書籍詳細
『悪の氷結花』、継母になる。1 天使な息子を可愛がっていたら、辺境伯に溺愛されました
| ISBNコード | 978-4-86669-844-1 |
|---|---|
| 定価 | 1,430円(税込) |
| 発売日 | 2026/03/27 |
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内容紹介
立ち読み
「うわあ、おかしゃま、とてもおうつくしいの! おかしゃまはやっぱり、めがみさまなのね!」
出発の時間になったので玄関ホールへ向かう。そこにはすでに、我が家のイケメン男性陣がスタンバっていた。そして、階段の上からわたしが登場すると、なぜかずらりと並んだ使用人たちと共に拍手で迎えてくれた。ジェレミーだけはその場でぴょんぴょん飛び跳ねていて可愛い。
「おきれい! しゅごきゅ、おうちゅくしいにょ、おきれい、にゃの!」
興奮して跳ねているものだから、盛大に噛んでいる。
うむうん、きゃわゆ。
わたしはにっこり笑って片手を上げてから、静々と階段を下りる。そこまでぴっちりしたドレスではないから、足さばきは悪くないけれど、階段を転がり落ちるわけにはいかないからね。
使用人たちは拍手をしてくれて、その音に紛れて「ほう……」という嘆息が聞こえる。拍手の手を止めてぼんやりとわたしを見ているダリル様と、その隣で飛び跳ねるジェレミーの前まで来ると、品よく言った。
「お待たせいたしました、ダリル様。まあジェレミー、その服が素敵に似合っているわ。小さな貴公子さんね」
白いフリルのついたシャツに、わたしと同じミッドナイトブルー色の上着とトラウザーを着たジェレミーは、可愛くてかっこいい。
ちなみに、ダリル様も同じ色合いの服を身につけているので、三人はお揃いだ。黒髪を後ろに撫でつけるようにセットしたダリル様は、恐ろしいくらいにいい男で実はときめいてしまったけれど、正直わたしの視線は可愛い天使ちゃんに釘付けなのだ。
『おかしゃま褒めたたえマシーン』(ジャンピング機能つき)と化した天使ちゃんは、青い瞳をキラキラさせながら言った。
「おかしゃま! しゅごく、しゅごく、しゅてきにゃん、にゃん、にゃの……よ! あのね、ぼくね、おくちがにゃんにゃんしちゃっ、てるけどね、ねこじゃないのよ」
わたしは思わず噴き出してしまった。
にゃんてかわゆい子猫ちゃんでしょう!
「あのね、おかしゃまはいつもかわいいのよ。でも、きょうのおかしゃまはすごくすてきでびっくりしたの。ぼくね、うまくいえないけどね、やっぱりおかしゃまはせかいいちかわいいひとだとおもうのよ」
「おお、ジェレミー……」
ちっちゃな貴公子ちゃんたらなんという口説き文句を!
あまりにも心を動かされて、お母様は失神しそうになりました。
と、今までひとことも話さなかったダリル様が、わたしの腰をぐいっと引き寄せて言った。
「ジェレミー、この素敵なお母様はお父様の妻なのだよ」
わたしは背の高いダリル様の顔を見上げた。
「だから、シャロンはお父様のものなのだ!」
いや、ちょっと、あなた! 突然なにを言い出すのやら!
ジェレミーも、突然現れたライバルに戸惑っていたようだが、すぐに口元を引き締めて言った。
「でも、おかしゃまはぼくのおかしゃまだもん!」
「わたしの、妻、だ」
「ぼくの!」
「わたしの!」
こ、これは、『わたしのために争わないで』というアレですか?
