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新米魔法使いは王子の求愛を望まない

白ヶ音 雪 / 著
蔦森えん / イラスト
ISBNコード 978-4-908757-35-8
定価 1,320円(税込)
発売日 2016/10/27
ジャンル フェアリーキスピンク

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内容紹介

甘い告白と優しいキスは本心?それとも惚れ薬のせい!?
《嘘でもいいからあなたが欲しいの。甘いキスと告白がすべて偽りだったとしても、今だけは私のもの》
見習い白魔導士ミリエルが片想いしている王太子アーネスト。諦めていた恋だけど、ミリエルが作った惚れ薬をアーネストが誤って飲んでしまった! 「今すぐキスしたい。君の甘い唇を味わいたいんだ」美しい目で見つめられ甘く囁かれても、惚れ薬のせいなのに……。嘘でもいいから彼が欲しいという思いと、罪悪感の間に苦しむミリエル。そんな時、王太子妃候補の令嬢が次々と呪いにかけられる事件が起こって!? 「君は私のものだ。誰にも渡さない」美しき王太子と、幼馴染の白魔導士ミリエル、そして秘かにミリエルに想いを寄せている褐色の肌の海軍将校クロム。幼い時からの想いが交錯する、剣と魔法のロマンチックラブコメディ?

立ち読み

「アーネストさま!?」
 ミリエルは慌てて踊るのをやめた。一人で踊りに夢中になっていたところを見られたなんて、恥ずかしい。
「や、夜会はどうしたんですか!?」
「抜け出してきた」
「えっ!?」
 よりにもよって、誕生日を祝われている本人が抜け出してきたなんて、そんなことが許されるのか。
 でも、これはちょうど良い機会なのかもしれない。人目がないうちに、プレゼントのハンカチを渡して、先日の看病のお礼を言おう。
「あの、アーネストさま……」
 口を開いたミリエルだったが、足を踏み出したアーネストはそれを、厳しい口調で制した。
「どうして、クロムと一緒に来たの?」
「え?」
「見ていたよ。クロムに、キスされようとしていたよね」
「あ、あれは……っ」
 まさか見られていたなんて、とミリエルは動揺してしまう。
 なんとか言い訳を口にしようとしたが、アーネストはそれを許さず、更に言葉を続けた。
「君が他の男と楽しげに話していた姿を、遠くから眺めることしかできなかった私の気持ちが、分かる? ねえ、どうしてあの時、私から目を逸らしたの?」
 口元は弧を描いているのに、目が笑っていない。
 引きつった笑みを浮かべたミリエルは、そのまま走ってアーネストの脇を通り抜けようとする。
 なのに、それを阻止するように腕を強く摑まれた。
「そのドレスはどうしたの」
 クロムから、とはとても言えない雰囲気である。
 しかし気まずげに押し黙ったミリエルの反応は、口にしなかった答えをそのままアーネストに告げたも同然だった。
「……クロムなの?」
「あ、あの……お誕生日のプレゼントで……」
「ねえミリエル」
 ぞっとするほど冷たい声が、ミリエルの耳を打った。
 なぜかは分からない。薬の効果なのか、あるいはこのドレスが気に食わないのか。
 けれど、アーネストは怒っている。――それも、激しく。
「君は、男が女にドレスをプレゼントする意味を分かっているの?」
「い、意味って……」
「〝このドレスを着た君を脱がせたい〟っていうことだよ」
「そんな、知らな……っ」
「ああ、腹が立つ。あの軟派男め……」
 いらだたしげな声と共に強引に引き寄せられ、――唇を塞がれた。
「んんっ!」
 唇はすぐに離れたが、アーネストはミリエルの手を捕まえたまま首筋に鼻を埋めた。
「……香水の香りだ。これもクロム?」
「あ……っ」
 すんすんと鼻を鳴らしながら首筋から鎖骨にかけて唇を滑らせていくアーネストの動きに、身体がびくびくと震えてしまう。
 両手で彼の肩を突っぱねようとしたミリエルだが、アーネストは意外と力が強い。華奢なように見えてもやはり男性だ。ミリエルのような小柄な少女の力など、微風ほどにも影響がないらしい。
 柔らかな唇に素肌を擦られる感触に、足元からぞくぞくと妙な痺れが這い上がってくるのを感じ、ミリエルはぷるりとその身を震わせる。
「答えて、ミリエル」
 促され、こくこくと頷く。するとますます彼は眦(まなじり)を吊(つ)り上げ、怒った様子でミリエルの身体を弄った。
「んっ、やだ……っ」
 そうしているうちにアーネストの右手が、ドレスの上からミリエルの臀(でん)部(ぶ)を撫で回す。
 尻(しり)臀(たぶ)を揉み込み、さわさわと撫でるその手つきは、控えめに言ってもいやらしい。
「あ、アーネストさま、やめて……っ、んっ」
「アーネストだよ、ミリエル。二人きりの時は昔のように呼んでって、いつも言ってるよね?」
「お断り申し上げ……っ、いっ」
