書籍詳細
魔法学校のぼっちで変人なクラスメイトから結婚を申し込まれた優等生の話
定価 | 1,320円(税込) |
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発売日 | 2023/12/22 |
電子配信書店
内容紹介
立ち読み
プロローグ
(どうしてこうなったのかしら)
ベッドに座って頬杖をつきながらヘレンは心の中で呟(つぶや)いた。
視線を動かして、本や道具があふれて足の踏み場もない、雑多な一人部屋を眺める。
今いるのは魔法学校の男子寮の一室だ。本来なら女子であるヘレンが立ち入るべきところではないが……まぁ、それはそれとして。
部屋の主はいない。もう日付が変わるくらいの時間だというのに。
(勇んでやってきた私が馬鹿みたいじゃない……)
ヘレンはフードまですっぽりと被ったローブの下をのぞいた。着ているのは胸元に切り替えがある薄手の白の寝衣……自分の持っている中では一番それっぽい服だ。
「……」
待っている時間が落ち着かず、三つ編みにして前に垂らしている腰までの長さの金髪を、解いてもう一度編み直す。
それを何度も繰り返していると。
「————え」
ふいに人の声が聞こえ、バサバサと本や紙が落ちる音がした。
そちらを見ると、部屋の入口にボサボサの黒髪の青年が立っていた。目元が隠れるほど長い前髪をしている彼の口は、ぽかんと開いている。
「お邪魔してるわよ、デリック」
彼のベッドに座っているヘレンは片方の手を上げた。
「カ、カカカカカークランドさん!? なんでここに……っ」
自分の声にはっとしたように、彼が扉を閉めた。
男子寮の端にある一人部屋は他の部屋から離れているが、ここに女子がいることを知られたら確かに少しまずい。
立ち上がって、挙動不審なデリックに近づいた。
普段は猫背気味で気づかなかったが、彼は意外と背が高い。対面するとヘレンの頭がちょうど胸の位置になる。その彼のシャツにもローブにも何かの液体が飛び散っていた。一部のシミが動いているところを見ると、これはスライムの残骸だろうか。
視線を上げたヘレンはデリックに、にっこり微笑んだ。
「ヘレンでいいわよ。なんでって、これからは婚約者でしょ。あなたを何と呼べばいいのかしら。デリック様? それとも旦那様?」
「……だ、……ん、んん」
デリックの顔が耳まで真っ赤になった。
(……先が思いやられる)
唾を飲んで咽(む)せたのか、苦しそうに咳をする彼からヘレンはそっと視線を外した。
これが、世界の魔法技術を二百年進ませたといわれる天才であり——今日からヘレンの婚約者だというのだから。
ヘレンの生まれたルクオール王国は、純度の高い魔石が採掘されることで有名だ。
国土のほとんどは山岳地帯で主な産業は魔石とその加工品の産出や輸出、それに伴う魔法技術の研究や特許取得で成り立っていた。そのため国は優秀な魔法使いを育成するために学校を設立して、世界中から学生を受け入れている。
伯爵家令嬢で十七才のヘレンと目の前の青年は、王立魔法学校の同級生。
彼はヘレンより二才年上だが、入学年齢は十五〜十七才まで認められているから、これくらいの差は珍しいことではない。
名前はデリック・ラス。
長い前髪のせいで他人と目を合わせて話すことはなく、服装や外見にこだわりもなく、食生活も適当、生活力皆無。自分のことを話さないので、ヘレンは彼の名前と年齢、他国の人間だということ以外知らない。
そんな相手となぜ婚約したのか。それは親のいいつけで学校を中退して結婚させられるはずだったヘレンに、デリックが提案したからだった。
このまま学校で勉強を続けられるようにする代わりに、身体の関係を含めて婚約者として振る舞って欲しい、と。
だからこれは恋とか愛とかではなく契約だ。一年後、魔法学校を卒業するヘレンが一人で生きていくための、期限つきの。
ヘレンはぎゅっとローブの胸元を握った。
「……シャワー」
「え?」
「するから、シャワー、浴びてきて!」
でも、さすがにスライムをくっつけた男と肌を合わせるのは嫌だ。
「は、え!?」
「しないの!?」
「っしたいです!」
デリックが叫んで、部屋備えつけのシャワー室に飛び込んだ。
