書籍詳細
初夜下剋上 ぽっちゃり姫ですがイケメン副団長の夫と一夜で立場が逆転しました
ISBNコード | 978-4-86669-650-8 |
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定価 | 1,430円(税込) |
発売日 | 2024/02/27 |
ジャンル | フェアリーキスピンク |
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電子配信書店
内容紹介
立ち読み
「シャル、この世で一番綺麗だよ」
いえ、この世で一番美しいのはあなたです。
どこかのおとぎ話の鏡にでもなった気分で心の中で答えた。
フレデリックのうすら寒い誉め言葉を聞きながら、彼のエスコートで姉のパーティーに参加した。彼は騎士の正装をしていた。銀髪がキラキラと光り、白地に金の刺?の衣装が、なんだそれ反則だろってくらいに似合っている。そりゃ、キャーキャー言われるわ。
んで、私はピンクのブヒブヒドレス。ええ。旦那様が選んでくれたのですもの! ひと回り体が大きく見える、暖色&ひらひらボリューミーなデザインでしてよ! 私の体の線を他人に見せるのは我慢ならないのですって!
ブーヒッヒッ〜(オーホッホッ〜)!
さ、戦闘服は着込んだし、いざ、会場へ!
まだ見ぬ(なんかこれ前にも言ったような……)元カノよ! 私の前に現れるがいい!
フレデリックの腕にぶら下がるようにして歩きながら、私は元カノグレース様を探していた。
彼女は赤いドレスの黒髪の美人らしい。
うん、銀髪のフレデリックとお似合いじゃないのか?
あんなに自慢していたのだから、きっとシモシモが一緒にいるはず……。キョロキョロしているとフレデリックがちょいちょいと?をつついた。
「誰か探しているの? 俺にも構ってくれないと」
見上げるとデレデレとした顔で私を見ているフレデリック。最近この顔が板についてきた。公衆の面前で?をつつくとかやめてほしいんだけど。露骨に嫌そうな顔をするとちょっとシュンとしていた。
その時、シモシモを探していると答えようとするより先に、会場に「キャーッ」という黄色い声が上がった。
なんだ、なんだ?
こちらを凝視している無数の目と、フレデリックとを見比べていると、
「どうやら、俺たちの仲の良さにみんなが驚いているようだよ」
と耳元でささやかれ、さらに「キャーッ!」と悲鳴のような声が上がった。俺たちの仲の良さ? 私が驚くとこなんだけど。さらにフレデリックが私の腰に手を回すと、バタバタと倒れる女性まで出てきた。
お忙しいことである。
意味がわからない。
とりあえず、腰に回った手をどかしてくれないだろうか。本気でフレデリックの手を腰からひっぺがそうと思った時、目的の人を見つけた。
「シモシモ〜!」
私が手を上げてアピールするとシモシモはこちらを見て青ざめていた。
ん?
不思議に思って、その視線の先を追うと、シモシモを睨みつけるフレデリックがいた。
ひえっ!
視線だけで人が殺せそうなんだけど! そしてフレデリックはシモシモに視線を向けたまま、低い声を出した。
「シャル……シモーネを『シモシモ』って呼んでいるの?」
「は、はい。そうですけれど……」
急にその場が氷点下になった。なんだ、なにをそんなに怒っているのだ……。
「俺には愛称がないのに?」
「え」
言葉尻が震えていて、ただごとではない……のだろうけど。
は?
いやまさか。そんなしょーもないことで、天下の白鷲の騎士団の副団長フレデリックが不機嫌に? ありえないよね。
「シャル……これは、由々しき問題だよ」
んなバカな。しかし、フレデリックは本気のようだった。こんなことでショックを受けるとか、もう、わけわかんねーっ!
お前、こんなに面倒な生き物だったか?