まんまるほっぺを赤くして「ぼくの!」と言い張るジェレミーは、もう食べてしまいたいくらいにほやほやんと可愛らしいし、目元を少し赤らめながら「わたしの!」と流し目をよこすダリル様からは、大人の色気が滴り落ちているし、わたしは少し困りながらもモテモテ気分を楽しんでいた。
だけど、客観的に見るとガキンチョレベルの喧嘩なのだ。わたしたちの様子を見て使用人たちは呆気に取られている。
「ふたりとも、落ち着いてちょうだいな」
「だがシャロン、これは譲れないのだ」
「ぼくだってね、ゆずれないのよ」
こんな時に活躍するのは空気を読まない失礼メイドのドナである。
「あんたら、なにをアホな言い合いをしているんですか、そんなことじゃあ、うちのシャロン様を任せることはできませんよ。はあ、ポッと出のくせして生意気な……シャロン様と一番長くて濃い付き合いをしているのはこのドナですからね、立場をわきまえるがよいのです!」
いや待てドナさん。あなたまで張り合ってどうするのよ。
「夜会に参加して、家族三人の仲のよさを世間様に知らしめるんでしたっけ? なのに、そんな調子じゃ先が思いやられるんですけど」
使用人のドナが、主人であるダリル様とジェレミーをがんがん叱り飛ばしている。
「紳士が淑女を困らせてどうするんですか? しゃんとしてくださいよ。わかりましたか?」
腰に手を当ててプンスカ怒るドナの指導を受けて、ダリル様とジェレミーは「……うむ。大人気なかったな。すまん」「おかしゃまにしんぱいかけてはだめね。ごめんなさい」と素直にわたしに謝った。
「おふたりとも、貴族の夜会ってやつにはたくさんの敵が紛れ込んでいることをお忘れなきよう。いいですか、おふたりでシャロン様をちゃんと守ってくださいよ! 嫌な思いをさせたら、このドナが許しませんからね」
ああ、ドナったらとてもお母ちゃんっぽくなっているわ。でも、心配していることが伝わってくる。
「ありがとうね、ドナ」
わたしが正面から褒めると、赤毛の失礼メイドは「べっ、別に、シャロン様がこけて怪我とかしたら大変なのはわたしたちなんで! 階段から突き落とされたりとか、本当に迷惑なんで! ドレスにワインをこぼされると染み抜きが面倒なんで! それだけですよ」と、わたしがいじめに遭うヒロインであるみたいなことをもぞもぞ言った。
「まさか、夜会の場でそんなことをする人はいないわよ」
「そういうとこ! 肝心なところが抜けてるお人好しのシャロン様が、本当の悪意に晒されるのが心配なんです。だって……」
ドナに真顔で「絶対に倍以上やり返すだろうし、相手の手足を凍らせてもぎ取るくらいのことをしそうだから」と言われてしまった……。
ドナ、あなたはわたしのことをなんだと思っているのよ!
ダリル様とわたし、ジェレミー、そしてわたし付きのドナとミミルカは大型の馬車に乗り込み、夜会が行われる王宮の広間へと向かった。ジェレミー付きのマイラは、後ろから小型の馬車でついてくる。小さな子どもを先に帰らせる時用に別の馬車も用意しているのだ。
王宮の敷地内へ馬車を乗り入れる時には厳重なチェックが行われるのだが、王弟にしてセイバート辺境伯であるダリル様は、もちろん顔パスだ。彼はこの国の王族だし、こんなに見目が整った殿方の偽者を用意するのは困難だから、というのもあるのかもしれない。
かっちりしたデザインの礼服と、フリルのある華やかなシャツ、さらにわたしの瞳の色に合わせた青い宝石(パライバトルマリンのような色をした宝石を、どこからか見つけ出したようね)がついた飾りボタンとカフスボタンを身につけたダリル様は先ほどから、鮮やかなブルーの中に魅惑の光をきらめかせた瞳でわたしを見ては「美しいな……」と満足げに微笑んでいらっしゃる。
いやいや、お美しいのはあなたの方だと思うんですけどね。
純真な子どもの前で、妙に色っぽい流し目をくれるのはお控え願いたいのですが。
「ねえおかしゃま、ぼくのふくはおとしゃまとおなじかんじなのです」
考え事をしていたら、可愛いジェレミーが小さいおててでわたしの手を握って言ったので、わたしは慌てて息子に微笑んだ。
「そうね。そのデザインがとても似合っているわ。今日のジェレミーは騎士のように凜々しくてよ」
「……ん、でもね、ぼくね。おとしゃまみたいにかっこよくしたいのに、ちょっとちがうとおもうのよ。おかしゃま、なんでなのかしら」
うーん、それはね。ジェレミーはまだ三つの愛らしい幼児で、ダリル様はがっつり磨き抜かれた男盛りのイケメンだからなのだけれどね。
「ぼく、もしかすると、おかしゃまとおそろいのふくのほうがよかったの?」
いやん、ドレスを着たジェレミーちゃんを想像しちゃったわ! 可愛い! きっとお人形さんみたいに似合っちゃうわ!