その背中を見送って息を吐いたヘレンは、先ほどデリックが落とした本やレポートに手をかざした。
(勢いに任せてすごいことを言ってしまったような……)
相手のあまりの鈍さに口が滑った。真っ赤になった頬を膨らませつつ、指にはめている指輪に魔力をこめる。すぐに床にあるそれらがふわりと浮いて、ヘレンの手に勝手に収まった。
ふと、その論文のタイトルが目にとまった。
「魔術による自動知能……?」
すでに読み終わっているらしく、部屋の汚さとは打って変わって綺麗な字で書かれたメモが挟んであった。デリックがまだシャワーを浴びているのを確認して要項に目を通す。
「お、お待たせ!」
だが一枚目を読み終えたところで慌ただしくデリックが戻ってきてしまった。
びしょ濡れのままタオルを首にかけた彼が近づく。その、雨に濡れたうさぎのような様子を見て、ヘレンは持っていた書類を机の上に置いた。首のタオルを取って、滴を垂らす黒髪を拭う。
「そんなに急がなくても逃げないわ」
「そ……、うん」
長い前髪の隙間からうかがうように、彼の紫色の瞳がのぞいていた。
「本当にいいの……?」
「だって、そういう約束でしょ」
大きな手が、髪を拭いていたヘレンの手を取った。壊れものを扱うような動作で、デリックはその手のひらに自分の頬をすり寄せる。目を閉じた彼は、はぁ、と熱い息を吐いた。
(男性の股間についているあれを入れるのよね?)
そちらの知識も予習している。
友人のアンリエッタ曰(いわ)く、ちゃんと準備すればお互いに気持ちがいいと。
ちらりと、今まで意識したこともないデリックのそこに目をやって……。
「……っ!?」
ヘレンは愕然とした。見たこともない大きさのモノが、ズボンを押し上げていたからだ。
(で、でででも、確かに本では)
借りた恋愛小説では、みんな気持ちよさそうにしていて。
「ひぇっ」
急に抱き上げられて変な声が出た。思わず首に手を回せば、肩幅が広くがっちりしている彼の身体が近くなる。いつ鍛えているのかそれなりに筋肉もついていた。
重さを感じさせない様子でヘレンを抱いたまま、デリックはベッドに手をついた。彼が指輪の魔石を光らせながらベッドを撫でると、いつ交換したのかわからないシーツと毛布が洗濯したてのようにピカピカになった。
「別に構わないのに」
「……俺が、構う」
綺麗にしたそこに下ろされ、デリックが上から覆いかぶさる。
「……ヘレン、抱く、よ」
初めての名前呼びと恐る恐るの問いかけに小さくうなずくと、彼はヘレンの着ている長いローブの前を開けた。薄い寝衣越しに、ヘレンの身体がデリックの前に晒(さら)される。ごくりと、彼が唾を飲み込む音が聞こえた。
行き場のないヘレンの手をベッドに押さえつけ、デリックの舌が首元を這った。
「っん」
獣のような荒い息が皮膚にかかって、ヘレンはぞわりと鳥肌を立てた。
嫌というわけではない。……本当に嫌なら、条件を提示された時点で断っている。
「ん、んん……」
デリックの体温は子どものように高いのだろうか、触れる肌も舌も熱い。首元に顔を埋めたまま、彼の手がゆっくりと形を確かめるようにふくらみをなぞり——胸元の寝衣をずらしてヘレンの胸を外気に触れさせた。
「……」
ふるんと白い乳房が晒される。平均よりかなり大きいそれは、ヘレンにとってはコンプレックスだ。
「あ、あまりまじまじ見ないで……、ひっ」
ヘレンの見ている前で大きく口を開けた彼が、乳(にゅう)暈(うん)ごとぱくりとそれを食べた。
「っ、ぁ」
思い切り吸われ、舌で先端を撫でられて身体が跳ねる。
より強い刺激にヘレンが喘(あえ)ぐ間にも、デリックの手が胸を下から掴んで形を変えるほど揉む。
(む、胸フェチなの!?)
「ふぁ……っんん、ん」
強く吸われて、ジンジンと痛みを感じるほど。デリックは片方に吸いつきながらもう一方も揉みしだき、指先で先端を押しつぶした。
「や、っ、胸……ばっかり……」
「……おいしい」
胸元に顔を埋めたデリックが熱に浮かされたように呟く。その間も胸への愛撫はそのままで、ぞわぞわと腰に変な感覚が溜まってきた。
「あ、……っあ」
ちゅ、と先を吸ったデリックがふいに顔を上げた。
長い前髪の向こうにわずかに見える瞳は焦点を結んでいない。
(——え?)
