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王女殿下の護衛猫(偽)につき、あなたに正体は明かせません

小田ヒロ / 著
あとのすけ / イラスト
ISBNコード 978-4-86669-724-6
定価 1,430円(税込)
発売日 2024/11/27

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内容紹介

《小田ヒロによる完全書き下ろし新作》
私の主は王女様なので、公爵令息様には懐いてあげません
がんばるペット護衛のもふもふハートフル・ファンタジー開幕!
変身魔法の使い手である伯爵令嬢ミアは、子ライオンの姿で「猫」と誤魔化して、幼い王女の護衛(ペット)に就任する。唯一の天敵は、ミアをただの猫ではないと怪しむ王女の婚約者で公爵令息のアレク。人間姿で休暇中、よりにもよってアレクに遭遇してしまう。早く退散したくて素っ気なくしたら、逆に興味を持たれてしまい!? 押しの強い彼に根負けして、素性を隠して交流を続けることに。後ろめたさを感じつつも、王宮とは異なる気さくな雰囲気の彼にドキドキするミア。しかし王女を狙う刺客との戦闘中、アレクの前で変身が解けてしまい――
「どうぞ私を、誰よりも強くかっこいいライオンのミイと、優しく情に厚いミアの、ただ一人の男にしてください」
※小田ヒロ先生が生前ご執筆された作品をご家族とご相談の上、刊行いたします。

立ち読み

 私がマリー様……マリーゴールド殿下の護衛について一年経った。私は十七歳になった。
 そしてマリー様は八歳に。少し身長が伸びて、絶世の美女である王妃様と面差しがどんどん似てきた。勉強やマナー習得にも励まれ、文句のつけようもないお姫様である。
 でも、
「ミイ〜!」
「にゃ?」
「お母様、今日お戻りになると言っていたのに、三日ほど外遊の日程が延びるんですって……。今夜一緒にお食事できると言っていたのに……」
 私を抱きしめたまま、ベッドに上り天蓋を閉め、人知れず泣くマリー様。もう王妃殿下と一カ月ほど会えていない。マリー様は未だ、家族と婚約者と一部の使用人にしか会えない生活を送っている。
 たった八歳なのだ。泣くのが当たり前だ。
「にゃあん、にゃあん」
 私はペロペロとマリー様のピンク色の頰に流れる、大粒のダイヤモンドのような涙を舐め取る。
 どうかこの、我慢強く優しい私のお姫様が、一刻も早く幸せになりますように。

