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【アンソロジーノベル】絶対に私を抱かせて幸せになってみせますわ!

茶川すみ、七夜かなた、すいようび、マツガサキヒロ / 著
黒木 捺、鈴ノ助、cielo、織尾おり、カズアキ / イラスト
ISBNコード 978-4-86669-741-3
定価 1,430円(税込)
発売日 2025/01/29

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内容紹介

あなたの愛は、この私が手に入れます!
溺愛ルート決定アンソロジー!!
第4回Jパブ大賞特別賞作品と第2回金賞受賞者による短編の計4作を収録
書籍でしか読めない加筆エピソード!
【収録作品】
絶対に抱いてくれない夫に抱いてもらう方法(著 茶川すみ/イラスト 鈴ノ助)
あなたの子種を私にください!~不能のコワモテ隊長は小国の王女に求められています~(著 七夜かなた/イラスト cielo)
見習い魔女はこじらせ天才魔術師に猛攻中 ~子作りしましょう!お師匠さま~(著 すいようび/イラスト 織尾おり)
絶対に私が××されてあげますからね!(著 マツガサキヒロ/イラスト カズアキ)
カバーイラスト 黒木 捺

立ち読み

絶対に抱いてくれない夫に抱いてもらう方法


「媚薬をお使いになってはいかがでしょうか」
 ささやかな、小さい声。その言葉に、アイシェの頬はカッと熱くなった。
 この国で媚薬といったら、一つしか指さない。普通の人にはない特別な力、魔力を持つ「魔女」と呼ばれる者たち。その中でも「華の魔女」と呼ばれている者が作る、高額で取引されている薬の中にそれはある。
 飲んだ者を強制的に発情させてしまう、強壮剤としても使われるその薬。その効果は、七十歳のしおれた老翁を三日三晩男として元気にさせたとか。
 アイシェは一つ唾を飲み込んだ。媚薬を手に入れることは比較的簡単だ。華の魔女の薬を卸している店はこの街にある上に、金には困っていない。しかし娼館でよく使われるような類のそれに、いかがわしさはどうしても付き纏う。
 自然と、内緒話をするように声を小さくしてしまう。
「……それを彼に飲ませるのね」
「えぇ。しかし、旦那様は鼻が利きます。濃いワインに混ぜるのがよろしいかと」
「上手くいくかしら」
「失敗する可能性も充分にあります。ですので気づかれてしまった際には……奥様が口移しで飲ませてみてはいかがでしょうか」
「……え!? く、口移し!?」
「はい。さすがの旦那様もそれを拒否はできないでしょう」
 ぶわり、と顔が熱くなったような気がした。もちろん既にルードと口付けは何度もしているが、口移しで食べさせたり飲ませたりなどはしたことがない。どこかそれは淫靡で、自分たちにはまだ早いような気がしてしまう。
「で、でもそんなこと、わたしにできるかしら……」
「大丈夫です。ワインを口に含んで旦那様の唇に唇を押し付けるだけです。奥様ならできます」
「……分かったわ。ちょっと緊張するけど、頑張ってみる。薬の購入はお願いするわね」
「お任せください。奥様のためなら、何なりと」
 エナはアイシェの支度を終えると、一礼して部屋から出ていった。彼女の仕事は早い。きっと今夜には目的の物を買ってきてくれているだろう。

「いいですか。ワイングラス一杯に対して三滴です。それを超えると非常にまずいそうなので、お気をつけください」
「えぇ、分かったわ。ありがとう、エナ」
「とんでもないことでございます」
 エナが買い出しに出ていったのが、午前中の早い時刻だった。彼女は昼前には帰ってきて、その手にはもちろん目的の物が握られている。
 例の薬は無色透明で、小さな小瓶に入っていた。底が膨らんだ、雫のような形をした瓶だ。蓋は一輪の百合の花を模っており、まるで水晶でできた小さな百合が花瓶に生けてあるようにも見える。
 そっと蓋を開けて匂いを嗅いでみると、百合の優しい香りがわずかに漂う。ただ、それは強い香りのする飲み物に混ぜたら分からなくなるほどの、極めてほのかな香りだった。
 アイシェは小瓶を強く握り締めた。今夜こそ上手くいく。そんな漠然とした自信が沸々と漲ってくる。
「今夜こそ! 必ず! わたしは女になってみせるわ……!」
「はい、奥様。わたくしめも応援しております」
 小瓶を掲げて窓から入ってくる陽の光にかざすと、きらきらと光を反射してとても美しい。
 アイシェは今夜行われる予定のめくるめく大人の時間に向けて、にっこりと期待の笑みを浮かべた。