「大丈夫よ、ジェレミー。お父様がとても素敵に見えるのは、子どもの頃からたくさん剣のお稽古をして、お勉強にも励んで、身体も心も立派に鍛え上げた戦士であり紳士であるからなのですよ。ジェレミーはまだ小さな男の子だけれど、こんなにもダリル様に似ているのですもの。成長した暁には、お父様のようにとても素敵で頼り甲斐のある、かっこいい殿方になるでしょう。これからもお父様を目指して励むのです。そうすれば、このような礼服をよりかっこよく着こなせるようになります」
「そなのね! ぼく、おとしゃまみたいにかっこいいしんしになりたいから、うんとはぎぇむの! おとしゃまをめざしてがんばります!」
「その意気よ、ジェレミー。お母様も応援しますね」
「はい!」
わたしは鼻息を荒くする可愛い天使ちゃんに笑いかけて、そのままダリル様に「頼もしい息子ね?」と笑顔で言った。すると、ダリル様は耳まで真っ赤になって「素敵で、頼り甲斐のある、かっこいい……シャロンはそんな風に見てくれていたのか」と呟いた。
「そっ、そうだな。ジェレミーよ、お母様のように、この上なく美しく優しい姫君に期待されているのだ、おまえも世界一の男を目指して励むがいい」
「はい、おとしゃま!」
「だが、わたしもお母様にふさわしい男になるべく、さらに精進するつもりだからな。わたしに置いていかれないように、死ぬ気でがんばるのだぞ!」
「はい! うわあ、おとしゃま、しゅごくかっこいい! ぼくのおとしゃまはとてもかっこいいのね!」
キメ顔のダリル様の精悍な笑顔は、全世界の淑女が「きゃあああああーッ!」と悲鳴を上げて失神しそうな魅力溢れるものだったので、それに感激したジェレミーはにっこにこだ。
でも、三つの幼児は死ぬ気でがんばることはないと思うのよ?
敷地内を徐行した馬車は無事に王宮に着き、わたしたちはセイバート辺境伯家に用意された、賓客用の部屋へと案内された。ダリル様とマイラがジェレミーにお茶と小さなお菓子を食べさせてくれて、わたしはドナとミミルカに髪型とドレスのチェックを受ける。
「完璧なお美しさでございますよ」
ミミルカが満足そうに言った。
「夜会に出るのは……久しぶりだから、緊張してきたわ」
シャロン・アゲートの身体にわたしが入ってからは、一度も夜会や舞踏会、お茶会に出席していないから、実質これがわたしの社交界デビューなのだ。
幸い『シャロン』の経験と知識が残っているし、ダリル様も自分にすべて任せて、ただ微笑んでいればいいと言ってくれているから、なんとかなると思いたいのだけれど……。
あの性悪女のアルテラ王妃が絶対なにか仕掛けてきそうよね。
不安を感じていると、扉がノックされたので、わたしはダリル様の顔を見た。
「わたしが王都に来たことを耳にして、兄たちの誰かがやって来たのかもしれないな」
ダリル様が頷いたので、お菓子をぽりぽり食べていたドナが立ち上がって取り次いでくれた。
「辺境伯様、シャロン様のご兄弟の、アランゾ・アゲート様とブレンダン・アゲート様が来ちゃったんですけど!」
ええっ、ダリル様のお兄様ではなくて、わたしのお兄様が?
「ドナったら、来ちゃったんですけどはないでしょう。でも、どうしてお兄様方がいらしたのかしら?」
不思議に思ってダリル様を見ると、彼は悪い笑顔で「大丈夫だ」とわたしに頷いた。
えっ、なにっ、ブラックダリル様がかっこよすぎるんですけど!
