここを見つけたんだ。……心が洗われるような、穏やかで静謐な気持ちになれた」
ノランは王宮に住む王子だったのだ。今の姿からは、ちょっと想像しにくいけれど。
そんな彼にとって、自然以外は何もないダール島で生活するのは、今の私以上に様々な苦しみがあったのかもしれない。
やはり彼が私のためにこんな田舎で暮らす決意をした、というのはしっくり来ない。
ノランは多くを語らなかったが、きっと本当は私には言えない、様々な事情や葛藤がここへ至る過程であったのだろう。いつか彼がそれを話してくれる日が来ると良い。
「貴女に、みじめな思いを強いていることを、情けなく思っている。しみったれた島の、しみったれた生活だ」
私は驚いてノランの顔を見た。
「そんな。それにみじめだなんて。そんな風には全く思っていません。あんな大きなお屋敷に住めて、恵まれた方です」
ノランはゆっくりとこちらに顔を向けた。——湖と、同じ色の瞳だ。森の中に入り、わざわざ湖を見に来なくても、いつでもこの美しい湖と同じものを身近に見られるのだ。それは幸運なことに思えた。ノランの目は、今目の前にある美しい湖よりももっと魅力的だもの。
「……ノラン様は、もしかして王宮に戻られたいのですか?」
「まさか。選んでここに来たのだ」
「ここは思っていたのと少し違いましたけど、素敵な島です」
そう言うと、ノランは初めて笑顔を見せた。うっとりするような、素敵な笑顔だった。
「信じてくれないかもしれないが、……貴女がここに来てくれる日を、本当に楽しみにしていた。昨年から私は様々なものを失ったが、そんな私にとって貴女は唯一の、新しい存在だった」
予想もしないことを言われたが、ノランの言葉は真っすぐに私の胸の中に落ちてきた。
一目惚れは?であったとしても、これはノランの本心かもしれないと思ったのだ。彼の話し方からは、誠意を感じられた。
ノランが続きを言うのを黙って待つ。
「貴女の肖像画を、しょっちゅう眺めていた」
「だから結婚式の後に、私が絵に似ていない、って言ったんですね!」
「失礼だったか?」
少し、とだけ呟いて私は顔を背けた。
「だが、実物の方がずっと良い」
(きっと、お世辞よ。うぬぼれちゃだめよ、リーズ。でも、お世辞だとしても、嬉しい)
「貴女が色々と……とても戸惑っているのは重々承知だ。だが、私は貴女を選び、貴女はもう私の伴侶だ」
「はい。分かっています」
伴侶だとの言葉に少し恥ずかしくなって、ぱちぱちと無駄に瞬きをしながら前を見てしまう。顔が熱くなっていくのを止められない。
ノランが私を覗き込み、互いの目が合う。
「貴女は、どうにも私を胡散臭い目で見ているようだが……」
思っていることが、そんなに顔に出てしまっていただろうか。
「はっきり言っておこう。離縁は、ない」
「は、はい……。今更あると言われても、私も困ります」
その言葉に、少なからず安心する。
「勝手にこの島から出て行くことも許さない」
「で、出ません。……多分」
「多分?」
「出ないです! 誓います!」
するとノランは硬い表情をやや緩めた。
そうして何やら腰から提げている袋から小さな箱を取り出すと、私に差し出す。
布張りの箱に可愛らしい銀色のリボンがかかっている。
問うように見つめ返すと、ノランは視線を箱に移した。
「結婚指輪だ。絶妙とは言い難いタイミングだが」
「そう言えば私達は、指輪の交換をしていませんでしたね。開けてもいいですか?」
「勿論だ」
リボンを解いて、箱をパカリと開ける。
箱の中には大きさの異なる指輪が二つ入っていた。
ノランはその内の小さい方をつまみ上げると、私の左手の薬指にそっとはめた。指に触れられるだけで、全身がカッと熱くなる。
「今度は貴女が、私に指輪をはめてくれ」
言われた通りに私がノランの手を取り、薬指に指輪をはめる。胸がとてもドキドキして、指輪を手から取り落としそうになってしまう。
「何があっても、私と共にいてほしい」
「……はい」
ふと一抹の不安が胸中をよぎる。何があっても……? まるで何か危機を予想しているような言い方にも聞こえるけれど。
ノランは私の肩に腕を回すと、私を抱き寄せた。心臓がおかしくなりそうなほどの緊張感の中、私も腕を上げてノランを抱き寄せる。
私達はそうやって、ぎこちなく抱き合っていた。
ノランは謎が多いけれど、私を受け入れようとしている気持ちは、伝わる。
少しずつ、どうにか関係を築いていこう、と私達は手探りで不器用な努力をし始めていた。
この屋敷に来てから、二日目の夜を迎えた。
私が寝室に入ると、ノランは奥にある狭い方の寝台に座って、手紙の束を広げていた。
十通はあろうかというその束は、寝台のシーツの上に無造作に広がり、彼は私が入室しても退ける素振りも見せなかった。
これは、私に対する『今夜は広い方で寝ろ』との無言のアピールだろうか。
私は二台の寝台の間を右往左往し、結局諦めて大きい方の寝台へ向かった。薄い緑色のシーツがかけられた掛け布団をめくり、おずおずと寝台に乗る。
