書籍詳細
君にひと目で恋をして Sweet words of love
ISBNコード | 978-4-86669-025-4 |
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定価 | 1,320円(税込) |
発売日 | 2017/09/15 |
レーベル | チュールキス |
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内容紹介
人物紹介
石井寿々(いしい すず)
大手航空会社JSAのグランドスタッフ。27歳。毎年誕生日に海外へ一人旅に出かけている。入社一年目で付き合っていた彼氏と別れてから、恋愛には無縁。
森 石蕗(もり つわぶき)
大手航空会社JSAの最年少機長。35歳。JSAの航空エンジニアだった父の影響で、幼少期からアメリカ、グアム、と海外で過ごしていた。父の命日に、偶然グアムで寿々と出会う。
立ち読み
「私……グアムでだけのいい思い出にしたかったんですけど」
「まぁ、あの別れ方だったら、そうなる可能性高かったな」
「もともと、接点のない職種なので、このままそっとしておきましょう。私、イケメンと付き合うとか、考えたことないし、それにパイロットとかエリート職種の人とはちょっと……そもそも生活のリズムが合わないんじゃないかと」
普通に三日間帰って来ないことがあるパイロット。国際線の操縦もする彼なので、一週間以上会えない時間がありそうだ。
「私、早番も遅番もしますし、成田から帰れないときは泊まることだってあるんです。たまに終電逃しちゃうので……結構ヘロヘロになって仕事してたりするときあるので。今は、というか男女のお付き合いは、望んでいないんですよ」
「……」
彼はまた沈黙した。このシーンとした時間、何となくいたたまれない。そして気づいたのは、自分が元カレから言われたことを、そのまま彼に言っていること。あえて気づかないふりをし、寿々はサンドイッチをすべて食べきった。二つ目のサンドイッチに手を伸ばし、一口食べたところで彼は寿々を見て笑う。
「振られるの、初めてだな」
「えっ? ま、まぁ、森機長ほどのイケメンで背も高くて、っていう人を振る人は、いなかったでしょうね」
自分に自信があるだろうし、これだけのエリートだから、初めてというのも納得だ。
もしここで、本当にこの人との縁が終わってしまったら、と考えなくもない。でも、今はというか、彼がすごい人なので無理だな、と思うのだ。
「森機長、いくつです?」
「三十五。寿々は?」
「私は、二十七です……今、七年目で」
八つも年上だ。しかし、三十五歳で機長昇格って、かなり早いと思う。自社養成でパイロットになったわけではないのかもしれない。
「恋愛に発展してあーなってこうなって、とか言ってたくせに」
はぁ、と大きくため息を吐いた彼の言葉に顔が熱くなる。両手と首を大げさに振って、違う、と言った。
「忘れてくださいって言いましたよね?」
「忘れられない。キスだってした」
力強い目がじっと見つめる。この目が苦手だと思う。
何でも言うことを聞いてしまいそうだ。
「わ、私のこと、知らないくせに……」
どうにか目を逸らして言うと、彼は少し声を出して笑った。
「一日付き合った。海に連れて行ったし、ディナーを一緒に食べた。ストリップを無理やり見に行かされて、俺の家で酒飲んで、潰れた寿々を家に泊めた。おまけに翌日は、空港まで送って行った。十分、わかってるけど。明るくてよく食べて、よく笑う可愛い女だって」
初めて会ったときのように、彼の黒い目で射貫かれた。もともと、惹かれていたと思う。でも、あれはグアムだけでの出来事だと言い聞かせていた。
寿々が彼を見ると、石蕗はにこりと笑って寿々の髪を一筋軽く引っ張り、耳にかけた。それから、テーブルに置いていた寿々の手に、手を重ねてきた。手首を軽く?まれて、その内側を撫でられると、心臓が跳ね上がり、動揺して瞬きが多くなる。