「ドナ、通してくれ」
「はい、了解です」
ドナは飛び跳ねるようにして、お兄様方の迎えに出た。
「おやおや、シャロン。久しぶりに会ったが、今夜はまた、素晴らしく美しいではないか。服の趣味がよくなったな」
「セイバート辺境伯殿と仲よくやっているようで重畳だ。辺境伯殿、妹を可愛がってくださり感謝に堪えませんよ」
「アランゾお兄様! ブレンダンお兄様!」
アゲート家のイケメン兄弟の登場で、この部屋のイケメン指数がめっちゃ高くなっている。
ちなみに、一番のイケメンはわたしのジェレミーよ、ふふふ。かっこ可愛さは世界一だもの。
「ダリル殿、首尾は上々だ。あとは計画した通りに」
「ありがとう、アランゾ殿」
がっちりと握手をしているけど、いつからそんなに親しくなったのかしら。
ブレンダンお兄様が、わたしの頭をぽんと撫でて言った。
「シャロンはダリル殿の隣で笑っていればいい。いろいろと苦労しただろうが、最終的におまえが幸せになってくれて、わたしたちは皆、喜んでいるよ」
「え? なにがどうしたの?」
わたしが混乱していると、ちっちゃなジェレミーにそっと抱きつかれた。
「おかしゃま……」
わたしが知らない人たちと親しげにしているから、戸惑ってしまったのね。
わたしは屈むと、天使ちゃんを抱き上げて言った。
「こちらはね、お母様のお兄様なの。アランゾおじ様と、ブレンダンおじ様よ」
「おふたりは、ぼくのおいしゃまなの? しゅごい、かっこいいおいしゃまがおふたりもいるのね!」
瞳をキラキラさせた可愛い天使に「おいしゃま、ぼくね、ジェレミーなの。さんさいなのよ」と自己紹介されて、クールでできる男だと評判のアゲート兄弟はふたりとも「うっ!」と胸を押さえて、その場に崩れ落ちそうになった。
「なっ、なんだ、この可愛い生き物は……」
「汚れた大人のわたしには、純真な瞳を正視できない!」
お兄様方は、挙動不審なイケメンと化していた。でもまあ、こんなに可愛いジェレミーを前にしたら、突然の萌え心に翻弄されても仕方がないわね。
「あらんぞおいしゃま」
「はうっ!」
「ぶれんだんおいしゃま」
「ふぐうっ!」
お兄様方は完全に崩れ落ちた。
イケメンふたり、ここに眠る……。
「そろそろ入場のご準備をお願いいたします」
アランゾお兄様とブレンダンお兄様の復活を待っていたら、夜会の担当者が部屋まで呼びに来たので、わたしたちは会場の入り口へと移動した。
混乱を防ぐために、基本的に入場は身分の低い者から行う。ダリル様は王弟で辺境伯なので、ご兄弟の最初に順番が来るはずなのだが、お兄様方の「幼児がいるのだから、なるべく疲れないように後から入りなさい」という心配りで、国王陛下の前に入ることになった。
このことからも、ダリル様は国王陛下を始めとするお兄様方からずいぶん可愛がられているように思える。距離を感じるようになってしまったのは、アルテラ王妃が余計なことをするからに違いない。
わたしは左手をジェレミーに、右手をダリル様に預けてエスコートされた。呼び出し係が個人名ではなく「ダリル・セイバート辺境伯御一家」と高らかに呼んだのも、わたしたちの仲よしアピールのためにあらかじめ手配したことだ。
「さあ、行こう」
「はい」
扉が開き、わたしたちは華やかな夜会の会場へと足を踏み入れた。
国王陛下の誕生日を祝うために、国中から貴族家の代表者が集まっているので、盛大な夜会だ。豪勢に着飾っている貴族たちの好奇の視線が突き刺さってくる。
めったに領地から出てこないダリル・セイバートと、その妻になった『悪の氷結花』シャロン・セイバートが現れたのだ。しかも、王妃の企みで、わたしには『子どもを虐待し、ナニーを責め殺した女』という悪い噂まで流れている。皆、わたしたちの真の姿を見極めようと、本気の品定めにかかっている。
わたしは左手に小さな震えを感じた。見下ろすと、ジェレミーは緊張しながらもしっかりと前を見据えて歩いている。小さくともさすがは辺境伯家の長男であると、わたしは感心した。
田舎の屋敷で半ば引きこもるように暮らしていたジェレミーにとって、今回が初めての王都訪問であり、国一番の社交の場への参加だ。知らない大人の注目は、まだ幼いこの子には恐ろしさを感じるものだろう。
それなのに、必死の形相でわたしをエスコートしている。ほんの少しわたしよりも前に出ているのを見て、内心で舌を巻く。
こんなに小さいのに、この天使は、わたしを守ろうとしているのだ!
「ありがとう、ジェレミー」
わたしは頭を振り上げて、会場全体を見渡して笑顔を作った。ダリル様はセイバート辺境伯となってからは公の場には参加していない。おそらく彼は、目立つことが苦手なのだろう。
だから、この場はわたしがこの圧を受け止める。
皆の者、わたしを見なさい。
社交界を騒がせた『悪の氷結花』シャロン・アゲートが、シャロン・セイバートとなって戻ってきたわ。
この母が防波堤となり、襲いかかる視線の奔流からジェレミーを守ってみせましょう。
「シャロン……」
「大丈夫ですわ、ダリル様」
驚いたような表情でわたしを見るダリル様と、視線を合わせて頷いた。
すると彼はわたしの手を持ち上げて、そっと口づけ「あなたはなんて勇敢な人なのだ」と甘く微笑んだ。
会場からざわめきが聞こえる。
どうやら彼はこの戦場で、共に戦ってくださるようだ。
「おかしゃま、おかしゃま」
ジェレミーが小さな声でわたしを呼び、手を引っ張った。
「ぼくもね、おかしゃまのきしなのです」
そう言うと、ジェレミーもわたしの手の甲に唇を当てて、騎士が姫君に贈るような素敵なキスをくれた。
そして、「だいすきだから、おまもりするのよ」と、全世界を虜にするような素晴らしさで笑った!
