書籍詳細
絶倫閣下の花嫁教育
定価 | 1,320円(税込) |
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発売日 | 2024/12/20 |
電子配信書店
内容紹介
立ち読み
プロローグ
「っ、あ……っ、は……ぁ」
ぐちゅぐちゅと淫らに濡れた音が、鼓膜を揺らす。
細い腰をしっかりと掴まれ、背後から蜜洞を貫かれているクロエは、途切れ途切れに掠れた嬌声を漏らしながらシーツをぎゅっと握り締めた。
しっとりと濡れた肌同士がぶつかる時特有の湿った打(ちょう)擲(ちゃく)音がするたびに、重い愉悦が胎の底から湧き上がってきて視界が霞む。
ふんわりと波打つ赤い髪を揺らし、クロエはシーツに額を擦りつけてその快感に耐えようとした。
だが、既に何度も高みへと押し上げられ、悦楽を極めた身体は思うようにはならない。
きゅんと蜜洞が収(しゅう)斂(れん)し、中のものを締め付ける。そうすると、ぞりぞりと中を擦り立てる熱い肉槍の感触をより深く感じてしまい、身体がぶるりと大きく震えた。
「あ、あぅ……っ、だめぇ……っ、アルベルト、さまぁ……っ」
クロエが弱々しく懇願すると、腰を掴む男の手に力がこもった。決して離すものかと主張するかのように、柔らかな身体に彼の筋くれ立った長い指先が食い込む。
「だめでは、ないだろう……っ、こういう時の『だめ』は……もっとしてほしい、という意味だ」
「っ、ちが、あ、ああっ……!」
そんなこと、一体どこの誰が言っていたのだ。脳裏をちらりと掠めた疑問は、だが彼の動きに翻弄されて霧散する。
素直にそう言えばいい――そう呟く声と同時に、ぐちゅん、とひときわ強く逞(たくま)しいものを突き入れた男は、腰を回すようにしてクロエの胎の奥をぐりぐりと刺激した。
途端に、堪えきれない甘い痺れが体内を駆け巡り、クロエの背がぐっとしなる。
胎の奥がまるで咀嚼するかのようにうごめき、彼のものへとしゃぶりついた。
「ぅあ、あ、ああっ……!」
ぱちぱちと、目の前で火花が散る。がくがくと身体が震え、背筋から頭のてっぺんへぞくぞくとした感覚が走り抜けた。
「……っ、クロエ……っ」
小さく息を詰めた男は、囁くように彼女の名を呼ぶと動きを止め、その細い身体を背後から抱きしめた。胎内で彼のものがびくびくと脈打ち、熱いものが吐き出されるのがはっきりと感じられる。
――これで、今日は終わり……かしら……。
熱杭が引き抜かれ、くったりと力の抜けた身体をシーツに預け、クロエは背後からのしかかる男をちらりと振り返った。
そうすると、薄青の瞳が様子を窺うように、じっとこちらを見つめているのと視線が合う。
まだ身体に腕を回したままの男は、クロエの視線に気が付くと軽く身(み)動(じろ)ぎをした。彼の長い銀の髪が滑り落ちてきて、クロエの肌を擽(くすぐ)る。
そのむずがゆさに身をくねらせると、男の腕に力がこもった。
「クロエ……」
艶めいた声に耳元で囁かれ、クロエの身体がぴくりと跳ねる。
男の名は、アルベルト・フォン・シュヴァルツァー。このクローデン王国の公爵にして宰相を務める人物だ。
そして、クロエにとってはまだ結婚したばかりの夫でもある。
文官らしく、すらりと細い身体。銀糸の長い髪を普段はポニーテールにまとめており、銀縁の眼鏡の奥には薄青の瞳が覗いている。
一見、どこか冷たそうな印象を他者に与える青年だ。
だが、今の彼を見たら、とてもそうは思えないだろう。
クロエを見つめる彼の瞳は、熱を孕んで潤んでいる。耳を掠める吐息も、触れている肌もまたその瞳同様に熱く、クロエの心をざわめかせた。
その熱に浮かされるように、クロエの唇から掠れた声が漏れる。
「アルベルト、さま……」
名前を呼ぶと、彼はうっすらと口元に笑みを浮かべ、再びクロエの身体をまさぐりはじめた。
下腹をゆっくりと撫でたかと思うと、手をするりと上に滑らせ、たっぷりとした膨らみを弄ぶように、下からやわやわと揉む。
先ほどまでの悦楽の余韻に火照る身体は、それだけで容易に熱を持ち、胸の先端がじくじくと疼いた。
「ん、や……ぁん……っ」
まるで自分のものではないかのような、甘ったるい声が唇からこぼれ落ち、胎の奥がきゅうっと引き絞られるのを感じる。
こうなってしまうと、もうクロエが彼に抵抗することは不可能だ。
――もう、無理なのにぃ……っ……。
今夜も、既に何度も彼に精を注がれている。だというのに、精根尽き果ててぐったりとしているのはクロエだけ。
彼はすこぶる元気そうだ。
――おかしいじゃない……っ!