 マークス殿下も学院を卒業し、百パーセント公務に励むようになった。ヒューイもそのまま、殿下の書記官として、ときにヘビのヒューとして、ピッタリ張りついている。
 殿下は比較的自由のきく第二王子ということで、視察や外遊も多く、朝食会は頻度が激減してしまった。
「え? マリー泣いてるの? 参ったな……」
 久々にお会いしたマークス殿下は、早速頭を抱えた。
 それを同情した顔で見つめながら、ヒューイが説明する。
「詳しいことは言えないけれど、マークス殿下は入念な下準備中で、まだまだ王宮の執務室で書類仕事ってわけにもいかないんだ」
「そうですか」
「王太子の結婚準備で当事者の兄上と母上はバタバタしているしね」
 そう、このたび順当に、ジルベルク第一王子が正式に王太子であると国内外に周知され、同時に隣国サーフォーゲンの王女様と結婚することが発表された。その話し合いで王妃様自ら隣国に足を運んでいらっしゃる。
 正直言うと、王太子殿下はマルルカ国のナナエ王女と結婚すると思っていた。我が国の学院に留学されていたナナエ王女とは同い年で、学院でのお世話役も務めていた王太子殿下。当時、王都を案内し、散策するお二人の様子は大変、それはそれは仲が良さそうだったと田舎にいた私の耳にも届いていた。国益的にも補い合える良縁で、私だけでなく、ほぼ全ての国民がナナエ王女で決まりと思っていた。
 国民からすれば、突然のサーフォーゲンとの縁組み、その王女様がどこかでうちのマリー様のジル兄様に一目惚れして(もちろんマリー様の兄だけあって、超美形なのだ)、ゴリ押ししたのか? よほどのプレゼントを持参すると約束し、マルルカよりもサーフォーゲンと結婚したほうが国のためになると判断されたのか? などと勘繰ってしまう。
 さらにサーフォーゲンの王女様は一日も早く我が国に馴染みたいと前向きなんだとか。だから今、王宮は王太子妃を迎える準備で慌ただしい。
 ちなみにその、王太子妃になる王女様は、我がアボットの護衛を断られた。動物の皮をかぶった人間が四六時中そばにいるのは嫌だと、包み隠さずおっしゃったらしい。
 まあそんな方もいる。王家も無理強いなどしない。結局は信頼関係が築けなければ無理なのだ。
 だから、王太子妃につく予定だった、姉キャシーが完全フリーになった。姉は私とマリー様の警護を交代制にしようと言ってくれているらしい。それが叶えば私もひと息つける。
 ただ、マリー様が、姉の狐に慣れてくれれば……なのだが。狐は赤ちゃんになっても猫には見えないし、姉の白狐は今の私の三倍は大きいから……でもアレクのとこのカールにはすっかり慣れたし、なんとか仲良くなってほしい。
「ところでミア、これからしばらく注意してほしい」
「ヒューイ、どうしたの?」
「……嫌な感じがする」
 ヒューイはヘビだ。ヘビは体全体で、目に見えないものも感知することができる。なんの根拠がなくても、アボット一族にはそれだけで十分だ。
「わかった。……私も最近弛んでいたかも。もっと感覚を大事にするね」
「そんな漠然とした不安では、我らは対策のしようがないんだけれど……」
 王族である殿下が申し訳なさそうに呟いた。
「わかってるよ、マークス」
 感覚の判断だけで、大っぴらな警備の強化ができないことくらいわかる。ただ、私たちは父や兄と情報を共有し、緊張して過ごすことになる。
「待って、でも私はちゃんとヒューイを信じてるからね!」
「だからわかってるって」
 ヒューイは殿下の額をツンと人差し指で突いて……二人は笑い合った。
 もう……この二人、結婚すればいいんじゃないかな? 私は薄ーい目で見ながら、ぬるくなったお茶をゴクゴク飲んだ。

