書籍詳細

一妻多夫の淫らな世界で 救世の娘と五人の夫
定価 | 1,320円(税込) |
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発売日 | 2025/04/25 |
内容紹介
立ち読み
◆お嫁に行きます!
「マコ、お嫁に行くんですって? トラディバル家の兄弟と結婚するって聞いたわ」
わたしがシャルカお父様のエスコートで勉強部屋に入った途端、挨拶の口上もする前に、楽しそうにマリアン様が言った。
長いこと一緒に勉強してきた気安い仲だから、たまにこういうことがあるんだけど、せめて挨拶が終わるまで待ってくれないかな……と思う。やっぱり周りの目が気になるじゃない。不幸中の幸いで今日は礼法の授業じゃないし、まだ先生も来ていないようだけれど。
わたしは生まれてこのかた、ずっとお城で暮らしている。次期女王でいらっしゃるマリアン様は王子のお父様たちの妹で、わたしから見たら叔母(おば)様なんだけど、割と歳(とし)が近いこともあって一緒に勉強会をする日があるのだ。最近は妹のミコも参加している。
「お耳が早いわ。まだ家の中で話してるだけなのに」
まだお父様全員の賛成を勝ち取れていないので、わたしの結婚の話はマリアン様には話していなかった。しかし……別のところから耳に入ったようだ。
しかたないからシャルカお父様の手を離し、軽くスカートだけ摘(つま)んで広げて、マリアン様に歩み寄った。
隣のミコも一人だけ正式の挨拶をするわけにもいかないから、一歩後ろから黙ってついてくる。シャルカお父様は壁際の椅子のほうへ。
「そりゃもう『救世の娘』がお嫁に行くんだもの、噂(うわさ)だって風のように広がるわよ」
さらに楽しそうに言われて、返事に詰まる。
わたしたちミズグチ家の姉妹は『救世の乙女』と呼ばれる特別なお母様の娘なので、『救世の乙女の娘』を略して『救世の娘』とか『乙女の娘』とか呼ばれることがある。だけど、そう呼ばれるのは少し嫌。わたしがそう思っていることはマリアン様も知っているけど、時々からかってくるのだ。
「寂しくなるわ。マコがお嫁に行っちゃったら、お勉強はミコと二人になるのね」
でもマリアン様が名残を惜しんでくれたので、ちょっと気持ちが浮上した。話を振られたミコをチラッと見たけど、自分で返事をする様子がないので、わたしが答えることにする。
ミコは我が家の部屋の中ではよく喋(しゃべ)るのに、外では最低限だ。内気ということになっている。わたしがいなければマリアン様と普通に会話しているらしいから、それも少々疑わしいけれど。
「ニコはまだ八つだから、マリアン様とお勉強は難しいもの」
ミコの下には、ニコという妹がいる。ミコもマリアン様と同じ授業を受けるにはまだ早いが、頭がいいからついていけているのだ。八つの子には無理だと思う。
「そうねえ……でも、たまに連れてきてほしいわ。なかなかお城を出られない同士だし。マコもたまにはお城に帰ってきて。一緒に遊びましょうよ。外から女の子を呼ぶのも大変なのよ、序列がどうのって。近い歳の子も多くないし」
「それは……」
お嫁に行ったあとって帰ってこられるのかしら? その辺はよくわからなかったから、返事を濁(にご)して……あとは。
「ニコのことはミコに頼んでくださいな」
わたしはお嫁に行くんだから。それより八歳の子とは、さすがに話が合わないと思うんだけど。マリアン様は末っ子だから小さい子を見たことがないのね。
「マコ、すぐ行っちゃうの?」
「ええと……」
それは。
「多分、まだです」
こんな時だけ口を挟むのね、ミコ……。
「お父様たちの説得が終わってないんですよ」
「そうなのね。マコは可愛がられているから、反対する父君もいるのかしら?」
ちょっと息を吐いてから、次は自分で答えた。
「グレイお父様が大反対で」
「まあ」
マリアン様が笑っている。グレイお父様、普段は格好いいんだけど、お母様やわたしたちが絡むと時々崩れるから……。
「マコも、もう少し勉強してからお嫁に行くのはどう? 今日は先生に授業を変えてもらったのよ。いけない、お座りなさいな」
マリアン様に着席を勧められて、丸テーブルの周りに用意された椅子に腰を下ろした。
「今日は地理じゃなかったんです?」
「閨房学(けいぼうがく)にしてもらったの」
閨房学……!
