書籍詳細
孤独な勇者と選ばれた乙女
ISBNコード | 978-4-86457-296-5 |
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定価 | 1,320円(税込) |
発売日 | 2016/03/29 |
発売 | ジュリアンパブリッシング |
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内容紹介
立ち読み
リナの熱い潤みが、アルシオンを迎え入れる。
「あ……んっ」
抑えられた喘ぎ声。何度抱いても、彼女から恥じらいは消えない。
本来慎ましく、奥手な性格なのだろう。抱いていないときの、控えめな態度から窺える。
けれど、彼女は時折、驚くほどの大胆さを見せるときがある。アルシオンの肌に唇を寄せ、快楽を求めてあられもなくねだってくる。
緩やかにリナの中を味わっていると、ベッドに横たわっている彼女は、快感に涙を浮かべた目でアルシオンを見上げて言った。
「あっ、お願……いっ、も……もっと、強く──あぁっ!」
彼女が望むように勢いをつけて奥を突けば、彼女の小さな唇から艶めいた声が響いた。
積極的に振る舞おうとするけれど、彼女は性に奔放なわけじゃない。むしろ無理しているのだということを、口にする前のためらいから感じる。
リナが無理してまで求めてくるのは、アルシオンに罪悪感を持たせないためだというのはわかっている。
彼女は、本当の意味でアルシオンに抱かれたいと思っているわけじゃない。世話になっている人々に頼まれたから、他人の役に立つことを望んでいるから、アルシオンの子を産むことに同意しそのための行為を受け入れているに過ぎない。
リナの両足を抱えて何度も力強く突き進んでいると、彼女は熱に浮かされたような目でアルシオンを見つめながら両手を伸ばしてくる。
「あっ、アルシオン……!」
抱えていた両足を下ろし覆いかぶさると、彼女は待ちわびていたように、すぐさまアルシオンの首に腕を巻き付けしがみついてきた。
ベッドから浮く、彼女の肩口と背中。
アルシオンはそこに両腕を回し、彼女をきつく抱き締める。
お互いにすがりついているような関係だと、アルシオンは思った。
リナは必要とされなければ孤独を埋められない。アルシオンはアルシオンで、【魔】を倒し理奈との間に次代を作ることにしか、自らの存在意義を見いだせない。
忌まわしき事件から生まれたことによる、底なしの孤独。大勢の神官に囲まれて大事に育てられたけれど、アルシオンはいつだって独りだと感じていた。
【勇者】候補と【選ばれた乙女】の血を引くがゆえに、神殿の者たちはアルシオンにかしずき、一定の距離を取った。
時折その距離を縮めてくる者がいたが、それはアルシオンを罵倒するためだった。
──罪人の子! 母殺し!
どういうことかと訊ねたときに神官たちが見せたやましそうな目。
彼らもアルシオンを罪人の子と思い、それでも【勇者】となる可能性があるから、しかたなく世話をしているだけだと気付いた。
それからというもの、アルシオンは誰に対しても心を閉ざした。
【勇者】となって多くの人から褒め讃えられても、心を開く気にはなれなかった。そういう輩に限って、【勇者】であるアルシオンを利用しようという魂胆が見え見えだったからだ。
アルシオンはいっそう心を閉ざした。何があっても、誰にも心を許すものかと決意していた。
リナはそのことに気付いていたのだろうか?
