書籍詳細
その若き皇帝は雇われ皇妃を溺愛する2
ISBNコード | 978-4-908757-70-9 |
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定価 | 1,320円(税込) |
発売日 | 2017/02/28 |
ジャンル | フェアリーキスピンク |
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電子配信書店
内容紹介
立ち読み
「あの……バッツドルフ大公夫人ですから、思い切って聞いてしまいますが……。エッカルトがお腹にいるとき、大公とは……どうされていましたか?」
シュザンナは?を染めてフローラに尋ねた。フローラは質問の意味を頭の中で分析し、理解すると?を緩めた。アルフレートは二十歳にもならない青年で、シュザンナは二十六になった女性とはいえ、長く世の中と隔絶状態にあり、夫婦は互いが何もかも初めてという間柄である。クラウスも妊婦と暮らしたのはフローラが初めてだったが、それでも年齢的に知っていることも多かったので、その辺りのことを悩んだ覚えはない。
フローラは子どもを右手で抱き直し、空いた左手で口を押さえた。
——なんて可愛いご夫婦!
フローラは赤面して俯くシュザンナに、胸を締めつけられながら、勝手に緩み続ける?に心の中で鞭(むち)をくれて耐えると、エッカルトを更に抱き直してシュザンナに自身の夫婦生活について教えた。直接的な表現は遠く避けたが、シュザンナは?を赤くしたままでそれを聞いて、聞き終わると顔を深く下に向けて「す、すみません、言いにくいことをお尋ねして……。参考になりました……」と小さく応えた。
「大事なことですわ。陛下」
「は……、はあ……」
「アルフレート陛下は大丈夫だと思いますけれど、がっちりお心を?んでおかれてくださいませ」
「……努力します」
フローラはひとつ年上の皇妃にときめいた。そして、なんでも相談に乗ろうと思ったのだった。
しばらく、夫婦生活とは無関係の話をしてから、シュザンナが部屋に戻る時刻となる。二人同時に席を立つと、フローラが皇妃に言った。
「皇妃陛下、私のことはフローラとお呼びくださいませ」
以前、ザビーネに言われたことと同じだったが、そのときに感じた印象と全く違う。今日のことで前よりも親しくなれた気がした。フローラはアルフレートが信頼する女性だ。
シュザンナが返事を迷っていると思ったのだろう。フローラは続けた。
「《バッツドルフ大公夫人》は、長すぎませんか?」
「では、私のこともシュザンナと呼んでください」
「はい、シュザンナさま」
「また、色々と聞かせてください。フローラ」
互いに頭を下げ合い、東屋で別れた。シュザンナには友人と呼べる同性の人がいなかったので、フローラがそうなってくれたらいいと思う。フローラならば、立場的にも問題はないはずだ。人柄も好ましい。
気持ちが晴れやかになった。フローラが教えてくれたことを、シュザンナはアルフレートが帰るまで頭の中に繰り返した。
その夜、バッツドルフ大公クラウスは妻に午後の様子を尋ねている。
ふふふ、と手を口にあてながらフローラは《可愛らしい皇妃陛下》について語って聞かせた。クラウスは、妻が皇妃の質問に答えたという内容を聞いて目を見開く。
「フローラ……」
「詳しくは話していませんよ」
「そういう問題ではなくて……」
甥の妻になんという話を聞かせてくれたのか。明日アルフレートにからかわれるのではないだろうか。夫の様子にフローラは?を膨らませる。
「あら、仲の良い夫婦の自慢をしたのがいけませんでした?」
「……いいや、別に」
クラウスはため息をついて、妻の手を取り抱き寄せた。
バッツドルフ大公夫人フローラからの助言を思い出すと、シュザンナは顔から火が出るほどに恥ずかしい。いや、夫人の助言が恥ずかしいのではなく、そのようなことを質問してしまった自分が恥ずかしいのだ。しかし、毎晩アルフレートがあのように悩ましげにするのを見ていられる自信もない。《どこまで許されるのか》はかなり大きな問題だったりする。
アルフレートが仕事を終えて執務室から戻る。いつも通りに食事を終えると、皇帝は皇妃に昼間叔父の妻とどのような話をしたのか興味を示した。
「女性同士の秘密でなければ聞きたいな」
アルフレートは楽しげだ。シュザンナは軽く視線を下げてから、頭の中で答える内容を選択して口にした。
「あまり目を使うことをしてはならないそうです。侍医からは特に注意されているわけではありませんが、夫人によれば、もうすぐ言われるだろうとのことでした」