ほとんど力の入らない身体をくるりとひっくり返され、正面からのしかかってくるアルベルトの顔を見つめながら、クロエはそう心の中で叫んだ。
彼は、武官である騎士たちのように鍛え上げられた肉体を持っているわけではない。たしなみ程度に鍛錬はしているようだが、しなやかで細い身体つきからは、それほど体力があるようには思えなかった。
だというのに、夜ごとクロエを抱き、まるで無尽蔵の体力を有しているかのように何度も何度も挑んでくる。
――こういうの、なんていうんだったっけ……。
人よりも、並外れて精力が旺盛なさま。それを表す言葉が、確かあったはずだ。どうにかそれを思い出そうとした時、不機嫌そうな低い声がクロエの思考を遮った。
「考え事とは、余裕だな……っ」
アルベルトはクロエの両足を抱え上げると、濡れそぼった秘裂に自らのものを宛がった。先ほどの絶頂の余韻に震える蜜口は、その先端に吸い付き、胎内へと誘い込もうとする。
それが心地よいのか、彼は口の端を吊り上げると――そのままぐっと腰を突き入れた。
熱く硬いものが蜜洞を擦り上げ、クロエの身体が悦楽に跳ねる。
しっかりと両足を抱え込んだアルベルトは、そのままがむしゃらに腰を振り立てた。激しく揺さぶられ、クロエの身体は急速に高みへと追い立てられていく。
「んぁっ……、あ、あぁん……っ、あ、だ、だめぇ……っ」
「クロエっ……ああ、気持ちいいか……っ?」
豊かな胸がたぷたぷと揺れ、息が乱れる。クロエは必死にシーツを掴み、頭を振り乱して迫り来る絶頂感をどうにか堪えようとした。
だが、そんなクロエの意思とは裏腹に、蜜洞は彼のものを歓迎するかのように蠕(ぜん)動(どう)し、ぎゅっとそれを喰い締める。
そうすると、これまでの閨(ねや)で彼に教え込まれた「気持ちの良い箇所」が全て擦り立てられ、ぞくぞくっとした快感が身体全体を這い回った。
――あ、もうだめ……っ、いきそ……っ……。
ぎゅっと閉じたまぶたの裏に無数の星が散り、シーツを握った指先には更に力がこもる。奥歯を食いしばり、どうにかその波をやり過ごそうとしたクロエだったが、時は既に遅かった。
「んあ、あっ……ああっ……!」
ひときわ高い嬌声をあげたクロエの全身が、激しく痙攣する。今日一番の深い絶頂に、まぶたの裏が白く染まった。
――あ、思い出した……こういう方のこと、絶倫っていうんだわ……。
ふっと意識が遠くなる。
――あんな……優男の宰相閣下が、こんな絶倫だなんて……きっと誰も予想してなかったわよね……。
もちろん、クロエ自身も。
――ああ、一体どうしてこんなことになっているのかしら。
まるで現実逃避のようにそんなことを思った瞬間――クロエの意識はふっと途切れた。
第一話 結婚しろって本当ですか?
