書籍詳細
墓守OLは先帝陛下のお側に侍る
ISBNコード | 978-4-86669-077-3 |
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定価 | 1,320円(税込) |
発売日 | 2018/02/27 |
ジャンル | フェアリーキスピュア |
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電子配信書店
内容紹介
立ち読み
序章 朝陽の射すところ
ある国で、仕事を紹介されました。
未経験オーケー、作業は簡単、その国の言葉がわからなくても大丈夫。なのに『名誉な』仕事です。ただし、怖がりな人だと大変かもしれません。
どんな仕事だと思いますか?
朝靄の残る木立の間を、私はゆっくりと登っていきました。丘の上のその場所は、石壁に囲まれ、鳴き交わす小鳥の声に包まれています。
鉄柵の門に鍵を差し込み、開きます。目の前には大理石でできた石畳の道があり、道の先には純白の建物がたたずんでいます。私はそちらに向かって深々と一礼しました。
先に右手の小屋に入り、かまどに火を熾しておいて、小屋の倉庫から箒を出し石壁の敷地内をざっと掃き清めていきます。敷地の広さは、そうですね、子どもの頃に通っていた幼稚園の園庭がこれくらいだったでしょうか。私一人でもなんとか掃除できます。
掃除の後、純白の建物の裏に回り、井戸で清らかな水を汲みます。水を入れた桶を建物の前まで運ぶ頃には朝靄が晴れ、細やかで豪華な彫刻の入った石の扉を全力で押し開くと、中にさぁっと朝の光が差し込んで祭壇を照らします。
花瓶や灯籠に囲まれた祭壇の向こうには、背もたれの高い豪華な大理石の椅子。実際には誰も座らないんですけれど、ここに眠る方の生前を偲んで、祭壇付近は真っ白な執務室のようにあつらえられています。
この建物は、霊廟なのです。
もう一度礼をしてから、祭壇の両脇にある鎧戸を開けて、風を通して。
「おい」
それから、祭壇を綺麗に拭いて。
「おい」
持ってきたお花を供えたら、中の準備は終了。おっと、香炉を用意しなくちゃ。
「おい! トーコ!」
いきなり目の前に、すっ、と男性が姿を現しました。
服装は着物に似ているけど、立襟で裾の長い——そう、モンゴルの人が着るみたいな服の上に、厚地のガウンを羽織っています。色は全て真っ白。
「おはようございます、先帝陛下。なんでしょうか、今忙しいんです」
私はさっさと霊廟を出ると、再び大理石の道をたどって小屋まで戻りました。この木造の小屋が、霊廟の管理事務所であり、私の仕事場なのです。
「この私を無視するとは、いい度胸だな」
男性は私の後についてきています。年の頃は三十歳くらい。きりっとした目元、引き結んだ口元。ちょっと怖そうだけど、男前だと思います。
事務所に入り、かまどの炭を香炉に移した私は、いったん手を止めて振り向くと言いました。
「御用があればお伺いしますけど、御用、ないでしょう? もうすぐ最初の参拝者がおいでになる時間ですから、それまでに準備を終えないと。陛下、こんな所をフラフラなさっていてよろしいんですか?」
香炉を持って霊廟に向かう私にまたもや付いてきながら、男性は偉そうにおっしゃいました。
「ふん、私には関係なかろうが。死んでいるのだからな」
男性の半分透けた身体に、私はちらりと視線をやります。
……不真面目な幽霊ですねぇ。
このお方は、ここゼフェナーン帝国の先代の皇帝陛下。この霊廟に祀られている、まさにその御本人なのです。亡くなってるけど。
あっ、高貴な方ですから『お隠れになってる』の方がいいのかしら? でも全然隠れてないですしねぇ。
祭壇に香炉を置いて事務所に戻った私は、倉庫から露台を出しました。事務所の前はテラス風になっていて、その屋根の下に露台を置き、さらにその上に香木の入った箱を置きます。お供え用の香木はそれなりに高価ですし、きちんと管理しないと。