「こんなことなら、酔った勢いで抱いておけばよかったな」
そのセリフ反則、と心の中で呟く。石蕗のような男からそんなことを言われ、手を握られていたら、どんなに壁を作っても崩れてしまいそうだ。
顔が急激に熱くなってきて、テーブルの上に乗っている両手に力が入り、ぎゅっと握り拳を作ってしまう。
「そ、そんなことっ!」
彼の手を振り切り、テーブルから手を下げた。うつむいて、はぁ、と熱い息を吐き、寿々は片手で自分の?を触った。
「まぁ、どうせ無理だったけど。ゴムなかったし」
彼は寿々の仕草にクスッと笑って、すごいことを言う。言い方は、クールだ。ちっとも話し方は変わらない。でも言っていることが、めっちゃアダルトだ。そんなことまで考えるなんて、いったいどうしたんだと思う。
もしかして、寿々にとって史上最高のモテポイントのピークなのかもしれない。
そっと彼を見上げると、その視線に答えるようににこりと笑った。その笑顔にクラッとする。魅力的な彼は身長が高く肩幅も広い。服の上から見ても引き締まっていて、いい筋肉の持ち主なのだろうと想像できる。
グアムで見た半袖から出る腕も、男らしい筋肉がついたまっすぐで長い腕だった。
だからって、ちょっと待て。抱かれるつもり? と寿々は非常に混乱している。もし、あのとき避妊のアレがあったら、酔っていたし同意で抱かれていたかもしれない。
「私、フキさんの言う通り、腰太い、ですよ」
「ああ、じゃあ、見せてくれ」
「は……?」
彼はクスッと笑って立ち上がろうとした。身の危険を感じて、寿々は立ち上がって逃げようとしたけど。
「あ……っ!」
後ろから身体を捕まえられ、そのまま抱き締められた。
彼の腕に抱かれ、その身体から体温を感じる。温かさと、寿々を包み込む男らしさに、?が熱くなるのを感じた。だから、思わず身を硬くする。心臓はマックスドキドキで、息をするのさえ苦しい。
「男、知らないのか?」
小さく首を振って、うつむく。きっと、あまりにも寿々が身をこわばらせているからだろう。耳のあたりで声がするのがくすぐったいし、低くいい声なので心臓が高鳴る。
「じゃあ、どうして? まるで処女の反応」
クスッと笑ったのを聞いて、下唇を?む。
「入社、一年目で、付き合ってた人いたけど……」
声が途切れる。こんなことをどうして話しているんだろう。
「それで?」
優しい声で促されて、一度息を吐いてから口を開く。
「初めての彼氏で、でもすれ違い多くて。七か月くらい付き合って、何度かそういうコトもしたけど……仕事、不規則だったから、浮気されて……だから」
彼が頭を撫でる。それが心地よくて、困る。おまけに、背中に感じる体温も。
「恋愛は、怖いし……それが、まさか同じ会社のエリートパイロットで、イケメンって……絶対、浮気されるに決まってるし」
大きく息を吐くと、彼が抱き締めている腕を解いた。腕を撫でるように触れながら寿々の両手を取り、?いだ。手に汗をかいているから、こういうの困るけど。彼はさらに手を強く握った。
「JSAは自社養成があるから、普通はそこから採用が主だけど。ダブルスクールで、アメリカで免許取ったから、自社養成のパイロットより早く副操縦士になった」
「え?」
「これでも結構苦労してる。親父が病気だったから、できるだけ早く自分の足で立たなきゃならなかった。と言っても、日本でのパイロット規定満たすために、切り替え訓練受けてるうちに亡くなって、母親に泣きついたけど。そこからJSAの入社試験受けて、今は機長」
そこでようやく寿々は彼のことを見るために後ろを向いた。微笑んだ彼は、優しく寿々を見下ろし、?を撫でる。
「まぁ、これで信用しろとは言わない。でも、俺の親父はいい親だったが、女癖は悪かった。おまけに母親はこの前五度目の離婚」
「ええっ?」
「あいつらは俺の反面教師。浮気は嫌いだ。仕事もあるし、俺は一人に心を傾けたい」
黒い目は、ウソを言っていないと思う。それでも、こんなにフツーの寿々をどうして、と思う。
「私、キャビンアテンダントみたいに、背が高いわけじゃないし、フツーです」