◇◇◇

「と、いうことがあったの」
 私はスプーン亭の裏口から出たところにある、狭い中庭の狭いテーブルで、アレクにマークス殿下とヒューイのやり取りを語った(もちろん人物背景内容全てぼんやりと)。
 今日も満員御礼のスプーン亭。いつだったか中を覗いてテーブルがなかったため、出ていった私を見咎めて、私専用の簡易テーブルと椅子が準備されてしまった。私が来店すると、いそいそと奥からそれらが中庭に、パラソルとともに設置される。
「こんな特別扱いよくないと思うよ」
「順番を飛ばせば特別扱いになりますが、そうではないので大丈夫でしょう」
 ユリアがキッパリ言い切った。そう言われれば、そうかなあ?
 そしてそこにアレクがやってきたら、狭いテーブルは料理で溢れ、肩を寄せ合って食べることになる。
「同僚の二人がイチャイチャしてるのが見ていられないと。ミア、君の仕事に支障ないなら、余計なお世話はやめなさい」
「アレクの助言はもっともすぎる。遊びが足りない。どんどん煽っていかなきゃつまんない。ねーカール?」
「ワフ!」
 私がそう言って、カールとイチャイチャすると、アレクはショックを受けた顔をした。
「どうせ私は、真面目だけが取り柄の、クソつまらない男だよ」
「あー私、そんなこと一言も言ってないのに〜めんどくさいなあ」
「わん」
 私は今日のランチの鴨のローストを一切れ、カールは骨付きローストチキンを一切れ、友達に差し出した。
「……私に食べ物を恵んでくれる友達は、ミアとカールくらいだよ」
 アレクは苦笑しながら、カールの皿にチキンを戻し、鴨は一口でパクッと食べた。
 そう、私たちは友達だ。お互いにこのスプーン亭の味と、カールと、読んだ本と、ぼんやりとしたグチをこぼし合う友達。出会って一年以上になるが、アレクは私に何も踏み込んだ質問をしてこない。その絶妙な匙加減は賢さを滲み出させる。
「私も春から新生活入ってなかなか大変だよ。ミアのようにイライラすることなんてしょっちゅうだ」
 マークス殿下とヒューイと同級生のアレクもまた学院を卒業し、公爵家の嫡男として本格的に領政に関わり、高位貴族の義務である貴族院のメンバーとして国の行末を裁決し、王太子殿下の側近として細かいことまでサポートしている。
 目の回るような忙しさのようで、一カ月前よりも少し痩せてしまった。少しやつれた姿もまた、大人になった雰囲気を醸し出していて……ほんの少しドキドキする。
「アレクも何か気分転換したら? こないだ貸してもらった本もミステリーで、結構ストレス溜まったよ。もっと朗らかなやつを選べばいいのに」
「あの作者、うちの上司のオススメだったんだけどなー。若い女性には不評だったと伝えておくよ」
 上司というのは王太子殿下だったりして? それとも陛下? ほっぺたが自然と引き攣るのは仕方ないよね?
「今のところ私のストレス解消は、とっても愛らしい……妹のような親族に会いに行くことと、ミアとこうしてスプーン亭のメニューを開発することだな」
 とっても愛らしい……うん、マリー様は世界一愛らしい。異議なし。
「そうそう、前も話したことあったかな? その大事な人に会いに行くと、とってもつれない猫がいてね。侍女にも、カールにも親しげにすり寄ってくるのに、私にだけ塩対応なんだ。腹が立つ。なんとしても懐かせて、膝の上に抱き上げたい!」
「……へー」
 日々忙しいアレクがマリー様に会いに来るのは、最近は十日に一度くらいだ。マリー様の話を真剣に目を見つめて聞き、頭を撫でて励まして、マリー様の淹れるお茶を世界一美味しいと言う接し方から、アレクも私と同じくらいマリー様を愛しているのがわかる。
 私は前回の失敗を糧にして、決して部屋を出ることなく、神経を研ぎ澄ませて、あらゆる危険に備える。
 カールはそんな私の横にノソノソとやってきて、ぺろりと私の全身を舐めるとぐるっと私を囲って寝転んでくれる。まるで作業中の私を守るように、私が孤独に落ちないように……人間よりも賢い子だ。
『はあ。今日も殿下のミイは私に寄りつきもしません』
『だからアレックス兄様、猫はきまぐれなのです。それとも……兄様何か、ミイが嫌いなことをしたのでは?』
『私は殿下と一緒のときにしかミイに会っていません。これまで何もおかしなことはしていないでしょう? あ、カール! お前はいつのまに!』
『ふふっ、だーいすきなミイとカールが仲良くて、私は嬉しい』
 警護中の耳に入る、二人の穏やかな会話を聞いて、ああ、好きだな、と思う。二人のゆったりとした雰囲気も、マリー様、アレク、それぞれ単体でも。
 そして今日のように、いつもきっちりセットしている髪を無造作にして、よそで見せないウンザリした顔をして、私と料理をシェアする様子も、好きだと思う。可愛いな、なんて。
 そう、結局私は、アレクを好きになってしまった。よりによって護衛対象であるマリーゴールド王女殿下の婚約者であるアレキサンダー・ゾマノ公爵令息を。全く自分にがっかりだ。
 でも、私と同じくらいマリー様を大好きで、定期的に会ってくれて、それって私のことを友人としてでも気に入ってくれてるってことで、決して私の嫌がることはしないで、そんなマリー様と私への気遣いを見せながら、裏ではきちっと自分の役割を果たしている男性を……好きにならないわけがない。
 自覚してしまえば、もう転がり落ちるだけだ。目の前の料理を美味しそうに食べる姿も、従業員にさりげなく彼女らの子どもの体調を聞くところも、卸業者から届いた食材を重いからと進んで納戸に運ぶところも、カールを優しくブラッシングするところも、全部全部好ましい。
 たった一人しかいない、親族ではない身近な存在だからって、あまりにも簡単に恋に落ちすぎじゃないの? と自分でもさんざんツッコんだ。でも、もう自分の想いを否定するのは疲れてしまった。
 ただ、この想いは誰にも言わず棺桶まで持っていく。それならば誰にも迷惑をかけないし、許されるでしょう?
「ミア、ボーッとしてるけど、トマト煮込みは苦手だった?」
「いえ、……大好きです」
 トマトで真っ赤な深皿を引き取ろうとするアレクの手を押しとどめ、自分の前に戻す。
 その手を見て……あのときなぜ、友達になると握手をしてしまったのかと自問する。あれがきっかけで自分を追い込む結果になった。失敗だ。
 でも、学院にも行かなかったのに、私はここで恋を学んだ。前世の私もこんな胸がギュッと締めつけられるような経験はしたことなかった。青春だ。十分だ。
 自分で選んだ道。後悔なんて、絶対にしないのだ。