 その日の夕食後、アイシェはルードが湯浴みをしている時間を見計らって、夫婦の寝室でワインを開封した。夫のグラスの底に媚薬を三滴入れて、準備を整えておく。無色透明なそれが三滴入ったところで、遠目からでは何かが入っているようには見えないはずだ。
 扉の向こうから足音が聞こえてきて、アイシェは手に汗をかきながらワインボトルを握り締めた。間もなく扉が開けられる。その瞬間にアイシェは夫のグラスにワインを注ぎ始めた。とくとく、と美味しそうな音が小さく部屋に落ちる。
 そのワインは、透明感が少なく血のように赤味が強い。少し前にアイシェの父親が隣国に行った際に土産として買ってきてくれたもので、非常に香りが強いものだった。
「ルゥ様。お父様から頂いたこのワイン、一緒に飲みましょう?」
 普段、ルードは夜寝る前にワインをちびりと飲んでいるが、稀にアイシェも一緒に飲むことがある。不自然なところはないはずだが、彼を騙しているという事実がどうしても体を強張らせてしまう。
 ルードはアイシェのいるソファのほうへ近寄ってくると、正面に腰掛けた。肘置きに右肘をついて、ゆるりと頬杖をつく。
「あぁ、この前のやつか。良い色だな。……ところでアイシェ。この国で宴を開く時、ワインをいつ開けるのか知っているか?」
 ルードからの突拍子もない質問に、アイシェは自分のグラスにもワインを注ぎながら目を丸くした。
「えっ。……乾杯をする直前、ですけど……」
「そうだ。なぜそのタイミングなのか、理由を知っているか?」
「……いいえ」
「皆の前で開封することにより、毒を混入させていないのだとアピールするためだ」
 毒。その言葉にぴくりと体が跳ねた。こめかみに冷たい汗が伝っていく。
 まさか、彼は気づいているのだろうか。
 おそるおそる視線を上げて、ルードの顔を見る。そして――確信した。口角を引き上げた彼が、意地悪く笑ってアイシェを見ていたからだ。あのにやけ面を見る限り、アイシェの行いに気づいているのは確実だ。その上で遊んでいるのだ、この男は。
 一つ笑みを漏らしたルードは、余裕の表情でワイングラスを手に取った。鼻を近づけ、すん、と匂いを嗅ぐ。
「血のように濃い赤紫。鼻の奥に届く強い酒精の香り。アルリシア産は独特だな。……だがおかしいな。花のような香りもする。これはこのワインにはないものだ。……さて」
「……えっ!?」
 ルードがグラスを傾け、一口飲む。まさか、何かが混入されていることに気づいているのにもかかわらず口をつけるとは。驚きのあまりに、アイシェはつい両手で口を覆ってしまった。
「濃い魔力。……華の魔女か。効果は……盛った本人で試すか」
「えっルゥさ――きゃあっ!」
 唐突にルードが立ち上がり、アイシェのほうへと一瞬にして詰め寄ってきた。そのまま、アイシェの体をソファの上に勢い良く押し倒す。
 何かと思ってただ呆然と彼を見上げていると、彼はグラスに注がれたワインを口に含み――口付けをしてきた。
「んっ! んぅっ……!」
 まずい。大変まずい。
 恐らく、ルードはアイシェにワインの毒味をさせようとしている。しかし、これを飲んだらアイシェのほうが媚薬に侵されてしまう。首を振ろうにも彼の手によってがっしりと顔を押さえつけられていて、全く逃れられそうにない。だが飲んでたまるものか、と精一杯唇を引き結ぶ。
 すると、ルードの片手がアイシェの顔から離れ、下半身のほうに向かっていった。ざらついた指がアイシェの太腿をどこか焦れるように撫で、シュミーズドレスの裾を掻い潜って中に入ってくる。そのまま、何も穿いていない秘された場所を無骨な指がなぞる。
「――んぁっ!」
 驚きのあまり、つい口を開いてしまった。その隙にぴったりと合わさっているルードの口から生ぬるいワインが注ぎ込まれ、ごくりと飲み込んでしまう。そうしたあと、彼の唇がようやく離れた。
 まずい。非常にまずい事態だ。媚薬入りのワインを飲んでしまった。
 どうしよう、と焦る暇もなく、喉の奥から酒によるものではない強烈な熱が急激に湧き上がってくるのを感じた。
 目の奥がカッと熱くなる。体の内側で炎が燃え盛っているようだった。五感の全てが鋭敏になり、肌に触れる衣服や自分の髪さえももどかしく感じる。
 胸の先の尖りが痒い。体の奥の奥、秘めたところが疼く。中を埋めてほしい。熱く太く、硬い何かで――。
 そう思ったところで、アイシェは目を強く瞑った。
 こんな感覚は、知らない。