「確かに。ここまで小さくて、俺の身体にすっぽり入るとは」
フッと笑って頭を撫でた。その手がゆっくりと?にいきついて、顔を引き寄せる。
「キスしたい」
寿々は返事をしなかった。でも、嫌だとも言わなかった。
だから彼が顔を寄せて、唇を重ねてきても抵抗しない。
最初は重ねるだけだったけれど、啄むようなキスになり、少しずつ熱を帯びていく。
「ん……っあ」
唇が離れると自然と甘い声が出てしまった。恥ずかしくてうつむくと、顎を持ち上げられてさらに深いキスをされる。
口を舌で開けられ、中に彼の舌が入ってくる。搦め捕られた舌は、どう応えていいかわからない。身体から力が抜けてしまい、自分の身体の重みで唇が離れる。
倒れそうになった身体を彼の腕が、力を込めて抱き締めた。
もうすでに息が上がっている。同じことを経験したことがあるはずなのに、こんなの初めてだ。
「あ、ごめんなさい……もう」
石蕗から離れようとすると、彼はさらに腕の力を込めた。
そのまま床にゆっくりと押し倒される。彼の目を見つめたまま、動けなかった。
「寿々、俺と付き合うか?」
それはどこか低く寿々の女の部分を刺激する声だった。濡れた唇が、エロい。寿々は息をのんで彼を見つめて、すごく迷った。ここで、はいと言うべきかどうか。
「わからない、よ」
石蕗のような男から、付き合うか? と問われて、すぐに了承するほど、寿々は容易くはない。でも、はい、と言いたい気持ちだってある。だから、わからない、と素直に自分の気持ちを口に出した。
あからさまに一瞬だけ眉間に皺を寄せた彼は、それから笑顔になって、わかった、と言った。
「じゃあ、まずキス。話はそれからだ」
そうして身体を押し倒されたままキスをする。軽くキスをして離れたあと、唇を軽く開いた石蕗が寿々のそれをゆっくりと啄む。チュ、と濡れた音がして唇が離れきらないうちに、また重なってその隙間からゆっくりと舌が入ってくる。歯列を舌が軽く触れただけで、寿々は口を開き、彼の侵入を許した。
「……っふ」
鼻から甘い吐息が漏れる。石蕗の温かくサラッとした手が、?を包みながら髪の中に指を入れ、優しく梳いた。彼の手は、グアムで?いだときと同じ感触だ。
「あ……」
彼の手に寿々は手を重ねていた。彼の体温と、触り心地が気持ちよくて、そこに軽く爪を立てると、もう片方の手は首筋に移動し、背中を抱かれ、横抱きにされた。
自然と彼の首に手を回し、広い背中を抱き締める。
「フキ、さ……っん」
唇の深度がより深くなり、寿々は彼のシャツを握り締めた。
こんなに気持ちいいキスは初めてだった。ずっと、こうしていたいとさえ思うほどだ。石蕗の、寿々の唇を吸う強さも、身体を抱き締める強さも、体温も何もかもがよくて。ときどき、鎖骨に触れ、胸の近くまで触れる手の熱さも、こんなに気持ちよくていいのかと不安になるほど。
「寿々、これでも、わからないのか」
水音を立てて離れた唇がそう言った。
「お前、感じてるだろ」
そうして小さくキスをして、舌がそこを舐める。
「だって……こんなキスされたら、だれだって……感じる、よ」
あまりにも石蕗のキスがうまい。手慣れている男だと思う反面、端整な顔をした彼にキスをされているという事実が、身体を興奮させていた。
「わからない、ってことか?」
きっと赤い顔をしている寿々が頷くと、彼は可笑しそうに笑う。
「強情だな。そこは可愛く、わかったって言っとけよ」
眉を寄せる寿々の眉間に触れてから、彼は目を閉じた。睫毛が閉じられる瞬間まで美しい石蕗は、寿々の肩甲骨あたりを強く抱き締め撫でながら唇を重ねた。
こんなにキスをして、いったいどうするんだ、と思う気持ちはすぐに?き消えて。
優しい、熱いキスをそのまましばらく交わしていた。
石蕗の身体の重みを感じながら、心臓は大変なことになっていたけれど。
すごく、幸せな気分だった。
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