今日最初の参拝者、かくしゃくとしたおじいさんが門を入ってくるのが見えました。私は陛下に話しかけないよう、口をつぐみます。ひとり言を言ってると思われたらイヤですからね。
そう、どういうわけか、先帝陛下は私以外の人には見えないようなのです。
「お前も幽霊なら、働かずとも良いのにな、トーコ?」
参拝者のおじいさんと礼をし合う私の横で、先帝陛下は低く笑っています。うるさいです。
私は何食わぬ顔で、おじいさんから参拝料の硬貨を受け取り、香木のかけらの入った小さな紙包みを差し出しました。そして再び、お互いに頭を下げます。やりとりはこれだけなので、こちらの言語がまだまだ不自由な私が受付でも大丈夫。
おじいさんは霊廟の方へ歩いていきます。あの香木を香炉で焚いて、参拝するのです。後ろ姿を見送り、私は手元の帳面に目を落としました。記録しておかないと。
ふうっ、とうなじの辺りを風が走り抜け、私の胸までの長さの髪を巻き上げました。
「きゃ……。もう、やめて下さい!」
髪を押さえて肩をすくめ、ささやき声で言いながら斜め上をにらむと、浮かんだまま組んだ足に手を置く先帝陛下。
「ちょっと髪をもてあそんだだけだ。色気のないことだな、女どもは私にこうされると、?を赤らめたものだぞ」
「過去の栄光を語らないで下さい!」
やれやれ。
でも、不思議なことに、私と陛下はそれぞれ別の母語を話しているのに言葉が通じます。こうして自由に話せるのは、正直、気が楽です。
……このまま穏やかにここで過ごしていけるなら、それもいいかも。故郷で幸せだったかというと、そうも言い切れませんし。
「遊びで言っているのではない」
先帝陛下は色気のある笑みを浮かべます。
「何度も言っておろう、さっさと死んでこい。『こちら側』で私の妾にしてやる」
前言撤回。早く故郷に帰りたいです。何かというと、こういうことをおっしゃるんです。
「どうして陛下とは言葉が通じちゃうのかしら」
ぶつぶつとつぶやく私の横に浮かび、先帝陛下はおっしゃいます。
「死者は、意思の伝達方法が生者とは違うのだろうな。お前が来なければ、私も知らぬことだった。面白い。生きていれば学者に研究させたものを」
でもそれ、死ななきゃわからなかったことでしょう……。
「故郷でも、死者と話をしたのか?」
陛下に聞かれ、私は即座に首を横に振りました。
「いいえ、霊感ゼロですから、私。話どころか、死者の声さえ聞いたことなかったです。本当に、どうしてこんなことに」
私は白石籐子と言いまして、正真正銘、生粋の、ごく一般的な日本人なのです。
本当に、そんな私がなぜこんな場所でこんな仕事を。いえ、仕事に不満があるわけではないんですけれど、ただ不思議で。
思い返してみても何の参考にもなりませんが、私がこのゼフェナーン帝国という所に迷い込んだのは、こちらの暦で二ヶ月ほど前のことでした……。
◇◇◇◇◇
「うわぁ……」
門の鍵を開けて中に入ったところで、私は立ち止まってしまいました。
敷地の中は、嵐が吹き荒れたような有様でした。霊廟の四隅に立っている木は枝が折れて垂れ下がり、青々とした葉がたくさん落ちています。あそこに転がっているのは、井戸で使っていた釣瓶でしょうか、桶の取っ手に引きちぎれた紐がまとわりついています。事務所の軒は一部が吹き飛び、青緑の塗装をした屋根のかけらがバラバラと地面に散らばっています。例の敷石も二、三個ひっくり返り、割れているものもありました。
「トーコ」
「ひっ」
息を吸い込んで振り返りざま飛び退くと、真後ろに陛下の半透明のお姿がありました。
何だか、瞳が変な光を湛えているように見えます。よく見ると、霊体なのに髪が乱れています。何かのイメージでしょうか。
「何があって、何日も来なかった」
いつにもまして、低い響くような声。