ちらっとノランの様子を窺うと、彼は丁度その視線を私から手紙に戻すところだった。きっと寝台の間を怪しく往復する私の行動を、ずっと観察していたのだろう。
そう思うとかなり恥ずかしい。
ノランが広げる手紙は、そのほとんどの封筒に立派な封?がされていて、既に開封した跡があった。中のカードや便箋はシーツの上でごちゃ混ぜになってしまっていた。
私の視線の意味を察したのか、ノランは手紙に目を落としたまま口を開いた。
「全て近隣の貴族達からの、パーティーの招待状だ」
「そんなにたくさんお誘いがあるんですね。——行かれるのですか?」
「いいや。今はまだ、そんな暇がない」
パーティーには縁がなかった私は、なんとなく安心してしまう。
寝台に身を横たえると、目だけを動かしてノランを見る。
ノランは手紙の束をひとまとめにし、そのまま屑かごへと放っていた。
捨ててしまうとは、恐れ入った。
「私はお先にもう、寝ますね。ノラン様、お休みなさい」
すると直後、ギシリと寝台が軋む音がした。閉じたばかりの目を開けると、驚いたことに私が横たわる寝台の反対側からノランが乗ってきていた。
目を?いて私が見ている横で、ノランはごく自然な仕草で同じ寝台の一つの寝具の中に身を滑り込ませている。
寝台は広かったので、私達が二人横になってもまだまだ余裕がある。だが私は十分すぎるほど驚いて、寝台から飛び下りたい衝動に駆られた。同じ寝台で寝るなんて、思っていなかった。
隣に横たわったノランの様子に息を詰めてこっそり聞き耳を立てていると、彼は衣擦れの音を立て、寝台に片肘を立てて上半身を起こした。
「ノラン様……?」
ノランはそのまま上半身をこちらに傾け、覆い被さるように私の顔を覗き込んできた。————ついに、私の呼吸が止まる。
ノランはそっと私の額に唇を押し当てると、私から離れた。そうして再び枕に頭を戻した彼は、寝台脇の明かりを消した。
「お休みなさい、リーズ」
ようやく呼吸を再開した私は、息も絶え絶えだった。
キス。どう考えても、どう見ても、今のは間違いなくキスだった。
もうとっくにノランの唇は私の額から離れたのに、額がまだとても熱い。
(今のは、何だったんだろう。お休みのキス? どんな反応をするのが正解なの?)
落ち着かなくては。私はノランの妻なのだし。でも、まさか本当に夫らしいことをしてくるなんて、やっぱり予想外で。
ただの夫婦の挨拶でしかない、と動揺が止まらない自分に言い聞かせ、懸命に深呼吸する。
明くる朝、ノランが起き出す音で、私も目が覚めた。
乱れた髪を慌てて直してから、控えめな笑顔でノランに朝の挨拶をする。
ノランのプラチナブロンドの髪は、寝癖で一部が藪のようになっていた。だが寝起きだろうがなんだろうが、顔の造作が非常に整っているために、その寝癖すらも最先端の流行の髪型の一つみたいに見えてしまう。なんて羨ましい……。
二人揃って朝食の席に着くと、オリビアは妙に嬉しそうだった。
オリビアは「まあ……! まあ、まあ!」と連呼してから無意味に赤面をし、物言いたげな笑顔を浮かべて、私と意識的に数秒視線を合わせてきた。
「奥様、どうぞパンに蜂蜜を。疲れには一番効きますからね!」
蜂蜜を取ってくるため、オリビアは張り切って台所へ引き返していった。
オリビアは明らかに何か勘違いをしていた。変な期待をさせてしまって、申し訳ない。
ダール島での私のそれからの毎日は不慣れで緊張はしていたものの、かなり淡々としていた。私は一日のほとんどの時間を家事に費やした。
屋敷の中ではいつも明るいオリビアと一緒だったので、終わりのない家事もまるで苦ではなかった。
日に一度はオリビアが私を外に連れ出し、島のあれこれを教えてくれた。彼女は私にとって、ダール島のお母さんのような存在に思えた。
ノランはたまにリカルドと長時間の外出をした。
そういう時は早朝に屋敷を出発するのもしばしばで、玄関先で私は彼らを見送りながらも、いつもどこへ行っているのか、尋ねられずにいた。普段は柔和な雰囲気のリカルドまで、硬い張り詰めた空気を纏っているから、聞きにくかったのだ。
ある時、疲れた顔で夕方に帰宅した二人に、私は思い切って聞いてみた。
「今日は島の外に行かれていたのですか?」
だがすぐに、余計な質問だっただろうか、と不安になった。ノランとリカルドは瞬時に目を合わせ、ぎこちない間があいた。
「ああ、島の外に仕事で出かけていた。留守がちにしてすまない」
そう答えたノランの話し方は穏やかだったが、私の顔を見てくれないのが気になる。それに、仕事と言われてしまうとこれ以上聞きにくい。
でも、本当に仕事なのだろうか……?
ノランは私に話せない何かを隠している気がして、私は同じ屋敷で暮らしながら、こういう時にいつまでも埋まらないとても大きな心の距離を感じていた。
この距離感は、いつか埋めることができるのだろうか。
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