目が合った途端に身体の熱が上がる。
「ぁ、なに、……」
浅い息を繰り返しながらヘレンは混乱した。
先ほどまでと比べて明らかに身体がおかしい。ベッドから逃げようとしたところで腰を掴まれて引き戻された。デリックに触れられるところが敏感になって、力が入らない。
「どこが、気持ちいい?」
胸をいじりながら耳元でささやく声はいつもより低い。そのまま耳を食(は)まれて、ヘレンはびくんと縮こまった。
「わ、かんない……」
ふるふると首を振る。
「そっか……ヘレンは初めてだもんね」
「あ、ん……んぅ」
やけに嬉しそうな相手の様子に、あなたもでしょと言いたかったのに言葉が出てこなかった。
「デリッ、ク、待っ、なんか、へん……」
ろれつが回らず、耳を舌で舐められるだけで目の前がチカチカした。ヘレンの声は聞こえていないらしく、返事がないまま荒い息遣いだけが聞こえてくる。
「や、っん、んぅ……っ————」
デリックにのしかかられたまま、ヘレンの身体が勝手に震える。ガクガクと腰が動いて、ヘレンは目の前の身体に縋(すが)りついた。
「……っは、……ぁ……」
息を止めていた間の酸素を取り込む。
「今、の……?」
まだ熱は引かない。顔を上げたところで、デリックの手がするりと下着の中に潜り込んだ。
指が固く閉じた割れ目を這(は)う。意外にも優しい手つきのそれがやがて中に入った。
「っん」
「熱くて柔らかくて気持ちいい……」
「や……ゆっく、り」
性急に潜り込む指を、ヘレンの身体は易々と受け入れた。自分でも分かるくらい蜜があふれ出している。
「なんで、………ん」
指の腹がゆっくりと入口近くを往復する。たまに蕾(つぼみ)を手のひらがこすり、身体を震わせるとそこを執拗に押し潰された。
「あ、……っあ」
先ほどの感覚がまた奥に溜まってくる。卑(ひ)猥(わい)な水音を立てる自分の身体に戸惑いながら、ヘレンは快さに身悶えた。そして、長い指がお腹の裏のある部分を擦ったところで。
「っ、や、ぁ……っひぁ、そこ、だめ……」
違和感のほうが強かったのに、違う感覚が混じりはじめて腰が跳ねる。執拗にそこを何度も擦られる度に、背中に電気のような痺れが走った。
「だめ、いや……っ、や、でりっく、っぁ……あ————」
またあの感覚が襲ってきて、抗えずに声を震わせる。胸への愛撫まで再開されてヘレンは背中を反らした。その間も指は探り当てた弱いところを執拗に責め立てる。
「っ抜い、いや、……ぁ」
指を中にくわえたまま何度もそれを締めつけるヘレンを、デリックが抱きしめた。
やがて指が抜かれた入り口に熱くて硬いものが押しつけられ、目を開ければ、ズボンの前をくつろげたデリックが腰を揺らしていた。
「あ、っん……、ん」
ニチャニチャと先ほどよりも大きな水音が部屋に響いていた。閉じられた割れ目をなぞるように熱杭が触れる。
濡れているそこをこすり合わせるのは——気持ちがいい。
初めてなのにはしたない自分が恥ずかしくて、ベッドに押さえつけられたヘレンは震える足でシーツを蹴った。
「……ごめ、ん、も……限界」
デリックが荒い息を吐いたところで、指一本でもきつかった中に桁違いの質量のものが入ってくる。腰を掴まれて入ってくる圧迫感に、ヘレンは目の前が真っ白になった。
「……っ……おねが、……待っ……」
「……ヘレンが、本当に俺の、下で……っうれしい、かわいい、かわいいかわいいかわいい……!」
「ひっ」
デリックが呪文のように呟く言葉にぞっとする。逆光で表情はわからないが、先ほど見えた焦点を結んでいない目とともに、日頃から飛んでいる頭のネジがさらにいくつも吹き飛んだのではという恐怖が生じた。
「話、聞い……っほんと、に……っ」
さらに屹(きつ)立(りつ)が奥へと侵入する。
「ん、ん……っん」
思ったより痛みはないが、ぎゅうぎゅうに押し広げられて苦しい。ぐちゃぐちゃに解けた髪を肌に貼りつけたヘレンはシーツを掴んだ。着たままの寝衣が邪魔だが、頭に熱がのぼっていて思考が働いてくれない。
「……痛みは?」