散々私のこと放っておいたじゃないか。
いろいろなことが私の頭の中に渦巻いたが、今この場の雰囲気が悪いことには変わりなかった。
「……フレデリックは愛称が欲しかったのですか?」
不本意だが聞いておく。あとでねちねちそれを理由に責められるのはうんざり。淡白に見えるらしいが、この男、わりと根に持つ。
「そんな聞き方はないと思う。俺はいつだってシャルとより親密な関係になるように努力しているだけだ」
「あーハイハイ」
「俺の方があなたに近い関係なのに、どうして最近出会ったシモーネが『シモシモ』なんて親しく呼ばれているの?」
「え」
変なこだわりで駄々をこねだしたフレデリックに驚いたのはシモシモだった。まさか、あの完全無欠なお兄様がこんなちっせぇことにこだわっているなんて思わないだろう。
はあ、ほんとに……。
「じゃあ、リックで」
「え?」
「これからリックと呼びます」
「シャ、シャル!」
感激することかよ。これでいいんだろ。ほんと、自分の思い通りにならないと駄々こねる、面倒な性格してるからな。
そんなやり取りをしているとシモシモのその後ろに女性が立っていることに気がついた。
あっ!
もしかして、グレース様では!?
じっと眺めると真っ赤なドレスを身にまとった黒髪の女性がこちらに気づいて前に出てきた。
聞いていたけどいつも真っ赤なドレスなんだ?
「お久しぶりです、フレデリック様」
にっこりと笑った美人……。あれ? シモシモとか、フレデリックとか見てから見るとそんなに美人に見えない。うん……まあ、美人? くらい。比較対象があるって怖いことなんだな。
ほら、母よ、こういうことになるんだって。頑張ってスタイルが良くなっても、所詮、レべチの人間を前にするとその辺の石ころだって。
おっと、気がそれちゃった。今はそんなことはどうでもいい。フレデリックに彼女が魅力的に見えたらそれでいいのだから。そう思ってフレデリックを見上げるとジッとこっちを見ていた。
「……フレフレでもいいよ」
——うるさい、黙れ。愛しの元カノが挨拶しているだろうが!
「リック、こちらの女性が挨拶されていますよ? お知り合いでしょう?」
私がフレデリックの意識をそっちに向けると、それにギョッとしたのはシモシモだった。
「え? ああ」
喜ぶかと思ったフレデリックが思い切り眉間に皺を寄せたので、挨拶してきた女性はたじろいた。
「なにを思って私と妻の前に姿を現したのかな?」
「お、お兄様……グレース様は」
「シモーネ、あなたとグレースが知り合いだったなんて知りませんでした。これはあなたが仕組んだことですか? 私たちを不快にさせることが目的で?」
「え、えっと」
「……俺はシャルに正直でいようと思う。グレースは俺と付き合ったことのある女性だ」
堂々と宣言するフレデリックは正直者すぎる。誤魔化すような卑怯な人じゃないのだろうけれど。
「はあ、そうですか」
「懇願されて付き合ったが、仕事が忙しい時に『私に構ってほしい』と職場まで押しかけてきて大迷惑して別れた。もちろん納得して別れたんだ。ほら。こんなところもシャルとは大違いだ」
妻の私に気を遣ってくれるのはありがたいが、人と比較するような物言いはよくないと思う。あとで説教だな……。しかしその言葉に反応したのはグレース様だった。
「あの時のことは反省しております! ですが、本当に私はフレデリック様をお慕いしていて……」
「反省している人間が、妻を持った私の前に現れるとは思えません。私は騎士であることに誇りを持っています。みなの命を預かり、民を守っていると自負している。それを理解している人間としか付き合うつもりはありません」
フレデリックがきっぱり言うとグレース様は絶望的な顔をしていた。
……聞いていたのと違うぞ。
おいこら、フレデリックとグレース様は私の結婚のために別れて、未練たらたらだったんじゃ?