孤独を埋めてあげたい、などと言われていたらその申し出をはねつけていたが、彼女は自分の孤独を埋めてほしいと頼むことで、アルシオンの孤独をも埋めた。
思えば、初めて出会ったときから、リナはアルシオンの心を揺さぶった。
怯えていた彼女がおそるおそる伸ばしてきた手が、アルシオンの差し出した手と重なり合ったとき。
神殿の者たちが助けに駆けつけたのに、彼らを頼ろうとしないどころか、怯えてアルシオンの手をぎゅっと握りしめてきたとき。
アルシオンは落ち着かない気分になったのと同時に、奇妙な高揚を覚えた。
彼女が頼れるのは、自分ただ一人。
そのことが、彼女を守らなければならないという使命感に火をつけた。
だからリナに憤りを感じた。何故自分を大切にしないのか、と。
今思えば、勝手な義憤だったと言わざるを得ない。
生まれ育った世界が違うことを考慮に入れず、彼女が進んで身体を差し出していると思い込んで怒りに任せて抱いた。言葉が通じるようになっても、大して考えた様子もなく役目を引き受けてもいいと言い出した彼女に腹が立った。
そう思ったのが間違いだった。彼女は彼女なりに考えていたのだ。
他人に利用されてでも孤独を埋めたいという彼女の気持ちは、正直アルシオンには理解できない。けれど、それを語るリナの静かな口調や諦めたような笑みから、そうまでしても埋められない孤独をひしひしと感じた。
そんな彼女が役目を引き受けるのは当然だ。
この世界の者は皆、【選ばれた乙女】が役目を果たすことしか望んでいない。リナはそれをわかっていて、そうしなければ居場所を手に入れられないと思っているに違いない。
実際、その通りだ。この世界の連中は、リナを勝手にこの世界に喚んだ上に、彼女に選択肢をあたえようとしない。そんな世界だからこそアルシオン自身が彼女を守ってやらなければならないと思っていたのに、己の身勝手な欲望がその決意を挫いてしまった。
彼女に嫌われるものだとばかり思っていた。逃げ出されてもおかしくなかった。
なのに何故か、毎夜彼女を抱いている。
きつく抱き締めながら小刻みに蜜壺の奥を突けば、リナはその動きに合わせて身体をびくっと震わせた。
「あっ、あぁ、あ……っ、アルシオン、アルシオン……ッ」
「リナ、リナ……ッ!」
切羽詰まっていく彼女の叫びに呼応するように、アルシオンも彼女の名前を繰り返す。
こうして抱き締め合って昇り詰めていくとき、彼女への愛しさが募って、孤独で空っぽだった心が満たされていく。
すがりついてくる彼女が、たまらなく愛しい。持てる力のすべてで守ってやりたいという気持ちが心の中にあふれ返る。
それと同時に、アルシオンはリナの大きな懐に包まれているような気分になった。
リナはすべてを受け入れてくれる。アルシオンの生い立ちも心の傷も、孤独も、重い責任も、欲望でさえも。
リナが、一層強くしがみついてきた。
「あっ、アルシオンッ、も、もう……っ」
「一緒にイこう──」
耳元にささやくと、アルシオンは彼女を抱き締めたまま、精一杯腰を引いた。そして勢いをつけて、彼女の最奥を突く。
「あぁ!」
彼女の声が一際高くなる。その声に聴覚を刺激され、アルシオンも終焉に向かって加速する。
がむしゃらに腰を進めれば、彼女の中が絡みつくように収縮した。
「く……っ」
アルシオンの苦悶の声に、彼女の嬌声がかぶさる。
「あぁっ! アルシオン────!」
彼女が仰け反り、四肢が痙攣する。蜜壺が引き絞られるように狭まり、アルシオンを締め上げながら奥へと引っ張る。
アルシオンは引き込まれる勢いに乗って己を彼女の奥深くに叩きつけ、自らを解放した。
この瞬間、アルシオンはこの上ない至福を覚える。
単に欲望を吐き出すだけの行為じゃない。
他人同士とは思えないほどの一体感。彼女と深いところで混ざり合った満足感。
だが、リナに愛されていると勘違いしてはならない。
彼女は、ただ他人の役に立って孤独を埋めたいだけだ。そんな彼女に愛を要求して追い詰めたくはない。
アルシオンの父レディングは、母シェリネに愛されていると思い込んでいたらしい。そんな思い込みから母をさらい、自分を身ごもらせた父親と同じにはなりたくなかった。
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