かちかちと、盆の上で茶器が小さな音を立てる。
クロエは盆を持つ手に力を込めると、気持ちを落ち着かせるために大きく息を吸い込んだ。
――だめよ、音を立てないようにしないと……。
だが、そう意識すればするほど手が震える。それにつれて、なんだか余計に音が大きくなってしまうような気がする。
ふっと小さく息を吐き、クロエはちらりと窓の外へ視線を走らせた。
空は青く澄んでおり、少し風が吹いているのか木々が揺れている。その明るい日差しの下、城内のサンルームにはお茶の席が設けられていた。
今、そこには二人の人物が向かい合って座っている。クロエの主である王妃ヴェロニカと、それからこのクローデン王国の宰相である、アルベルト・フォン・シュヴァルツァーだ。
アルベルトはその有能さを広く知られた人物で、まだ三十歳という若さながら先代宰相の指名で現在の地位に就いている。
その功績は枚挙にいとまがなく、隣国との交易における条約の見直しを行い、クローデン王国側に不利な条項の改正を認めさせただとか、海向こうの大国からの侵攻を察知して周辺諸国をまとめ、対抗策を講じて未然に防いだだとか。
自身も有能な君主として名高い国王ユリウスが最も信頼する臣下だと言われている。
そんな華々しい功績をあげている彼ではあるが、クロエが城内で見かける際には、いつもしかつめらしい顔をして忙しげに働いていた。
――他の方は、多少息抜きも必要とか仰って、休憩も適宜お取りになっているようなのに……。
真面目で勤勉というのが周囲から聞く彼の評判だ。なんでも、周囲の人々は密(ひそ)かに彼を「鋼の宰相」などと呼んでいるのだとか。
――言い得て妙、というやつね。
軽く肩をすくめ、クロエは口の端に小さな笑みを浮かべた。
実際、自分の目から見ても彼はその評判通りの人物だと思うからだ。
だからこそ、ついつい不(ぶ)躾(しつけ)な視線を彼に送ってしまう。
――珍しい組み合わせなのよね……。
王妃と宰相という関係上、多少言葉を交わしたことはあるだろう。だが、いつもは間に国王であるユリウスがいるし、伝達事項は他ならぬ自分――クロエが聞くことが多い。そもそも、その場合には書状でやりとりすることの方が多いのだが。
従ってこの二人が、こんな風にわざわざお茶の時間に会って話をするほど親しい仲かと言われれば、首を横に振らざるを得ない。
だから、今日彼を呼んでお茶会をするとヴェロニカが言い出した時には、クロエは大変驚いたものだった。
――宰相閣下も、お断りになるかと思ったわ。
王妃に呼ばれたからといって、ほいほい来られるほどお暇な方ではないはずだ。だから、きっと断られるだろう。そう思いながらも、ヴェロニカに頼まれて招待状をアルベルトの元に持って行ったのはクロエなのだが。
――どうしてか、オッケーされてしまったのよね。
そして、その茶会の場へこのお茶を運ぶのが、今のクロエの仕事である。
とはいえ、こういったことは普段ならばメイドのすること。王妃付きの上級侍女であるクロエがするような仕事ではないし、実際したこともない。
――本当は、お断りしたいのだけれど……。
クロエはこぼれかけたため息を飲み込んだ。
実を言えば、クロエには少々粗(そ)忽(こつ)な一面があり、ここぞという場面で失敗することが非常に多いのである。
だが、ヴェロニカ直々に頼まれれば、従わないわけにいかなかった。
――けど、やっぱり慣れていないから……。
今はまだ良いが、二人の近くまで行けばこの音は聞こえてしまうだろう。軽く唇を噛み、クロエはもう一度指先に力を込めた。
そうすると、心なしか少し震えが止まったような気がする。今のうちに、早く二人の元へ行ってしまおう。
王妃の間からサンルームへと続くガラス張りの扉は、枠が白く塗られている。それをゆっくりと押し開き、クロエは中へ足を踏み入れた。
冬だというのに、サンルームの中はガラス越しに入り込む日差しのお陰で、まるで春のように暖かい。見上げた日の光の眩しさに琥珀色の瞳を細め、クロエは小さく息を吐いた。
どこからともなく暖かい風が吹いてきて、赤い髪がふわりと揺れる。
大窓を中心に半円を描くサンルームは、その床に大理石が敷き詰められていた。ぴかぴかに磨かれたそれは、いかにも足が滑りそうだ。ごくりとつばを飲み込み、クロエは慎重な足取りで進んでいった。