あなたの子種を私にください!~不能のコワモテ隊長は小国の王女に求められています~


「あの、隊長、もしよろしかったら、今からお茶をお淹れしてもよろしいですか?」
「あ、ああ。では頼む」
 グウェンは自分の机ではなく、その前の応接用の椅子に座った。
「変わった匂いだな」
 アリスンが出したお茶は、グウェンがこれまで飲んだことのないお茶だった。匂いも少し薬みたいだ。
「実家から送ってもらいました」
「エルヴァスから?」
「はい。隊長に是非飲んでいただきたくて」
「俺に? わざわざ?」
 グウェンは銘柄や品質に拘りはない。高い茶葉でも不味いものはあるし、昔は白湯を飲んでいたくらいだ。それよりアリスンが自分に飲ませたいと、わざわざエルヴァスから取り寄せたということに驚いていた。
「はい。勃起不全に効く薬草茶です」
「ブーーーー」
 お茶を飲み込みかけたグウェンは、アリスンの言葉を聞いてお茶を吹き出してしまった。
「だ、大丈夫ですか?」
 慌ててアリスンが駆け寄ってきたのを、手で制す。
「ゴホッ、ゴホッ、な、何に効くって?」
 咳き込みながらグウェンが聞き返した。ポケットからハンカチを出し、それで口元を拭く。アリスンも机の上などの濡れたところを布巾で拭いた。
「勃起不全です。効果は実証済ですよ。これを飲んだ七十のおじいちゃんのあそこもビンビンになって、子供を作っていました」
「ビ、ビンビン……お前……は、恥じらうとか……」
 この前も思ったが、エルヴァスの情操教育はどうなっているのだろうか。
 平気で股間を触らせろと言うし、今度は勃起不全やら、ビンビンやらを口にして、グウェンの方が顔を赤くしてしまう。
「恥ずかしいことじゃないです。私達は親が性交したから生まれたんですから」
「そ、それはそうだが……まさか他の者の前で、そんなこと言っていないだろうな」
「もちろん、他の人達の前でそんなことは言いません。痴女とか好き者ではないんです。私は純粋に隊長だけを狙っていますから」
 一応は安心したが、喜んでいいのかわからない。
「諦めたんじゃなかったのか」
「不能だと言われたから、隊長の子種をもらうことを諦めたのかという質問なら、答えは『いいえ』です」
「なぜ?」
「なぜ? それは私がどうしても隊長でなければ、隊長の子種でなければほしくないからです。他の人のものはいりません」
 これが「好き」という告白だったなら、そんなものは気の迷いだと断言することができただろう。人の気持ちは目に見えないし、グウェンは心というものを信用していない。
 しかし、アリスンは「グウェンの子種」がほしいと、物質的なものを望んでいる。
 それに対して今のグウェンは応えてやれないが、「好き」と言われるよりは、現実的に思えた。
「隊長は生まれつき勃たないわけではないのですから、治る筈です」
「しかし、俺も色々試したが、無理だった」
「エルヴァスは医学が発達しています。島国ですからもし嵐などで船が出せない時でも、自国内で解決できるよう、色んな国の薬草を育て、医療技術も常に最新のものを習得しています。きっと治す方法はあります」
「それは素晴らしいことだが……まさか、この前から何も言ってこなかったのは」