◇◇◇

 ジルベルク王太子殿下と隣国サーフォーゲンのフレスカ第二王女の婚約と、半年後の婚礼が公式に発表された。
 国中が慶事に沸き立ち、王宮の中もどことなく浮き足立っている。
「こんなときが一番気が緩むものだ。ヒューイの助言もある。皆、今一度気を引き締めるように」
 と父から連絡があった。私も漠然とした不安を感じ、ピリピリと過ごしている。
「ねえミイ、私、新しいお姉様と仲良くできるかしら?」
「……なあん」
 マリー様は未だごく限られた人間としか交流できない環境にいる。新しく王家の一員になるフレスカ王女と仲良くなりたいと思うのは必然だろう。同じ女性、王女という立場ならではの打ち明け話など、したいのかもしれない。
「ミイにだから言うけど……」
「にゃあん?」
「私、怖いの。結婚することによって、ジル兄様が私と会う時間を減らしてしまうことが……」
「なん……」
 そんなことないよ! と言い切れないのがつらい(結局猫もどきだから言えないけれど)。
 他国から迎える王太子妃、フレスカ王女がこの国に馴染むよう、やがて王妃としてこの国に前向きに立ってくれるよう、王太子殿下は時間も労力も全力で注ぐことであろう。隣国の王にはそれを約束した上での輿入れに違いない。
 王太子殿下には外せない政務他仕事が山ほどある。そんな中、妃殿下への時間をどこから捻出するかといえば……マリー様との接見時間はそれにあたってしまうだろう。
 ご両親である両陛下になかなか会えないマリー様が、心の支えにしているのはお二人の兄王子。
 ジル兄様とマークス兄様に抱きしめられているときこそが、一番子どもらしい、穏やかな顔をされているというのに。
「私が小さな頃、何度も遊んでくれたナナエ姉様なら、こんなに不安にならなかったのに……。私って、嫌な性格よね。ジル兄様の結婚を喜ぶより先に、自分が可愛がってもらえなくなることに悲しくなるなんて」
 マルルカのナナエ王女とは、思ったよりも王族ぐるみで親交があったようだ。土壇場で婚約者候補が変わったように感じられる。きっと理由があってのことだろうが、その結果、マリー様の平安がグラグラと揺らぐことになった。
 このマリー様の呟きはとても小さくて、信頼する侍女ローラの耳にも届いていない。八歳で、それを口に出してはいけないわがままだとわかっていること自体が切なすぎる。
 マリー様は全く嫌な性格なんかじゃない! 国の! 私の! そして……アレクの宝だ! ここは……私が全力で喜ばせるところよね? わかってるから!
「にゃん、にゃにゃん!」
「……ミイ、どうしたの? え、ちょっと待って?」
 私はマリー様のワンピースの裾を咥えて、クローゼットに引っ張る。マリー様のワンピースはもちろん私の月給分な代物なので、侍女の皆様が破りはしないかと、目を三角にして怒っているけれど、無視!
 クローゼットには、マークス殿下に置いてもらった包み。
「これを開けるの?」
「にゃん!」
 お側に仕えて一年、マリー様は私とほぼ意思疎通できるのだ。
 包みを抱えて部屋に戻り、テーブルの上で広げると、そこには鉄で作った直径三十センチほどの輪っか。
「これをどうするの? 持てって? はいはい。こう?」
 マリー様がその銀色の輪っかを手の高さに水平に持った。
 私は下からジャンプしてその輪を潜り着地する!
「にゃんっ!」
「び、びっくりした! ミイ……あなた天才なのっ!? こっちはどう?」
 マリー様が輪っかを縦に持った。私はバルコニーの窓まで走り、そこから助走をつけてジャンプし、華麗に輪を潜った。
「すごい! 二連続ってできるかしら。ローラ、もう一個持って、離れて構えて!」
 私はやれやれとやってきて手伝う侍女ローラ、そしてマリー様の持つ輪を難なく潜り抜けて宙返りして着地した。
「ミイ!」
「にゃんっ!」
 私たちはしっかり抱きしめ合う。
「……ありがとう、ミイ」
 私のマリー様は賢すぎる。

