書籍詳細
君にひと目で恋をして2 Sweet words of love
ISBNコード | 978-4-86669-245-6 |
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サイズ | 文庫本 |
定価 | 754円(税込) |
発売日 | 2019/11/15 |
レーベル | チュールキス |
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内容紹介
人物紹介
石井寿々(いしい すず)
大手航空会社JSAのグランドスタッフ。27歳。
森 石蕗(もり つわぶき)
大手航空会社JSAの最年少機長。35歳。
立ち読み
遅くなっても話があるので行くと言った通り、寿々は彼の家に向かった。
雑なバレ方はしたくなかったのに。千八子と仁田原のように、結婚します的なことを自ら言った方が良かった気がする。
ただ、あの指輪を渡すタイミングは彼らしいかもしれない。ある意味ドラマティックで、平凡とはかけ離れてしまったけれど。
周囲に言わせればフツーの寿々には起こり得ないことなのだ。
きっと、石蕗とグアムで出会った時から、ドラマは起こっていたのだろう。
彼の家に着いてインターホンを押そうとしたが、鍵を持っているので自分で開けて中に入った。
結構遅くなったけど、待っていると言った通り灯りはついていた。TVの音も聞こえてくる。リビングのドアをそっと開けてみると、彼はソファに座って足を組んだまま寝ていた。
日付はもうすでに次の日になっているし、ロサンゼルスから帰ってきたのだから疲れているのだろう。
「寝顔もイケメン……こんな素敵な人を落としたら、誰でも思うところあるよね……」
大好きな彼がカッコよすぎて本当に困る。フツーと言われたことなどを気にしていたら、きりがない。
それに寿々は、石蕗と結婚をするのだから、ちょっと何か言われてもどうでもいいこと。開き直りは必要だと思いながら、寿々は彼の隣に座った。
「フキさん?」
少し首を傾けて寝ているから、起きた時痛くならないかと寿々は彼の顔を覗き見る。
「フキさんってばカッコイイから本当に疲れ吹き飛ぶ」
頬に手を寄せると、パチッと目を開いたのを見て、手を引っ込めた。
「……寿々、来てたのか……来たんなら起こせよ」
身体を起こした彼は、もう一度目を閉じて目のあたりを両手で覆った。それから深呼吸をしたあと、眠そうな目で寿々を見る。
「もう日付変わってるし、疲れてるでしょ?」
寿々が身を屈めて目にかかっている髪の毛を軽く払うと、石蕗は何度か瞬きをした。
「こんなところでうたた寝する方が疲れる」
首を前後左右に動かすのを見て、やっぱりちょっと痛かったんだな、と彼の首に手を伸ばす。
「痛かった? 首傾げて寝てたから」
「ああ……それより、寿々、仕事お疲れ」
頭を一度ポン、とされた。自分も疲れているだろうにこの対応。
優しい人。
周囲へのバレ方はあれだったけど、この大好きな人と一緒に居られるのだから、もういっか、と思った。
「ねぇ、フキさん……指輪はさ、二人っきりの時が良かったな。ちょっと周囲の目が痛かったし」
寿々の困ったような表情に石蕗は髪を掻き上げ、肩を落としてうなずいた。
「……そうだな。確かに雑で悪かったけど、これで良かったかと思う。どちらにせよ、少しは騒がれるのは当たり前だ。俺は会社のために雑誌にも載ったしな」
そうでした、と寿々は目を瞬かせる。イケメン機長というのを前面に出しての取材だった。広報誌にもよく載っているし。最近は同期の仙川も載っているらしいけれど。
「それに、お前……周りに説明するの下手そうっていうか、千八子みたいにきちんと言えるか?」
「…………」
石蕗に指摘されると、寿々は黙り込むしかなかった。
「だから、これで良かったかな、と俺は思うんだが」
そうかな、そうかも。
寿々は下を向いて目を瞑り考える。
でも千八子は美人だし、寿々みたいなこと言われなさそう。しかし、この考えはネガティブだと頭の中で振り払った。
気を取り直してまだスプレーで固めたままの前髪に触れ、それを軽く崩す。すると石蕗はほんの少し目を細めて、眩しそうに寿々を見ていた。
「なに?」
首を傾げながら尋ねると、彼は呆れた顔をする。
「なに、って……俺はお前の彼氏から婚約者に昇格したつもりだけど、違うのか?」
婚約者というフレーズが、頭の中で何度もリフレインする。
寿々は唇を思わずキュッと引き締めた。どこか甘い響きに、顔が変になりそうで。
「寿々?」
「そっか……私、フキさんの婚約者だね」
「そう。俺とお前は近いうちに結婚する。森寿々になるって言っただろ?」
森寿々にしてくださいと自ら言った。なんだかそれはとても甘く、自分は石蕗と同じ姓になり、彼のものになるのだ。
「自分で、森寿々にしてって言ったけど、すごくヤバイ……こんな幸せでいいのかな」
両手で顔を覆いながらそう言って、大きく息を吐いて、寿々はバッグの中から青い箱を取り出す。白いリボンをかけられたそれは、有名なブランドの物だ。
「どうしてこのブランドにしたの?」
「ロサンゼルスだったから」
「え?」
カクッと肩が抜け落ちそうな返事に、寿々はむくれてしまう。
「ウソでもいいから似合いそうだったからこれにしたんだよ、とか言って欲しかったな……」
石蕗は、あのなぁ、と言って頭を掻く。
「ウソついてどうする。寿々に早く指輪をあげたかっただけだ。お前に似合うと思って買ったんだから、とにかく開けてみろよ」
なんだか石蕗の言葉に釈然としないまま、リボンを解いて箱を開ける。そこで、写真撮っておけばよかった、と思ったが、中に入っているケースを取り出し、上蓋を開けるとキラキラした可愛い指輪が収まっていた。
「わ……」
ダイヤモンドが指輪の半分を占めていた。中央の部分が一番大きくて、その両横に三つずつ丸枠に収まったダイヤモンドが並んでいる。まるでバブルみたいな形で、控えめなようで目立ち、とても綺麗だった。
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