「はい。あの後すぐに国の両親へ手紙を送りました。『孕ませてもらいたい男性を見つけましたが、その人は命が危険な目にあった時に、不能になったと言っているので、治す薬を送ってください』と。それでつい先日この薬草が届きました」
「…………う」
 グウェンは絶句してただ唸った。
 グウェンの状況を馬鹿正直に書いたアリスンもだが、娘が送ってきた手紙を読んで、何の抵抗もなく薬草を送ってきた両親もどうかしている。
 しかもアリスンの両親ということは、母親は一国を治める女王で、父親は王配だろう。
「少々苦いかも知れませんが、良薬は口に苦しと言いますからね。それに蜂蜜を混ぜると飲みやすくなりますし、蜂蜜も滋養にいいものですから、相乗効果が見込めます。毎日一杯ずつ飲み続ければ、改善すると思います」
 押し黙るグウェンとは反対に、アリスンは効能について説明を始めた。
「あの、隊長、お口に合いませんでしたか? 特に副作用もなく、慣れれば癖になると飲んだ人達からは聞いています」
「……して」
「え?」
「どうしてそこまで俺にこだわる。俺でなくても強い男はたくさんいる」
 アリスンはグウェンの前に膝を突き、下から見上げてきた。そしてグウェンの膝に手を置いて、太ももを股間に向けて擦り上げた。びくりとグウェンの体が反応する。
「もちろん、隊長はこの国でも指折りの強さをお持ちですが、世界一強いかといえば違うと思います。でも、私が求めているのは強さだけではありません」
「しかし、強い男の『子種』がほしいのだろう?」
「強さは腕力だけではありません。ひとつ上の姉の相手は、武人ではなく吟遊詩人です。叔母の相手は画家でした」
 強い男と言うからには、武人だとばかり思っていたグウェンは、それを聞いて驚いた。
「人の好みもありますから、筋骨隆々が好きと言う者もいれば、知性や芸術的才能に惹かれる者もいます。でも私達の言う強さとは、ここの強さです」
 アリスンはグウェンの心臓の辺りを指差す。
「心?」
 アリスンは頷いた。
「どんな危険な場所であっても赴き、そこに歌を伝えた吟遊詩人。なかなか芽が出なくてもひたすら己の才能を信じて、絵を描き続けた画家。厳しい境遇でも道を外れることなく、己の才覚で運命を切り拓いてきた軍人。心が弱かったりねじ曲がっていたりしては、ここまで成功しなかったと思います。私はそんな強さを持ったあなたがいいのであって、他の人なんて眼中にありません」
 単にグウェンの腕っぷしの強さで選んだのだと思いきや、どうやらそうではないらしい。
 グウェンの表面ではなく、芯の部分を見つめ、他は考えられないというその言葉に、グウェンは胸が熱くなった。
 ここまで自分を見てくれているアリスンの想いに、グウェンの心は大きく揺さぶられる。
「絶対に私を選んでとは言いません。でも、やってみる価値はあると思います。とりあえず一ヶ月。騙されたと思って、飲んでみませんか?」
 そこまで言われて、グウェンも断る理由が見つからなかった。ならば、彼女の言うとおりやってみるのも悪くないと思う。
「わかった」
 グウェンの返事を聞いて、アリスンはほっとしたように体の力を抜いた。
「それで、お前はさっきから何をしている?」
「え?」
 話をしている間、アリスンはさも当然のようにグウェンの股間を擦っていた。