 マリー様の不安があれこれ募っていることを報告すると、なんと翌日、突然陛下が現れた。
「お、お父様っ!」
「マリー! 私の天使。私は今日も公務がいっぱいで疲れてね。一緒に少しだけでも中庭を散歩して、慰めてくれないか?」
「しょ、しょうがないお父様ですわね! お付き合いいたしますわ」
 はにかみながらいそいそと帽子をかぶり、陛下と手を繫いで春の色とりどりの花が咲き乱れる中庭にお散歩に向かうマリー様は、プライスレスだった。
 それをホッとしながら見送り、顔を寄せ合って語らう父娘の様子を眺めていると、隣で同じく見守っているローラが小声で囁いた。
「これは、私の独り言なんだけど……、今度輿入れするフレスカ王女殿下、お国で婚約者だった侯爵令息に婚約破棄されたのですって。それで国内では嫁ぎ先がなくなり、国外の王族と結婚するしかなくなったんだそうよ」
 ローラが私に「独り言」を聞かせることにも驚いたけれど、その内容も、なんだかとても引っかかる。
 何が引っかかるって「婚約破棄」だ。王族を巻き込む婚約の解消なんて、片方が死にでもしない限りありえないことなのに。
 そういえば前世「婚約破棄」を題材にした小説がずいぶんと流行っていた記憶がある。それらの世界にココは近いといえば近い? でもここは現実世界だから、あんな、突拍子もないことは起きない。
「サーフォーゲンの王に頼まれ、多額の現金とあちらの国の鉄鉱石の鉱山を山ごと持参金として持たせると言われ、その婚約破棄の問題も、調べる限り瑣末なことだったと見做され、陛下が決定されたんですって」
 ローラの私にしか聞き取れない小さな呟きは続く。
 鉄鉱石は魅力だ。それも掘削の永久権付き。その条件ならば陛下も王太子殿下も、自分の気持ちを押し込めて決断するだろう。我が国の鉱山は次々と枯渇し、残りはとうとう一箇所なのだ。今、必死に鉱脈を探しているところだ。
「でもねえ、私、そんないわくつきの王女が来ることに、不安がぬぐえないのよ。つまりはトラブルをこの国に持ち込むということですもの」
 私は目を合わせることなく、猫姿でローラに頷いた。全くもって同意だ。
「ジルベルク王太子殿下が産まれた瞬間にも私は立ち会ったのよ? 当然幸せになってほしい。そしてマリー殿下にこれ以上、つらい目に遭ってほしくない……という、独り言よ」
 ローラはそれだけ言うと、何事もなかったように仕事に戻った。
 ローラの情報源は、間違いなく王妃様だ。王妃様はこの縁組に陛下の決定とはいえ少なからず不安を持っている。
 それを密かに私に伝えた。つまり、いいか? 不穏だぞ? 気をつけろ! ということだ。改めて身が引き締まる。
 それにしても、ローラには私の正体がバレていたようだ。動物護衛をつけていた王妃様のかつての腹心だから、当然か。それならそれで、任務に抱き込ませてもらうだけだ。


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