それは結婚生活と、子どもを産み育てるための学問だ。女の子には重要な勉強である。
「マコは閨房学は座学しか受けてないじゃない?」
「そ、そうだけど、お嫁に行くんだから、実技は駄目ですよ!」
お嫁に行く子は、閨房学の実技の授業は受けちゃいけないのだ。そういう決まりである。
「実技じゃないわよ。この勉強部屋では実技はしないわ」
「じゃあどんな……」
閨房学の座学はちゃんと受けたはずだ。
「今日は、閨房学とその歴史よ」
マリアン様の悪戯(いたずら)な笑顔に困惑する。
閨房学の座学でも、それに関わる歴史も現在に至るまで勉強したと思うんだけど。
結婚したら具体的にどういうことをするか詳しく聞いたし、結婚制度の勉強もした。この国の女性たちが、かつてどういう風に生きてきたのかという歴史も勉強した。グレイお父様とラシードお父様のお母様であるデュラニール家のお祖母(ばあ)様が付き添ってくれて、マリアン様と一緒にまだ女性が大事にされなかった時代の残酷な話を聞いたりしたのを憶(おぼ)えている。
「勉強はしたと思うんですが……」
ざっと結婚に関わる基本的な話を思い返してみたけれど、わたしは真面目に授業を受けていたと思う。忘れていることもあるかもしれないけど、大体は思い出せる気がする。
「実技の授業の中で出てくるお話は聞いていないはずだわ」
マリアン様は自信満々に言う。
「実技の授業で? 結婚後の話かしら」
「そうね」
「でも、それも結構聞いたと思うんだけど……」
結婚後といえば子育てだろうか。あるいは、わたしみたいに嫁入り結婚する話?
なんにせよ自分に関わりそうなことだから、やっぱり身を入れて勉強していたつもりだ。……他に、なにかあったっけ。
「まあまあ、もうじき先生が来るわ。授業の内容はお楽しみってことでね」
うんうん考え込んでいたら、マリアン様に宥(なだ)められてしまった。なんだか理不尽な気がしてミコのほうを見たら、我関せずという顔だ。これもなんだか理不尽な気がする。
ミコが家から出たくない、婿を取りたいと、ずっと言っていたのはわかってるけど……うちには前々から、跡継ぎ娘がいない家からうちの姉妹の誰かがお嫁に来てほしいという話が次々舞い込んでいる。ミコも我が家の特殊事情の当事者なのだ。明日は我が身のはず。
「そんな険しい顔をしていないのよ。わたくし、マコがトラディバルの従兄弟(いとこ)たちと結婚するのはとても嬉しいわ」
そういえば、わたしの旦那様になる人たちは王子のお父様たちの従兄弟なんだから、マリアン様にとっても従兄弟だ。
「お母様も一人目の『救世の乙女の娘』がトラディバル家に嫁ぐのはいいことだと言っていたわ」
「女王陛下も?」
女王陛下は、わたしにとってお祖母(ばあ)様でもある。でも陛下がそう言うのは、ただ孫娘が甥(おい)に嫁ぐのが嬉しいという理由からではない気がする。ちょっとピリッとした緊張感に、背筋を伸ばす。
「わたくしが何事もなく王位を継いで王女を産めれば、同時にトラディバル家の継承問題も解決するでしょう?」
そういうことか、とマリアン様の言葉に緊張が緩んだ。……これは、警戒したのとは逆ね。わたしが女の子を産めない場合でも心配はないと励まされてるのだ。女の子を五人も産んだ、神の使徒たる『救世の乙女』であるお母様の娘として……気が重くなる話だけど、我が家の姉妹はこの期待から逃れられないから。
トラディバル家の旦那様たちの姉妹であるラジェッタお義姉(ねえ)様は、現在マリアン様以外では唯一の王位継承権所持者だ。マリアン様の言葉を逆に言うと、マリアン様になにかあったらラジェッタお義姉様が王位を継ぐことになり、トラディバル家を継ぐ者がいなくなる。その時はわたしが繰り上がりで、トラディバル家を継ぐのだ。
マリアン様と女王陛下の言う通り、なにもなければわたしは予備の予備で終わる。女の子どころか子どもが産めなくても、誰かを困らせるような大きな問題にはならずに終わる。『救世の娘』には女の子をたくさん産める不思議な力がなくてがっかりする人がいても、そこまでだ。でも……。
世の中には子どもが産めない女性もいるという。そういう女性は、守ると言ってくれる二人か三人の夫とひっそりと暮らす人が多いのだそうだけれど。わたしは立場的にひっそりと暮らせるかわからないので、神様を信じたい。お母様の娘という期待の中で、わたしが子どもを産めないとか、そんな酷(ひど)いことしないよね?