見習い魔女はこじらせ天才魔術師に猛攻中 ~子作りしましょう!お師匠さま~


 性教育が進むにつれて、オズワルドの中で「メメットを抱きたい、孕ませたい」という欲望が膨れ上がっていた。
 元来真面目な性格のメメットは「交尾の本番に備えて、もっともっと練習したいです!」と意欲的だった。その結果、オズワルドが毎晩張り形で彼女の膣内を開発することになってしまった。
 それを喜んでいたのは序盤だけで、次第にオズワルドは、自分が今、強烈な生殺し状態であることに気づいてしまった。
 ふたりで真剣に新薬の実験をしている最中でも、森の中でメメットの魔法の練習に付き合っている時でも、オズワルドの頭の中はメメットとの情交のことでいっぱいだ。
(メメに挿れたい……。あのぬるぬるでキツキツで、とろとろでムチムチなメメの中に入りたい……)
 張り形を挿れるふりをして「あっ、間違ってホンモノを挿れちゃった!」なんてラッキースケベでも装ってしまおうかと真剣に悩んだりもした。
 しかし、オズワルドはまだ己のテクニックに自信がない。もう少しメメットがすんなり中イキできるようになるまで我慢するのだと、自分の理性と陰茎に言い聞かせた。
「……お師匠さま?」
 小鳥のさえずりのような可愛い声で、意識が引き戻される。ふたりで実験室の整理をしていたのに、いつのまにかメメットとのめくるめく官能の夜について考えてしまっていた。
「ああ、メメ……。申し訳ない。ぼんやりしていましたね」
 微笑みながらメメットの髪を撫でると、彼女は気持ちよさそうに目をつぶる。
 こうしてメメットの髪に触れると、彼女を保護した日、ボロ雑巾のようになっていた彼女に洗浄魔法をかけた時のことを思い出す。
 ペッタリしていた赤い髪がふわふわ揺れて、子犬か子猫のようだった。
 思わず手を伸ばし、感触を確かめようとした瞬間、メメットがそっと目を伏せた。まるで「撫でて」と言わんばかりに。その時、初めてオズワルドは目の前にいる少女に、何か特別なものを感じた。
 あれ以来、オズワルドはことあるごとにメメットの頭を撫で、その柔らかさを確かめながら、己に彼女の保護者としての自覚を促してきた……つもりなのだが。
(メメがパイパンになったのは大歓迎だが、陰毛の手触りも堪能してみたかったな! 永久脱毛薬を渡す前にもう一度生やしてもらおう!)
 ……とまあ、今や見る影もない。
 魔法陣を描いた羊皮紙をくるくると丸め、箱に詰め込んでいると、メメットから声をかけられた。
「お師匠さま、お師匠さま!」
「ん? 何かありましたか?」
「この『オンナが悦ぶ! ミラクル四十八手 ~初めての人にも分かりやすいフルカラーイラスト付き~』って本は、召喚魔法の棚でいいんでしょうか?」
「なっ、メメ!? それはっ……!!」
 メメットが手にしているのは、ここぞという時のために自習用に買っていた参考書だった。本のチョイスが最悪なのが、こじらせたオズワルドらしい。
(ああああ! だめだだめだ! これ以上は見ないで! 破廉恥な本だから見ないで!!)
 オズワルドは慌ててメメットから本を取り上げようとしたが、既に彼女は興味津々な様子でページをめくっている。
