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完璧な悪女のつもりですが、何故かカリスマ国王の愛妻にされそうです

深森ゆうか / 著
鈴ノ助 / イラスト
定価 1,320円(税込)
発売日 2021/08/27

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内容紹介

てんで慣れてないな、この偽悪女め
「君の身体が悦んでいる。この蕾も悦び始めているぞ。本当に君は敏感で可愛らしい」侯爵令嬢リイジアは、不遇な妹を守るべく“悪女”になり切り周りを威圧してきた超ド級シスコン。姉妹一緒に隣国の王妃候補として招待された際も、妹を王妃にするため“悪女”の仮面をかぶり根回しするものの、何故か国王アドルフは自分にばかり甘く囁いてきて!?「“悪女”と呼ばれる令嬢が、本当は情が深くて純粋で可愛らしい性格だと知ったら、そちらを狙いたくなるね」そんな彼に急速に惹かれ、妹への情との板挟みになったリイジアは、思い余って一夜の関係と引き換えに妹を王妃にするよう願い出る。そのまま彼に抱かれ、熱い楔が与えてくれる快楽に身を任せるのだけれど、策士なアドルフはこれで彼女を妻にするのを諦めるつもりはないらしく——?

立ち読み

   ◇悪女の条件その1 悪女は言い訳しない


「リイジア・アルテア。僕は君との婚約を破棄する」

 婚約者セルジュ・カプールから、リイジアに面と向かって婚約破棄の申し出があった。
 しかも——セルジュ本人の誕生日パーティでだ。
 当然、婚約者であるリイジアもその場にいた。
 リイジアの父と母と兄、それと異母妹のシエナも呼ばれていたので家族総出である。
 一方のカプール家の方も呆気にとられている。
 彼らにとってもセルジュの宣言は『寝耳に水』だったようだ。
 アルテア家もカプール家も、このフォートリア国の三大貴族に挙げられるほどの富豪で、また政治にも深く関わっている一族である。
 そういった繋(つな)がりで、互いに切磋琢磨(せっさたくま)しながらこの地位を築き、そして交流を深めてきた。
 そんな家に生まれたリイジアにしても、セルジュとの婚約はごく当たり前の流れであり、大貴族に属する者の責務だと割り切って接していた。
『割り切って』とはいうものの、生身の人間同士だ。
 それなりに慈しみを持ってセルジュに接していた——が、彼はそうではなかったらしい。
 でなかったら——
 突然の告白に静まりかえる会場の中、胸に挿(さ)した白(しろ)薔薇(ばら)を手に、ポカンとしたままのアルテア一家のうちの一人に歩み寄り、
「シエナ・アルテア。君を愛してしまった。意地の悪い姉の行為を僕は知っている。君はずっとそれに耐え続けていた……。でも! もう、我慢しなくていいんだ。虐(いじ)めを見て見ぬふりをしていたアルテア家から出て、カプール家にお嫁においで。カプール家には君に意地悪する小姑なんていない。だから安心して僕の胸に飛び込んで!」
 と宣言するなどという愚行を演じるはずがない——
 その笑顔には「断られるはずがない。だって、悪女の姉から離れられるのだから」という思惑がありありと現れていて、今まで見たことがないほど自信に輝いている。
 セルジュの重なる突飛な言動に招待客はいまだ固まっていて、誰も彼を止める者はいなかった。
 セルジュには周囲のこの反応も、「悪女のリイジアとの婚約破棄と、その妹を救うことに賛同している」と見えているのかもしれない。
 しかし——
 シエナは差し出された白薔薇を取ることなどせず、いつもは花のような微笑(ほほえ)みを乗せているその顔を強張(こわば)らせたまま一歩下がり、セルジュに向かってそれは美しい跪(き)礼(れい)をして求婚への返事をする。
「謹んでお断りいたします」
 と。
 初めて会場がどよめいた。ようやく時が動いたような騒々しさだ。
 断られるとは思っていなかったセルジュはワナワナと身体を震わせ、シエナに詰め寄る。
「なぜだ!? ようやく極悪なリイジアから離れることができるのに? 僕がリイジアの婚約者だったから? なら心配しなくてもいい。たった今、婚約を解消したんだ」
 抱きつく勢いで問いかけられたシエナはセルジュから離れ、自分の異母兄の背中に回った。
「シエナ!?」
 なおも彼女に近づこうとするセルジュの前に、立ちはだかった女性がいた。
 腰まであるガーネット色の髪を黒真珠で飾り、赤と黒を基調にした艶(つや)やかなドレスを纏う令嬢。