ああ、ずっと付き纏(まと)う不安を思い出してしまったけれど、今はそれをしまっておかなくては。
「マコがあの人たちを選んだのは納得だわ。夫になる人はお兄様たちみたいな人がいいって、ずっと言っていたものね」
気を取り直そうとしたところで、マリアン様に昔こぼした話を持ち出された。少し恥ずかしくなる。でもそれは、本音だったのでしかたがない。
今回のお嫁入り、わたしはお相手の旦那様たちの人格とかはまったく知らないまま決めた。決め手は顔である。
先日、お母様と一緒にこの国に来て神殿で育った『救世の乙女』の一人がお嫁に行くことになって、その結婚式に参列させてもらうことができた。この機会を逃したら、自分で見つけた人と結婚できる機会はもうこない――そう思って、いい人がいないか真剣に探したのだ。親戚しか参加しないという普通の結婚式と違って、救世の巫女(みこ)姫の結婚式にはたくさんの人が参列していたから。
そして、見つけたのだ。お嫁入りしてくれる女性を探していたという、トラディバル家の五人の兄弟。王子のお父様たちと従兄弟の関係で、姿も似ていて。
これはもう、運命だと思った。
わたしがお嫁に行くには、確かに年齢はちょっと高いのかもしれない。だけど、これ以上わたしの理想に近い旦那様たちはきっといない。いずれ誰かと結婚するのが変わらないなら、理想に近いほうがいいに決まってるじゃない。
「夫の顔が好みというのは大切よ。毎日見るんだから」
「わたしもそう思います」
同意して頷(うなず)いたら、マリアン様はやっぱり楽しそうに笑った。
そこでやっと、先生が勉強部屋に入ってきた。
「遅くなりましたかな」
今までの閨房学の先生と違って、老境に入った感じの白髪の紳士だ。
「いいえ、楽しくおしゃべりしてしまったわ」
「それはなにより。生活は楽しむもの。夫婦生活も同様です。……そちらのご令嬢方とは、はじめましてですな」
話を振られて、立ち上がる。
「初めてお目にかかります。ミズグチ家のマコと申します。こちらは妹のミコ」
「おお、救世の乙女の娘御。お目にかかれて光栄です」
うん、こう呼ばれるのはしかたがない。
「王立学園で教授をしております、アートゥと申します」
「アートゥ教授」
「はい」
先生は男子しか通えない王立学園から交代で来てくれる。今まで閨房学で授業に来てくれていたのは、もっと若い講師だった。教授というのは偉い先生のはずで……これはマリアン様がわたしのために授業を変えたうえ、偉い先生を呼んでくれたということだ。
……そこまでして、補わないといけない知識不足があったのだろうか。
「本日は実技の応用の注意事項を、座学だけで復習されたいとのマリアン様のお願いでしたが……お嫁入りがあるかもしれないマコ様とミコ様向けですな」
ミコをチラッと見たけれど、すまし顔だ。ここでは自分が絶対家を継ぐとは言わないか。
「実技の応用というのは、どんな……」
「具体的には寝室以外の場所で行う場合の注意事項ですな」
寝室以外……外でする人もいるという話は聞いているけれど、実際に見たことはない。
「外でする時の注意ということですか?」
「外も野生動物や石などで怪我をしないようになどありますが、まずは浴室です」
「お風呂!?」
お風呂でするの!?