「うわぁ! すっごい! 男の人と女の人の裸がたくさん載ってるー! お師匠さま、これが人間の交尾ですか?」
「……ええ、そうです」
「あ、これ、この前見た猪と同じやつだ! わ、こっちは縄なんて使ってる! 交尾って色々あるんですね~!」
 さまざまな体位のイラストをしげしげと眺めるメメット。オズワルドが開発したばかりの魔法を見る時のように、瞳が好奇心に満ちて輝いている。
 オズワルドはこほんと咳払いをすると、そっとメメットの手から本を取り返した。「あっ」と、一瞬だけ小さな手がこちらへと伸びたが、すぐに引っ込む。
「メメ。片付け中に読書は厳禁だと約束したでしょう? 掃除が終わらなくなってしまいますよ」
「そうでした! お師匠さま、ごめんなさいっ」
 メメットはぺこりと頭を下げると、すぐに本棚に向かった。
(ここでごねたりしないのが、メメの可愛いところなんだよねぇ……♡)
 こんな本を所持していると愛弟子に知られて、物凄く決まりが悪いはずだった。しかし素直なメメットの様子を見ると、羞恥心も忘れてニコニコしてしまう。
 その後、ふたりは黙々と部屋を片付け続けた。汚れたままだったフラスコを綺麗にしたり、出しっぱなしだった獣の角を粉末にして薬箱に入れたり。メメットが間違って魔法をかけてしまったために、二度と開かなくなってしまったアプリコットジャムの瓶もこの機会に捨てた。
 ふう、とオズワルドが息を吐く。普段から努めて綺麗にしているつもりだが、研究に没頭してしまうとつい疎かになってしまいがちだ。メメットと一緒に生活し始めてから、こうして定期的に掃除するようになって本当に助かっている。
「メメ、そろそろ休憩にしてお茶の時間にしましょうか」
 オズワルドが振り返ると、メメットは再び魔術書が並んだ棚の前にいた。しかもその手には例の破廉恥な本。
「ねえ、お師匠さま! あたしもいつかこれをするんですよね!」
「えっ!? え、ええ。そうですね……」
「それは一体いつですか!?」
「んんっ!?」
「まだですか!? ちなみに、どれでやる予定なんですか!?」
「んんんっ!?」
 飼い主にじゃれつく子犬のように、メメットがオズワルドに飛びついてくる。
「あたし、この本に載ってるどのポーズでもいいので、早く子種が欲しいです! お師匠さまの赤ちゃんが産みたいです!」
「ん゙ん゙ん゙ん゙!!」
 オズワルドの戸惑いは一瞬にして鼻息で吹き飛ばされ、興奮に塗り替えられた。
 メメがそこまで私の子種を求めているんだから、もうさっさと抱いちゃえよ――と囁く声。
 いやいや、愛するメメに最高のとろあまえっちを味わわせてあげられるまでは我慢だ――と囁く声。
 どちらもオズワルドの心の声だ。
 そして、そんな彼に潤んだ瞳で上目遣いしてくる可愛い弟子。
「……分かりました」
「じゃあ――」
「いえ、正しく言うと、子種はもう少し後です。今夜は性交のお試しをしてみましょう」
「お試し……?」
 首を傾げるメメットをじっと見つめながら、オズワルドは張り形よりも一歩進んだ性教育を実施することに決めた。