テーブルまではさほど距離があるわけではない。だが、緊張しているクロエにとっては、城の廊下を端から端まで歩くくらいの長さに感じられる。
だからだろう、ようやく二人の近くまで辿(たど)り着いた瞬間、ほんの少しだけ、クロエの気が緩んでしまった。
「っ、きゃ……!」
「……!」
つるり、と手にしていた盆の上で茶器が滑る。それをどうにか立て直そうとして、慌てたクロエは、ドレスの裾を思いっきり踏んでしまった。
ずるっとそのまま身体が斜めに傾く。
――ああっ、やっぱり……っ!
どんくさい自分が嫌になる。気をつけていても結局こうなってしまった。
――だから嫌だったのに……!
脳裏をそんな言葉がばらばらと駆け巡る。
ぎゅっと目を閉じて、クロエは来るべき衝撃に備えた。だが、その予想に反し、いつまで経っても硬い床の感触もぶつかる衝撃もクロエの身に襲いかかりはしなかった。
その代わり、何か弾力のある温かいものにしっかりと支えられている感触がする。
「……ん?」
「大丈夫か、チルコット嬢」
一体どうなっているのだろう。自分の状況が掴めず、戸惑うクロエの耳のすぐ傍で、落ち着いたトーンの男性の声がした。
一拍遅れて、それがアルベルトのものだということに気付く。そして今自身を支えているのが、彼の腕だということも。
「え、えあ……っ……!?」
「あらあら……クロエったら、相変わらずなんだから」
慌てふためくクロエの耳に、ヴェロニカがくすくすと笑いながらそう言う声が聞こえてきた。だが、それに何か返答をできるような状況ではない。
かあっと顔が熱くなり、ばくばくと心臓が早鐘を打ち出した。首筋に汗がじわりと噴き出す嫌な感覚がして、身が縮むような思いがする。
なにしろ、クロエはこれまで男性とこれほど密着したことがない。いや、それどころか男性と話をすること自体が稀である。
それが突然こんな状況になれば、極度の緊張に見舞われても仕方がないだろう。
しかもそれが、自分の失敗が原因ならなおさらだ。
だが、二十三歳の女性としてはもう少しもの慣れた態度を取るべきだろう。王妃の侍女としても、これ以上の醜態を晒すことはできない。
奥歯をぐっと噛み締め、クロエは急いで体勢を立て直そうとした。しかし、思いもよらない事態に動揺が隠しきれず、足ががくがくと震えてしまう。
再びよろけたところをアルベルトに助けられ、クロエは蚊の鳴くような声で彼に詫びた。
「す、すみません……っ」
「慌てるな、また転ぶ」
そう返すアルベルトの声音はどこかそっけなく、まるで怒っているようですらある。
彼はクロエが体勢を整えるのを無表情のまま見届けると、くるりとこちらに背を向けさっさと席へと戻っていった。
高い位置で結わえられた銀の髪がさらりと揺れる。その後ろ姿を見つめて、クロエは小さなため息を漏らした。
――やっぱりちょっと、宰相閣下って怖い感じがする方なのよね……。
助けてもらっておいて酷い言い草だとは思うのだが、それが正直な感想だ。
なにしろ、クロエがこのクローデン王国に来て五年、彼が笑っているところなど一度も見たことがない。いつも眉間に皺を寄せ、むっつりとしているのだ。
それだけに、どうしてもとっつきにくい印象を受けてしまう。
――まあ、ユリウス陛下みたいにいつもにやけているのもどうかと思うけれど。
主であるヴェロニカの夫、国王であるユリウスの顔を思い浮かべ、クロエは軽く肩をすくめた。
愛妻家として名高いユリウスは、とにかくヴェロニカの前ではいつもデレデレにやにやしてばかりいる。
王妃の傍に侍(はべ)る身として、接する機会の多い男性がそんな彼であるせいで、少し感覚が鈍ってしまっているのかもしれない。
「……ありがとうございます。もう大丈夫ですわ。大変失礼をいたしました」
「いや」
クロエの言葉に振り向くと、彼はそう短い言葉を返してきた。その眼鏡の奥、薄青の瞳が一瞬探るようにこちらを見つめてくる。
本当に大丈夫なのか、確認しているのだろうか。
心配ないと伝えるように、ぎこちないながらも笑みを返せば、ぱっと視線が逸らされる。
――お、怒っている……のかしら……?