デリックがヘレンの髪に口づけながら、もう力の入らないヘレンの足を掴んだ。
「へい、き……」
「よかった」
そこで、彼は一気に腰を打ちつけた。
中で何かがちぎれたような感覚と同時に、さらに二人の距離が近くなる。抱きしめられたまま揺さぶられて、破(は)瓜(か)の痛みはすぐに遠ざかった。
「ん、んぁ、あっぁ……っ」
「っは、ぁ、……は、っく」
二人の声と水音が部屋に満ちる。一番奥深くまで腰を打ちつけられる度にヘレンは声を震わせた。
熱杭が何度も中を擦りあげる。半ばまで抜いては奥まで隘(あい)路(ろ)をこじあける動きに耐えられず、ヘレンは何度も小さな頂きを越した。
「や、いって、る……待っ、ん」
「っごめ、……気持ち、よすぎて、腰が」
「ひぅ、っまた……あ」
もう入らないというところまで熱を打ち込まれた。下生え同士がこすれて、ランプの光で卑猥にそこが濡れている様子が見えた。
「おく、くるし……っ、ん、んん」
「ヘレン、ヘレン……!」
何度も名前を呼びながら中に打ち込まれて——。
「あ、あぁ、っまた、だめ、ぇ、……っ」
目の前に星が散る。我慢もできずに達して、中のものを思い切り締めつけた。
「っ、ぐ、……ぅ」
自分でもどうしようもない痙(けい)攣(れん)の間にデリックの熱が震える。奥に熱い飛沫を感じて、またヘレンの身体が跳ねた。
「っは……ぁ……」
まだガクガクと震えるヘレンから彼が身体を引いた。大きな杭が抜けていく感覚にも反応してしまい、こぼれた粘着質な白い液体が乙女の印とともにヘレンの太ももを伝う。
(終わ、り……?)
わずかに開けた目に彼の薄い唇が見えた。
(なんで、……キス、しないんだろう)
熱に浮かされながらヘレンは手を伸ばした。デリックの首の後ろに手を置いてぐっと近づけようとすると、思わぬ強さで阻止される。
「?」
「……それは、いいから」
回した手を取られて、またベッドに縫いつけられた。
「いい……?」
聞き返そうとしたところで、違和感に気づく。
「——え」
一度抜かれた熱杭がまた硬くなっていて。再び動き出したデリックにヘレンは目を見開いた。
まさか。
「っあ、ぅ……ん、……っも、むり……やぁっ、あ……」
「あと、一回」
「そんなっ、だめ、ぇ」
「一回だけだから……」
そうなだめられながら結局いろんな体勢で揺さぶられて、三回を数える前にヘレンは気を失った。
『いいわね、ヘレン。学校では羽目を外さないように。全く、女が魔力をひけらかすなんてただでさえ恥ずかしいのに……王立魔法学校なんて』
机の上にある合格通知を継母が指で叩く。伯爵家の居間で低いテーブル越しにかけられる言葉に、ソファに座るヘレンはうなずいた。
『はい、わかっています』
『こんなことさえなければ、お前の縁談を早く進めてあげられたのよ!?』
『仕方がないだろう、あの学長から直々に説得されては』
爪を噛む継母を父がなだめる。
『そうよね……ここで断ったらどんな噂が立つかわかったものじゃない』
ヘレンはそんな両親の話を聞き流した。
魔法学校の合格は、花嫁修業をこなしながら、ほとんど寝ずに勉強した結果だった。文字通り夢への第一歩であり、この家から逃れる唯一の手段。
『本当に、全て無償なのね?』
『はい』
魔法学校への入学は、十二才頃に行われる魔力検査の結果と入学前の学力検査によって判断される。国のほとんどの者が魔力を有するが、その量には差があって、学費その他全てを公費でまかなう王立学校に入るには一定ライン以上の魔力適性が必要だ。幸いヘレンは辛うじてそれを越していた。
『学校に通わせていただけること、感謝しています』
立ち上がって、鞄一つを持ってぺこりと頭を下げた。
『そろそろ行きます』
『まったく、かわいげのない子ね。それが親に対する態度なの!?』
扉を閉める直前にそんな声が背中に浴びせられる。
それは入学する前日のこと。
数少ない使用人にも挨拶をして、ヘレンはひとり、十五年過ごした伯爵家を出た。
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