「目を使う? 本を読むとか?」
「はい、後はお裁縫とか。全く駄目だということではないようですが、やりすぎてはいけないと」
アルフレートは感心したように「へえ」と言った。他にもフローラから聞いた《妊婦としての暮らし》について話すと、アルフレートは意外に普通に暮らせるものなのだという感想を持って、安心したような顔を見せた。
「それはそうか。具合が悪くないなら、普通に過ごせるんだよね。でも、無理は絶対に駄目だよ。我慢も駄目」
「はい。私ひとりのことではありませんから、何かあれば甘えます」
「うん」
幸せそうに笑うアルフレートを見ていると、シュザンナの心も幸福に満たされる。こんなにも彼のことを愛するようになるとは、十五歳のシュザンナは考えてもいなかった。いや、帝国に戻る前の二十五歳の彼女でも想像していなかった。
シュザンナを幸せにすると言うアルフレート。彼女も彼を幸せにしたい。一緒に暮らして分かるアルフレートの願いは、愛されるよりも思い切り愛情を注いでいい対象を持つことだ。彼の愛に触れても、その手を引かない相手を求めている。
シュザンナは自分がそれになれると思った。甘えて欲しいと言う年下の夫に、全てを預けたい。
「アルフレートさま」
「ん?」
「ありがとうございます。今日は本当に楽しかったのです。バッツドルフ大公夫人と、前よりも親しくなれました」
「うん、よかった。誰とでも親しくしていいよとは言ってあげられないからね。フローラなら信頼できる」
夫がくすくすと笑いながら言うのに頷いた。
休む時間になると、いつも通りに侍女が部屋の明かりを落とす。ベッドサイドに置いているランプだけが、部屋を薄く照らしていた。ベッドの側に立ったときに、シュザンナはアルフレートを呼んだ。返事をして振り返ったアルフレートは、目を見開いて妻を見る。
シュザンナは着ているものの前を開けて肩を出すと、それから手を離した。布が床に落ちる音がして、薄暗い部屋に白い裸が浮かんだ。恥じらうように手で胸と脚の間を隠す。視線を下げて、小さく震えた。
「シュザンナ……?」
「アルフレート……お願い……」
何を言えばいいのか分からなくなったシュザンナは、茫(ぼう)然(ぜん)とする夫に更に身を縮こまらせる。アルフレートは我に返って、妻の肩に手を置いた。
「おいで。身体が冷えてしまうよ」
シュザンナの身体をベッドに座らせ、彼女の肩に自分が脱いだ寝衣をかけた。シュザンナはかけられた服が落ちないように、胸の前で?む。ベッドに座る妻の前に、アルフレートは跪(ひざまず)いた。薄い陶器に触れるように、彼女の右の脹(ふくら)脛(はぎ)を両手で持ち上げる。そして、その白い脛(すね)に舌を這わせた。
「あッ……」
脚を舐めるアルフレートが艶めかしい。彼の舌は、脛を下りて足先に向かう。爪先にキスをして、指を食んだ。
「あっ、アルフレート……、そんなところを……」
青い瞳がうっとりと彼女を見上げる。形の良い唇がシュザンナの足の親指を咥えて、次いで甘く?(か)んだ。
「あ、ああっ……!」
舌の音を立てながら、アルフレートはシュザンナの足を愛する。想像もしなかった愛(あい)撫(ぶ)に、シュザンナにはゾクゾクとした感覚が全身を駆けた。皇妃の足を愛した舌は、また脛を舐める。時々歯で皮膚を甘く?み、唇で吸う。すっと息を吸いながら、脚から口を離すとアルフレートは跪いたままでシュザンナを見上げた。
「僕は、君の下僕だ」
「アルフレート……」
「どこまでなら許されるのか、僕に教えて。どうすればいいのか、僕に命じて」
そう告げると、彼はシュザンナの脚にまた口づけた。膝を食んで、腿に口づける。脚を広げさせて、敏感なところに躊躇いながら舌先で触れた。
「ああ……、アルフレート……」
「もっとしても大丈夫?」
「ん……は、い……」
アルフレートはシュザンナの脚の間に頭を埋(うず)めて、開かせたそこを唇と舌で愛した。シュザンナの甘い声がアルフレートの鼓膜を震わせる。ひくひくとし始めるシュザンナに、アルフレートは口を離した。身体を起こして、妻の両足を優しくシーツの上に上げた。体重をかけないように覆いかぶさると、額に唇をつける。
「大丈夫?」
「……はい」
「ここから……どうしたら、いい?」
深い息をしながら囁く声で尋ねられる。シュザンナはおずおずと手を自身と彼の間に入れて、下半身の方へ伸ばした。指先にアルフレートの熱を感じる。彼の先端に触れると、ピクン、と揺れた。シュザンナは熱く硬いそれに指をかけて、ゆっくりと両手で握り込む。アルフレートが小さく声を落として吐息した。
「……手で、受けてくれるの?」
