書籍詳細
オメガ令嬢の危険な番 インテリヤクザは純愛から逃げられない
定価 | 1,320円(税込) |
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発売日 | 2024/02/22 |
電子配信書店
内容紹介
立ち読み
◆1
もう二度と、お見合いなんてしないんだから。
今年の桜も見頃となった、そんな春の日——穂花(ほのか)は心で固く誓いながら、目の前に座る男から目線を外した。
曾祖母の代から受け継がれた振袖は、正絹(しょうけん)京(きょう)友禅(ゆうぜん)の雲(くも)取(どり)花(はな)文様(もんよう)。深紅の地に色とりどりの花が描かれている。古い着物だが、華やかで品があった。
それをきっちりと着せられ、この見合いの場に駆り出されている。
(そもそも、この着物、本当に私に似合ってる……?)
着つけてくれた家政婦や母は「とってもよく似合ってる」と言ってくれたけれど、本当にそうだろうか。
自分で言うのもなんだが、穂花は見た目がふわふわな、綿菓子系童顔女子だ。もっとこう、ピンク地の可愛(かわい)らしい着物が似合う気がする。
重厚感と高級感あふれる着物では、完全に中身が負けているのだ。それはもう、けちょんけちょんのボッコボコに負けていると断言できる。
東京の有名な料亭の一室——障子の向こう側には、わびさびを詰め込んだような苔庭(こけにわ)が広がっている。
このシチュエーションは、おそらく相手側の親がコッテコテの『ザ・お見合い』を想定して、張り切って設(しつら)えたものだろう。
それはそれですごいし素敵だと思う——但(ただ)し、自分さえこの見合いに乗り気であれば。
穂花にとって、この縁談は完全に義理だ。一ミリも乗り気ではない。見合い写真を見た瞬間そう感じた……いや、正しくは何も感じなかったし、実際に本人を目の前にしても、心は動かなかった。
「結城(ゆうき)家のご令嬢が、こんなに可愛らしい方だったとは。今日、こうしてお目にかかれて光栄です」
相手は爽やかにそう言うけれど。彼から受ける感情は、どこかドロリとしている。
有名企業の御曹司だ。兄ほどではないがイケメンでもある。経歴も申し分ない。それになにより——プラチナアルファだ。
旧財閥・結城家の当主にして大企業・結城ホールディングス社長の娘からすれば、この上ない好条件の相手だし、普通なら断らない。しかし穂花の中では、会った瞬間に断ることが決定した。
理由は二つある。
この相手から、穂花への好意を感じないのだ。正確に言えば、好意自体は存在する。ただそれには、『打算』と『腹黒さ』がべとべとに塗り込められていた。
資産家のお見合い結婚には、少なからず打算や利害が介在していることは、穂花にも理解できる。
しかし穂花の家は、政略結婚をしなくてはならないような家ではないし、両親からも好きな人と結婚するといいと言われている。
本来なら、こんな見合いなんて受ける必要もないのだ。
とはいえ、両親にもつきあいというものがあり、知人から頼まれれば、本人に話を通さないわけにはいかず。
「会うだけでもいいから」
なんて頼まれれば、本当に会うだけならと、見合いに臨んだりもする。一応大人だから。
これまで三度の見合いを経験しているが、どの相手も穂花自身を見てくれているとは思えなかった。自分だってそうなのだから、あまり人のことは言えないのだけれど。
でも、相手がこちらをどう思っているのか、穂花には手に取るように分かる。推測などではなくて、実際にそうなのだ。
(足下が重い……)
あまりにも不純なものを孕(はら)んだ好意を向けられると、どうにもこうにも足が重いように感じてしまう。
今まさに、正座の膝の上に大きな石を載せられた気分になっていた。
もう一つの理由は——この見合い相手は、穂花の運命の相手ではないこと。
だから絶対に、この相手とは結婚することはないと断言できる。
「今回の人も……違ってた」
運命じゃなかった——帰宅して着物を脱ぎ、ホッと一息ついたところで、穂花はぽつりと呟いた。
結城穂花の見合いは、毎回速攻で終わる。
今回も見合い相手と別れるや否や、父親に連絡して断ってもらうよう伝えた。
結婚願望がまったくないわけではない。好きな相手がいれば、一生一緒にいたいという願望くらいは持ち合わせている。
ただ、見つからないだけなのだ——運命のひとが。
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