私がシモシモを見ると彼女は青を通り越して白い顔をしていた。
「のこのこ挨拶に来て、どういうつもりです? まさか、私の妻の品定めに来る下種な輩と同じではありませんよね?」
ギロリとフレデリックに睨まれて、グレース様もシモシモもブルブルと震えている。
おかしい……。
ここはフレデリックが元カノと再会して愛が再燃する流れだったのでは。グレース様がフレデリックに挨拶に来て、アイコンタクトを取った二人があとで落ち合って……。
という想定をしていたのだが。
「シャルロット……私の妻は、婚約してから一度も私の仕事を咎めたことなどありません。長期で留守にしても、急に出動しようとも、一言の嫌みすらありません。いつも、彼女は快く私を送り出してくれていました。王女であった彼女の国を思う気持ちは私と同じです。こんな素晴らしい伴侶を持って、私は幸せ者です」
あ、と思ったら、フレデリックが熱弁をふるいだした。
これ、お酒入るといつも言いだすやつなんだけどさ。うわあああ。こんなところでおっぱじめちゃったよ……。
半分合ってるけど、大半は屋敷にいられても困るから『早く仕事行け』って言ってるだけだからね。美化してくれるのはありがたい。しかしこんなところで言いだすのはやめてくれ。褒め上手なのは認めるけど、披露するのは屋敷の中だけにしてほしい。
大体、こんなこと言いだしたのも、エッチしてからだよ? 感じ悪いよね〜。本当は興味なくてほっといたくせに。
ほら、知らない人はなんか美談にとらえて涙ぐんでんじゃんか。
いつの間にか騒動を見に野次馬やフレデリックのファンが集まっていた。カリスマ性も持ち合わせているのか、うっとりフレデリックの話をみんなが聞いている。
「今一度、宣言いたします。私は妻に悪意を持って接する者に容赦はしません。以後、言動には責任を持っていただきたい」
大きな声でフレデリックはそう宣言し、私の腰を抱いた。その姿を見ていた人々もなんだかほっこり感動しているふうである。ああ、こんなはずでは。
目の前のグレース様は白目こそむいていないが、魂の抜け殻となっていた。
なんてこった……私の期待を返せ。
せっかく禁欲させていたのにどうしてくれる……。
私は今夜のことを思い浮かべて作戦変更し、フレデリックをおだててお酒を飲ますしかないと思った。
ふう……。
当てが外れて力が抜ける……。愛妻家としてフレデリックの株が上がっただけだった。あんなこと公言したら、愛人候補が来なくなるじゃん……。
がっかりした私はグレース様を歯牙にもかけずに撃退してしまったフレデリックと、パーティーの主催者である姉のもとへ挨拶に行った。
その時にはもう、グレース様の姿は見当たらなかった。
「本日はお招きありがとうございます」
フレデリックが姉の夫カール・ライオネス侯爵子息に声をかける。姉の隣に立つその人は優しそうな人だった。
「おお、これはコンスル伯爵夫妻ではありませんか。先日はキャロルがお邪魔しました。今日は楽しんで帰ってください」
——これが甘い言葉をささやいてくれて、嫌がったらやめてくれる夫……。一晩の最高回数が二回で済む人……。
声まで温厚そうだ。羨ましい。うちの夫は嫌がってもごり押しで「もっと」と言わされる。快楽漬けでもう始まったら抵抗なんてできない。
羨望の眼差しを向けているとフレデリックが腰に置いた手に力を入れてくる。
なんなんだよ。もう。視線をフレデリックに戻すと満足そうなのが腹が立つ。
「なんていうか、前に聞いた時は?でしょ〜って思ってたけど、本当に愛されてるのね」
そんな私たちを次姉のキャロルが憐れんだ目で見ている。
今思ってることがわかるよ。『いくらフレデリックでも、一晩で四回はきついわ〜』って顔してるもん。
「ええ。相思相愛なんです」
なんて平然と言うフレデリック……。その自信はどこからくるんだ。その甘い微笑みを見てキャロルがポーッとしてうっとりしている。でもだからって私のことを羨むことはないだろう。絶倫なんて話を聞いているだけでいい。
「シャルは最高の私の妻です」
口を開くな。私を褒めなくていい。くそう、くっついてくるんじゃない。早くお酒飲ませてへべれけにしなければ。
当初の目的が消えてなくなった上に、会場を歩きまわって謎の夫婦ラブラブアピールすることになってしまった。これも仕事のうちだと思って致し方なくフレデリックの隣で笑った。
けれど、フレデリックの目が私の体を舐めるように見ている。私にはわかる、これは酒に酔ってトロンとした目ではない。私の胸に夢中になっている時の悦に入った顔だ。
「ひいっ」
「どうかしましたか?」
私が小さく声を上げるとフレデリックと談笑していた相手が私に声をかけてきた。
「いえ、なんでもありません。オ、オホホホホホ……」
まさか腰に触れていたフレデリックの手が怪しく動いたとは言えない。さりげなくだが、だんだんとボディタッチが増えている。ヤバい。ヤバいぞ。
ああああっ! グレース(もう様なんてつけてやらない)! なんというポンコツ! もっと粘らんかい! 私の努力を水の泡にしてくれちゃって!