 瞳はシエナと同じ緑色だが、目尻が少々つり上がり気味な上に目力があるせいで、柔らかな輝きを放つシエナとは異なる雰囲気を醸(かも)し出している。
 美麗な顔立ちだが、『キツい』『傲慢』という言葉が似合う女性だ。
 セルジュは目の前に現れた、というか傍らにいたのにまるっきり無視していたその女性を睨み付ける。
 だが彼女は引き下がらない。それどころか、顎を上げ、彼を見下ろすような視線を向けた。
「セルジュ様、婚約破棄についてわたくしは、まだ『はい』とも『いいえ』とも答えていなくてよ。勝手に婚約破棄宣言をして、それで決定したと思わないでくださる?」
「リイジア……! そこをどくんだ! 僕はもう君の顔など見たくない! ずっと我慢していたんだ! 妹を虐め抜く、その性根! 僕の生涯の伴侶に相応(ふさわ)しくない! ……先にシエナに会っていたら、絶対に彼女を選んでいた! 出会う順番を間違えたのだ!」
「『先にシエナに会っていたら』とか『出会う順番を間違えた』などと仰(おっしゃ)いますが、シエナが我がアルテア家に来たのは、わたくしとセルジュ様の婚約が調(ととの)ったあとなのですから、できるわけがないでしょう? それにこの婚約は家同士で決めたこと。わたくしたちの意思で決めたわけじゃない。ですから、貴方(あなた)が『シエナがいい』と仰っても、勝手に変えることなどできないのよ? おわかり?」
 言い聞かせるように言ってリイジアは扇で仰ぎ、呆(あき)れた顔をする。
「ああ、そうだ! だからこそ、ここで婚約を調え直すんだ!」
「……わたくしの話、最初から最後まできちんと聞いておられました? 聞いていたら、そんな言葉なんて出ないはずですけれど?」
「僕はカプール家の子息だ! どうにでもなる! シエナ!」
 リイジア越しに呼ぶセルジュに、シエナは「先ほどのお返事の通りです」と首を横に振って異母兄の腕を掴む。
「お兄様、シエナを連れて先にお帰りになって。そのように無駄に庇護欲を駆り立てる者がうろついていては、進む話も進みませんわ」
「わかった、シエナ。帰るぞ」
 リイジアの兄は頷くと、シエナの肩を抱き玄関へ向かった。
「行くな、シエナ! 腹違いとはいえ、血の繋がった妹を虐(しいた)げる姉など僕はもう許せない! もちろん、それを容認するアルテア家の者たちだって同じだ!」
 二人を追いかけようとするセルジュに、リイジアはさりげなく足を出して引っかけた。
 彼は「うわぁ!?」と声を上げ、哀れにも転んでしまう。
 盛大にぶつけた鼻を押さえながら立ち上がったセルジュは、リイジアに詰め寄る。
「リイジア……! き、貴様……!」
「粗忽者(そこつもの)の異母妹ですが、ものの礼儀はわきまえておりますの。本妻の娘である私を罵(ののし)っただけでは飽き足らず家族にまで暴言を吐くような、そんな者の求婚など受け入れるはずがございません」
「この……っ!」
 リイジアに向かってセルジュが手を上げた瞬間——カプール家の護衛が彼を羽交い締めにする。
 そこでようやくカプール侯爵、つまりセルジュの生みの親が前に進み出た。
「セルジュ! なんということを! こんな公(おおやけ)の場で話すことではないだろうが!」
「だ、だけど、仕方ないじゃないか! 父様も母様も僕の婚約破棄に反対したんだから!」
「当たり前だろうが! リイジア嬢が異母妹のシエナを虐げてるだと? よく見てから物事を言え! あれは虐めじゃない! リイジア嬢なりに可愛(かわい)がっているのだ!」
「嘘だ! 昔からシエラの人形やアクセサリーを壊したり、ことあるごとに嫌みを言ったり! どうしてあれを見て可愛がっていると言えるんだ!」
 セルジュの台詞(せりふ)に周囲から「そうよね」「リイジア様は、母親が違うのが気に入らないのよね」「シエナ様を虐めているところを見たことがあるわ」なんて声が聞こえ出す。
 本人たちはヒソヒソと話しているつもりなのだろうが、丸聞こえである。
 ——パン!
 と、わざと大きな音を出し扇を閉じたのは、リイジアだ。
 また会場が静まり、皆の視線はリイジアに注がれた。
「……さて、セルジュ様。婚約破棄について返事をいたしましょう」
「リ、リイジア! 待って、今のは忘れて! セルジュには後日謝罪に行かせますから!」
 幼い頃からリイジアを知っているセルジュの母親が半泣きで乞う。頭の緩い息子に成長してご両親も気の毒に、とは思うが、仕方ない。製造元でなんとかしてもらうしかない。
 リイジアは、また扇を広げるとセルジュに微笑む。