内心で震えながら、クロエはテーブルの上へと視線を向けた。悲惨な音がしなかったことから予想はしていたが、そこには運んできた茶器のセットが鎮座している。
これもおそらく、アルベルトが助けてくれたのだろう。ほっとしながらそれに手を伸ばしたところで、横から楽しげなヴェロニカの声がする。
「うん……わたくしの見立てに間違いはなさそうね」
「……見立て、ですか?」
弾むようなヴェロニカの言葉に、不思議そうに問い返したのは、アルベルトだった。印象的な銀縁眼鏡の奥からヴェロニカに向けられた瞳には、わずかに困惑が滲んでいる。
そして、それはクロエも同様だった。ヴェロニカが突飛なことを言い出すのはいつものことだが、それにしても全く意味がわからない。
――見立てって、どういうこと?
茶器に手を伸ばした中途半端な姿勢のまま、クロエもまたヴェロニカへと視線を移す。すると彼女は、にんまりと――本当にそうとしか形容できないほど、満面の笑みを浮かべながら口を開いた。
「あなたたち、結婚なさいな」
「は、はあ……!?」
クロエは客人の前だということも忘れ、思わず大声をあげた。なにしろ、ここには目の前のヴェロニカ以外には、招待されたアルベルトと、そしてクロエしかいないのだ。
ヴェロニカの言う「あなたたち」が、自分とアルベルトを指しているのは明白だった。
――結婚? 結婚って言いましたか、ヴェロニカさま……!?
またもや大混乱に陥ったクロエは、声も出せずぱくぱくと口を開閉させた。その隣では、アルベルトが同じように呆然と――。
「承知いたしました」
していなかった。
あっさりと、冷静な声がそう紡ぐのが耳に届き、クロエはぱちぱちと目を瞬かせた。
「へ?」
予想していたのとは全く違うその返答に、思わず間抜けな声が唇からこぼれ落ちる。
ぎぎ、とおよそ人間らしからぬ人形めいた動きで彼の方へと目を向けると、そこには落ち着き払った表情のアルベルトの姿があった。
クロエの視線に気付いたのか、彼がこちらに顔を向ける。ちょうど眼鏡に光が当たったせいで、彼の瞳にどんな感情の色が浮かんでいたのかを窺い知ることはできない。
だが、その口元には、クロエの見間違いでなければわずかに笑みが浮かんでいた、ような気がする。
「よろしく頼む」
「え、あ、はい……?」
うっかり頷いてしまったのは、アルベルトがまるで当然のようにヴェロニカの無茶な提案を受けたから。あとはなんか、ついその場の雰囲気に飲まれてしまって。
「良かった。陛下とも話していたのだけれど、きっとシュヴァルツァー宰相ならクロエを幸せにしてくれると思うの」
「鋭意、努力いたします」
二人が会話を続けているのを、どこか遠くのことのように聞きながら、クロエは「え?」と小さな声で呟いた。
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