書籍詳細
【アンソロジーノベル】愛しの彼に搦め捕られてハッピーエンド不可避です!
ISBNコード | 978-4-86669-624-9 |
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定価 | 1,430円(税込) |
発売日 | 2023/11/29 |
ジャンル | フェアリーキスピンク |
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電子配信書店
内容紹介
立ち読み
恋は冷たいシーツの下に わがまま女王は氷の宰相を溶かしたい
「……失礼致します」
彼が寝台に乗り上げると、二人分の重みでそこが沈んだ。
夜の始まりを、いつもならなんの感慨もなく天井を見つめてやり過ごすのだけれど、今夜ばかりはそうもいかない。
レーヴェは広い寝台の端に寄って、彼に背を向ける。自分の呼吸の音すら気になって、暗い虚空を真っ白な頭のまま睨みつけていた。
どれくらいそうしていただろう。傍らにいるはずのフリードは身動ぎ一つしない。
(まさか、寝て……いないわよね……?)
宰相職というのは激務だ。年末の祭儀の近いこの季節、そういえば一週間以上自宅に帰っていないというような話も聞いている。
そっと背後を窺うと、思ったより近くに彼の顔があって、レーヴェはおののいて背を反らした。
「っ、びっくり、した」
フリードの表情は硬く、冷たい。それはレーヴェへの拒絶の色にも見える。
けれどここまで来た以上、後戻りはできないのだ。レーヴェは執務室で彼に伽を命じたときに覚悟を決めた。彼だって、そうでなくては困る。
「あなたまさか、わたくしと同衾しておいて、なにもしないつもり?」
「……」
「意気地なし。不能。女々しいやつ」
ぶつぶつと呟いていると、思いのほか強い力で彼に引き寄せられた。
「執務室でなら、貴女のあからさまな挑発に乗ってやるような私ではありませんが。女王陛下」
レーヴェ、と言い直して、彼は耳元に唇を寄せた。
「そんなにも、『俺』が欲しいとおっしゃる?」
耳に注がれる甘くかすれた声。レーヴェはぐっと奥歯を?みしめた。
翻弄されてはいけない。今夜、主導権を握るのは自分でなくてはならないのだから。
「別に。優れた者であれば、相手は誰でもいいのよ。優秀な子をたくさん産むのが、女王の仕事の一つだもの」
「素直におっしゃれば、私も優しくできますのに」
「宰相殿はわたくしに優しくないでしょう。いつも厳しい。それに、冷たい」
「私の気を引こうとそのようなことを? 健気な方だ。こんな安っぽい計画など立てずとも、私の身も心も、もとより陛下のものなのに」
?つき。レーヴェはシーツを握りしめた。?つきフリード。
たしかにこの手は、彼の命さえ奪うことができる。けれど心が手に入ったことなんて一度もない。
フリードとの付き合いは長いけれど、彼は昔から女王候補レーヴェルト・アリアンを特別扱いしない子どもだった。それどころか、全然優しくなかった。勉強だって盤上遊戯だって、彼がレーヴェに花を持たせようとしたことなんてない。
そこが良かった。一人の人間として対等でいてくれる幼馴染のことが、レーヴェは好きだった。
けれど、特別に思っていたのはきっとレーヴェだけだったのだ。
だって現に彼は、他の女を娶った。レーヴェの即位を待たず、なんの相談もなく、勝手に。
ショックだった。悲しかった。彼はもう、他の人のものになってしまった——。
「レーヴェ」
ずるいと思う。たとえ演技だろうとお情けであろうと、彼に優しくされたらレーヴェは嬉しくなってしまう。身体を向き合わせれば指が勝手に、彼の?に触れたがる。脚を絡めて、身体を密着させて。
見つめ合う二人はもう、執務室での女王と宰相ではない。けれど、恋人にもなり得ない。だとすれば、ここにいる二人はいったいなんなのだろう。
(私が、女王の血を引いてさえいなければ)