「は、はい、ええと」
言葉に迷っていると、陛下が視線をフッと落としました。私の手に、目を留めたようです。
「その怪我は、どうした」
「あ、あの、最初から説明します。実は強盗が出て」
「強盗、だと……?」
ふっ、と、空気が変わりました。
陛下の足元から風が巻き起こり、小石や木の葉が浮き上がります。
「金品を強奪するために、我がトーコを傷つけたと申すか……?」
風はどんどん強くなります。私は息を呑んで、辺りを見回しました。
事務所の軒先がガタガタ言い始め、やがてメキッ、と音を立てました。とうとう、石畳の一部が風に押されてズルッとずれます。
「身の程知らずが。よくも、よくもやってくれたな」
「へ、へいか?」
陛下に視線を戻すと、ピリッと小さな稲妻のような光が陛下の周囲を走りました。圧倒的な力が迫るのを感じ、私は動けません。
「待っておれ、トーコ。我をここに封じる呪いなど、今すぐ破壊してやる」
陛下は凄みのある笑みを浮かべ、ゆっくりと近づいてきました。その手が、私の?を撫でるように動きます。
「調査官の尋問など、待つまでもない。その咎人には、我が直接、罰を下してくれようぞ」
「陛下っ!」
私は必死で、叫びました。
「違います! 強盗に遭ったのは、私じゃありません!」
「怪我をしているではないか!」
「これは別口ですっ!」
……少し、陛下の瞳の色が正常に戻ってきました。
私はすかさず、説明しました。
強盗団が出て外出禁止状態になっていたこと、でもそれが狂言だったことが判明して霊廟に来られるようになったこと。怪我は人とぶつかったためであること。……?はついていません。
「うまく連絡できなくて……申し訳ありませんでした」
私は頭を下げました。
陛下はしばらく黙り込んだ後で、長い長いため息を一つ、おつきになりました。
風が収まり、辺りの空気が正常に、そして清涼になります。
「……そういうことなら、仕方ない。……本当に強盗団がいたとしたら、お前の身が危ないからな。ここには来ない方が正しい」
陛下はぼそぼそとおっしゃって、そのまま口をつぐんでしまわれました。
私の方は、胸がまだドキドキしています。私が強盗に遭ったと思われた陛下の、今の怒り——まるで嵐です。陛下を鎮めるための呪いさえ、弾き飛ばしてしまいそうでした。
もしもあのまま誤解が解けなかったら、どうなっていたでしょう。何か、違うものに変わって戻れなくなってしまうような……私の知っている陛下ではなくなってしまうような気がします。
陛下は、まるで自嘲するような笑みを浮かべて私を見ました。
「私が恐ろしくなったか? 今のお前はまるで、悪霊に取り憑かれて破滅する、怪談の主人公のようだからな」
私は、強く、首を横に振りました。
「何をおっしゃってるんですか、私のことなんてどうでもいいんです。私なんかのためにお心を乱されるなんて、恐ろしいより何より、そちらの方が心配です」
すると、陛下は——。
右腕を私の方に伸ばし、私の背中に回しました。そして、頭を少し私の方に下げ、目を閉じました。私の額と、陛下の額を、合わせるように。
どきっ、として、反射的に動きそうになってしまいましたが、私は踏みとどまってじっとしていました。お心を落ち着かせている最中なのかもしれないと思ったのです。近すぎて恥ずかしいので、私も目を閉じてしまいましたが。
……あんなにお怒りになるなんて、さすがにちょっと怖かったのですが……同時に、ちょっと嬉しい、と感じてしまうなんて。どうしてかしら?
ふわり、と風が動く感触に目を開けると、陛下が私から離れるところでした。
私も、ハッと我に返ります。
おかしなことを考えてないで、話を切り替えなくてはなりませんね! サダルメリクが割れた石や板の破片を持ってきたということは、今の怒りのその前に、陛下は嵐を起こしていたことになります。それは一体?