 唐突に首筋に歯を立てられ、ミリエルの体がびくりと痙攣する。痛くはないけれど、急所を押さえられると人は恐怖を覚えるものだ。
「気に入らないなぁ。ミリエルは、私以外の男が贈ったドレスや香水を身に着けるの?」
「だ、だってせっかく頂いたのに使わないともったいないですし……」
 ミリエルのそんな反論を、アーネストはまったく聞いてくれない。
「帰ったら、捨てるように」
「えっ、そん……っん、んん、ふ……ぅ」
「私が新しいのを買ってあげるから」
 そういう問題じゃない、というミリエルの言葉は、アーネストの唇の中に吸い込まれていく。
 舌を絡め合う情熱的なキスは、以前戯れに施されたものに比べて深く、目眩がしてしまいそうだ。
 足元から力が抜けそうになった時、背後にあったお茶会用のテーブルに押し倒される。
 驚いて身を起こそうとしたが、上から覆い被さるアーネストに両腕を絡め取られ、身動きをとれなくされてしまった。
「は、ん、んんっ……」
 そうして唇を離した時、アーネストは獣の欲の滲(にじ)んだ目でミリエルを見つめながら、濡れた唇をぺろりと舐めた。
「っは……。ねえ、ミリエル、私のものにしたい。していいよね……?」
 熱を帯びた声に、腰の辺りにずくんと重い痺れが走る。
 これは一体何……!?
 主の動揺に、先ほどから宙を優雅に待っていた花びらの蝶の魔法が解け、それはゆっくりと、羽のように二人の上に降り注いでくる。
 ひらひら。
 ひらひら……。
 花びらの雨にむせそうになりながら、ミリエルは両手でアーネストを押しのけようとする。
「アーネストさま、やめてっ」
「やめないよ。君は私のものなんだ。クロムなんかに渡さない」
 抵抗を続けるミリエルに覆い被さったまま、アーネストは抵抗できないように両腕をテーブルの上に押さえつけた。
 驚いて目を瞠るミリエルの魔導衣に手がかかる。飾り紐をしゅるりと解くと、魔導衣の袷(あわせ)は簡単に左右へ開いた。
 ドレスの胸元から、アーネストの手が入ってくる。
 下着の上からささやかな胸を揉まれた。
 ひっ、と短い悲鳴が零れる。
「誰か! 助けて!」
 必死で温室の外へ声を張り上げるが、夜会の最中である。人手は完全に出払っている。
 アーネストはくすりと笑うと、指先でミリエルの胸の先端を軽く捻(ひね)った。
 降り注ぐ赤い花びらの中、ミリエルの肩がびくりと跳ねる。
「ん、や、あぁ……」
「本当に嫌? ……ねえ、こんなドレス、私が脱がせてあげる」
 アーネストがドレスのリボンを、見せつけるように解いていく。
 ミリエルはなすすべもなく、下着を彼の目の前に晒(さら)す羽目となってしまった。アーネストはミリエルの下着をずり上げ、その下に隠されていた肌をあらわにする。
「綺麗な肌……」
「きゃぁ……っ!」
 普段、日中のほとんどを月光庵で過ごすミリエルの肌は白い。きめ細かで、触れれば吸いつくほどだ。
 指で押せば程良い弾力が返り、アーネストはそれを楽しげに何度も繰り返した。
 異性の目の前に胸を晒してしまったことに、ミリエルは耳まで真っ赤になる。こんな明るい場所で、しかも相手はアーネストで……。
 ささやかな胸がふるふると震える。
 雄の欲望を宿した彼の目はいつもと違って、まるでミリエルを捕食しようとする獣のように見えた。
 あまりに真剣な目が、怖い。こんな顔をしたアーネストは、初めて見た。
 これも、惚れ薬のせいなの? 惚れ薬のせいで、性格まで変わってしまうものなの?
 なんにせよ、今の彼からは逃げられそうもない――いや、逃がしてくれそうもないと、ミリエルはここでようやく悟った。
「い、いや……っ、怖い……やだ、やめて……っ」
 いやいやと首を横に振るミリエルの白い肌に、アーネストはいくつも接(せっ)吻(ぷん)痕を残していった。
 鎖骨にも、首筋にも、胸元にも、腹にも――。
 それはまるで、蝶桜の花びらのような刻印だった。
 やめてほしいと何度も訴えたが、爽やかな顔の奥に確かな欲望を秘めた彼は、それをやめてくれることはなかった。
「は、ぁ……ふぅ……っ」
「ミリエル、ね、呼んで。アーネストって」
 敏感な肌を唇でなぞり、舌で舐(ねぶ)り、時折歯を立てて甘嚙みする。
 もっとしっかり嚙んでくれたら、この甘い疼きから逃れられるのだろうか。
「やだ……っ、やだぁぁぁ……っ」
「君は強情っ張りだね。もっとたくさん快楽を刻んだら、素直になってくれるのかな?」
「ひっ……」
 下着を避けたアーネストの手が、ミリエルの足の間に差し入れられる。
 自分でも、洗う時以外触れたことがないというのに、あろうことか彼は中に指を食い込ませてきたのだ。
 軽く侵入してきたその場所からくちゅり、と小さな水音が立ち、ミリエルは思わず耳を塞ぎたくなる。

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