変えられない運命を何度嘆いたことか。
マールシャール国は建国以来、女王制を貫いている。そして女王は夫を持たない。女王の身は国のため、その心は民のためにある。生涯を独身で過ごし、子をなすのにふさわしい男性とだけ事務的に寝る。生まれた子を育てるのは信頼の置ける家に一任し、子に心を配ることすら許されない。
恋など、なにより禁忌だ。それは執着になり、女王の心を奪い、国を傾けるから。
レーヴェはじゅうぶん承知している。今夜のこれが、限りなく罪に近いわがままだと。
けれど、たった一夜でいい。彼が欲しい。
生涯繰り返される愛のない情事と、アーベンハット夫人への嫉妬で心は限界だった。このままではレーヴェは凍えてしまう。だからこの歪んだ心が、傾国の兆しにならぬうちにと自ら手を打ったのだ。心が手に入らないのならせめて、夫人より先に彼の子を身籠もりたい。
そんなふうに考えた自分が恐ろしい。醜い魔物を、身の内に飼っている。
「あなたが欲しいわ」
甘えた女の声で、レーヴェは囁いた。
「フリードが欲しい。……これ以上は、言わせないで」
男の瞳が閉じられる。
(この夜を越えた私たちは……)
きっともう、心から笑い合うことはないのだろう。
「御意のままに。我が君」
フリードは、静かにそう答えた。
獣人王は補佐官の初心な想いに気づかない 〜防臭機能のすごい服と異国の香のせい〜
一目散に寝室までやってきたハイダルは、肩に担いでいたじたばた藻?くフェイルーズを寝台にぽんと投げ下ろした。
「わっ」
フェイルーズの服は足元までの丈に手が隠れるほど袖が長い。放り投げられた想定外の体勢では、その袖や裾を自分の体で踏んづけてしまい、すぐに起き上がれずもたもたしている。
その隙にハイダルは、上着を脱ぎ捨て服を緩め、寝台に膝で乗り上げた。
「袖が、もうっ。やっと……、あ」
ようやく袖や裾を捌いて体を起こしたフェイルーズは、間近に迫るハイダルを見上げて固まった。
ハイダルに獣欲を隠すつもりはない。あの夜自分のものになったと確信した途端に逃してしまった。今度は、体だけでなく全てをハイダルのものにする。その決意と少しの恨めしさと、抑えきれない欲望に滾る目で見つめれば、さながら彼女は捕食される小動物のように身を縮こまらせた。
「フェイ」
何度も口にしてきた名前だ。だが、恋い焦がれた女性の名だと知った今は、大事な宝物を手でくるむような、呼べば優しくて密やかな気持ちになる。
「ん……、ハイダル様……」
手を伸ばして?に触れると、フェイルーズはぴくりと震え顔を背けた。それだけなら嫌がっていると誤解したかもしれないが、少し上ずった声音と白い?に差した朱は、ハイダルに正しく感情を伝えてくる。心は完全にこちらへ傾きつつも、彼女はまだ自分の身の上を気にして抗っているのだ。
「あっ、いけません……」
逃がさないように抱き締めれば、小さな体が腕の中で身を捩るが、さしたる抵抗ではない。
ハイダルは彼女のうなじに顔を寄せ、その香りを深く吸い込んだ。謝肉祭の夜、ハイダルの体の中に染み込むかのごとく鮮烈な記憶を残した、甘く重厚な香り。
すう、と肺を膨らませ、フェイルーズの香りで満たせば、耳や指先にぞわぞわとした感触が走り、そのひと嗅ぎでハイダルは耳や爪などが獣に変化した。だがあの夜と違って泥酔してはおらず、そして彼女を傷つけまいと自制心が働いているため、ハイダルは背筋に走る痺れるような感覚を耐えた。
「俺の妻になるのは嫌か?」
「あ……」
フェイルーズの耳へ息を吹き込むようにして尋ねれば、腕の中の体がふるりと身震いする。うなじからの甘い香りが、僅かに強まった。
「嫌、では、ありません……。でも、ご迷惑をおかけするのは、だめなんです」
「夜の国と関われば、お前のせいでなくとも大なり小なり問題は起きる。それに、大切な人を守るために手を尽くすことを迷惑とは言わない」
「でも……」