耳元に囁く低く濡れる声に、シュザンナは目を固く閉じて頷いた。手にアルフレートの熱さと硬さが増すのを知る。直接触れるのは二度目だ。けれど、まだどのようにすればアルフレートに快感を覚えてもらえるのか分からない。ただ握っているだけでは駄目だと分かっているのに、そこからシュザンナの手は動けなくなった。
すると、アルフレートが腰を揺らめかせ始める。シュザンナの手の中で、彼が前後に動く。皮膚の下を、硬い肉が行き来する。
「シュザンナ……、あ……、もう……少し、強く……握って……」
◇◇◇◇◇
「待てよ、タウバッハを馬鹿にするのか!?」
「そのようなつもりはありません。ただ、国の品格を決めるのは、国民であると私は思っているだけです。カッシーラには高潔な人間もいますが、残念なことに愚か者もいます。タウバッハも同じことなのでしょう」
「……俺を愚か者と言うのか!」
「どのように思われるかは、私の知るところではありません」
オリンドの目が怒りに揺れる。
「調子に乗るなよ、ザビーネ! 大人しく言うことを聞いていれば、お前のような女でも妻の候補に入れてやろうと思っていたのに!」
ザビーネが眉を寄せてオリンドを見た。
「はあ!?」
「俺は次男だが、将来は会社の中で立場を得ることになっている。俺の家は、誰でも嫁いでこられるわけじゃない。気持ちを入れ替えるなら、チャンスをやるぞ」
ニヤニヤとしながらオリンドは言う。ザビーネは?まれている腕を解こうともがいた。
「放してください!」
「ザビーネ!」
腕を激しく振ったせいで、ザビーネの手から本を入れた荷物が落ちる。そのとき、背後から声がかけられた。
「何をしているのです。ゼーニャ」
突然現れた邪魔にオリンドが怒りの視線を向ける。振り返ったと同時に少し力が抜けた彼の手を、ザビーネが振り解いた。オリンドがそこに立っている男の名を口にする。
「フェリクス・トスト……!」
フェリクスはザビーネとオリンドの間に立った。
「いやがっているではありませんか。私とのことで、彼女を不快な目に遭わせているのならば、それはやめてください。関係ない人です」
はっきりと言われた言葉にザビーネは傷つき、彼の背中に触れる。フェリクスがザビーネを見た。
「ザビーネさん。もうすぐ講義が始まりますから、行ってください」
「関係ない? 私はフェリクスさんと関係ない人間なんですか!?」
「……ザビーネさん?」
エメラルドの瞳から涙が溢れるのを見て、フェリクスが息を止める。その様を見ていたオリンドは忌々しげに言った。
「やはり、親が犯罪者同士ってことで気が合うんだな。同病相憐れむってやつだ」
唐突に吐き出されたこの場に無関係な言葉に、フェリクスとザビーネがオリンドを見る。
「知っているんだぞ、ザビーネ。お前はカッシーラ人じゃないそうじゃないか。元々はザノフから売られた奴隷なんだろ。どうしてラインフェルト伯爵家に入ったのかも知ってるんだ。皇帝アルフレートを籠絡するために育てられたのに、あっさりそれに失敗して、情けをかけられた風で、カッシーラを追い出されたんだってな。養父ラインフェルト伯爵は皇妃への傷害未遂だかで投獄されてるって話じゃないか! あ、お前、まさか養父とおかしな関係になっていたりするのか? 男を落とすために育てられたって女だもんな。男を悦(よろこ)ばせる方法も教え込まれているんじゃないのか?」
オリンドは顔を歪ませながら叫ぶように言った。周囲では、学生たちが立ち止まって彼らに注目している。
フェリクスが目を見開き、ザビーネの身体を軽く押して離すと、オリンドに向かって拳を振り上げた。ザビーネは、フェリクスの腕を?んで彼を止める。
「いけません! フェリクスさん!」
「ザビーネさん! こいつは許せない!」
ザビーネがオリンドを見る。貿易商の次男が、軽く後ろに下がった。
「私は一度も、自分が奴隷の子であることを隠したことはないわ」
低くザビーネは言う。無表情に冷たくオリンドを見た。
「私が、どのような経緯でラインフェルト伯爵家の養女になったか、城に上がってからどうなったか、カッシーラに住んでいる者であれば誰でも知っていることよ。億の民が知っていることを、今更外国人の全員が知ったところで、私にはなんの痛(つう)痒(よう)もない。カッシーラには、養父と私の関係を疑う、あなたのような下(げ)衆(す)はいないし、私の出自が私の尊厳を傷つけたことなど一度もないわ! 私の誇りは、カッシーラ帝国皇帝、アルフレート陛下の目となり国境の外側を見て回る立場を与えていただいたことよ! 私はアルフレート陛下の臣、それ以外の何者でもない! あなたの妻の候補? 冗談ではないわ。私の夫となる者は、私の行くところならばどこにでもついてこなければならない! そして《クラインミヒェル男爵夫人の夫》と呼ばれる人生を受け入れなければならない。その覚悟を持たない者など要らないわ! 勘違いしないで。私は誰かに妻にしてもらう立場ではないのよ。私が、夫を選ぶの! あなたが私たちを同病相憐れんでいると思うのは勝手ですけど、私が親しくしたいと思っている人と親しくすることに口を挟まないで! 鬱陶しいわ!」