「浴室の湯台や、湯の中ですることが多いと思いますが……」
先生がお風呂の中でする時の注意事項を説明しているけど、ちょっとびっくりしてちゃんと頭に入ってこない。
お風呂でするなんて知らなかった……。
でも、確かにお風呂では裸だから、夫婦だけならそういうことになるような気もする。お母様が長湯して湯あたりしてることがあると思っていたけど、そういうことだったのか。我が家でもきっとしていたはずなのに、そんなお風呂事情は本当に知らなかった。
お母様、教えといてよ……!
「いずれにせよ怪我をしないように、注意が必要です。あとは湯の中でしたり、激しい性交のあとに湯に入ると溺(おぼ)れる危険があります」
あの浅いお風呂で溺れるなんて思ってもみなかったから、ぞっとした。
「最中や事後に浴槽で寝転がり、そこで眠ってしまって溺れるという事故が起こることがあります。男女の性行為は疲れますので、湯に沈みかねない場所で意識がなくなるのは危険なのです」
「ね、マコ、知らなかったでしょ?」
「……お風呂で溺れるのは考えたことなかったわ」
マリアン様の得意げな顔は癪(しゃく)に障るけど言う通りだ。
「どのような場所でも愛を育むのは神のご意志に適(かな)うことですが、それで怪我をしたり、命を落とすことを神は望まれていません。危険な場所では注意が必要です」
閨房学の先生は敬虔(けいけん)な信仰者であることが多いというけれど、アートゥ教授もそのようだった。言葉遣いが上品で、神官の人っぽい。
もう一回、背筋をしゃんと伸ばした。
「わかりました」
こんなお嫁入り前になって、知らないことがあるなんて。
「まだわたしが知らなそうなことって、あるのかしら」
「マコ様は第四代女王エヴェリーナ陛下の勅書(ちょくしょ)はご存じでいらっしゃいますかな」
急に歴史の話に飛んで、面食らう。
そして、どうしよう……思い出せない。
「……ごめんなさい。忘れました」
悩んだけれど、謝ってしまうことにした。これは閨房学の授業なんだから、結婚に関わることなんだと思うんだけど、思い出せない。
「第四代女王エヴェリーナ陛下は、揺れる馬車の中では夫婦は睦(むつ)み合うべきと記されました」
馬車の中。
全然憶えてない……!
「その理由は諸説ありますが、夫婦が同乗する馬車の中では愛の営みを推奨されております。最も支持されている理由は、揺れるから、ですな」
「そうなのね」
揺れるから馬車の中でするんだ。馬車の中……。
つまり、わたしの初体験は、引っ越しの日に旦那様たちが迎えにきた時の馬車の中になるってこと!?
実は――まだ旦那様たちと一回もしたことがない。
わたしは結婚前にして、いまだに処女なのだ。実技禁止のお嫁入りする娘だったとしても、結婚が決まったなら旦那様たちとはできるはずなのに。
お母様とお父様たちの賛成をすべて勝ち取らないと、わたしの初めての場所は馬車の中になるかもしれない。勝ち取っても、そうなるかもしれないけど。
「馬車の中は揺れますので、複数での営みは避けることをお勧めいたします。それが今の一般的な見解となっております。無理をすると体を痛めますゆえ」
「なるほど……」
この国では、旦那様二人と妻、三人でするのが正式で基本的な性行為だ。子どもを産む穴とお尻の穴で旦那様たちを受け入れる。これができないと結婚式もできない。
だけど馬車の中では一人ずつなのか。これも知らないと失敗しそうだし、恥をかきそうだ。
どうせわたしは、まだ二人いっぺんにはお相手できない処女である。「二人じゃなくて一人ずつ」なのは、かえって好都合だ。
しかしこの話を全然憶えてないのは、ずいぶん前に勉強したところだからだろうか……。
「忘れてたでしょ? わたくしも婚姻直前に閨房学の実技で復習するまで忘れてたわ」
こそっとマリアン様が囁(ささや)いてきて、自分だけじゃなかったことに少しほっとする。でも、みんながそうではないだろうし……元々この世界で産まれたわけではないお母様より世間知らずではないと思ってきた自信が、今、ちょっと揺らいでいる。
「他に、わたしが知らなそうなことって」
ここが最後の砦(とりで)と思って、勉強しておかなくては……!
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