「俺は最初、お前を獣の本能だけで欲しているのだと思った。だが、覚えていないかもしれないがお前はあの時、俺と共にいることで孤独を癒やすと最後に言ってくれた」
「そのような恐れ多いことを……」
弱みを見せたがらないハイダルがそういった甘言に不快感を示すと知っているフェイルーズは、前後不覚の間の失態に小さくなった。そんな彼女を安心させようとすれば、ハイダルの声は自然と優しく穏やかに変わる。
「いや。何も反感が湧かず、素性の知れない相手に自分でも驚いた。今になって思えば、言葉は単純であろうと、あの時の声音からはお前がこの三年間、俺を理解し、想ってきてくれたものが伝わっていたのだろうな。同時に、俺にもこの三年で培われた、お前のひたむきな姿への情があった。だからこそ、あれほど素直に受け取ることができ、お前しかいないと感じた」
「うぅ……」
囁くうちに、フェイルーズの耳がネコ科系のそれに変わった。彼女の体からは力が抜けていて、縋りつくように?まれているハイダルの服には、鋭利になった爪が引っかかっている。
「フェイ。お前を、愛している」
謝肉祭以前であれば寧ろ無粋にさえ感じたであろう、飾り気のない言葉。だが今は、これ以上に核心的に胸中を曝け出す方法が思いつかない。
僅かに沈黙したフェイルーズは、大切なことを伝える前触れのように、揺らぐ吐息を零した。
「私も……、お慕いしています。けれど、んむっ——」
好意を返されて、ハイダルはついフェイルーズの唇を啄んだ。柔らかな感触に、ついつい二度三度と軽く口づける。
「ん、んぅ」
それで終われるはずもなく、フェイルーズの後頭部を手で支えながら、舌を深く絡め合う口づけへ移っていく。
ハイダルの興奮が体臭に乗ってフェイルーズに届き、それに当てられた彼女からは発情した雌の分泌物の匂いも漂ってくる。見つめてくる眼差しは、熱に浮かされたように蕩けている。一方が昂れば、その匂いで相手も自然と昂ってしまう。これがお互い性的に相性がいいということの意味だ。
「俺はもう、お前無しでは生きていけない。お前はどうだ、フェイ。謝肉祭の夜と今この時を、俺を忘れて、生きていけるか」
「ぅ、んん、む……」
フェイルーズの服を脱がせながら、口づけの合間合間で息継ぎのように問いかける。いつもハイダルを生意気に、そして親身に諭すフェイルーズの小さな口は、今は口内を男の舌で蹂躙され、何も返してこない。ただ、潤んだ眼差しと、服を脱がせる手に協力的なことを、ハイダルは承諾と受け取ることにした。
処女なのに王子様の閨指導を任されたので、指南書で乗り切ろうと思います!
「リナが髪を下ろしてるのって、新鮮だね。かわいい」
甘い声に甘い瞳でそう囁かれるので、私は背筋がぞくっとして、痺れたようになりました。
(ううぅ、セレス様ってば、雰囲気づくりもお上手だわ〜。私がかわいいだなんて、お優しいんだから……)
なんと答えたらいいのかわからずに、ただセレス様を見つめると、引き寄せられて、またキスされました。
唇はすぐ離されましたが、ほぼそのままの距離でセレス様が見つめてきます。
「それでね、悪いんだけど、もうちょっと前……、前戯から教えてくれないかな?」
(なるほど! 私、焦りすぎました! 一番大切なところをお教えしないといけないと思って、いきなり核心から入ってしまいました!)
大いに反省した私は、セレス様から身を離し、力強く頷きました。
「かしこまりました、セレス様。お任せください!」
(セレス様、セレス様、セレス様……)
愛称で呼んでいいなんて、感動して無闇やたらとお呼びしたくなります。
前からそう呼んでとは言われていましたが、影の女が王子殿下の愛称を呼ぶなど、とてもできなかったのです。
閨指導をお引き受けして、本当によかったです。
この間だけでも、堂々と愛称で呼ばせていただきます。
それに、任務で処女を捨てるか、このまま一生を終えるかと思っていたのに、まさかセレス様にもらっていただけるなんて、なんという僥倖。
その恩に報いるためにも、リナは頑張ります!