シモシモ! そもそもなんの情報だったんだ!
結局、問題解決は自分でしなくてはいけない。他人に頼ろうとした私がバカだった。屋敷に帰りたい……。なにも考えずにすべてを放棄して寝てしまいたい。
しかし、そんなことを言おうものなら即屋敷に戻り、激しく抱かれてしまいそうだ。
こんなことなら禁欲させずに少しは発散させておけばよかった。
なんてこった……。
このあと、なにが起こるか想像するだけで恐ろしい。さすがに拒むのも限界がきている。
「リック、喉が渇いたでしょう?」
「俺の世話は焼かなくていいんだよ」
そう言いながらもデレデレ私からワインを受け取るフレデリック。このままドンドン飲ませて、今夜は使い物にならなくするしかない。
さすがに深酒した日は疲れて寝るからな(初夜で立証済み)。
「いやあ、夫婦仲が非常によろしいようで、羨ましい限りですよ」
口々に賛美されるが、幻の夫婦仲です。
隣でニヤニヤすんなや。さあさあ、飲め、飲め。
しかし、ここでお酒を飲ませすぎた支障が出てきた。
「コンスル伯爵は奥様のどのようなところを気に入られたのですか?」
そんなことを聞く輩が出てきたのだ。
ほろ酔い気分で嬉しそうなフレデリックに嫌な予感しかしない。
「もちろん、普段から支えてくれるところもそうですが、もう、どこもかしこも最高で」
「わ。わーっ!」
黙れ、なにを言いだす!
私が誤魔化そうと組んでいたフレデリックの腕を両手でギュッと?むと、上に乗っていた方の手を彼に取られた。
わ……。
あらあら……。
キャーッ。
とか会場のあちこちから声が聞こえた。
酔っ払ったフレデリックは私の手の甲にみんなに見せつけるようにキスをした。
「この白く柔らかく、心地いい存在はこの世のものだとは思えませんよ」
そのまま?を擦り寄せるフレデリックの色気が爆発した瞬間だった。
ハア〜……という声とともに、バタン、バタンとあちこちで人が倒れる音がした。
「この世のものだとは思えないほどの心地よさ?」
こらっ、お前も聞き返すな!
「ええ。一度味を知ってしまうと……虜です」
「ひいいいいっ」
そのまま今度は手の甲をぺろりと舐められる。次はあちこちから「ゴクリ」という唾を飲む音が聞こえた。
私を見るみんなの目が怖い……。ヤメロ! こっちを見るんじゃない!
もう、勘弁してください。私が悪かったです。
浅はかな考えでフレデリックに浮気させようとした、私は愚かな子ブタです。
ブヒブヒ……。
反省した私はフレデリックにお水を飲ませて、「屋敷に早く帰りたいです」とお願いした。
その言葉にフレデリックが大興奮で私を抱えた。
「ひえっ」
「すみません、妻が気分が悪いと言うので屋敷に戻ります。本日はありがとうございました」
フレデリックが簡単に挨拶を済ませて向かったのは馬車である。帰る時間にはまだあるのに突然戻ってきた主人たちに御者も目を見開いて驚いていた。
「すぐ出せるよな?」
「は、はい」
短く御者に告げてフレデリックはドアを開ける。下ろしてほしいのに私はまだ彼に抱えられたままだった。
「いいか、一秒でも早く屋敷につけてくれ」
フレデリックは御者にもう一度声をかけ、私を抱いたまま馬車に乗り込む。
ひ、ひえーっ。
腰に回った手は力強く私を離さないと言わんばかりだ。
「シャル、ねえ、どうしてあなたはそんなに可愛いのかな」
「あー、ハイハイ」
相変わらずの誉め言葉に適当に返事をして、フレデリックの状態を確認する。
すでにハアハアと息が荒い。顔が赤いのと目が血走っているのはお酒のせいだと信じたい。
これは……ガチでヤバい。
ダメだ、禁欲させたせいでこんなに暴走するとは思っていなかった。なんか、お尻の下にフレデリックの三本目の足が当たってるよう! ガッチガチでごっりごりだよう!
いつもよりフレデリックから性的興奮を感じて冷や汗が流れる。
バタン……。
馬車のドアが閉まった瞬間からフレデリックの腕の中に囲まれた。そしてそのまま、耳やら首筋やら、キスされまくる。
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