「婚約破棄、喜んでお受けいたします」

【悪女の条件1】悪女は言い訳しない。
※理不尽な喧嘩をふっかけられたら華麗に切り捨てるべし。
?



   ◇悪女の条件2 悪女は常に計算高く前向き


 リイジアは帰りの馬車の中で先ほどの出来事を思い出し、ニンマリとしていた。
 もちろん、お付きの侍女であるアリーが同乗しているので、扇で口元を隠してだ。
 ここ一年、結婚話を詰めていく中で、セルジュの様子がおかしいことには気づいていた。
 挙式はどこの教会でとか、披露宴はどちらの屋敷で行うか、とか招待客の選別とかを相談すると、大した理由もなく『リイジアに任せる』だった。
 しかもやたらとアルテア家を訪問したがり、『シエナもぜひ同席を』と誘う。
 リイジアのことなど目に入っていないとばかりに、異母妹だけと話していた。
 あまりに彼女を構うので咎(とが)めれば、『義理とはいえ妹になるのだから、親しくして何が悪い』とか『嫉妬か? 君の妹だぞ? まさかとは思うが、僕が帰った後に嫌がらせなどするなよ?』などと言う始末。
 察したシエナがセルジュの訪問する日は家を空けるようにすると、屋敷に着くなり『用事を思い出した』とさっさと帰る始末。
(つい最近ではシエナが家にいないとわかると、あからさまに機嫌が悪くなっていたわぁ……)
 こうなるとリイジアの方も、微(かす)かにあった情が消えてしまうのも致し方ない。
 そもそもリイジアもセルジュも、家同士の結婚という縛りを理解した上で、清らかな付き合いをしていたため、恋人同士という感覚はあまりない。
 そんな中、実家に引き取った異母妹をいびる婚約者の姿を度々見てしまったら、セルジュとしてもリイジアに幻滅し、同時に虐めに耐える可憐な花の方に惹かれてしまうのもわかる。
 けれど婚約解消を宣言するのなら、時と場所を考えてほしかった。いや、考えるのが当然だろう。
(まぁ久しぶりにシエナの美しさを見たら、気持ちが逸(はや)るのもわかるわ……すごくわかるわ! でもね、見た目は『妖精のお姫様』、中身は『天使』の妹が、姉の婚約者に靡(なび)くことはないのよ。あの子の性格を把握していないセルジュに、シエナを任せることなんてできないわ)
 ふふ、とリイジアはほくそ笑む。
(……まあ、それもこれも私の悪女っぷりが板についているということよね)
 セルジュの『この悪女!』と自分を蔑(さげす)む表情。
『あの悪女では婚約破棄も仕方ない』『いくら腹違いとはいえあれほど妹を虐げているせいで、性格の悪さが露見しているし』という周囲の評価。
(長年の私の苦労が報われた瞬間だったわ)
 ——悪女となって異母妹を虐め抜き、周囲からの同情を彼女に集め、貴族の仲間入りをさせる。
 それはシエナと初めて会った際に決意したことだった。


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