指南書で読んだ前戯の内容を思い出しつつ、私はセレス様に告げました。
「セレス様、前戯はキスに始まりキスに終わります」
キリリとした顔で断言します。
(決まった!)
でも、セレス様は曖昧な笑顔を浮かべておられるので、これはいけないと実践に移ることにします。
キスを舐めたらいけません! ……と指南書に書いてありました。
「セレス様、私が実践させていただいて、よろしいでしょうか?」
「うん、ぜひ」
「それでは、失礼して……」
私はセレス様の?に手を当てて、顔を近づけました。
(うきゃあああ!!! どうして、こんなに近いのに、こんなに美しいの!?)
セレス様の美麗なお顔に耐えきれず、ギュッと目をつぶって、口づけると、なにか変です。
「リナ、そこ鼻だよ」
ふふっとセレス様が笑われました。
慌てて口づけ直すと、唇の端、瞼、?……となかなか命中しません。
セレス様はどうやってあんなに簡単にキスをされていたのでしょうか。
結局、セレス様の顔中にキスを落とすことになって、方針を変更しました。
いいんです。指南書には唇以外にもキスをして、焦らしたり官能を高めたりすると書いてありました。
今度は性感帯と書かれていた耳や首元、顎にも意識してキスを落としていくと、最初はくすくす笑われていたセレス様が甘い吐息を漏らすようになりました。
いろいろ彷徨った末、ようやくセレス様の唇に辿り着いたときには、うれしくて、チュウッと吸いついてしまいました。
セレス様もまんまと焦らされてしまったようで、私の後頭部を?んで固定すると、激しく吸いついてこられました。
(ほらね、キスを舐めたらいけないんですよ、セレス様!)
キスの重要性について理解していただけたと、得意げに思っていたのはそこまでで、セレス様は吸いつきながら、角度を変え、下唇を食み、息継ぎの合間に舌を入れてこられました。
(もう、キスを習得されてる! さすがです!)
激しいキスに翻弄され、口の中を探られて、今度は私の方が甘い声をあげそうになります。
セレス様の舌が私の中にいるなんて不思議で、しかも、舌で舌を擦られて、それが気持ちいいなんて、指南書通りだけれども、やっぱり不思議でした。
だんだんクラクラして、息が苦しくなった頃、ようやく唇を離されました。
二人の唇がどちらのかわからない唾液で?がっていて、とてもいやらしいです。
それをぼんやりと見ていたら、セレス様はクスッと笑って、それを舐めとりました。
(きゃああ、セレス様ってば、なんだかエッチ)
心変わり、してくださっても。 王子の執愛は重量オーバーです!