「あの、陛下。私が来る前に、ここを一体どうなさったんですか?」
私が両手で敷地の中を示すと、陛下はすいっと視線を斜め上にそらされました。背が高いので、回り込んで視線を合わせることができません。
「陛下? ……管理人の私に、何があったのか教えて下さい。ここを、こんな状態ではなくて、陛下にとっていつも気持ちのいい状態にしておきたいと思っている、私に」
私は目をそらさずに、陛下のおとがいの辺りを見つめました。
しばらくして、陛下はおっしゃいました。
「……嵐が来たのだ」
私は軽く眉をひそめます。
「ここ数日、とてもいいお天気でしたよね」
「しかし、ここには来たのだ」
「局地的ですね。……陛下が、風を起こされたんですね?」
陛下はギロッ、と私を横目で睨むと、きっぱりとおっしゃいました。
「私は霊体で、すでに自然の一部だ。つまり、嵐が起こったのは自然現象だ」
がくっ。なんですかそれ?
「花が三つ届けられ、三日休んだらお前が来るのかと思えば、さらに三つ。……お前が来ないと、退屈でかなわんのだ」
「退屈しのぎに嵐、ですか……」
「そこじゃない! お前がいないと」
陛下は何かおっしゃりかけて、結局拗ねたような口調で「もう良い」とそっぽを向かれます。
そんな様子を不思議に思いながらも、私はサダルメリクのために一言言わずにはいられません。
「サダルメリク、怯えた様子でしたよ? 陛下の起こした嵐、相当怖かったのだと思います。……嵐以外に何か、退屈を紛らわせられるようなもの、考えてみないといけませんね」
どうしたらいいか考えつつ、掃除用具を取りに事務所に向かいます。
「……退屈しのぎではないと言うのに……」
陛下はぶつくさおっしゃってましたが、それなら何なのかしら。もう、意外と子どもっぽいところがおありなのよね。
とにかく、陛下は私の後ろをぴったりとついてこられ、私が午後いっぱいかけて霊廟の敷地内を片づけている間、ずっと側にいらっしゃいました。
◇◇◇◇◇
「こんばんは、陛下」
いつものようにはっきりと挨拶するつもりだったのに、ささやくような声になってしまいました。昼間と同じ場所なのに——夜の闇はたやすく、私を変えてしまいます。
「トーコ」
陛下が静かに、私の名を呼びました。
自分の胸が、トクントクンと音を立てているのが聞こえます。
刹那の時間が過ぎ、陛下が意地悪そうな笑みを浮かべました。
「何か忘れ物か? 夜に私の寝所をおとなうとは、覚悟はできているのだろうな?」
いつぞや、陛下には『そう』見なす、と言われましたね。もちろん、覚えています。
私はにっこりと、笑ってみせました。
「はい。私も大人ですから」
絶句する陛下の顔を見て、私は噴き出しました。
「ふふ、驚きましたか? やった! いつも私をからかったりなさるから、今夜は仕返しに来たんです。成功、成功」
私は軽い足取りで事務所に向かうと、鍵を開けます。
「せっかくですから、火を熾しますね。カーフォ豆も持ってきましたし、それに、『清めの七日』によく焚かれるっていう香木も持ってきたんですよ」
かまどの前に屈み込み、ランタンの底板を外し、火口箱の火口を使って火を移します。すぐに火は燃え上がり、かまどの前が明るくなりました。私は懐から生豆の袋を取り出し、脇の台に置きます。
その間、陛下は黙って、私の後ろにいらっしゃったようです。ずっと視線を感じていました。
きっと陛下は、お気づきでしょう。私が単なる仕返しで、ここに来たのではないことを。
——もちろん、幽霊である陛下に、何も求めたりはしません。陛下だって、本葬を待つ身で、私の本当の気持ちを暴こうとはなさらないでしょう。優しい方ですから。
立ち上がった私が振り向くと、陛下は呆れ顔をして見せてから、私を上から下まで眺め回しておっしゃいました。
「美しいな」
私は嬉しくなって、スカートをつまんで見せました。