絶対に私が××されてあげますからね!


「ラーラ」
「…………?」
 あれ、なんか幻聴が聞こえる。『お客様』が、鳥の羽根のついた変な仮面を外す。その下から、絶対零度の美貌が現れた。
「ロベルト、さま……?」
 あ、声出しちゃった。幻聴で幻覚なら、普通の『お客様』は違う人の名前を呼んじゃったら、ものすごく怒るんじゃないだろうか。ロベルト様(仮)は、なんだか面白くもなさそうな顔でため息をついた。
「泣くほど怖いなら、こうなる前にさっさと助けを乞えばいいのに」
 ポイッとロベルト様が変な仮面を床に捨てた。
「あなた、カッチーニ侯爵家の人間でしょう。しなだれかかって私に媚びでも売れば、ここまでひどい就職先は斡旋しませんでしたが」
 シュ、とロベルト様が首元のクラヴァットを外す。瞬きをする度に涙が零れて、視界がクリアになる。何度見つめてもロベルト様だ。それとも幻覚の見えるお薬とか盛られてるんだろうか。
「ロベルトさま……」
 なんて都合のいい、幻覚。
 でも、ロベルト様だと信じて触れたら、きっと気持ち悪いデブ親父に変わっちゃうんだ。カッチーニの父みたいに肥え太っただみ声で、何か怖くて恐ろしいことを言うんだ。
 ぎゅっと目を閉じる。きっと見なければ大丈夫。ロベルト様だと信じたまま、この『初夜』を乗り切れるはず。耳も塞がなきゃ。
「ラーラ」
 手首を、ロベルト様(仮)の手が掴む。痛くなるちょっと手前の手加減をされた力で、掌が耳から外れていく。
 いやだ、って言っていいのかな? もっと怖いことが起こる? ロベルト様のふりをした誰かが、本性を現してしまう?
 口を開いて、それから閉じる。
 怖いのは嫌だ。私は特別な人間じゃない。怖いことが起きれば縮こまって悲鳴を飲み込むことしかできない、弱い人間だ。口を閉じて、目を閉じて。怖いことが、少しでも早く終わってしまうように。
「ほら、貴女も他の女みたいに私に媚びを売って、私から奪い取ればいい。金でも、身分でも、誇りでも。できるでしょう? カッチーニの女ならば」
 ロベルト様(仮)の指が、私の頬に触れる。彼の指の温かさでようやく、自分の体が冷え切って固まっていたことに気づいた。
 目を、開けたくないなぁ。
 このまま、ロベルト様の声を聞いて、ロベルト様だと信じ込んだままで『初夜』を終わらせたい。
「ロベルトさま……すき」
 頬に当てられた手に顔を擦りつけて、目を閉じたまま笑った。温かい手を両手で包み込んで、その熱を分けてもらう。
「上手ですね。本当に、貴女ほど私を慕っているふりが上手い女性はいない」
 どことなくロベルト様の声が苦くなった。怖いことを、されるのかな。不興を買ったから。
「すき……」
 怖い。ロベルト様でも怖いのに、ロベルト様じゃない誰かの怒りを、体の内側で受け止めなきゃいけないのは怖い。
 体から、こころを。きりはなさなきゃ。
 笑顔を作る。目を閉じたまま。幸せな夢を思い浮かべる。ロベルト様から愛されて、彼の子どもを抱く夢。きっと暖炉が側にあって、窓の外は雪で。外の雪が嘘みたいに、部屋の中は暖かいんだ。
「――腹が立つ」
 暖かくて柔らかい夢想を切り裂く声が響いて、私はベッドに押しつけられた。見上げる先には、奇妙に歪んだロベルト様の顔。
 初めて見る顔に、私の心のどこかが囁いた。夢じゃないって。本当のロベルト様だって。
 本当。本物の、ロベルト様。
 遠い美貌じゃなくて、こんなに近い、歪んだ美貌。いくら美貌でも歪めば美しくないはずなのに、とても、とても綺麗なものに見えた。
 ロベルト様の手が私の服を引き裂いた。レース編みが破ける、プチプチとした感触まで伝わってくる。
「ロベルト、さま……」
 苦しくて悔しくて切ない。そんな感情を隠しもしないで、ロベルト様は私に覆いかぶさって、キスを、してくれた。胸が、震える。
 こんなこと、本当にあるんだろうか。もう駄目だと思っていたのに、ロベルト様が私を犯してくれて、赤ちゃんを身籠もるような行為をしてくれるなんて。
「うれし、ぃ……」
 シャツに覆われた彼の背中に腕を回して微笑うと、ロベルト様は余計に苛立たしげに舌打ちをした。そうだよね。ロベルト様は全然楽しくないよね。私が嬉しいばっかりで、ロベルト様にとっては苦痛なんだよね。『娼婦』と『お客様』が入れ替わったような、とっても悪いことをしているような気がする。ロベルト様の苦痛が私の喜びなんて。
「私は貴女にほだされてなんて、いない」
 キスの合間にそう囁かれて、私はうん、と頷いた。
「しって、ますから」
 あなたが私を嫌いなこと。あなたが私達、女性というもの全般を憎んでいるということを。虐待していた母親も、その母親に愛されていた姉も、憎んで。媚びを売る貴婦人も令嬢も、憎んで。
 反則かもしれないけど、私は原作でそれを知っている。何度も期待したんだよね。愛されるかもしれないって。そして、何度も何度も、裏切られたんだよね。愛されたいって純粋な願いが踏みにじられて、嗤われて。あなたを好きだって見つめる私達に、騙されまいといつも、拒絶して憎んできたよね。
「女なんて、最低の生き物だ」
 うん、ともう一度頷く。
「あなたがくるしいのに、わたし、うれしい」
 ひどいおんな。
 大好きだよ、と少しでも伝えたくて、ロベルト様をぎゅっと抱きしめる。あなたが大っ嫌いな女という生き物を乱暴して穢して、もう二度と会わないで。あなたの苦しみが私の喜び。あなたの痛みが私の悦び。あなたがくれる大切な命を、必ずお腹の中で大事に育てるから。
「わたしを、おかして」
 こんな幸福を誰も知らない。こんな、叫ぶような喜びを誰も体験したことなんて、ない。
「だいすき。ロベルトさま」



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