一気に言い切り、エメラルドの瞳が冷たく貿易商の息子を見る。背を伸ばした姿勢で、ザビーネはオリンドを見続けた。オリンドは視線を震わせながら足を一歩後ろに下げる。彼の口から何も出てこないと思ったザビーネは落とした荷物を拾い上げ、フェリクスの手首を?んで歩き出した。
「ザビーネさん!?」
「行きましょう。講義が始まります」
フェリクスの手を引いて、足音を鳴らしながら歩く。学生たちの視線が無遠慮に突き刺さってきた。後ろから、フェリクスが何度もザビーネを呼ぶが、彼女はそれに応えずに講義がある部屋まで彼を引っ張ってきた。そして、はた、と気づく。
「あ」
「ザビーネさん……」
「フェリクスさん、この教室ではないのですよね?」
「違います。あちらの棟なので……」
?まれているのとは反対の手の指で、後ろの方を差した。ザビーネは手を放すと、両手で顔を覆った。全身の血が沸騰するほど恥ずかしい。
「す、すみません!」
背中に汗が下りていくのを感じて、ザビーネはますます顔を伏せる。学生が遠巻きに彼らを見ていて、フェリクスは視線だけで周囲を見回し、そして苦笑した。
「ザビーネさん」
「すみません……」
「もしよければ、今日もアトリエにいらしてください」
静かに言われて、ザビーネは視線を上げる。二つの色の瞳が彼女を優しく見ていた。
「お待ちしています。……では」
フェリクスは軽く頭を下げてザビーネに背を向けた。ざわつく周囲の声に我に返ると、彼女は視線を上げる。強く身を翻して、教室に入った。中では彼女を好奇の目で見る学生たちが何人かいたが、ザビーネはそれを無視して、その日の講義を受け終えた。
城に戻って、彼女はアトリエに向かう。ザビーネはフェリクスを見るなり頭を下げた。
「本当に重ね重ね……。助けてくださったのに、その後、余計なことばかり……」
「ザビーネさん、謝らないでください。嬉しかったのですから」
小さく言われる言葉にザビーネは顔を上げる。
「私の方こそ、《関係ない》だなんて言ってしまって、すみませんでした。ザビーネさんがあんなに、お怒りになるとは思わなくて。もう、あのようなことは言いません」
フェリクスは言って、ザビーネにソファを勧めた。ザビーネはいつものように腰を下ろし、持ってきた本を開く。何事もなかったようにフェリクスは普段と変わらずカンバスに向かった。言葉なく、絵を描く音とページを捲る音がする。互いの呼吸の音が聞こえるような気がしていた。
いつもより少し長い時間が過ぎて、フェリクスが「今日はここまでにしましょう」と言った。ザビーネは立ち上がり、深く頭を下げる。このときには、彼女の気持ちも落ち着いていて、フェリクスに不快な思いをさせていなかったことに安堵していた。しかし、安心すると申し訳なさが増大していく。絶対に迷惑をかけたと思うのだ。彼女はドアを出る前にフェリクスの方を向いた。
「フェリクスさん、この間から本当に余計なことばかりしてすみません」
「だから、謝らないでください。何も悪いことなどされていないのですから」
「……はい」
心の中でため息を落として、ザビーネは彼に頭を下げてから背を向ける。ドアを開けようとした瞬間、アトリエの中に大きな音が響いた。フェリクスがそのドアが開くことを拒んで、両手をついた音だった。二本の腕の間で、ザビーネが驚きに目を見開く。振り返ると、フェリクスが彼女を見ていた。
「フェリクスさん?」
「駄目ですね。このまま帰さなければと思うのに……」
「え……?」
「あなたの行くところ、どこにでもついて行きたい……。あなたに、私を選んで欲しいと言ってしまいたくなる。けれど、分からないんです。あなたを愛してしまったからなのか、ここから逃げてしまいたいからなのか……。どうすればいいのか分からない」
苦しげな声だとザビーネは思う。だが、彼女の耳は確かにその言葉を拾った。
「私を、愛して?」
「そんな資格はないと、分かっているのです」
「資格がなければ、人を愛してはならないのですか? そもそも、私を好きになってくださる資格とはなんですか?」
「ザビーネさん……」
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