「似合いますか? 嬉しい」
「このように人目を引く女が、夜に一人で出歩くとは……」
「ごめんなさい。今夜で最後にしますから、許して下さいませんか?」
私は茶化すようにいいながらランタンを持ち、事務所を出ました。
今日は、灯りはランタン一つ。遠くからでも、この灯りに気づかれたくなかったのです。不審に思った誰かがやってくることで、この時間を邪魔されたくなかったのです。
霊廟を開けた私は、いったん戻って事務所で香炉に炭を入れ、また霊廟に戻りました。
そして、『清めの七日』に特に使われるという香木を焚きました。いつもよりも華やかな香りが、すーっと立ち上ります。
「この香り、一年ぶりだ」
傍らの陛下が、少し視線を上に向けます。宮殿でも焚かれていたであろう香りを、懐かしく思い出してらっしゃるのでしょう。
「いい香りですね……ジャスミンみたい」
目を閉じて、胸をその香りでいっぱいにしていると、陛下がお尋ねになります。
「何だ、それは」
「私の世界の、花の名前です。あっ、そういえば、コーヒーの花はジャスミンに似た香りがするそうですよ。こちらのカーフォもそうなのかしら」
「同じかどうかはわからんが、視察で見たことがある。白く美しい花だ。今夜のお前のようだな、カーフォ色の髪に白の上衣……カーフォの精かと思ったぞ」
……今夜の陛下は饒舌ですね。
私たちは暗がりの中、しばらくその香りを楽しんでいました。
「あの、事務所に行かれますか? カーフォ豆が」
誘ってみると、陛下は首を横に振りました。
「いい。……トーコ、来なさい」
不意に、静かな調子でおっしゃった陛下の声に、私は息を呑みました。でも、黙って陛下を見つめ、うなずきました。
陛下が、まるで私の手を取ろうというように、左の手のひらを上に向けて差し出します。
その手に自分の右手を重ねても、そこには何も感じられません。けれど、陛下と私は手を繋ぐ振りをして顔を見合わせ、笑いながら祭壇の向こう側へと回りました。
数段高くなった場所に、白い大理石の椅子が置いてあります。陛下の、執務用の椅子を模した物だと聞いています。暗い霊廟の中で、そこだけ浮き上がって見えます。
導かれるまま、段を上って椅子の傍まで行くと、陛下は私にそこを示しました。
「ここに座ることを許そう」
「えっ」
——普段なら、固辞する所です。いくらなんでも、恐れ多い。
けれど、今夜の私は大胆です。ひと味違うのです!
一つ深呼吸をすると、私は椅子に近づきました。椅子の前に立って向きを変え、一度陛下の顔を見上げます。陛下がうなずきます。
私は腰を下ろしました。いったん浅く腰かけ、それから奥にお尻をずらしてみます。
椅子は背もたれが高く、肘かけが遠く感じられるくらいゆったりした作りです。でも……。
「……固いです」
言うと、陛下の笑い声。
「大理石では、座り心地は悪いだろうな。本物の玉座は、もっと柔らかいものであったが」
「ふふ……でも、皇帝陛下の椅子に私が座るなんて。悪いことをしているみたいで、ドキドキします」
また陛下を見上げると——そこに陛下はいらっしゃいませんでした。
「陛下?」
慌ててキョロキョロすると、低い声がしました。
「側にいる」
姿は見えませんが、私のすぐ後ろ、耳元で聞こえたその声。
——一瞬、椅子に腰かけた陛下の膝の上に抱かれ、耳元でささやかれているように錯覚して、私はどぎまぎしました。
私に、こんな妄想癖があったなんて! お墓よここは、おーはーか!
「香木も良い香りだが……お前も、良い香りがする」
陛下はお構いなしに、私の匂いなど嗅いでいるようです。私は耳の横の後れ毛が気になって、撫でつけながら答えました。
「お風呂に、入ってきたので……」
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