「……ああ、ナティ、愛しているよ。この日をどれほどまちわびたことか……!」
パトリックが私の手を握りかえして囁きながら、そっと持ち上げて手の甲に唇を押しあてる。
そのまま手の甲から指先に唇を滑らせ、一本ずつ食らわれそうな勢いで熱烈に口付けられて、私は心の中で「ひいい」と悲鳴を上げながらも、そっと目を伏せ、微笑んだ。
「私も、愛しているわ……でも……」
「でも、何かな?」
「やっぱり、ここはあくまで慎重に進めた方が安心だと思うの」
「というと?」
「だからね、望まぬ結婚だったけれど、少しずつ愛が育っていくようなふりをした方がいいのではないかしら? そのためにも初夜は穏便に……いえ、義務的にそっけなく、仕方なくこなした感じでいきましょうよ」
内心の怯えを隠しつつ穏やかに提案すれば、パトリックは少し首を傾げてから、ひょいと戻すと「わかったよ」と微笑んだ。
「よかった! それじゃあ——」
「そういうふりをすればいいんだね!」
キラリと瞳を輝かせながら朗らかに告げられ、浮かべかけた笑みが「えっ」と凍りつく。
「わかった。寝台の細工は任せてくれ! さあ、浴室へ行こうか!」
「え、あ、えっ?」
「ふふ、あそこなら、たくさん君を悦ばせても安心だろう? どんなに可愛い声を上げても、何をもらしても誰にもバレやしないよ。終わった後は、私が隅々まできれいにしてあげるからね!」
蕩けるような笑みでパトリックが口にした宣言に、私はカッと?に熱が集まるのを感じた。
「も、もらすって——」
「ああ、ナティ」
パトリックは感極まったように私の指に唇を押しあてて、はふ、と熱い吐息をこぼす。
「今夜、君の肌にふれていいのは私だけだと決めていたんだよ……侍女にも許したくない。私だけ。私だけだ。……ねぇ、ナティ。いいよね?」
「え、ええ。それは別にいいけれど」
「よかった。さあ、行こうか!」
ふふ、と?をほころばせ、パトリックは私を横抱きに抱えあげた。
「肌にふれさせるのは彼だけでいい」という部分に頷いたつもりだったのに、浴室での行為自体に合意したことになったようだ。
「……あ、あの、パトリック」
どうにか今からごまかせないかと声をかけたところで、私を抱く彼の腕に力がこもった。
彼の胸に引きよせられ、額に?をすりつけられる。
「……ナティ、本当に嬉しいよ。ようやく夢が叶ったんだ」
「え?」
「ずっと私は誰かを愛したかった。けれど兄上に奪われることを怖れて、誰も愛してはいけないと言いきかせていた。誰かを愛せば、その人を不幸にすると思っていたから……でも、本当は、一生かけて愛せる人と巡りあいたいと夢見ていたんだ」
「……パトリック」
「だから、君が私の愛を理解してくれて、君だけを愛してもいいと言ってくれたとき、本当に本当に嬉しくて……」
ポツリと?に熱い滴が落ちてくる。
「知れば知るほど、君を好きになった。この三年と七カ月、兄上に私の本当の想いを知られやしないか、いつも不安で仕方がなかった。ずっと薄氷の上を歩いているような心地だったよ」
「……そう、だったのね」
まったく気付かなかった。パトリックがそんな気持ちを抱えていたなんて。
手紙でも、ごくたまにふたりきりになれたときも、いつも彼は私への愛情を過剰なほどに伝えてくれたし、励ましてもくれたが、自分の不安や弱音を口にしたことは一度もなかった。
だから、彼は私とは違う、迷いのない強い人なのだと思っていた。
けれど、ひとりで抱えていただけだったのだ。
「でも、もう君は私の妻だ。私だけのものだ。私は君だけを愛して生きていく。……ナティ、私の夢を叶えてくれて、ありがとう」
震える声が私の髪を揺らして、フッと身体の力が抜ける。
——私ったら、自分のことばかりだったわね……。
彼の不安に気付きもせず、重いだの怖いだのと、ずいぶんとひどいことを考えていた。
キュッと唇を?みしめてから、グッと顔を上げ、私はパトリックの?を撫でて微笑みかける。
ありがとう、ごめんなさい、どちらの台詞もしっくりこなくて。
「……愛しているわ、パトリック」
ただ、それだけを口にした。
「っ、ナティ……!」
パッとひらいた金色の瞳が満ちた月のように輝く。
ああ、と感じいったように目蓋が閉じられ、彼の?を透明な滴が伝う。
「……私も、愛しているよ。心から」
万感の想いがこもった囁きが耳をくすぐり、胸に染みいる。
温かな感情がこみあげてきたところで、パトリックは切なげな微笑を浮かべて私に告げた。
「ナティ。愛しい人。どうかこの夢のような夜に……三年と七カ月分の私の想い、しっかりと受けとめておくれ」と。
その瞬間、ドサリと天井から降ってきた巨大な手紙の束が、ズシリと私を押しつぶす——そんな幻影が頭をよぎり、心の中で悲鳴を上げながら、私は浴室へと運ばれていった。
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