きゃわいいいいいーっ!
ちっちゃな騎士たん、きゃわいいいいいーっ!
もう夜会なんてどうなってもいいわ、ジェレミーの可愛さの前ではすべてのものはお空の彼方に吹っ飛んでよし!
だって、たいしたことないもん!
世界の中心はジェレミーで、他のことなんてどうだっていいもん!
お母様の顔面は今、炙ったチーズよりも柔らかくとろけてしまっていると思うけど、仕方ないよね!
「ああジェレミー、とても心強いわ」
うちの天使ちゃんは「うふふ」と笑ってから「おかしゃまがすごくきれいだから、みんなおかしゃまからめがはなせないのよ。ちょっとこわいかもしれないけど、ぼくがおかしゃまのことをおまもりするから、だいじょうぶよ」と、キリッとした顔を懸命に作りながら言った。
うわあああああん、胸のキュンキュンが止まらないんですけど!
なんて可愛くてかっこよくて可愛くてかっこよくて可愛くてかっこよくて(もうエンドレス)……。
「息子よ、それは父の役割だぞ?」
ダリル様はジェレミーを片手で抱っこすると、わたしの手を引いた。
「我が愛しき人よ、わたしはあなたの剣であり、盾である。その笑顔を曇らせるものはすべてわたしが排除しよう。だから、いつまでも可憐な花のように微笑んでいてくれ」
「ダリル様……」
うわああああーっ、かっこいい!
なにこの人、いや、わたしの夫なんだけど、なに、なんなの?
「んもう、おとしゃまったら、おかしゃまのことがだいすきなんだから」
騎士役を奪われたジェレミーが、ほっぺたをぷくっと膨らませながら「しかたのないおとしゃまね」とため息交じりに言った。
「そう、仕方がないのだ。お父様はお母様のことを心よりお慕いしているからな」
「なっ、ダリル様ったら、こんなところで……」
真っ赤になったわたしは「早く進みましょう」とダリル様をせかす。
「わたしはどのような場所でも、シャロンを愛していると誓えるが?」
いたずらっぽい笑顔のダリル様の耳元に「あなたって悪い人ね。ジェレミーが真似したらどうするのよ」と囁いて抗議した。
さてさて。
これは夜会の会場に入場しながらのことなのです。
皆さんの視線が集まっているというのに、緊張しすぎた反動なのか、やっちゃいました。
日常的にこのようなイチャイチャをするセイバート一家なのですが、ついつい場をわきまえず、遠慮なくやっちゃいました。
でもね、ジェレミーは可愛いし、ダリル様はかっこいいから、仕方がないわよね!
かなりの人数の人たちが、胸をかきむしるようにして「可愛い! あの子が辺境伯家のおぼっちゃま? 空から降りてきた天使の間違いではないのか?」「おお、大きいダリル様とちっちゃいダリル様だ、セットになると破壊力が半端ない!」「なんて愛らしいお子様なの! 抱っこしたい、わたしのこの胸に抱っこしたいわ」と悶えている。
高貴な淑女たちも「きゃあああああっ、尊い! 尊い存在を目にしてしまいましたわ!」「嘘でしょう、辺境伯って、あの方が? 野生のクマ並みに荒っぽくて粗野な男性という噂は、なんだったの?」「全然違いますわよね、ワイルドで美しい殿方ではありませんか」と顔を赤らめながら興奮している。
おまけに「あれが『悪の氷結花』……以前とは別人だぞ」「まるで女神のように慈愛に満ちた美しい姿だ」「あんなに子どもに懐かれている。どこが悪女なんだ?」という声も聞こえる。
この国の貴族たちが、王妃の心ない作り話よりも、自分の目で見たことで真実を判断してくれそうで、わたしはほっと胸を撫で下ろした。
わたしたちは大広間を進んで、料理のテーブル近くに陣取った。
べっ、別に、おなかが空いているんじゃないからね!
たまたまそこが空いていたから、それだけだからね!
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